七月の月次会議。上期の累計が予算に対して8%未達で、事業部長の説明は前月と同じである。第1四半期は例年どおり弱く、下期の需要期で取り返す。この説明が三年続いている会社を、私は複数知っている。 説明が正しいかどうかは誰にも分からない。分からないのは、そもそも比較の相手が情報を持っていないからである。年間予算を12で割った数字と実績を比べても、そこから出てくるのは「12分の1ではなかった」という事実だけになる。
均等配分は、配分の一つの方法ではない。配分を放棄した状態のことである。 放棄した以上、差異に意味を持たせられないのは当然で、事業部長の説明を責めても何も直らない。
費用側には、季節性ではなく暦が作る山がある
売上の季節性から手を付けたくなるが、順序が逆である。先に埋めるべきは費用側の、読み違えようのない山である。 ここは推計ではなく、法令と暦で決まっている。
固定資産税。地方税法第362条第1項は、固定資産税の納期を4月、7月、12月および2月中において当該市町村の条例で定めるとしている(特別の事情がある場合は異なる納期を定めることができる)。年4回で、月は偏っている。 そして償却資産は、同法第383条により、毎年1月1日現在の償却資産について1月31日までに所在地の市町村長へ申告する。つまり12月に稼働させた設備が、翌年度の税額を作る。 期末に押し込んだ設備投資が、翌年度の固定資産税の予算に反映されていない会社は珍しくない。
労働保険。年度更新は毎年6月1日から7月10日までで、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付する(確定保険料の申告・納付は労働保険徴収法第19条)。概算と確定の差額が、6月または7月に一括で出る。
社会保険。7月10日までに提出する算定基礎届に基づき、健康保険法第41条の定時決定によって、毎年7月1日現在の被保険者について同日前3か月間に受けた報酬から標準報酬月額が決まり、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額となる。昇給を4月に実施した会社の法定福利費は、9月分(納付は10月)から段差になって上がる。 4月から上がるのではない。
法人税の中間申告。法人税法第71条第1項により、事業年度が6か月を超える普通法人は、事業年度開始の日以後6か月を経過した日から2か月以内に中間申告書を提出する(前事業年度の実績を基礎とする金額が10万円以下である場合等を除く)。三月決算なら11月に納税のキャッシュアウトが立つ。
賞与。支給月に費用を置いている会社は、支給月だけが極端に重い予算になる。賞与引当金として期間配分すれば平準化するが、その際に法定福利費の会社負担分も同じ月に載せる必要がある(賞与引当金と社会保険料の月次計上、支給見込と料率改定の反映漏れを防ぐ手順)。
この五つを暦どおりに置くだけで、費用側の月次差異は目に見えて静かになる。 静かになった後に残る差異が、はじめて管理の対象になる。
配分は三つの係数の掛け算で作る
売上側の配分は、勘で置かない。式にする。
季節指数の作り方は、統計の専門技術を持ち出す必要がない。過去3期の月別実績について、12か月の中心化移動平均でトレンドを出し、実績をトレンドで割った比率を月ごとに並べ、極端な値を落として代表値を取り、合計が12になるように正規化する。移動平均比率法と呼ばれる古典的な手順で、表計算で30分の作業である。
公的統計が用いる季節調整法は、これよりはるかに精密である。米国センサス局のX-12-ARIMAはX-11に曜日・祝祭日調整とうるう年調整を加えた手法で、総務省統計局の労働力調査などの季節調整に2026年時点でも用いられている。その後継がX-13ARIMA-SEATSである。会社の予算にこの水準は要らない。ただし曜日と稼働日の調整だけは、簡易な手順でも入れておく。 月次の売上は営業日数に強く連動するのに、暦の月は28日から31日まで振れる。土日の並びと祝日の位置によって、同じ「31日の月」でも稼働日数は変わる。この調整を入れないまま季節指数を作ると、暦の影響が季節性として指数に埋め込まれ、翌年に別の形で誤差になって出てくる。
罠は二つある。
一つ目は、過去実績に異常値が入ったまま指数を作ること。 大口のスポット受注、災害による停止、感染症の影響を受けた期間。これらを落とさずに移動平均に通すと、翌年の予算にその形が刻まれる。3期分を並べて、月ごとの比率が一期だけ大きく外れている箇所は、理由を確認して除外する。「なぜその月が高かったか」を説明できない実績は、指数の材料にしない。
二つ目は、季節指数を売上だけに掛けること。 売上に季節性を入れて費用を12分割すると、粗利率が月ごとに不自然に動く。分けるべきは、売上に連動する変動費(仕入、外注、販売手数料、物流費)と、暦に連動する固定費(人件費、賃借料、減価償却費)である。変動費は売上の配分に従わせ、固定費は前節の暦の山に従わせる。 ここを混ぜると、上期の粗利率が構造的に低く見える予算ができあがる(予実管理表の作り方、科目・部門・月の並べ方と差異の見せ方)。
資金のピークは、売上のピークより先に来る
季節配分をやると、損益より先に効く場所がある。運転資金である。
需要期に売るには、その前に作るか、仕入れる。季節性の強い事業ほど、在庫は売上のピークの一か月から二か月前に積み上がる。仕入代金の支払は在庫を積んだ月に発生し、売上代金の回収は売った月の一か月から二か月後になる。つまり資金の谷は、売上の山の手前に来る。 年間予算を12分割していると、この谷が予算のどこにも現れない。
順序で書くとこうなる。八月が需要期の事業なら、六月から七月に在庫が積み上がり、七月から八月に仕入代金の支払がピークを打ち、九月から十月に回収が立つ。資金繰りの最悪月は七月であって、売上が最も低い二月ではない。 手元流動性の水準を決めるときに見るべきは、平均の月商ではなく、この谷の深さである(運転資本(CCC)の管理、在庫・売掛・買掛から黒字なのに資金が足りない原因を探る)。
だから月別配分を作ったら、同じ係数で三つを配分し直す。仕入・生産の月別計画、在庫の月末残高の想定、そして売掛金と買掛金の月末残高。 ここまで置くと、月別の資金繰り表が予算から自動的に落ちてくる。借入の実行月やコミットメントラインの必要額も、そこから逆算できる(手元流動性はいくら持つべきか、固定費と月商倍率で自社基準を作る)。
財務制限条項を負っている会社では、もう一段効く。純有利子負債やEBITDAを基準とする条項は、期末や四半期末の数値で判定される。 季節性の強い事業の在庫と借入は、判定日がどの月に当たるかで見え方が変わる。月別配分ができていれば、判定月の見込値を期首から把握できる(コベナンツ(財務制限条項)の管理、抵触の前に余裕度を四半期で見る)。配分は損益管理の道具だと思われているが、効き目が大きいのは資金の側である。
「季節要因です」が説明として成立する条件
ここからが、月別配分を作る目的にあたる。
期首に季節指数を置いた会社では、「季節要因です」という説明が使える場面が、はっきり限定される。 使えるのは、置いた指数と実績の季節パターンが乖離したときだけである。指数どおりに動いているなら、それは予算に織り込み済みであって、差異の説明にならない。差異が出ているなら、原因は別にある。
だから月次の差異は、三つに分けて報告する。季節性前提の差異は、置いた季節指数と実績の月別構成比の差。タイミング差異は、予算の前提だった施策が予定の月に実施されなかったことによる差。実力差異は、残余である。三段に分けると、会議の議題が変わる。季節性前提の差異が続いているなら、来期の指数を直す話になる。タイミング差異が大きいなら、施策の実行管理の話になる。そして実力差異だけが、事業の議論に値する。
配分の前提は、文字で残す。月別予算の横に、その月にそう置いた理由を一行で書く。「7月は稼働日20日、前年比マイナス1日」「9月に値上げ2%を織り込み」「11月に新拠点の稼働、初月は稼働率50%想定」。この一行があると、差異が出たときに最初に見る場所が決まる。 前提が外れたのか、前提は合っていて実行が外れたのか。一行がないと、この判定に毎回一週間かかる(予算未達の差異を数量・単価・構成・タイミングに分解し、翌期の打ち手につなぐ手順)。
月次配分の見直しと、予算の作り直しを分ける
季節性を織り込むと、上期未達がそのまま「予算どおり」に変わる月が出てくる。すると次に来るのが、予算そのものを直したいという要求である。 ここは分けておく。
年間予算は、目標として置かれ、資源配分と評価の基礎になっている。月次配分は、その年間予算を月に割り付ける技術的な作業である。配分の見直しは期中でもやってよいが、年間の総額を動かすのは編成のやり直しである。 両者を混ぜると、月次の会議で年間目標が少しずつ削られていく。実務的な判断基準は単純で、配分の変更は年間合計を変えない限り期中に認め、年間合計の変更は別の意思決定として扱う。着地見込みは、予算とは別の系列として持つ(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。
売上高310億円の業務用食品卸で、季節性は極端に強い。夏場の需要期に年商の四割近くが集中し、二月と八月が落ちる。それでも予算は年間の12分割だった。理由は、事業部が「月別に置くと下期が重すぎて誰も納得しない」と言い続けたからである。経営企画部長が着手したのは、売上ではなく費用からだった。まず、暦で決まる山だけを月に置き直した。 固定資産税は納期が4月・7月・12月・2月の年4回で、地方税法第362条第1項の枠内で市町村ごとに条例で定められている。同社は十二の物流拠点を持ち、市町村ごとに納期が微妙にずれていたので、納付実績から月別の実額を並べた。労働保険の年度更新は6月から7月に確定保険料と概算保険料の差額が出る。社会保険は4月の昇給が9月分から標準報酬月額に反映され、法定福利費が10月納付分から段差になる。法人税の中間申告は、三月決算なので11月に出る。この五本を置き直しただけで、12分割の予算と実額の月別のズレが、費用側で最大4,200万円あることが分かった。 事業部の説明とは無関係に、予算の側が毎月ずれていたことになる。次に売上の季節指数を作った。過去3期の月別実績を12か月中心化移動平均で割り、月別の代表値を取る。ここで一つ引っかかったのが、二期前の九月が異常に高かったことである。調べると、大口の量販店向けスポット案件が一件入っていた。この一件を除かないまま指数を作ると、来期の九月の予算が過大になる。 除外して指数を引き直した。稼働日係数も入れている。同社は土曜も出荷しているため、月の土曜日数が売上に直接効く。曜日の並びだけで月次の出荷可能日数が最大3日変わることが分かり、この分を係数に反映した。運用を変えて二期目、月次会議の様子が変わった。「季節要因です」という説明が使えなくなったからである。 八月が予算未達だったとき、季節指数どおりの構成比で動いていれば、それは季節ではなく実力の話になる。逆に、六月に予算を超過したときも、指数の想定より前倒しで需要が立っていることが数字で見え、七月の受注見込みを下げる判断につながった。経営企画部長はこう言っている。差異分析のフォーマットを何度も作り直してきたが、直すべきだったのはフォーマットではなかった。比較する相手が情報を持っていなかっただけだった、と。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
月次配分で決める三つ
第一に、費用側の暦の山を先に置く。 固定資産税の納期は地方税法第362条第1項により4月・7月・12月・2月中で市町村の条例が定め、償却資産は同法第383条により毎年1月1日現在の資産を1月31日までに申告する。労働保険の年度更新は6月1日から7月10日で確定保険料と概算保険料を併せて申告・納付する。健康保険法第41条の定時決定により、標準報酬月額はその年の9月から翌年8月までの各月に適用され、4月の昇給は9月分から法定福利費に段差を作る。法人税の中間申告は法人税法第71条第1項により事業年度開始の日以後6か月を経過した日から2か月以内。推計の余地がない山を均等配分している限り、差異は毎月出続ける。
第二に、月別配分を、季節指数・稼働日係数・施策の投入時期の三つの係数で作る。 季節指数は過去3期の月別実績を12か月中心化移動平均で割る移動平均比率法で足りるが、異常値のある月は理由を確認して除外する。稼働日係数も入れる。曜日の並びと連休の位置で、同じ月でも稼働日数は毎年変わる。そして売上に掛けた季節性は、変動費にも掛ける。 費用を12分割したまま売上だけ季節配分すると、粗利率が構造的に歪む。
第三に、配分の前提を一行で残し、差異を三段に分けて報告する。 季節性前提の差異、施策のタイミング差異、実力差異。この三段があれば、来期の指数を直す話と、実行管理の話と、事業の話が混ざらない。「季節要因です」が使えるのは、置いた指数と実績の季節パターンが乖離したときだけである。
そのうえで、配分の見直しと予算の作り直しを分ける。年間合計を変えない配分の変更は期中に認めてよいが、年間合計を動かすのは編成のやり直しであり、別の意思決定として扱う。月次の会議で年間目標が少しずつ削られていく会社は、この線を引いていない。
年間予算を12で割ると、季節性の読み違いが毎月の差異を占め、施策の遅れと実力の差が見えなくなる。「季節要因です」と言えるのは、期首に置いた季節指数と実績のパターンがずれたときだけである。
来期の配分表は、固定資産税の納期や労働保険の年度更新といった、暦で決まる費用の山から置く。売上は季節指数・稼働日係数・施策の投入時期で配分し、同じ季節性を変動費にも掛ける。配分が最も効くのは損益より資金の側で、同じ係数で仕入と在庫、売掛・買掛の月末残高も配分し直せば、資金の谷が売上の山の手前に来ることが予算の段階で見える。置いた前提を月ごとに一行で残しておけば、差異が出たときに季節性・タイミング・実力のどれが外れたのかをすぐ切り分けられる。
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