期末の実地棚卸を終えた翌週、経理の担当者が外部の保管先に出した残高確認状の回答がそろった。営業倉庫2か所、加工先9社、販売代理店4社のうち、帳簿と数量が一致したのは営業倉庫の1か所だけだった。 加工先の1社は、半年前に取引を止めた製品の部品を、今も預かっていると回答してきた。帳簿では、その部品は3年前に払い出したことになっている。販売代理店の1社からは、帳簿の数量の半分しか預かっていないという回答が来た。 差異の原因を聞こうにも、加工先の担当は購買部、代理店は営業部で、経理から直接たずねる窓口がない。決算の発表まで3週間しかない。自社の倉庫の外にある在庫は、誰も数えていなかった。

POINT
自社が所有する在庫は、どこに置いてあっても自社の棚卸資産である。 営業倉庫に預けた製品、加工先に無償で支給した材料、委託販売のために代理店に送った積送品は、いずれも自社の帳簿に残る。委託販売の契約では、代理店に引き渡した時点では収益を認識せず(収益認識に関する会計基準の適用指針75項)、代理店が最終の顧客に売るまで、在庫は委託した側のものである。 有償支給でも、支給した部品を買い戻す義務を負っている場合は、支給品の消滅を認識しない(同104項。個別財務諸表では、譲渡の時に消滅を認識することも認められている)。少なくとも連結の上では、加工先に売ったはずの部品が、自社の在庫として残る。 監査の側でも、第三者が保管し管理している棚卸資産が重要な場合、監査人は、その第三者に数量と状態を確認するか、実査などの手続を行う(監査基準報告書501)。ところが、自社の実地棚卸の手順は、自社の倉庫を数えるように作られている。 外部の在庫は、期末に確認状を出すだけで済ませていることが多い。確認状で差異を知っても、それがいつどこで生じたのかは、もう追えない。

自社の倉庫の外にある在庫は、四つの型に分かれる

最初にやるのは、自社の在庫が置かれている外部の場所を、すべて一覧にすることである。 経理が把握している保管先は、たいてい実際より少ない。

一つ目は、営業倉庫や物流会社の倉庫である。 保管と入出庫の作業を委託していて、倉庫会社のシステムに在庫の数量がある。毎月の在庫の報告書を受け取っていることが多く、突き合わせる材料はそろっている。四つの型の中では、最も確かめやすい。

二つ目は、加工先や外注先に支給した材料と部品である。 無償で支給した材料は、加工が終わって製品として戻ってくるまで、自社の在庫として加工先にある。有償支給で買い戻す義務がある場合も、先に書いたとおり連結の上では自社の在庫として扱う。支給の記録は購買部や生産管理が持っていて、加工先で使った数量や、仕損で捨てた数量が、帳簿に正しく戻ってこないことが多い。 支給の品目が多く、単価が小さいほど、差異は放置されやすい。

三つ目は、販売代理店や小売店に預けた委託在庫である。 代理店が売った時点で売上になるので、売上の報告が遅れたり漏れたりすると、在庫の数量と売上の両方がずれる。代理店から売上の報告を受ける仕組みが営業部の担当者のメールや表計算で動いている会社では、期末まで差異が見えない。

四つ目は、顧客の工場や倉庫に置いた在庫である。 顧客が使った分だけを後から請求する方式の在庫で、所有権は顧客が使うまで自社にある。顧客の使用の報告が請求の根拠になるので、報告が正確でなければ、在庫と売上が同時にずれる。

逆向きの在庫も、同じ一覧で押さえる。 自社の倉庫の中にある、仕入先から預かった在庫や顧客から預かった製品は、自社の棚卸資産ではない。数え方を誤れば、自社の在庫に紛れ込む。監査人も、実地棚卸の立会では預り品が正しく区別されているかを見ている(実地棚卸の数量差異を経理で吸収しない、棚卸差異の処理と原因の突き止め方)。

SAPなら特殊在庫の区分が、保管先の一覧の出発点になる

基幹システムで在庫を管理していれば、外部にある在庫はすでに区分されていることが多い。SAPでは、自社の所有のまま外部にある在庫や、他社の所有のまま自社にある在庫を、特殊在庫という区分で持つ。 外注先に支給した在庫、得意先に預けた委託在庫、仕入先から預かった委託在庫は、それぞれ別の区分で、保管先の取引先のコードと一緒に記録される。

この区分ごとの在庫の一覧を取り出せば、保管先ごとの数量と金額が出る。 経理の把握している保管先の一覧と照らし、一覧にない保管先や、動きのない在庫が残っている保管先を洗い出す。冒頭の加工先のように、取引を止めた後も支給した部品が残っている相手は、ここで見つかる。

問題は、特殊在庫の区分を使わずに運用している在庫である。 外部の倉庫を自社の保管場所の一つとして登録していたり、支給した部品を払い出して費用にしていたりすると、システムの上では外部の在庫として見えない。保管先の一覧は、システムの区分と、購買部、生産管理、営業部、物流部への聞き取りの両方から作る。 聞き取りで出てきた保管先がシステムの区分にないなら、それが最初に直す場所である。

確認の頻度と責任部署を、保管先ごとに決める

保管先の一覧ができたら、保管先ごとに、誰がどの頻度で数量を確かめるかを決める。全部を月次で確かめる必要はない。 手間に見合わない。 金額が大きい保管先、動きが激しい保管先、過去に差異が出た保管先を厚くし、残りは四半期や半期にする。

責任部署は、その保管先と取引をしている部署にする。 営業倉庫は物流部、加工先は購買部か生産管理、代理店や顧客先の在庫は営業部である。経理は、突き合わせの結果を集め、差異の件数と金額を追う役に回る。経理が保管先に直接確かめる運用は、期末の確認状だけにとどめる。 日常の窓口を経理にすると、差異の原因を知っている部署が、差異の存在を知らないままになる。

突き合わせは、保管先からの報告と帳簿の数量を、品目ごとに並べることで行う。 営業倉庫なら倉庫会社の在庫の報告書、加工先なら支給品の残高の報告、代理店なら在庫と売上の報告を、月末の時点で受け取る。報告の形式は、取引の契約か、取引の開始の時の取り決めで定めておく。形式が保管先ごとにばらばらなら、品目のコードと数量の単位だけでもそろえてもらう。 単位がケースと個で混在していると、突き合わせの前に換算の作業が要り、換算の誤りが差異に見える。

金額の大きい保管先には、年に一度は実際に出向いて数える。 報告書だけでは、在庫が実際にあるか、使える状態にあるかはわからない。重要な保管先の実地の確認は、自社の実地棚卸の日程に組み込み、担当部署と経理が一緒に行く。

外部の在庫は、期末の確認状の前に、月次の突き合わせで押さえる
STEP 1
保管先を洗い出す
特殊在庫の区分と各部署への聞き取りで、外部の保管先をすべて一覧にする
→
STEP 2
頻度と責任部署を決める
金額と動きの大きい保管先は月次に、担当は取引をしている部署にする
→
STEP 3
報告と帳簿を突き合わせる
月末の保管先の報告と帳簿を品目別に並べ、単位とコードをそろえる
→
STEP 4
差異を発生元に返す
支給、出荷、売上の報告のどこでずれたかを、担当部署が調べて直す
→
STEP 5
期末に確認と実査をする
全保管先に確認状を出し、重要な保管先は棚卸の日程で実地に数える
土台土台=保管先ごとに責任部署が決まっていること。経理は集計と追跡に回り、原因を知っている部署が差異を受け取る。
期末の確認状は、月次で押さえた数字を最後に確かめる手続であって、差異を見つける手続ではない。

差異は、発生元の工程に返して直す

外部の在庫の差異は、保管先で起きているとは限らない。多くは、自社の側の記録の漏れである。

加工先の差異で多いのは、加工で使った数量と仕損の数量が、帳簿に戻っていないことである。 支給した部品を製品の受入の時に自動で消し込む設定にしていれば、標準の使用量で消し込まれ、実際の仕損の分が加工先に残ったように見える。差異を購買部に返し、加工先から仕損の報告を受ける手順を決める。標準の使用量が実態と合っていなければ、部品表の数量を直す。

代理店の差異は、売上の報告の遅れか漏れであることが多い。 代理店が売った時点で売上になるので、報告が月をまたげば、在庫は多く、売上は少なく計上される。これは在庫の問題であると同時に、売上の計上時期の問題である。 営業部に差異を返し、報告の締め日と提出の期限を代理店と取り決める(決算のカットオフ(期ズレ)が毎月出る原因、入荷データと請求書のずれ)。

数量は合っていても、価値が落ちている在庫もある。 外部に長く置かれた在庫は、自社の倉庫の在庫より目が届かず、滞留や劣化が見過ごされる。冒頭の加工先に残っていた部品は、製品の生産を止めた時点で使い道がなくなっていた。保管先ごとの在庫の一覧に、最後に動いた日を並べれば、滞留している在庫が見える。 評価損の判定は、自社の倉庫の在庫と同じ基準で行う(棚卸資産の評価損と滞留在庫、期末に揉めない引当ルールの作り方)。

設例

自動車部品のメーカー(売上高260億円、3月決算)。外部の保管先は、営業倉庫2か所、塗装やめっきの加工先12社、補修部品を預けている販売代理店5社だった。 期末の確認状で毎年差異が出ていたが、金額が小さいとして棚卸減耗費に落としていた。ある期に、監査法人から、加工先の支給品の差異が3期続けて同じ方向に出ていることを指摘された。経理部が、SAPの外注先在庫の区分と購買部の支給の記録を突き合わせると、支給した部品を標準の使用量で自動消込していたため、めっきの仕損の分が毎月、加工先に残ったように見えていた。 取引を止めた加工先2社にも、合計で約1,800万円分の部品が帳簿の上で残っていた。会社は、保管先ごとに責任部署を決め、金額の大きい加工先5社と営業倉庫は月次、残りは四半期で突き合わせることにした。加工先からは、月末の支給品の残高と仕損の数量を、品目コード付きで報告してもらう取り決めにした。 部品表の使用量を仕損の実績に合わせて直し、取引を止めた2社の部品は現物を確かめたうえで廃棄して評価損を計上した。翌期の期末の確認状では、差異のあった保管先は19か所のうち3か所になった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

外部の在庫を押さえるために決める三つ

第一に、自社の在庫が置かれている外部の場所を、すべて一覧にする。 営業倉庫、加工先、代理店、顧客先の四つの型で、システムの特殊在庫の区分と各部署への聞き取りの両方から洗い出す。預かっている他社の在庫も、同じ一覧で区別する。

第二に、保管先ごとに確認の頻度と責任部署を決める。 金額と動きの大きい保管先は月次で、取引をしている部署が報告と帳簿を突き合わせる。経理は集計と追跡に回る。

第三に、差異を発生元の工程に返す。 加工先の差異は支給と仕損の記録、代理店の差異は売上の報告の時期に原因があることが多い。最後に動いた日を一覧に並べ、滞留している在庫の評価も同時に見る。

まとめ
自社の倉庫の外にある在庫は、期末の確認状だけでは原因を追えない差異を生む。まず保管先を四つの型で洗い出し、預かっている他社の在庫と区別する。金額と動きの大きい保管先から月次で報告と帳簿を突き合わせ、担当は取引をしている部署に置く。差異は支給や売上の報告といった発生元に返し、期末の確認状は最後の確認として使う。

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