CFOの役割は、決算と統制の守りから、資本配分と事業の意思決定の攻めへ広がった。ところが、役割が広がっても、攻めの仕事に充てる時間はひとりでには増えない。時間を充てられない理由は、守りの仕事を人に任せられる形にしていないことにあると筆者は考えている。意欲や能力の問題として扱うと、打ち手を誤る。決算の確認や監査への回答をCFO本人が抱えている間は、攻めに使う時間が空かない。先に守りを任せられる形にし、空いた時間を攻めのために押さえる。この記事では、役割の全体、広がった背景、両立のさせ方、手を付ける順番、経営企画・CEOとの分担の順に整理する。

この記事の要点
  • CFOの役割は守りと攻めの両方である。守りは決算・税務・資金・統制、攻めは予測・資本配分・事業の見直し・投資家との対話を指す。
  • 攻めの時間は、守りの工数を減らして作る。減らした分は放っておくと守りに戻るので、攻めの時間として先に予定に入れる。
  • 手を付ける順番は、締め、予測、資本配分である。前の段階の数字が、次の段階の材料になる。

CFOの役割の全体

CFO(最高財務責任者)の役割は、会社のお金と数字に関する判断の責任を負うことである。仕事の中身は、守りと攻めの2つに分けると見通しやすい。守りは、数字を正しく作り、資金を切らさず、不正と誤りを防ぐ仕事である。攻めは、その数字を使って、資金をどこに置き、どの事業を伸ばし、どの事業を見直すかを決める仕事である。

CFOの役割は、守りと攻めの2つの領域から成る
守り正しく締め、資金と統制を保つ
決算・開示、税務、資金管理、内部統制・監査対応。誤りや遅れがあると、会社の信用を損なう。
攻め資金の置き場所と事業の方向を決める
予測・着地見込み、資本配分、事業ポートフォリオの見直し、投資家との対話。企業価値を高める判断を担う。
守りで作った数字と信頼が、攻めの判断の材料になる。

守りと攻めの仕事を、領域ごとに一覧にする。右端の列は、その仕事をCFO本人以外に任せるために用意しておくものである。

区分仕事中身任せるために用意するもの
守り決算・開示月次・四半期・年度の決算を締め、開示書類を作る締めの日程表、科目ごとの手順と担当
守り税務申告と納税、税務調査への対応年間の予定表、判断が要る論点の一覧
守り資金管理資金繰りの見通し、借入と預金の管理資金繰り表の様式、残す現金の水準
守り内部統制・監査対応統制の運用と評価、監査人への回答統制の記録、質問と回答の窓口
攻め予測・着地見込み今期と来期の着地を見積もり、打ち手を決める前提にする指標と更新の頻度
攻め資本配分成長投資、M&A、株主還元、負債の返済に資金を配る使い道ごとの基準
攻め事業ポートフォリオの見直し事業ごとの収益性を測り、伸ばす事業と見直す事業を分ける事業別の投下資本と利益の数字
攻め投資家との対話方針と実績を、資本市場に説明する開示の方針、説明の根拠になる数字

守りは、できていて当然と見られる仕事である。誤りがあれば評価を下げるが、正しく締めただけでは評価は上がらない。攻めは反対に、やらなくてもすぐには問題が表に出ない。そのため日々の予定は守りで埋まりやすい。CFOの役割を考えるときは、2つの領域を並べて、自分の時間がどちらにどれだけ使われているかを見るところから始めるとよい。

守りから攻めへ広がった背景

筆者は、役割が広がった背景に、取引所の要請とコーポレートガバナンス・コードの改訂があると見ている。

東京証券取引所は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請した。求めた対応は、自社の資本コストと資本収益性を把握して取締役会で現状を分析・評価すること、改善に向けた方針や目標を策定して開示すること、開示をもとに投資者と対話し、年1回以上、進捗を分析して開示をアップデートすることである。要請の資料は当時の現状として、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れであると書いている。PBR(株価純資産倍率)は株価が1株当たり純資産の何倍かを示し、ROE(自己資本利益率)は株主資本に対する利益の割合を示す。

出典:東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)1〜2頁(日本取引所グループ、2026年10月1日確認)

東証は2026年4月28日、この要請をアップデートする形で、「経営資源の適切な配分」を中心とした投資家の期待と取組みのポイントを公表した。挙げられた点は4つで、中長期的な経営方針を明確に示せているか、目指す姿に向けた資本の使い方を明確に示せているか、保有する資産が価値創出のために最適な状態か、これらを取締役会で実効的に議論・監督しているか、である。同じ資料は、これらが一律の対応を求めるものではないとも書いている。

出典:東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」(2026年4月28日)2〜3頁(日本取引所グループ、2026年10月1日確認)

要請への対応は広がっている。東証の集計では、2026年8月末時点で、プライム市場の94%(1,462社)、スタンダード市場の57%(887社)が、検討中を含めて対応を開示している。

出典:東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』に関する開示状況(2026年8月末時点)」(日本取引所グループ、2026年10月1日確認)

金融庁と東京証券取引所が2026年7月21日に公表したコーポレートガバナンス・コードの2026年改訂版も、同じ方向を向いている。原則4-1は、取締役会が経営戦略や経営計画を策定・公表するに当たり、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示し、成長投資や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関して具体的に何を実行するのかを説明すべきだとする。原則4-2は、経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らして適切かを、取締役会が不断に検証すべきだとしている。

出典:金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」別紙1 原則4-1、原則4-2(金融庁、2026年10月1日確認)

要請もコードも、名宛人は上場会社と取締役会であり、CFOの仕事を直接定めた文書ではない。ただ、資本コストを算定し、事業ごとの資本収益性を測り、配分の案を作って取締役会に出す作業は、数字を持つ部門が担うことになる。筆者は、この作業の責任者がCFOであり、守りだけでは役割を果たしたことにならなくなった理由はここにあると考えている。上場していない会社でも、金融機関や株主に資金の使い道を説明する場面では、同じ材料が要る。

守りと攻めを両立させる

攻めの仕事が増えても、守りの仕事は減らない。両立できるかどうかは、時間をどう作るかで決まる。

攻めの時間が空かない理由

経理財務の年間の予定は、月次・四半期・年度の決算、税務、監査対応、開示で埋まりやすい。攻めの構想に充てる余白は、何かを減らさない限り生まれない。

もう1つの理由は、CFO本人が守りの作業に入り続けていることである。決算の細かい確認、監査人への回答の下書き、資金繰り表の更新をCFOが自分で行っていると、担当者の作業を減らしても、CFOの時間は空かない。手順と判断の基準が本人の頭の中にしかなく、他の人に任せられないためである。

任せるのは作業であり、責任ではない
守りを人に任せるとは、決算や統制の責任を手放すことではない。任せるのは、手順と判断の基準を書けば他の人が進められる作業である。数字の最終の確認と、判断が分かれる論点の決定は、CFOに残る。任せた作業の結果を確かめる時点と方法を、先に決めておく。

減らすだけでは時間は移らない

守りの工数を減らしても、それだけでは攻めの時間は増えない。空いた時間を何に使うかを決めていないと、より細かい残高の照合や、より厚い会議資料に使われる。守りの作業には、使える時間があればその分だけ丁寧になっていく性質があると筆者は見ている。自動化を進めたのに忙しさが変わらないときは、この状態を疑うとよい。

そこで、減らすことと、空いた時間を攻めのために先に予定へ入れることを、組にして設計する。

工数を減らすだけでは、空いた時間は守りに戻る
BEFORE
減らすだけ
自動化と標準化で工数を減らす。空いた時間の使い道を決めないので、確認や資料づくりに使われる
→
AFTER
減らして先に予定へ入れる
工数を減らすのと同時に、空いた時間を攻めの時間として予定に固定し、締めの作業を入れない
時間を移すには、空けることと、空けた時間の使い道を先に決めることの両方が要る。

設例で確かめる。月次決算を5営業日から3営業日に縮めた会社を考える。空いた2営業日の使い道を決めなければ、増減の分析や会議資料の作り込みに使われ、攻めの時間は増えない。四半期に1回、事業別のROIC(投下資本利益率。事業に投じた資金が年に何%の利益を生むかを示す)を見直す半日を先に予定へ入れ、その半日には締めの作業を入れないと決めておけば、空いた2営業日の一部が攻めに使われる。

設例。数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

守りの工数を減らす場所

減らす場所は2つある。確定を待つ時間と、手で確かめる時間である。

確定を待つ時間は、請求書や報告が届くまで締めの作業が進まない時間を指す。締めを遅らせる原因の1つは、締め日の時点で金額や相手先が確定していない科目である。届いてから計上する進め方を、見積もりで先に計上して後で差額を直す進め方に変えると、締め日に残る作業が減る。科目ごとの対策は決算で詰まりやすい10の勘定科目と、締め前にできる対策で扱った。

手で確かめる時間は、人が目で照合し、押印や署名で記録を残す時間を指す。システムの記録を証跡にし、基準から外れた取引だけを人が見る形に変えると、統制と監査対応に掛かる時間が減る。

この2つは、数字の正確さを保ったまま減らしやすい。そして減らす過程で、手順と判断の基準が文書になる。文書になった作業は、CFO本人でなくても進められる。守りの効率化と、守りを任せられる形にすることは、同じ作業の表と裏である。

攻めの時間を先に予定へ入れる

空いた時間を攻めに使うには、決意よりも予定が要る。四半期ごとにテーマを1つ決めるとよい。たとえば、今期は資本配分の方針、次は採算の悪い事業の点検、その次は投資の基準の整備、という具合である。テーマを1つに絞れば、押さえた時間に何をするかが決まり、締めの作業に譲る理由がなくなる。

順序も変える。時間ができたら攻めに取り組む、という組み立てでは、時間はできない。攻めの時間を先に押さえ、その分だけ守りを減らす、という逆算にする。

最初に手を付ける順番

攻めの仕事のうち、どれから始めるか。筆者は、締め、予測、資本配分の順を勧める。前の段階で作った数字が、次の段階の材料になるためである。

締め、予測、資本配分の順に手を付ける
STEP 1
締めを早く安定させる
手順と基準を文書にし、担当者に任せる
→
STEP 2
予測を毎月更新する
実績を起点に、今期の着地と来期の見通しを出す
→
STEP 3
資本配分の基準を決める
見通した資金を、使い道ごとの基準で配る
前の段階の数字が、次の段階の材料になる。

1つ目は締めである。月次の実績が遅い、あるいは月によって精度が変わる状態では、その先の予測が成り立たない。締めの日程表と科目ごとの手順を整え、CFO本人が入らなくても締まる状態にする。これが、守りを任せられる形にする作業の中心になる。

2つ目は予測である。実績が早く安定して出るようになったら、今期の着地見込みと来期の見通しを毎月更新する。予測は、過去の説明から先の判断へ、会議の議題を移す役目を持つ。この領域はFP&Aと呼ばれる。役割の範囲はFP&Aの役割と組織、経理・経営企画との境界を実務から引くで扱った。

3つ目は資本配分である。配分できる資金の上限は、営業キャッシュフローの見通しが無ければ決められない。予測が立ってから、成長投資、M&A、株主還元、負債の返済という使い道ごとに基準を置く。決め方はキャピタルアロケーション(資本配分)の決め方、原資と使い道の優先順位にまとめた。

順番を飛ばして資本配分から入ると、議論の前提になる数字が会議のたびに変わり、結論が出にくい。就任した直後に何を確保するかは、新任CFOの最初の90日は制度を直す期間ではない、先に確保する三つのことも参考になる。データの整え方から始める場合は、DX時代のCFOは何から始めるか、データの整流化と単一の数字で扱った。

経営企画・CEOとの分担

攻めの仕事は、CFOだけのものではない。中期経営計画や事業計画は経営企画が取りまとめることがあり、最終の決定はCEOと取締役会が行う。CFOの役割を広げるときは、誰が何を持つかを先に決めておく。

経営企画との間では、計画づくりのどの局面をどちらが持つかを決める。戦略の筋書きと事業部との調整を経営企画が持ち、数字の整合と資本コストに照らした検証をCFOが持つ分け方が、筆者は分かりやすいと考えている。分け方を決めていないと、同じ数字を2つの部門が別々に作る重複と、どちらも見ていない空白が生まれる。詳しくは経営企画とCFOの役割分担、計画づくりを4つの局面に分けて重複と空白をなくすで扱った。

CEOとの間では、CFOは決定の材料を出す立場にある。投資や撤退の案に対して、数字に基づく賛否と条件を示す。反対するだけでは議論が止まるので、どの条件を満たせば賛成できるかまで示す。この関係の作り方はCFOとCEOの関係、ブレーキ役ではなく参謀になるための反対の出し方にまとめた。

CFOを置こうとする社長にとっては、候補者が守りと攻めのどちらを経験してきたかが判断の材料になる。見極めと育成はCFO候補の見極めと育成、経理部長との違いを5つの判断軸で整理するで扱った。

よくある質問

CFOの役割とは

会社のお金と数字に関する判断の責任を負うことである。決算・税務・資金管理・内部統制という守りと、予測・資本配分・事業ポートフォリオの見直し・投資家との対話という攻めの両方を含む。守りで作った数字が、攻めの判断の材料になる。

経理部長との違いは

経理部長は、決算と開示を正しく期限どおりに仕上げることに責任を持つ。CFOはそれに加えて、資金をどこに置くか、どの事業を伸ばすかという経営の判断に関わり、その内容を取締役会と投資家に説明する。筆者は、過去の数字を作る責任に、先の数字で判断する責任が加わる点が違いだと考えている。

CFOに必要な経験は

決まった経歴があるわけではない。筆者は、決算を締めた経験、予測と予算を作った経験、資金調達や投資の判断に関わった経験の3つが土台になると考えている。1人が3つすべてを持つとは限らないので、足りない領域を任せられる部下や組織を持てるかも判断の材料になる。

まとめ
  • CFOの役割は、決算・税務・資金・統制の守りと、予測・資本配分・事業の見直し・投資家との対話の攻めの両方である。東証の要請とコーポレートガバナンス・コードの改訂は、資本コストを踏まえた経営資源の配分の説明を上場会社と取締役会に求めている。筆者は、これが攻めの比重を高めたと見ている。
  • 攻めの時間は、守りの工数を減らして作る。確定を待つ時間と手で確かめる時間を減らし、手順と基準を文書にして任せ、空いた時間を攻めのために先に予定へ入れる。
  • 手を付ける順番は、締め、予測、資本配分である。

次に読むなら、予測の役割を扱ったFP&Aの役割と組織、経理・経営企画との境界を実務から引くと、配分の基準を扱ったキャピタルアロケーション(資本配分)の決め方、原資と使い道の優先順位を勧める。