経理部門の一か月は、たいてい前半に山があり後半は谷になる。月初の五営業日は全員が終電近くまで残り、月の後半は定時で帰れる。この繁閑差を「決算期は忙しいものだ」と受け入れている会社は多いが、実はこの山谷こそが、採用も外注も割に合わなくする根本原因だ。ピークに人を合わせれば閑散期は余り、閑散期に合わせればピークで潰れる。増員では解けない。解くべきは山の高さではなく、山そのものの形だ。

POINT
決算期の残業集中を「人を増やす」で解こうとすると、閑散期の余剰という別の損失に付け替えるだけになる。繁閑差の本質は人員の不足ではなく、作業が月初に固まっていることにある。だから山を崩す——期末にしかできない作業と、期中に前倒しできる作業を仕分け、後者を月の後半や翌月上旬でなく毎日の業務に散らす。判定基準は「そのデータは月末を待たないと確定しないか」の一問だ。待たなくていい作業を期末から追い出すほど、月初の山は低くなる。

増員は、繁閑差を余剰に付け替えているだけ

繁閑差の相談を受けると、多くの会社がまず増員を検討する。だが決算のピークは月に数日で、その数日のために採用した人員は、残り三週間は手が空く。パートや派遣で山だけ埋めようとしても、決算作業は判断と社内知識を要するので、繁忙期だけ来る人に任せられる範囲は狭い。結局、正社員が抱え、ピークの残業は減らない。人を増やす発想は、繁閑差を「残業」から「余剰人件費」へ形を変えているだけで、総コストは下がらない。

繁閑差は人員でなく、作業がいつ発生するかの設計問題だ
BEFORE
山に人を合わせる
ピークの残業に合わせて増員する。閑散期は手が余り、繁忙期だけの人材は判断業務を任せられず、正社員のピーク残業は残る
AFTER
山そのものを崩す
期末必須でない作業を期中の日常業務に散らす。月初の山が低くなり、同じ人員で残業のピークが消える
増員は繁閑差を残業から余剰人件費へ付け替えるだけ。作業の発生時期を動かせば、人を増やさず山が下がる。

決算工程を分解してクリティカルパス(締め日を決める最長経路)を縮める話とは、ここは別の論点だ(決算スケジュール表の作り方|5日締めを支えるWBSとクリティカルパス)。締め日数の短縮は「速く終わらせる」話で、平準化は「一時に集中させない」話だ。両者は両立するが、平準化の狙いは締め日そのものより、月初に人が張り付く状態を解くことにある。

期末にしかできない作業は、実は少ない

月初に固まっている作業を一つずつ見ていくと、本当に月末の確定を待たないとできない作業は意外に少ない。実地棚卸、当月の売上・仕入の最終締め、月末残高の確定——このあたりは期末でなければ動かない。だがそれ以外の多くは、月末を待つ理由が「慣習でそうしている」だけだ。

前倒しできるかどうかの判定は、一問で足りる。「この作業のインプットは、月末を過ぎないと確定しないか」。固定資産の取得は、取得した日に登録すれば月末に一括処理する必要はない。引当金の見積り根拠となる債権の年齢分析や、リース・保険料の経過勘定の計算ロジックは、期中に型として組んでおけば、月初は数字を当てはめるだけになる。稟議済みの費用計上、継続契約の月割り、償却の当月分——これらは前月のうちに準備を終えられる。月初に湧いて出る仕事に見えて、実は前倒しできる作業を月末まで溜め込んでいるだけ、というのが繁閑差の実態だ。

前倒し可能かの判定は一問
「この作業のインプットは、月末を過ぎないと確定しないか」。答えがノーなら、期末に置く理由は慣習でしかない。固定資産登録、経過勘定のロジック、引当金の年齢分析、継続契約の月割り——インプットが月中に揃うものは、月末を待たず日常業務に散らせる。

前倒しは「毎日やる」に落とし込む

前倒しできる作業を洗い出しても、「月の後半にまとめてやる」では第二の山を作るだけだ。平準化の要点は、後半の谷に移すことではなく、日々の業務に溶かすことにある。固定資産は発生の都度その日に登録する。経過勘定は契約を結んだ時点で月割りの予定表に載せる。取引先別の債権残高は週次で更新しておく。こうして期末に「今から集計する」作業を、期中に「もう積み上がっている」状態に変える。月次決算を毎月の型として回すこと自体が、本決算の前倒しにもなる(月次決算が遅れる本当の原因と、最初に手をつける3つ)。

日常業務への溶かし込みには、証憑(取引の証拠となる書類)が発生時点で電子的に揃っていることが効く。紙の請求書を月末にまとめて処理するから月初に山ができるのであって、受領の都度データ化されていれば、計上を期中に散らす前提が整う。前倒しの器としての電子帳簿ワークフローは、平準化と相性がいい(電子帳簿保存に対応した月次締めワークフローの作り方)。

現場では
ある中堅企業の経理は、月初五日間の残業が常態化していた。作業を洗い出すと、月初の負荷の四割が固定資産登録・経過勘定・継続費用の計上で、いずれも月末の確定を待つ必要がないものだった。これらを「発生の都度その日に処理する」運用に変え、月末に残すのを実地棚卸と最終締めだけにした。締め日数は一日しか縮まなかったが、月初のピーク残業は半分以下になった。同じ仕事量を、月初の五日から一か月に薄く広げただけだ。人は一人も増やしていない。

平準化は、締め早期化の前提になる

繁閑差をならすと、副次的に締めも安定する。月初に全作業が殺到している状態では、一つのミスや遅延が連鎖して締め全体を押す。作業が期中に分散していれば、月初に残るのは期末必須の少数だけになり、そこに人と注意を集中できる。平準化は残業対策であると同時に、締め早期化の土台でもある。

締め日数を一日縮める投資対効果より、月初の山を半分にする投資対効果のほうが、現場の疲弊と離職を考えれば大きい場面は多い。ピークの高さは、採用の要否も、外注に出すかの判断も、システム投資の優先順位も左右する。決算を速くする前に、まず山をならせないかを問う価値がある。

まとめ
決算期の残業集中を増員で解こうとすると、繁閑差を残業から閑散期の余剰人件費へ付け替えるだけで総コストは下がらない。繁閑差の本質は人員不足でなく、作業が月初に固まっていることだ。工程を分解すると、本当に月末の確定を待つ作業——実地棚卸、最終締め、月末残高の確定——は少なく、固定資産登録・経過勘定・引当金の年齢分析・継続契約の月割りなど、多くは月末を待つ理由が慣習でしかない。前倒し可否は「インプットが月末を過ぎないと確定しないか」の一問で判定できる。前倒しできる作業は月の後半にまとめるのでなく、発生の都度その日に処理して日常業務に溶かす。証憑が発生時点で電子化されていれば、この分散の前提が整う。平準化は月初の山を下げて残業のピークを消すと同時に、期末に残る少数の必須作業へ人と注意を集中させ、締めの安定と早期化の土台にもなる。締めを速くする前に、まず山をならせないかを問うべき場面は多い。

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