事業部別のP&Lを出し始めると、ほぼ例外なく同じ場所で会議が止まる。共通費の配賦だ。本社管理部門の人件費、システム費、地代――これを各事業部にいくら乗せるかで、部門長の顔色が変わる。「なぜうちが情シスのコストをこれほど負担するのか」「按分が売上比なのは、大口をやっている部門に不利だ」。配賦率の小数点をいじっても、この揉め事は消えない。揉めているのは精度ではなく、自分が動かせない費用で評価されることへの納得のなさだからだ。本稿は、部門別P&Lを「配賦の精度」ではなく「管理可能性の段階表示」で設計し、部門長が数字を自分の行動に結びつけられる形をつくる方法に絞る。
なぜ毎回、配賦で揉めるのか
配賦で揉める会社の損益表は、たいてい一段しかない。売上から原価と自部門費と配賦共通費を一気に引いて、「部門営業利益」を一つだけ出す。この一本値で部門を評価すると、部門長は自分が1円も動かせない本社人件費やシステム費の増減で、評価が上下することになる。人は、コントロールできない数字で裁かれると、改善ではなく交渉に走る。配賦基準の変更を求める政治が始まり、会議は原価計算の議論から予算折衝の場に変わる。
問題は率ではない。管理できる費用と、できない費用を、一つの利益に溶かし込んだことにある。溶かした瞬間、部門長は「自分の打ち手で動く部分」と「本社都合で動く部分」を切り分けられなくなり、数字は自分ごとでなくなる。
引き算の順番を変える――段階で利益を出す
だから設計は、引き算の順番を変えることから始まる。一本値をやめ、責任の及ぶ範囲が広い順に、段階で利益を出す。
この段階表示は、貢献利益や限界利益の考え方と地続きだ(限界利益と貢献利益で「やめる・伸ばす」を決める)。一本値の営業利益しか見ていないと、増販の可否も、撤退の是非も、共通費の重さに埋もれて判断を誤る。
管理可能費と不能費は、どこで線を引くか
段階表示の肝は、管理可能費と不能費の線を「誰の意思決定でその金額が動くか」で引くことだ。部門長が発注権を持つ広告費や出張費、増減を決められる自部門の残業は管理可能。本社の役員報酬、全社システムの保守料、建物の減価償却は、その部門長には不能だ。
線引きが揉めるグレーゾーン――たとえば全社採用した人材の教育費や、共用サーバの一部――は、「その部門長が来期の予算編成でゼロにも倍にもできるか」を基準にすると迷いが減る。動かせないなら管理可能利益より下、動かせるなら上。原価や間接費の性質をどう捉えるかは、原価管理の基本とも通じる(原価管理の基本|製造原価を「意思決定に使える」形にする)。ここを曖昧にしたまま配賦率を議論しても、堂々巡りにしかならない。
配賦基準は「行動を変えるか」で選ぶ
共通費を配賦する段では、基準の精緻さを競わない。配賦基準は測定の正確さではなく、部門長の行動を望ましく変えるかで選ぶ。
売上高比で情シス費を配ると、システムをほとんど使わない部門が、大量にトランザクションを流す部門と同じ論理で課金され、削減の当事者意識が湧かない。使用実績(アカウント数、処理件数)で配れば、使う部門ほど負担し、無駄なライセンスを返す動機が生まれる。逆に、行動を1ミリも変えない費用――たとえば経営陣の報酬――は、精緻な基準を探すより、割り切って売上比や人数比でさっと配ってよい。労力は「行動が変わる費用」に集中させる。
配賦は「評価」でなく「意識づけ」の道具
最後に、目的を混同しない。段階損益の下段で共通費を配るのは、部門を評価するためではなく、「自部門の稼ぎが全社の間接費を賄えているか」を各部門長に意識させるためだ。評価は管理可能利益で行い、配賦後営業利益は全社最適の視点を持たせる補助線として使う。
この二つの目的を一つの利益にまとめようとするから、配賦は毎回揉める。分ければ、配賦は評価の道具から、全社を意識させる教材へと役割が変わる。部門長に何をKPIとして追わせるかは、この段階設計と一体で決めたい(管理会計のKPI設計|「測る指標」を「動かす指標」に変える)。部門別P&Lの出来は、集計の精度ではなく、部門長がその数字を見て翌日の打ち手を変えられるかで決まる。



