月次の経営会議で、三つの事業部の売上を足すと1,120億円になる。同じ期の全社の売上高は1,050億円である。 差の70億円は、どの事業部も自分の実績に入れている案件の重なりだった。大口の顧客と結んだ設備・保守・ソフトウェアの一括契約、年額24億円は、受注した機器事業部も、保守を担うサービス事業部も、ソフトウェアを納めるソリューション事業部も、それぞれ全額を月次の売上に入れていた。経営企画が単独帰属に揃えようとすると、今度は案件の紹介が止まった。 自分の実績にならない顧客を、他の事業部に引き合わせる理由がないからである。
二重計上の害は、合計が合わないことより予算にある
部門の売上の合計が全社の売上を超えることは、月次の資料を見れば誰でも気づく。より大きな害は、予算と着地見込みの段階で起きる。 三つの事業部が同じ24億円を予算に入れれば、全社の予算は48億円水増しされる。案件が失注すれば、三つの事業部の予算が同時に未達になり、全社の着地見込みは案件一件の3倍の幅で振れる。 経営企画は、事業部の見込みを足し上げた数字をそのまま使えず、重複を手で外す作業を毎月繰り返す。
もう一つの害は、採算の判断が狂うことである。同じ売上を二つの部門が自分のものとして数えると、その売上を得るためのコストも、二つの部門がそれぞれ「この売上のためなら」と投じる。 部門別の損益では、どちらの部門も採算が取れているように見え、全社の損益では一件分の売上に二件分の営業費がかかっている。
単独帰属にすると、協力が止まる
重複を止めるために、売上を一つの部門に帰属させる会社は多い。契約を取った部門、あるいは顧客の担当部門に全額を置く。 全社の合計は合うが、今度は協力する理由が消える。紹介しても、共同で提案しても、自分の実績は増えない。逆に、自部門の既存顧客に他部門の商材を持ち込まれることを嫌う事業部長も出てくる。 顧客の担当者を守るために、他部門の営業の同行を断るという話は珍しくない。
いくつかの折衷案が試されてきた。売上を一定比率で按分する方法、紹介した部門に内部の紹介手数料を払う方法、全社案件として本社に置く方法である。
| 方式 | 全社の合計 | 協力の動機 | 起きやすい問題 |
|---|---|---|---|
| 関わった部門すべてに全額計上 | 合わない | 強い | 予算の水増し、営業費の重複 |
| 一つの部門に全額帰属 | 合う | 弱い | 紹介と共同提案が止まる |
| 一定比率で按分 | 合う | 中程度 | 比率の交渉が案件ごとに発生する |
| 内部の紹介手数料 | 合う | 中程度 | 手数料率の交渉、利益の付け替え |
| 会計上の帰属と評価用クレジットの二層 | 合う | 強い | クレジットの上限と規則の管理が要る |
按分と内部手数料は、一つの数字で「全社の合計」と「協力の評価」を両方満たそうとするので、比率や料率が交渉の対象になる。 交渉で決まった数字は、次の案件でまた交渉される。
会計上の帰属と評価のクレジットを分けて管理する
二つの要請は、一つの数字では同時に満たせない。だから数字を二つ用意する。 一層目は会計上の帰属で、一つの売上は必ず一つの部門に属し、部門の合計は全社の売上と一致する。二層目は評価用のクレジットで、協力した部門に上乗せで付与し、合計は全社の売上を超えてもよい。クレジットは部門の業績評価と賞与の計算にだけ使い、資源配分、採算判断、社外への開示には一層目だけを使う。
一層目の帰属は、履行義務を担う部門に置くのが最も揉めにくい。 収益認識基準に沿って一括契約の取引価格を独立販売価格の比率で配分していれば、設備、保守、ソフトウェアのそれぞれに金額が付いている。その金額を、それぞれを納める部門の売上にする。会計の配分と部門の配分が同じ数字になるので、経理が二つの配分を作る必要がなく、監査で説明する数字とも一致する。 SAPなら利益センタを履行義務の単位で割り当てておけば、売上の計上時点で部門の帰属が決まる(SAPの利益センタ会計で部門別の儲けを損益責任の単位で見る設計と判断基準)。
二層目のクレジットには、規則を三つ設ける。一つ目は付与の条件で、案件の登録時点で紹介や共同提案の記録がある場合に限る。 受注後の申告は認めない。二つ目は付与の割合と上限で、例えば紹介した部門に会計上の売上の20%相当、一案件の合計クレジットは会計上の売上の150%までと決めておく。三つ目は、予算にも同じ規則でクレジットを置くことである。 実績にだけクレジットが付けば、全部門の達成率が一律に上がり、評価の差が消える。
クレジットを採算の判断に使わない
二層の設計で一番崩れやすいのは、クレジットを含めた売上で部門の採算を議論し始めることだ。 クレジットは協力の行動を評価するための数字で、部門が稼いだ売上ではない。これを損益に入れると、二重計上をやめた意味がなくなる。部門別の損益計算書には一層目の売上と、それに対応する原価と部門費だけを計上し、クレジットは評価シートの側で管理する(部門別損益(事業部別P&L)の作り方、管理可能性で段階表示して共通費配賦の対立を防ぐ)。
営業担当者個人のインセンティブも同じ考え方で揃える。個人の成果を売上高で測っていると、クレジットの設計が部門には効いても個人には効かない。 個人の評価の式に、会計上の貢献利益と、協力に対するクレジットを別の項として組み込んでおく(営業インセンティブを売上ではなく貢献利益で払う設計と、変える前の三つの前提)。
全社案件を本社に置く方式は、責任の宛先を消す
大口顧客を本社の直轄にして、売上を本社の部門に置く会社もある。全社の合計は合い、事業部同士の取り合いも起きない。 だが、この方式では、案件の履行を担う事業部が売上を持たずに原価だけを負う。事業部の損益は大口顧客の案件が増えるほど悪化し、事業部長は本社案件への人員の割当てを後回しにする動機を持つ。 本社の部門の損益には売上だけが載り、実際の採算は誰の損益にも現れない。
売上を本社に置くなら、履行する事業部への内部振替の価格を決める必要があり、結局は按分や内部手数料と同じ交渉に戻る。本社の役割は、顧客との窓口と契約の取りまとめであって、売上の置き場所ではない。 本社の顧客担当チームを置く場合も、売上は履行義務の単位で事業部に帰属させ、本社のチームには案件創出のクレジットを付けるほうが、二層の設計と矛盾しない。
予算の編成でも、二層は同じ順番で使う。まず会計上の帰属で事業部の売上予算を積み、全社の予算と一致することを確かめる。 その上で、紹介や共同提案を見込む案件にクレジットの予算を置く。着地見込みも同じ二本で出せば、経営会議で議論する売上は一本に揃い、協力の状況はクレジットの達成率で別に見られる(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。
冒頭の産業機器メーカー。CFOは、まず一括契約の取引価格の配分を、経理が収益認識のために作っている独立販売価格の表から持ってきた。 24億円の契約は、設備が13億円、5年分の保守が7億円、ソフトウェアの使用許諾と導入が4億円に配分されていた。月次の部門別の売上は、この金額と計上時期どおりに三つの事業部に分けた。重複していた70億円は、同じ方法で全案件を振り直すと消えた。 事業部長の反発を抑えたのは二層目だった。案件登録の時点で、他部門への紹介や共同提案を記録した案件には、会計上の売上の20%を紹介した部門にクレジットとして付ける。一案件の合計クレジットは会計上の売上の150%まで、予算にも同じ規則で見込む。 初年度、クレジットの合計は会計上の売上の6%だった。部門の損益計算書にクレジットは載せず、事業部長の評価と賞与の計算にだけ使った。制度を入れる前は年に十数件だった事業部間の紹介案件は、翌年度に40件を超えた。 全社の予算は、事業部の予算を足し上げた数字がそのまま使えるようになり、経営企画が重複を外す作業はなくなった。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
部門間の売上配分で押さえる三つの原則
第一に、会計上の売上の帰属は一本にする。 一つの売上は一つの部門に属し、部門の合計は全社の売上と一致させる。セグメント情報は社内の区分をそのまま開示に使い、差異の調整を求めるので、社内で重ねて数えた売上は外に出す段階で説明できなくなる。予算で同じ案件を複数の部門が見込む害は、実績の重複より大きい。
第二に、帰属の単位は履行義務に揃える。 複数の履行義務を含む契約は、収益認識基準で独立販売価格の比率により取引価格を配分している。部門への帰属もその金額と計上時期に乗せれば、配分の比率を交渉する必要がなく、会計と管理会計で同じ数字を使える。
第三に、協力の評価は別建てのクレジットで測る。 付与の条件を案件登録時の記録に限り、割合と上限を決め、予算にも同じ規則で置く。クレジットは評価と賞与にだけ使い、部門の損益、資源配分、採算判断には入れない。
複数部門にまたがる売上は、会計上は一本に帰属させ、協力の評価は別の数字で持つ。帰属先を履行義務を担う部門にすれば、収益認識で配分した金額がそのまま使え、部門の合計は全社の売上と一致する。
協力した部門には、案件登録時の記録を条件に、割合と上限を決めたクレジットを付け、予算にも同じ規則で置く。クレジットは評価と賞与にだけ使い、部門別損益と資源配分には入れない。



