受注は取れている。限界利益率の高い製品を優先する方針も、営業に徹底されている。それでも全社の営業利益が伸びない——この症状が出ている会社では、採算の物差しそのものが実態と合っていないことが多い。限界利益率の高い順に売ると利益が落ちるのは、率が「売上1円あたり」を測る指標だからだ。 工場の能力が有限で、どこか一つの工程が全体の生産量を決めているなら、比べるべきは売上あたりの利益ではない。その制約工程を1時間占有して、いくら稼ぐかである。
率で並べると、能力の食い方が見えない
単純な計算例で見ると差は明確になる。二つの製品があるとする。
| 項目 | 製品A | 製品B |
|---|---|---|
| 売価 | 10,000円 | 8,000円 |
| 変動費 | 6,000円 | 5,600円 |
| 限界利益 | 4,000円 | 2,400円 |
| 限界利益率 | 40% | 30% |
| 制約工程の所要時間 | 60分 | 20分 |
| 制約1時間あたり限界利益 | 4,000円 | 7,200円 |
率で並べればAが勝つ。だが制約工程の1時間で稼げる額はBが1.8倍になる。制約工程の稼働可能時間が月200時間しかないなら、Aだけで埋めた場合の限界利益は80万円、Bだけなら144万円。売価も率もAのほうが高いのに、全社の利益はBを優先したほうが大きい。
この逆転が起きるのは、率が「売上を1円積むのにどれだけ利益が乗るか」を測る指標で、能力をどれだけ食うかを一切写さないからだ。売上が制約なら率で正しい。制約が社内の能力にあるなら、率は判断を誤らせる。
分母を「売上」から「制約資源」へ置き換える
この考え方自体は、エリヤフ・ゴールドラットが提唱した制約理論(TOC)でスループット会計と呼ばれてきたもので、新しくはない。にもかかわらず現場で使われないのは、切り替えの条件と、分母のデータの置き場所が曖昧なままだからだ。
条件は一つ。制約が社内にあるかどうか。全工程に余力があり、売れば作れる状態なら、制約は市場側にある。この時は限界利益額の最大化で足りる。物差しを切り替えるのは、生産量を決めている工程が社内に特定できる時だけだ。見つけ方は難しくない。常に仕掛が滞留する工程、残業と外注が集中する工程、稼働率が張り付いて計画変更のたびに調整が入る工程——この三つが重なる場所がボトルネックである。
分母のデータは、標準原価を持っている会社なら標準工数がそのまま使える(標準原価と原価差異分析の使い方:差異を改善行動に変換する読み方)。持っていなければ、全工程の工数精度を上げる必要はない。制約工程の一工程だけ、製品ごとの所要時間を実測すれば並べ替えはできる。ここを「原価計算の整備が終わってから」と先送りすると、いつまでも率で判断し続けることになる。
受注可否と値決めの下限も、同じ物差しに置き換わる
物差しを変えると、判断のルールが二か所で変わる。
一つは受注可否の下限だ。「変動費を上回るなら受けてよい」という判断は、能力が余っている時にだけ正しい。制約工程が埋まっているなら、新しい受注は必ず他の受注を押し出す。押し出される側の利益が失われるのだから、下限は変動費ではなく、押し出される受注の制約1時間あたり限界利益になる。現行ミックスの下位が時間あたり4,000円なら、それを下回る引き合いは、たとえ変動費を大きく上回っていても受けると全社利益が減る。
もう一つは値決めの限界だ。値引き交渉で「率は落ちるがまだ黒字」という説明が出てきた時、確認すべきは率の落ち幅でなく、値引き後の時間あたり採算が現行ミックスの下位を下回るかどうか。逆に、時間あたり採算が高い製品は、率が低くても値引きの余地を持てる。価格の議論を率でやっている限り、この判断はできない。
制約は固定されたものではない。設備投資や外注化でボトルネックが解消されれば、制約は別の工程か市場側へ移る。移った瞬間に並べ替えの分母も変わるため、四半期に一度は制約がどこにあるかを見直す。顧客別・製品別の採算を見る場合も、分母をどこに置いたかで結論が入れ替わる(プロダクト別・顧客別の収益性分析:赤字を生む隠れた顧客を見つける)。
分母を変えるだけで、受注の優先順位は変わる
限界利益率で製品を並べている会社は多い。その順位が正しいのは、能力に余裕がある時か、制約が市場側にある時だけだ。ボトルネックが社内にあるなら、率の高い製品が能力を長く占有し、時間あたりで稼ぐ製品を押し出す。見るべきは、限界利益を制約工程の所要時間で割った値。並べ替えの分母を変えれば、優先する製品も、断る引き合いも、値引きの限界も入れ替わる。必要なのは新しい原価計算システムではなく、制約工程を一つ特定して、その所要時間を製品ごとに持つことだ。



