2月の第2週に、市役所から封筒が届く。償却資産の申告書が未提出であるという通知である。 経理課に確認すると、担当していた社員が前年10月に異動していた。引継ぎ書には「1月:法定調書」と書かれており、償却資産の行はない。 前任者に電話をすると、自分は総務がやっているものだと思っていた、と答える。総務に聞くと、経理から資産台帳をもらう業務だと認識していた。 どちらも嘘をついていない。年に一度しか動かない業務は、担当が曖昧なまま何年も続いてしまう。そして人が動いた年に落ちる。
落ちるのは難しいからではなく、間隔が長いからである
月次の業務は落ちにくい。毎月やるので、手順が体に残っている。 資料の置き場所も、前月のファイルを開けば分かる。
年に一度の業務は、この二つが効かない。手順は忘れており、前回のファイルは一年分のフォルダの奥にある。 そして、前回やった人がまだ同じ席にいるとは限らない。
さらに悪いのが、年1回業務が経理・人事・総務の境界に散らばっていることである。 法定調書は経理、給与支払報告書は人事、償却資産は経理か総務、算定基礎届は人事、労働保険の年度更新は総務。部門をまたぐ業務のうち、月次で動くものは境界が自然に固まる。年1回のものは固まらない。
だから、対策の起点は手順書ではない。一覧に「誰の業務か」を書き切ることである。 業務名、根拠法令、期限、着手日、担当者、承認者、前回の成果物の保管場所。この七列が埋まっていない業務が、次に落ちる業務である(経理のミスはなぜ繰り返すのか、原因の4分類とフールプルーフ設計)。
山は1月と7月に二つある
年1回業務は年間に均等に散らばっていない。二か所に固まっている。
1月の山は前述のとおりである。もう一つが7月で、こちらは社会保険と労働保険が重なる。
健康保険・厚生年金保険の定時決定は、事業主が7月1日現在で使用している全被保険者について、4月・5月・6月の報酬月額を算定基礎届により届け出るもので、提出期限は7月10日である。 対象は7月1日現在のすべての被保険者および70歳以上被用者。決定し直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用される。
労働保険の年度更新は、前年度に実際に労働者へ支払った賃金総額をもとに確定保険料を計算して既に納めた概算保険料との差額を精算し、あわせて新年度の賃金見込みから概算保険料を計算して申告・納付する手続である。 令和8年度の受付は6月1日から7月10日までで、納期限は7月10日。
そして高年齢者・障害者雇用状況等報告が、毎年6月1日現在の状況について管轄の公共職業安定所を経由して厚生労働大臣へ提出され、令和8年の提出期限は7月15日だった。
源泉所得税の納期の特例では、1月から6月までの分の納付期限が7月10日である。 7月10日に、算定基礎届と労働保険の納付と源泉所得税の納付が同じ日に並ぶ。
前年と同じやり方が、今年は違反になる
年1回業務の二つ目の危険が、制度改正である。月次業務なら、改正はすぐ実務に当たる。年1回業務では、改正から実務までに最大で一年近い間隔がある。
直近の例が、障害者雇用である。障害者の法定雇用率は2026年7月1日から2.5パーセントから2.7パーセントに引き上げられ、これに伴って障害者を1人以上雇用する義務が生じる企業規模の基準も、従業員数40人以上から37.5人以上に広がった。 ここでいう従業員数は在籍人数ではなく、週の所定労働時間が30時間以上の常用労働者を1人、20時間以上30時間未満の短時間労働者を0.5人として数える。
つまり、昨年まで対象外だった従業員38人の会社が、今年から対象になっている。 そして対象になったことに気づく機会は、6月1日現在の状況を報告する年1回の手続しかない。前年の報告書を写して作る運用では、対象外だった前提のまま作業が進む。
同じことが、料率の改定でも起きる。労働保険の年度更新は前年度の確定と新年度の概算を同時に行う手続であるため、料率が変わった年は概算の側だけが新しい率になる。 前年のファイルを上書きして作ると、ここが直らない。
対処は一つで、年1回業務の着手時に、根拠法令と料率・率表の確認を工程の第一段に置くことである。 前回の成果物を開くのは、その後にする。順序を逆にすると、去年の前提が今年の書類に入る。
カレンダーに置くのは期限ではなく着手日
年間カレンダーを作った会社の多くが、期限日を並べて終わっている。期限を知っていても、その日から作業は始まらない。
置くべきは着手日である。そして着手日は、必要な材料が揃う日から逆算する。
法定調書は、支払先ごとの年間支払額が確定しないと作れない。12月の支払が確定するのは1月上旬で、その時期は年末調整の最終処理と重なっている。 償却資産の申告は、1月1日現在の資産の状況が要る。除却した資産が台帳から落ちていないと、課税され続ける(固定資産の実地棚卸、台帳と現物のずれを毎期出さない運用)。
算定基礎届は4月・5月・6月の報酬が確定してから作るので、着手は6月の給与が締まった直後になる。ここに労働保険の年度更新が重なる。 年度更新は前年度の賃金総額の集計が必要で、これは4月中に着手できる。前倒しできる唯一の業務がこれである。
したがってカレンダーには三つの列を置く。期限、材料が揃う日、そして着手日。 着手日は材料が揃う日と同じか、その翌営業日に置く。期限から逆算した着手日ではない。材料から前送りした着手日である(決算業務の繁閑差をならす業務平準化、月初集中を期中に分散する方法)。
「提出したつもり」を検知する
最後に、落ちたことに気づく仕組みを置く。未提出の最大の類型は、忘れていたではなく、提出したつもりである。
電子申請の送信エラー、郵送したが宛先が違う、複数の市区町村に出すべきものを一つだけ出した、受付印のある控えを保管していない。いずれも、本人は完了したと思っている。
検知は簡単で、期限の翌週に、控えの実物を確認する担当を別に置く。 確認するのは提出したかどうかではなく、受付を証する記録が手元にあるかどうかである。 電子申請なら受付番号、郵送なら受付印のある控え、窓口なら同じく控え。
そして、その控えの保管場所を一覧に書く。次に担当する人が最初に開くのは、手順書ではなく前回の控えである。 実物が一枚あれば、書式も記載内容も添付書類も分かる。年1回業務の引継ぎ資料は、手順書より前回の成果物のほうが強い。
- 業務名と根拠法令(例:償却資産の申告=地方税法第383条)
- 期限日(土曜日又は休日にあたる場合の扱いを含む)
- 材料が揃う日(前月給与の締め、年間支払額の確定、資産台帳の更新など)
- 着手日(期限からの逆算ではなく、材料が揃う日から前送りして置く)
- 担当者と承認者(部門をまたぐ業務は、どちらの部門の業務かを一つに決める)
- 着手時に確認する率表・様式の出所(前回ファイルを開く前に見る)
- 前回の成果物と受付記録の保管場所(電子申請の受付番号、受付印のある控え)
決めるのは三つ
第一に、年1回業務の一覧を作り、部門をまたぐ業務の所有者を一つに決める。 法定調書、給与支払報告書、償却資産の申告、算定基礎届、労働保険の年度更新は、経理・人事・総務の境界に散らばっている。月次で動く業務は境界が自然に固まるが、年1回の業務は固まらない。 業務名、根拠法令、期限、材料が揃う日、着手日、担当者と承認者、前回の成果物と受付記録の保管場所を列に置く。この七列が埋まっていない業務が、次に落ちる業務である。
第二に、山が1月と7月に二つあることを前提に、着手日を材料から前送りして置く。 1月は、法定調書の提出期限が原則として支払を行った年の翌年1月31日、給与支払報告書も翌年1月31日までに1月1日現在の住所地の市区町村へ、償却資産は地方税法第383条により毎年1月1日現在の所有資産について1月31日までに所在地の市町村長へ申告、さらに源泉所得税の納期の特例では7月から12月までの分の納付期限が翌年1月20日である。直前の12月には年末調整がある。 7月は、算定基礎届が7月1日現在のすべての被保険者と70歳以上被用者について4月・5月・6月の報酬月額を7月10日までに届け出るもので、決定された標準報酬月額は9月から翌年8月まで適用される。労働保険の年度更新は前年度の確定保険料と新年度の概算保険料を精算・申告する手続で、令和8年度の受付は6月1日から7月10日、納期限は7月10日。 高年齢者・障害者雇用状況等報告は毎年6月1日現在の状況を管轄の公共職業安定所経由で厚生労働大臣へ報告し、令和8年の期限は7月15日だった。前倒しできるのは労働保険の年度更新だけで、前年度の賃金総額の集計は4月中に着手できる。
第三に、着手の第一段を「前回のファイルを開くこと」にしない。 年1回業務では改正から実務までの間隔が長く、前年の前提がそのまま今年の書類に入る。障害者の法定雇用率は2026年7月1日から2.5パーセントから2.7パーセントに引き上げられ、雇用義務が生じる企業規模の基準も従業員数40人以上から37.5人以上に広がった。 ここでいう従業員数は、週の所定労働時間が30時間以上の常用労働者を1人、20時間以上30時間未満の短時間労働者を0.5人として数える。昨年まで対象外だった会社が今年から対象になっていることに気づく機会は、年1回の報告しかない。 根拠法令と率表の確認を工程の第一段に置き、前回の成果物はその後に開く。そして期限の翌週に、受付を証する記録が手元にあるかを別の担当が確認する。 未提出の最大の類型は、忘れていたではなく提出したつもりである。
従業員41名、売上高18億円の設備工事会社。管理部は5名で、経理3名、人事総務2名という体制である。きっかけは、3月に税務署から入った連絡だった。 法定調書のうち、不動産の使用料等の支払調書が提出されていない、という内容である。経理は、事務所と資材置場の賃借契約を結んでいるのが総務であることから、総務が出すものだと考えていた。総務は、税務署に出す書類は経理の仕事だと考えていた。 遅れて提出して大事にはならなかったが、管理部長が調べたところ、年に一度しか発生しない業務が全部で17件あった。 17件のうち、担当者が文書で決まっていたのは6件だけだった。残る11件は「例年やっている人」がいるだけで、その人が誰かを部長が言えない業務が3件あった。 作ったのは一枚の表である。列は、業務名、根拠法令、期限、材料が揃う日、着手日、担当者、承認者、着手時に見る率表や様式の出所、前回の成果物と受付記録の保管場所。 埋める作業に三週間かかっている。最も時間を要したのが「前回の成果物の保管場所」で、17件のうち9件は控えが見つからなかった。 電子申請の受付番号を控えていないもの、担当者の個人フォルダにあって共有されていないもの、そもそも控えを取っていなかったもの。このうち2件は、管轄の窓口に問い合わせて提出の事実を確認している。 表を作った翌年の7月、想定していなかったことが起きた。障害者の雇用状況の報告で、自社が今年から対象になっていることが分かったのである。 従業員41名のうち、週20時間以上30時間未満の短時間勤務者が6名おり、常用労働者換算では38人。前年までの基準では対象外で、報告書も作っていなかった。 気づいたのは、表の「着手時に見る率表や様式の出所」の列に従って、前年のファイルではなく厚生労働省の案内を先に開く手順にしていたからである。旧来の運用であれば、前年のファイルがないので何もしないままだった。 現在は、17件を四半期ごとに管理部の定例で確認している。確認するのは進捗ではなく、着手日を過ぎているのに未着手のものがあるかどうかだけ。 一件あたり数十秒で終わる。そして期限の翌週に、受付記録の実物を経理課長ではない別の担当が確認する運用を追加した。 導入から二年で、期限超過はゼロ件である。管理部長の総括が実務を言い当てている。難しい仕事は落ちない。難しくないのに一年に一度しかない仕事が落ちる。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
年1回の法定業務が落ちるのは、難しいからではなく、12か月の間隔で手順も改正も抜け落ちるからだ。期限は1月と7月に固まっている。
次の年間表では、期限の横に材料がそろう着手日を書き、着手の最初の行に根拠法令と率表の確認を置く。前回のファイルを開くのは、その後になる。期限の翌週には、担当者以外の人が受付番号か受付印のある控えを確かめる。



