第2四半期を締めた段階で、通期の営業利益が計画を二割下回りそうだと見えてくる。事業側と対策を詰めているところに、経理部長が別件のついでのような顔で言う。「今期、分類3を維持できるか微妙です。期末に監査法人と詰めます」。この一言を「経理の技術論」として聞き流した会社が、期末に純利益の下振れ幅を見て凍りつく。営業利益が二割落ちただけのはずが、繰延税金資産の取り崩しが乗って、純利益はそれ以上に削られている。しかも自己資本が減り、財務制限条項の余裕まで痩せている。
「二重に振れる」の中身
税効果会計は、会計と税務のズレ(将来減算一時差異)に対して、将来それが解消したときの税金の軽減効果を資産に立てる仕組みだ。資産として立てられるのは、将来その効果を実際に使えるだけの課税所得が見込める場合に限られる。これが回収可能性の判断で、業績見通しが下がれば、立てていた資産の一部が使えない見込みになり、取り崩される。取り崩し額は法人税等調整額として損益に乗る。
つまり減益局面で起きるのは二段の下押しだ。一段目は本業の利益減。二段目は、将来の課税所得見通しが下がったことによる税金費用の増加。営業利益の減少幅より税引後の減少幅が大きくなるのは、この構造による。さらに純資産が直接削られるため、自己資本比率、ROE、そして借入契約の財務制限条項に同時に波及する。銀行との交渉材料が痩せる局面で、痩せた理由が「本業ではなく税効果です」と説明できるかどうかは、その後の資金調達の空気を左右する(銀行と対等に交渉するための準備|CFOが握っておく数字と論点)。
落ち方は連続ではなく階段になっている
回収可能性の判断は、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に沿って、会社を五つの分類に当てはめて行う。要点だけ言えば、分類1は課税所得が安定的に十分あり原則として全額回収可能、分類2はスケジューリング可能な一時差異について回収可能、分類3は課税所得の増減が大きく概ね五年内の見積課税所得が限度、分類4は重要な税務上の欠損金が生じた等の事実があり翌期一年の見積課税所得が限度、分類5は原則として全額回収不能となる。
決定的なのは分類3と分類4の間だ。回収可能とみなせる将来期間が、概ね五年からわずか一年へ縮む。同じ会社が同じ一時差異を抱えたまま、線を一本跨いだだけで取り崩し額が跳ねる。見積りを少し保守化した、という話ではない。
実務上の救いがないわけではない。分類4に形式的に当てはまる場合でも、欠損金が生じた原因や中長期計画の達成実績を踏まえ、将来にわたり課税所得が安定的に生じることを合理的な根拠をもって説明できるときは、上位の分類に準じて扱える余地が指針に置かれている。ただしこれは「説明できれば」の話であり、過去に計画を外し続けてきた会社が期末に持ち出しても通らない。中期計画の達成実績そのものが、この場面で効いてくる(中期経営計画が絵に描いた餅になる理由と、実行に効く作り方)。
期中に見るべき三つのトリガー
期末の見積り作業に参加しても、そこでできることはほとんど残っていない。CFOが期中から見るべき指標は、会計上の営業利益ではない。
- ① 納税主体ごとの課税所得見通し。連結でなく単体。稼ぐ子会社があっても親単体が沈めば落ちる
- ② 重要な税務上の欠損金が生じる見込み。分類3と4を分ける最大のトリガー
- ③ 一時差異のスケジューリング可能性。退職給付や減損済資産など解消時期の遠いものから先に外れる
- ④ 中期計画の課税所得ベースへの引き直し。会計利益のままでは判断材料にならない
②が実質的な分岐点になる。会計上の赤字と税務上の欠損金は一致せず、加算項目が多い会社では会計が赤でも課税所得が黒という状況が起こる。逆もある。だから「今期は赤字だから取り崩しだ」と会計側だけ見て早合点しても、「黒字だから大丈夫」と安心しても、どちらも外す。見るべきは税務側の数字で、これを四半期ごとに更新している会社は驚くほど少ない。着地見込みを税務ベースでも持つ、という一手間が効く(予測精度を上げる|着地見込み(フォーキャスト)を経営の武器に変える)。
③も見落とされやすい。同じ一時差異でも、翌期に解消する未払賞与のようなものと、解消時期の見通しが立ちにくい減損損失や退職給付のようなものでは、回収可能期間が縮んだときの脆さがまったく違う。長い一時差異を多く抱える会社ほど、分類の一段下げに対する感応度が高い。
打てる手と、打てない手
打てる手は三つある。第一に、課税所得ベースの中期見通しを第2四半期時点で作り、監査法人と分類の論点を先に共有すること。期末に初めて出す資料は、期中から積み上げた資料より必ず弱い。第二に、タックスプランニング。含み益のある資産の売却などで将来の課税所得を作れるかを検討する。ただし実行の意思決定と実現可能性の証跡が要る。期末に思いつきで持ち出しても、根拠として扱われない。第三に、投資家と銀行への事前説明だ。純利益の下振れが税効果由来であることを、数字が出る前に伝えておけるかどうかで受け止め方が変わる。
打てない手も明確にしておく。見積りの置き方を緩めて回避することはできない。分類の判定は、税務上の欠損金の有無や過去の課税所得の推移といった動かせない事実に大きく依存する。ここは交渉の余地が小さい領域で、「なんとかしてくれ」と経理に迫る類の話ではない。
監視が割に合わないケース
この監視は、すべての会社に必要ではない。将来減算一時差異が薄く、DTAの計上額そのものが小さい会社では、四半期ごとに税務ベースの見通しを回す手間に見合わない。私の目安としては、DTA残高が自己資本の一割に届かないなら期末の一発判定で足り、二割を超えているなら期中監視の対象に入れる。逆に、繰越欠損金を抱えていたり、過去に減損を計上して長期の一時差異が積み上がっている会社は、業績の一段の悪化がそのまま純資産を削るレバレッジを内包している。自社がどちらかを、まず残高で確認するところから始まる。



