本社費を配賦した事業別損益は、その事業を単独で運営したときの費用を表していない。配賦は全社で発生した費用を事業に割り振る計算で、切り出した後に要る人員やシステムを積み上げた数字とは別のものだからである。カーブアウトで買い手が知りたいのは後者である。筆者は、単独の費用に組み直した損益を、交渉に入る前に売り手が自分で作っておくべきだと考えている。この記事では、カーブアウトの意味と手法、進め方、売却前に財務でそろえるもの、切り出し後に売り手に残るコスト、移行期間の業務委託の順に整理する。
- カーブアウトは、会社の事業の一部を切り出して、売却したり独立させたりすることである。この記事では事業の切り出し全体をカーブアウトと呼び、スピンオフをその手法の1つとして扱う。
- 買い手は、切り出した後に事業が単独で立つかどうかを見る。筆者は、本社費の配賦額を単独の費用に置き換えた損益を、交渉の前に売り手が作っておくべきだと考えている。
- 売却しても、本社の費用はすぐには減らない。売り手に残るコストを先に測り、移行期間の業務委託の条件と合わせて検討する。
カーブアウトとは
カーブアウトとは、会社が営む事業の一部を切り出すことである。英語の carve out は「切り出す」という意味で、切り出した事業は、他社に売却するか、別の会社として独立させる。経済産業省の「事業再編実務指針」が参考として引く経済同友会の提言は、低収益事業の切り出しを指して「カーブアウト」と書いている。
筆者は、カーブアウトの目的を、会社に残す事業へ経営資源を集めることにあると見ている。指針は、事業を切り出す手法として、事業譲渡、会社分割(吸収分割)、子会社株式の譲渡、スピンオフ、エクイティ・カーブアウト(子会社上場)の5つを挙げている。前の3つは対象の事業をベストオーナーに委ねる手法、後の2つは資本関係を含めて独立させる手法と整理されている。
スピンオフ・スピンアウトとの違い
スピンオフは、切り出した事業を承継させた子会社や既存の子会社の株式を、元の会社の株主に、持株数に応じて交付する手法である。売却先は要らず、元の会社に対価は入らない。株主は、元の会社と独立した会社の両方の株主になる。
指針が5つの手法の全体を指して使っている語は「事業の切出し」である。この記事では、指針のいう事業の切出しをカーブアウトと呼ぶ。この呼び方に立てば、スピンオフはカーブアウトの手法の1つに当たる。「カーブアウトかスピンオフか」という問いは、「売却先に譲るか、株主に株式を配って独立させるか」という問いに置き換えられる。
スピンアウトは、上の指針や手引に定義がある語ではない。筆者は、元の会社との資本関係を残さずに事業や人が独立する場合を指す語と理解している。この語が出てくる資料を読むときは、語の違いよりも、独立した後に元の会社との資本関係がどうなるかを確かめるほうが確実である。
この記事では以下、売却先に譲る形のカーブアウトを扱う。事業売却で価格が論点になるのは、この形だからである。
カーブアウトの手法
売却先に譲る手法として指針が挙げるのは、事業譲渡、会社分割、子会社株式の譲渡の3つである。この記事では、会社分割と事業譲渡を取り上げる。対象の事業がすでに子会社になっていれば、その株式を譲渡する方法がある。子会社になっていない事業でも、先に新設分割で子会社にし、その後で株式を譲渡する順序を選べる。
会社分割
会社分割は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させる手続きである。既存の会社に承継させる吸収分割と、分割により設立する会社に承継させる新設分割がある。承継する会社は、吸収分割契約または新設分割計画の定めに従って、分割会社の権利義務を承継する。契約や債務を1件ずつ移す手続きは要らない。
その代わりに、会社法と労働関係の法令が定める手続きがある。分割後に分割会社へ債務の履行を請求できなくなる債権者は、分割に異議を述べることができる。この場合、会社は官報に公告し、知れている債権者には各別に催告する。官報に加えて、定款で定めた日刊新聞紙か電子公告でも公告するときは、不法行為によって生じた債務の債権者を除き、各別の催告を要しない。異議を述べられる期間は1か月を下回れない。株主総会の承認も要るが、承継させる資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えない場合は、承認を要しないとする定めがある。
労働者に対しては、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律と、その指針に沿った手続きがある。分割会社は、承継される事業に従事している労働者などと、労働契約の承継について協議する。そのうえで、対象の労働者と労働組合に通知する。指針は、通知期限日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始するものとしている。
事業譲渡
事業譲渡は、事業を構成する資産、負債、契約を、売り手と買い手の合意で個別に移す取引である。何を移し、何を残すかを契約で決められる。その代わり、移すものごとに手続きが要る。経済産業省の指針は、事業譲渡を民法に基づく特定承継と整理し、債権者と労働者の個別の承諾が必要だとしている。厚生労働省の指針も、労働契約を譲受会社に承継させる場合には、承継を予定している労働者から個別の承諾を得る必要があるとしている。
会社法上は、事業の全部の譲渡と、事業の重要な一部の譲渡に、株主総会の特別決議による承認が要る。重要な一部の譲渡のうち、譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えないものは、この承認の対象から除かれている。この割合は、定款で引き下げられる。
2つの手法を比べると、次の表になる。
| 比べる点 | 会社分割 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 権利義務の移り方 | 分割契約または分割計画の定めに従って承継する(包括承継) | 資産、負債、契約を個別に移す(特定承継) |
| 契約の相手方や債権者の個別の承諾 | 不要。異議を述べられる債権者には公告と催告を行う | 必要 |
| 労働契約 | 個別の承諾は不要。協議、通知、異議の申出の手続きがある | 労働者の個別の承諾が必要 |
| 株主総会 | 原則として承認が要る。承継させる資産が総資産額の5分の1を超えない場合の例外がある | 事業の全部または重要な一部の譲渡は特別決議。重要な一部の譲渡のうち、資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えないものは対象外 |
| 移す範囲の決め方 | 分割契約または分割計画に定める | 譲渡契約に定める |
表に無い点を3つ補う。1つ目は契約の条項である。取引先との契約に、会社分割や支配権の異動を解除の事由とする定めがあれば、その定めに従う。条項の有無は契約ごとに確かめる。
2つ目は独占禁止法の届出である。国内売上高合計額が200億円を超える会社が、他の会社の事業の重要部分を譲り受け、その対象部分の国内売上高が30億円を超える場合などは、事前の届出が要る。届出が受理された日から30日を経過するまでは、譲受けを実行できない。この期間は、公正取引委員会が必要と認める場合に短縮できる。株式取得と会社分割にも、それぞれ届出の制度がある。
3つ目は対価の種類である。企業会計基準第7号は、分離元企業の会計処理を、移転した事業への投資が清算されたとみるか、継続しているとみるかで分けている。現金など、移転した事業と明らかに異なる資産を対価として受け取る場合は、投資が清算されたとみなされ、対価の時価と移転した事業に係る株主資本相当額との差額を移転損益として認識する。ただし、分離元企業に重要な継続的関与がある場合は、移転損益は認識されない。子会社株式や関連会社株式となる分離先企業の株式のみを受け取る場合は、投資が継続しているとみなされ、移転損益を認識しない。現金で売り切るのか、株式を持ち続けるのかによって、損益が出る時期は変わる。中期計画に売却益を見込むなら、手法を決める前に確かめておく。
進め方の全体
カーブアウトの検討では、会社分割か事業譲渡かという手法の議論から入りたくなる。筆者は、手法を選ぶのは後でよいと考えている。どの手法を選べるかは、移す対象の中身で決まるからである。従業員の数が増えれば、個別の承諾を得る作業に日数がかかる。解除の条項を持つ契約があれば、取引先との交渉が先に要る。中身を確かめないまま手法を決めると、後から前提が変わって決め直すことになる。
進め方は5つの工程に分けられる。
最初の工程で作るのが、切り出す対象の一覧である。人、資産、契約、システムの4つに分け、対象の事業だけで使っているものと、他の事業と共用しているものを区別する。
| 区分 | 一覧に載せるもの | 確かめること |
|---|---|---|
| 人 | 対象の事業に従事する従業員、兼務者、出向者 | 主に従事している事業はどれか。兼務者をどちらに置くか |
| 資産 | 設備、在庫、売掛金、知的財産、不動産 | 他の事業と共用していないか。名義は親会社か対象の事業か |
| 契約 | 顧客との契約、仕入先との契約、賃貸借、ライセンス | グループ一括の契約か。解除や承諾の条項があるか |
| システム | 基幹システム、周辺システム、ネットワーク、データ | 親会社と同じ環境で動いているか。データを分けられるか |
共用しているものは、移すか、残して使用料を取るか、移行期間だけ貸すかを1件ずつ決める。この判断が、次の単独損益と移行期間の業務委託の前提になる。許認可は、会社単位で受けているのか事業所単位で受けているのかを、根拠の法令で確かめる。
売却前に財務でそろえるもの
買い手が価格を付けるには、切り出した後の事業の姿を数字で見る必要がある。売り手がそろえるものは3つある。単独損益、共通費の配分の根拠、運転資本と資産の区分である。
単独損益
単独損益は、対象の事業が親会社から離れ、独立した会社として運営されたと仮定したときの損益である。スタンドアロンの損益とも呼ぶ。管理会計の事業別損益との違いは、本社の機能にかかる費用の扱いにある。事業別損益は、全社で発生した本社費を、売上高や人数などの基準で事業に割り振っている。単独損益は、その事業が自前で持つか外部に委託するかして、実際に要る費用を積み上げる。事業別損益の作り方は部門別損益(事業部別P&L)の作り方、管理可能性で段階表示して共通費配賦の対立を防ぐで扱った。
設例で確かめる。売上高190億円の事業があり、本社費を配賦する前の利益が17.6億円、本社費の配賦額が14.2億円だとする。配賦後の営業利益は3.4億円である。本社の機能ごとに、単独で要る費用を積み上げ直したところ、合計は16.8億円になった。単独損益の営業利益は0.8億円である。
売り手が単独損益を示さない場合、買い手は自分で単独の費用を見積もるしかない。筆者は、情報が足りない部分を買い手は保守的に置くと見ている。売り手が先に積み上げておけば、差の理由を機能ごとに説明できる。
共通費の配分
配賦額と単独で要る費用の差は、機能ごとに向きが違うことがある。上の設例の内訳を示す。
| 本社の機能 | 配賦額 | 単独で要る費用 | 差 |
|---|---|---|---|
| 情報システム | 3.1億円 | 6.4億円 | +3.3億円 |
| 人事・給与 | 1.8億円 | 2.4億円 | +0.6億円 |
| 経理・財務 | 2.9億円 | 3.2億円 | +0.3億円 |
| 法務・広報・IR | 2.6億円 | 0.9億円 | −1.7億円 |
| 総務・購買・その他 | 3.8億円 | 3.9億円 | +0.1億円 |
| 合計 | 14.2億円 | 16.8億円 | +2.6億円 |
この設例では、情報システムの費用が配賦額の約2倍になっている。基幹システムの保守料やライセンスには、事業の規模に比例しない部分があり、単独で同じ環境を持つと負担が重くなるという想定である。法務・広報・IRは逆で、配賦額より少ない。全社の法務部門は、上場会社としての開示やグループ全体の契約審査も担っており、対象の事業が単独で要る分はその一部にとどまるという想定を置いた。
合計の差だけを示すと、こうした向きの違いが見えなくなる。機能ごとに、要る人数、システム、外部委託の見積もりを並べた表を作る。筆者は、この表を移行期間の業務委託の対価を決める根拠にも使えると見ている。
運転資本と資産の区分
損益と合わせて、切り出す事業の貸借対照表を作る。売掛金、在庫、買掛金のうち対象の事業に属するものを区分し、設備と知的財産は一覧の結果に合わせて移すものと残すものを分ける。グループで資金を一括管理している会社では、対象の事業の現金と借入をどう扱うかも決める。事業ごとに資産と負債を割り付ける方法は事業別バランスシートの作り方、事業に投下資本を負わせてROICを測るで扱った。
運転資本は、季節による変動も確かめる。期末の残高だけで区分すると、繁忙期に要る資金が見えない。月次の残高を並べ、通常の水準を売り手として説明できるようにしておく。買い手が財務の調査で何を確かめるかはM&Aの財務デューデリジェンスで確かめる3つの数字、正常収益力・ネットデット・運転資本にまとめた。
切り出し後に残るコスト
ここまでは買い手に見せる数字の話である。売り手には、もう1つ測るものがある。売却した後に、自社に残るコストである。
対象の事業が負担していた本社費の配賦額は、売却と同時に全額がなくなるわけではない。事業専任の人員や事業専用の契約にかかる費用は事業とともに移るが、本社の経理や人事、全社で使うシステムの費用は、事業が1つ減ってもすぐには減らない。減らなかった分は、残った事業の配賦額に上乗せされる。
先の設例で、配賦額14.2億円のうち、売却と同時になくなる費用が5.1億円だとする。残りの9.1億円は売り手に残り、本社の体制を見直すまで、残った事業が負担する。売却の経済性は、受け取る対価だけでなく、この9.1億円をいつまでに、どこまで減らせるかを合わせて判定する。
残るコストの測り方と減らし方は、事業撤退で消えないコスト、本社費やシステム費が残った事業に乗り移る前に測るで詳しく扱った。売却ではなく撤退や清算を選ぶ場合の基準は、撤退基準の決め方、起案時に数値と期限を置いて損切りを遅らせないと赤字子会社の畳み方、清算・売却・吸収合併の違いと税務・期間の比較にまとめた。
移行期間の業務委託(TSA)とシステムの分離
切り出した事業は、売却の日からすべての機能を自前で持てるわけではない。給与計算や基幹システムの運用のように、すぐには切り替えられない業務は、一定の期間、売り手が買い手に提供する。この取り決めを移行サービス契約(TSA、Transition Service Agreement)と呼ぶ。経済産業省の指針は、企業へのヒアリングの中で、欧米企業では売却後も対象の事業が滞りなく運営できるよう、必要に応じてTSAを結び、一定期間、売り主に一部の機能を業務委託することが一般的だという1社の発言を紹介している。
TSAで決めるのは、提供する業務の範囲、期間、対価の3つである。範囲は、切り出す対象の一覧で共用とした項目から拾う。対価は、単独損益を作るときに積み上げた機能ごとの費用が根拠になる。期間は、買い手が自前の体制を立ち上げるまでの長さで決まる。
売り手にとって、期間には別の意味がある。業務を提供している間は、そのための人員とシステムを減らせない。期間を延ばすことは、残るコストの削減を始める時期を遅らせることでもある。筆者は、期間を延ばす譲歩は、価格の譲歩と同じ重さで検討すべきだと考えている。
期間を決めるときは、システムの分離にかかる日数を見込む。対象の事業が親会社と同じ基幹システムの上で動いている場合、分離には、買い手の環境への移行、データの切り分け、親会社側の設定の整理が要る。売り手が準備できるのは、対象の事業が使っているシステムと連携先の一覧、移すデータの範囲、ライセンスを移せるかどうかの確認である。買い手側でシステムが2つ並ぶ場合の考え方は買収でERPが2つになったとき、統合と併存の違いと連結・締めから見た選び方で扱った。
どの事業を切り出すかという一段上の判断は、事業ポートフォリオの見直し方、ROICと成長性で事業を仕分ける手順にまとめた。
よくある質問
カーブアウトとスピンオフの違いは
この記事では、事業の一部を切り出すこと全体をカーブアウトと呼び、スピンオフをその手法の1つとして扱っている。スピンオフでは、切り出した事業の会社の株式を元の会社の株主に持株数に応じて交付するので、売却先は要らず、元の会社に対価は入らない。事業譲渡や会社分割で売却先に譲る場合は、元の会社が対価を受け取る。
メリットとデメリットは
売り手のメリットは、会社に残す事業へ経営資源を集められることと、売却先に譲る場合は対価を得られることである。デメリットは、切り出す範囲の確定や単独損益の作成に手間がかかること、売却後も本社の費用がすぐには減らず売り手に残ること、移行期間は買い手への業務の提供が続くことである。この整理は筆者によるもので、事業と手法によって重みは変わる。
カーブアウト財務諸表とは
この記事では、切り出す事業だけを対象に作る損益計算書と貸借対照表を指している。親会社の帳簿から、対象の事業に属する収益、費用、資産、負債を区分して作る。本社費を配賦額のまま載せているのか、単独で要る費用に置き換えているのかで利益が変わるので、どちらの前提で作ったかを明記する。
期間はどのくらいか
一律の目安は置けない。日程を決める要素は、切り出す範囲の確定と単独損益の作成、従業員との協議や承諾、取引先の承諾、債権者への公告と催告、独占禁止法の届出、システムの分離である。会社分割で債権者が異議を述べられる期間は1か月を下回れない。独占禁止法の届出が要る場合は、受理から30日を経過するまで実行できず、この期間は公正取引委員会が必要と認める場合に短縮できる。これらを工程表に置いたうえで、自社の日程を見積もる。
- カーブアウトは事業の一部を切り出すことである。この記事では切り出し全体をカーブアウトと呼び、スピンオフをその手法の1つとして扱った。売却先に譲る手法のうち、会社分割と事業譲渡を取り上げた。
- 売却前に財務でそろえるものは、単独損益、共通費の配分の根拠、運転資本と資産の区分の3つである。筆者は、本社費の配賦額を単独で要る費用に置き換えた損益を、交渉の前に売り手が作っておくべきだと考えている。
- 売却しても本社の費用はすぐには減らない。売り手に残るコストを先に測り、移行期間の業務委託の範囲、期間、対価と合わせて検討する。
次に読むなら、残るコストの測り方を扱った事業撤退で消えないコスト、本社費やシステム費が残った事業に乗り移る前に測ると、どの事業を切り出すかの判断を扱った事業ポートフォリオの見直し方、ROICと成長性で事業を仕分ける手順を勧める。



