予算のヒアリングで、事業部長が同じことを言う。本社費が高い。経営企画は配賦基準の説明を始める。売上高で割っている、人員数を加味している、直課できるものは直課している。事業部長は最後まで聞いて、それで結局いくらなんですか、と聞く。 噛み合っていないのは、片方が配分の話をし、片方が総額の話をしているからである。そして総額の話をできる資料は、その部屋のどこにもない。
事業側の不満の本体は、配賦基準ではない
配賦基準の交渉が延々と続く会社では、たいてい基準が三回以上変わっている。売上高比から始まり、人員数を加味し、直課を増やし、機能別の使用量に近づけていく。基準が精緻になるほど、事業側の不満は減るはずである。実際には減らない。
減らない理由は、基準を変えても総額が変わらないからである。売上高比を人員数比に変えれば、負担が重くなる事業部と軽くなる事業部が入れ替わるだけで、合計は一円も動かない。議論はゼロサムなので、精緻化はゼロサムの分け方を細かくしているにすぎない。 事業部長が本当に聞きたいのは「なぜ私に三億円なのか」ではなく「なぜ全社で三十億円なのか」である。
もうひとつ、配賦の議論が持つ副作用がある。配賦額が事業部の評価に効くと、事業部は本社機能の利用を減らす方向に動く。 法務のレビューを飛ばし、情報システムの標準を外れ、人事の採用支援を使わずに現場で採る。使わなければ配賦が減るなら合理的な行動だが、全社では規模の経済が失われ、統制も緩む。配賦基準を精緻にするほど、この誘因は強くなる。
だから順序を入れ替える。総額の説明責任をコーポレート側に先に負わせ、それが済んでから配賦を決める。 順序を入れ替えるだけで、議論の性質が変わる。ゼロサムの分配交渉が、コーポレート部門の投入量に対する評価に変わる。
総額を測る三つの物差し
総額の説明といっても、いくらが正解という数字はない。必要なのは正解ではなく、複数の角度から同じ数字を見ることである。 実務で機能する物差しは三つで、いずれも社内のデータだけで作れる。
一つ目が売上比である。 本社費の総額を連結売上高で割る。単年では意味がないので、五期分を並べる。見るのは水準ではなく傾きで、売上が伸びた期に本社費が同じ比率で伸びているなら、コーポレート部門は事業のスケールに連動する構造になっている。連動しない構造にすることが本来の目的なので、比率が横ばいであること自体が課題として立つ。
二つ目が従業員一人当たりである。 本社費の総額を連結の従業員数で割る。売上比と一人当たりが逆方向に動いている期は、必ず理由がある。売上は伸びたが人は増えていない、あるいはその逆。この二つを並べると、本社費が売上に連動しているのか人員に連動しているのかが分かる。人員に連動しているなら、事業側の増員抑制が本社費の抑制につながるという説明が成り立つ。 成り立たないなら、その説明は使ってはいけない。
三つ目が機能別単価である。 これが最も効く。本社費を機能で分解し、機能ごとに分母を変えて単価を出す。給与計算なら一人当たり単価、購買なら一発注当たり単価、経理なら一仕訳または一取引当たり単価、法務なら一契約当たり単価、情報システムなら一アカウント当たり単価。分解の粒度は、外に出したときに見積りが取れる粒度に合わせる。 シェアードサービスやBPOの見積りは、ほぼこの単位で提示される。つまり機能別単価は、そのまま外部との比較単位になる(シェアードサービスとBPOの判断 経理機能のどこを外に出すか)。
三つを並べた資料を、予算のヒアリングの前にコーポレート側が出す。出す側と問われる側が逆になった瞬間に、会議の生産性が変わる。
外部水準は「本社費」という科目では取れない
比較したいという要求はすぐ出る。他社はいくらか、業界平均はいくらか。ここで正直に言っておく必要がある。本社費という科目は、外部に開示される財務諸表のどこにも存在しない。
販売費及び一般管理費には販売部門の費用が混ざり、その内訳の開示範囲は会社によって違う。セグメント情報も助けにならない。企業会計基準第17号第24項(2)が求めているのは、事業セグメントに配分していない額がある場合にその主な内容 を明らかにすることであって、金額の内訳を機能別に開示させる規定ではない。第25項は差異調整に関する事項の開示を求め、報告セグメントの売上高・利益・資産・負債の合計額と財務諸表計上額との調整、およびその他の開示される各項目について報告セグメントの合計額とその対応する科目の財務諸表計上額 を示させるが、これも調整の額であって機能別の単価ではない。同業他社の本社費を横に並べた表を作れるという前提そのものが、成り立たない。
そこで、制度の側に用意されている「他人が決めた物差し」を転用する。二つある。
ひとつが移転価格である。 国税庁の移転価格事務運営要領3-11は、企業グループ内における役務提供に係る独立企業間価格の検討を扱う。同項(1)は、役務提供が支援的な性質のもので中核的事業活動に直接関連しないこと、無形資産を使用していないこと、重要なリスクの引受け・管理・創出を行っていないこと、研究開発・製造・販売等の一定の業務に該当しないこと、同種の役務提供が非関連者との間で行われていないことなどの要件をすべて満たす場合に、「役務提供に係る総原価の額を従事者の従事割合、資産の使用割合その他の合理的な方法により当該役務提供を受けた者に配分した金額に、当該金額に100分の5を乗じた額を加算した金額」 を対価としていれば、その額を独立企業間価格として取り扱うとする。
ここで押さえるべきは二点である。第一に、同項のなお書きは「役務提供に係る総原価の額には、原則として、当該役務提供に関連する直接費の額のみならず、合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門における一般管理費等の間接費の額も含まれることに留意する」 と明記している。総原価には間接費が入る。第二に、支援的な性質で無形資産も重要なリスクも伴わない役務には、5%しか上乗せが認められていない。 逆に言えば、5%を超える価値を主張したいコーポレート機能は、支援的な性質を超えていることを自分で説明しなければならない。この線引きは、本社機能を「守り」と「攻め」に分けるときの、社外で通用する唯一の基準に近い。 同項(2)は、これに当たらない役務提供のうち本来の業務に付随して行われたものについて、総原価の額を独立企業間価格とする原価基準法に準ずる方法等の適用を検討するとしている。
もうひとつが事業税の分割基準である。 地方税法第72条の48第3項は、二以上の道府県に事務所又は事業所を設けて事業を行う法人について、課税標準額の総額を分割基準により関係道府県ごとに分割することを定め、同項第1号は製造業について事業所等の従業者の数に按分すること とする。そして同条第4項第1号は、従業者の数を事業年度終了の日現在における数値としたうえで、ただし書で資本金の額又は出資金の額が一億円以上の製造業を行う法人の工場である事業所等については、当該数値に当該数値(当該数値が奇数である場合には、当該数値に一を加えた数値)の二分の一に相当する数値を加えた数値 とする。
工場だけ従業者数が一・五倍に嵩上げされる。つまり、本社の人員を増やすと、分割基準における本社所在地の比重が相対的に上がる。 事業税の総額そのものが動くのは超過税率を課す団体との配分が変わる場合に限られるが、本社の人員配置が納税地の配分を動かすという事実は、コーポレート部門の人員計画を議論する材料になる。 そして同条第5項は、事業年度の中途で新設又は廃止された事業所等について月数按分を定めており、期中の移転は按分で効く。
総額を説明したあとで、配賦を決める
総額の議論が済んだら、配賦に戻る。ここでの設計指針は二つに絞られる。
第一に、機能別単価が作れた機能は、単価×使用量で配賦する。 給与計算は在籍人数、購買は発注件数、法務は契約件数。この形にすると、配賦額が事業側の行動で動く。動くことが重要で、事業部が使用量を減らせば配賦が減るという関係が成立して初めて、配賦は管理会計として機能する。 売上高比の配賦にはこの関係がない。売上を減らせば配賦が減る、というのは打ち手にならない。
第二に、単価が作れない機能は、配賦しない。 経営企画、IR、内部監査、そして代表取締役の周辺。これらは特定の事業のために発生しているわけではなく、使用量という概念がない。無理に配分すると、配賦基準の議論が延々と残る。配分しない額を、そのまま「全社」として最後に置く。 企業会計基準第17号第24項(2)が事業セグメントに配分していない額の主な内容の開示を求め、同項(3)が資産を配分していない場合にその旨の開示を求めているのは、配分しないという処理が想定されているからにほかならない。同項(6)は、事業セグメントに対する特定の資産又は負債の配分基準と関連する収益又は費用の配分基準が異なる場合にその内容の開示を求めており、例としてある事業セグメントに特定の償却資産を配分していないにもかかわらずその減価償却費を当該事業セグメントの費用に配分する場合 を挙げる。資産は配らず費用だけ配る、という処理は、基準の側では説明を要する行為として扱われている。
そのうえで、配分しない額の水準そのものを毎期の議題にする。配分しない額が増え続けているなら、それは配賦の問題ではなく、コーポレート部門の総額の問題として正面から立つ。 順序が正しく戻っている。
決めるのは三つ
第一に、総額の説明をコーポレート側が先に出す。 配賦基準を精緻にしても総額は一円も動かないため、基準の変更は負担の重い事業部と軽い事業部を入れ替えるだけのゼロサム交渉になる。さらに配賦額が事業部の評価に効くと、事業部は本社機能の利用を減らす方向に動き、規模の経済と統制の両方が失われる。予算のヒアリングの前に、売上比・従業員一人当たり・機能別単価の五期推移をコーポレート側が配る。 問われる側が先に出す形にした時点で、議題は分配交渉から機能ごとの投入量の評価に変わる。
第二に、外部水準は制度の物差しを転用して作る。 本社費という科目は外部に開示される財務諸表のどこにもなく、セグメント情報も機能別の内訳までは開示させない。転用できる物差しは二つある。移転価格事務運営要領3-11は、支援的な性質で中核的事業活動に直接関連せず、無形資産も重要なリスクも伴わない企業グループ内役務提供について、総原価の配分額に100分の5を乗じた額を加算した金額を対価としていればそれを独立企業間価格として取り扱うとし、なお書きで総原価に担当部門及び補助部門の一般管理費等の間接費が含まれることを明記している。 5%を超える価値を主張したい機能は、支援的な性質を超えていることを自分で説明する側に回る。もうひとつが地方税法第72条の48で、第3項第1号は製造業の分割基準を従業者の数とし、第4項第1号ただし書は資本金一億円以上の製造業の工場について従業者数に二分の一を加算するとしているため、本社の人員配置が分割基準の数値を動かす。
第三に、単価が作れる機能だけを配賦し、作れない機能は配賦しない。 給与計算は在籍人数、購買は発注件数、経理は仕訳件数、法務は契約件数。単価×使用量にすると、事業側が使用量を減らせば配賦が減るという関係が成立し、配賦がはじめて管理会計として機能する。経営企画・IR・内部監査のように使用量という概念がない機能は、配分せず「全社」として最後に置く。企業会計基準第17号第24項(2)は事業セグメントに配分していない額の主な内容の開示を求め、同項(3)は資産を配分していない場合にその旨の開示を求めており、配分しないという処理は基準の側で想定されている。 ただし同項(6)が示すとおり、資産を配分せずに減価償却費だけを配分するような扱いは、その内容を説明する必要がある行為として扱われる。



