経営会議の事業別損益で、製品事業の売上総利益率は11パーセント、サービス事業は41パーセントと出ている。毎期、同じ説明が付く。機械は競争が厳しく薄利だが、納めた後の保守と部品で稼いでいる。 誰も反論しない。反論する材料がないからである。本体の大口値引きを承認した稟議には「保守契約で回収見込み」と書いてあるが、その保守契約が五年後に何台残っていたかを集計した資料は、社内のどこにもない。 「保守で稼いでいる」は、検証された事実ではなく、値引きを通すための前提として毎期使われている。
比例配分は財務の規則であって、採算の判断ではない
第70項の比例配分は、収益の額を履行義務に配る規則として合理的である。だが本体の値引きを誰が、何のために決めたかという問いには答えない。
数字で見る。定価5,000万円の機械に、年400万円・5年の保守契約を付けて売る。本体を18パーセント値引きして4,100万円、保守は定価どおり総額2,000万円。契約の総額は6,100万円である。 独立販売価格の合計は7,000万円なので、値引きは900万円。比例配分すれば、本体に約4,357万円、保守に約1,743万円が配分される。 本体の値引き900万円のうち、約257万円が保守の側に移る。
本体の原価が3,900万円、保守の原価が年200万円(5年で1,000万円)だとする。比例配分の数字では、本体の売上総利益は約457万円、保守は5年で約743万円に見える。 値引きを本体に負わせると、本体は200万円、保守は1,000万円である。同じ契約でも、どちらの数字で事業部を評価するかで、本体の売上総利益が約2倍違って見える。
値引きを譲ったのは、本体の商談の場である。保守の単価は定価で、交渉すらされていない。採算を判断する数字では、値引きは譲った側に負わせる。 財務会計の数字とは一致しなくなるが、差は契約ごとに計算できるので、事業別損益の脇に調整行を一本置けば接続できる(管理会計と財務会計の数字が合わない原因と、毎月説明できるブリッジ表の作り方)。
保証の費用は、本体の側に一度だけ置く
分け方を誤りやすい二つ目の場所が、フィールドエンジニアの費用である。
フィールドエンジニアをサービス部門に抱え、その人件費と移動費をサービス事業の原価に全額計上している会社では、有償の保守契約に基づく点検と、納入後の保証期間中の無償修理が同じ原価に混ざる。 後者は、適用指針第34項の保証が仕様どおりであることの保証のみであれば、引当金の対象になる本体の約束の履行であり、本体を売ったことの原価である。
この区分をしていない会社では、二つのことが同時に起きる。本体の原価が軽く見え、サービスの原価が重く見える。 本体の品質問題で保証期間中の出動が増えた年に、悪化するのはサービス事業の利益率である。そしてサービス部門は、自分たちが原因でない利益率の低下について説明を求められる。
直し方は、作業指示の単位で区分コードを付けることである。保証期間中の無償対応、有償の保守契約に基づく点検、契約外の有償修理、部品の交換工事。 四つに分けて工数を記録する。
ただし、無償対応の工数をそのまま製品事業へ振り替えるときに、一つ注意がある。仕様どおりであることの保証は、財務会計では販売の時点で製品保証引当金を繰り入れており、その繰入額はすでに本体の側の費用になっていることが多い。 そこへ実際の無償対応の費用まで製品事業に負わせると、同じ保証の費用を二度計上することになりうる。製品事業が負うのは、見積りの繰入か実際の費用のどちらか一方に揃える。 実際の費用に揃えるなら、管理会計の製品事業からは引当金の繰入を外し、実際の無償対応の費用は引当金の取崩しと対応させて、差額を財務会計との調整行に置く。繰入に揃えるなら、実際の無償対応の工数費用はサービス部門から引当金の取崩しに振り替えるだけにして、製品事業には重ねない。どちらに揃えるかを決めてから振替を始める。
事業部の損益ではなく、稼働台数を単位にする
値引きの負わせ方と保証の費用を直しても、事業部別の損益のままでは、肝心の問いに答えられない。本体の値引きは、その台の保守と部品で回収できたのか。 これは年度の損益ではなく、一台の機械の納入から撤去までの時間軸の問いである。
だから単位を、事業部から稼働台数に変える。一台ごとに、本体の値引きと利益、保守契約の有無と更新の履歴、部品と有償修理の利益を、機番で紐づけて管理する。
- ① 機番・顧客・納入日・納入年(コホートの単位)
- ② 本体の定価・契約価格・値引き額と値引き率・本体の原価
- ③ 保証期間と、保証期間中の無償対応の費用(引当の繰入か実際の費用か、揃えた一方で記録する)
- ④ 保守契約の付帯の有無・開始日・契約単価・単価改定の履歴・保守の年間粗利
- ⑤ 契約の更新日・解約日と解約の理由(撤去、自社保守へ移行、他社へ移行)
- ⑥ 部品売上・部品原価・有償修理の売上と原価
- ⑦ 保守と部品の累計粗利が②の値引き額に達した年(回収年)と、到達していない台の一覧
この台帳を納入年ごとに束ねると、稟議の前提を事後に検証できる。 値引き率の高い台ほど保守の付帯率が高いのか、低いのか。五年目に何台の保守契約が残っているか。本体の値引きを回収した年に、どのくらいの台が到達しているか。
ここでの比較の前提を一つ置いておく。「値引きしなければ失注していた」とは置かない。 値引きは、稟議に書かれたとおり「保守で取り戻す」ことを前提に通された投資だと見て、値引き額を保守の年間粗利で割った年数を回収年数とする。
先ほどの例で言えば、値引き900万円に対し、保守の年間粗利は200万円なので、回収には4.5年かかる。 保守が5年更新されれば、累計の保守粗利は1,000万円で値引きを上回り、本体200万円と合わせた生涯の粗利は1,200万円になる。顧客が2年で自社保守に切り替えれば、保守の粗利は400万円で、値引き900万円のうち500万円が回収されないまま残る。 回収されたかどうかは、台帳がなければ誰にも分からない。
部品と保守を抱き合わせて回収する計画は置けない
「保守で稼ぐ」の中身が、実は部品の供給にあることは多い。自社製の機械の部品は自社が供給しているので、保守契約を他社に取られても、部品の供給の条件で自社の保守に戻せる。 この前提には、独占禁止法上の限界がある。
大阪高等裁判所平成5年7月30日判決(東芝エレベータテクノス事件)は、エレベーターの保守業者が、保守部品を部品単体では販売せず、取替え調整工事と込みでなければ受注しないとしたことを、不公正な取引方法の一般指定第10項の抱き合わせ販売等に当たるとした。 あわせて、保守契約先でないことを理由に、部品の納期を3か月先に指定したことを、当時の一般指定第15項の取引妨害に当たるとし、損害賠償を認めた一審の判断を維持している。現行の一般指定では、第10項が抱き合わせ販売等、第14項が競争者に対する取引妨害を定めている。
この判決が違法としたのは、部品の供給と取替え工事の抱き合わせと、保守契約のない先に対する不合理な納期による取引妨害である。部品の価格水準そのものを判断した判決ではない。 また、エレベーターの保守という個別の市場の事実関係を前提にした判断であり、業種や部品の入手経路が違えば、同じ評価になるとは限らない。
それでも、管理会計の計画に置くときの線ははっきりしている。部品の供給を保守契約と抱き合わせる、保守契約のない先に供給条件で差を付ける、という形の回収は計画に置けない。 他社保守への移行は起きる前提で、台帳の解約理由の列に「他社保守へ移行」を置き、その比率を追う。
採算の打ち手は、更新率と単価の改定に置く
抱き合わせに頼れないなら、採算を動かすのは二つである。保守契約の更新率と、保守単価の改定。
更新率は、値引きの承認と一体で管理する。 台帳を納入年と値引き率で束ねると、大口値引きの台ほど更新率が低いという結果が出ることがある。大口の顧客が自前の保全部門を抱えていて、保守契約を必要としない場合である。その傾向が自社の台帳で確認されたなら、本体の大口値引きを、保守での回収を前提に承認すべきではない。 値引きの稟議に、その顧客層の過去の更新率と、値引きを回収する年数を書かせる(赤字受注・大幅値引きは誰がどう承認すべきか、稟議ではなく採算の下限をルールにする)。
単価の改定は、契約書に改定の条項を置くところから始まる。 保守単価が契約時の単価のまま長く据え置かれている契約では、その間にフィールドエンジニアの人件費も部品の調達価格も上がっている。台帳で契約単価と原価の推移を並べると、利益率が年ごとに削られている台が一覧で出る。 更新のたびに値上げを交渉するのではなく、改定の根拠と頻度を契約に書き、更新率とセットで追う(値上げの判断を利益で行う方法、限界利益から許容できる数量減を計算する)。
売上高860億円の包装機械メーカー。事業別損益では、製品事業の売上総利益率が11パーセント、サービス事業が41パーセントで、「保守で稼ぐ」が社内の定説になっていた。 経営企画部がまず着手したのは、2014年から2019年に納入した約2,400台の稼働台数の台帳づくりである。本体の契約は販売管理システムから、保守契約と部品・修理の実績はサービス部門のシステムから、機番で突き合わせた。 機番の表記揺れの修正に最も時間がかかり、作業は二人で四か月に及んでいる。台帳を納入年と値引き率で束ねると、三つのことが分かった。 第一に、本体の値引き率が20パーセントを超えていた約720台では、5年目まで保守契約が続いていたのが38パーセントだった。値引き率20パーセント以下の台では71パーセントである。 値引き率の高い台の多くは、自社に保全部門を持つ大手の食品メーカー向けだった。第二に、値引き率20パーセント超の台のうち212台は、納入から5年間の保守と部品の累計粗利が、本体の値引き額に届いていなかった。稟議書には、いずれも「保守契約で回収見込み」と書かれていた。 第三に、フィールドエンジニアの工数のうち27パーセントが保証期間中の無償対応で、その費用は全額がサービス事業の原価に計上されていた。一方、製品保証引当金の繰入額は製品事業の原価に計上されていた。 経営企画部は、管理会計では実際の費用に揃えると決め、製品事業からは引当金の繰入を外し、無償対応の実際の工数費用を製品事業に負わせた。差額は財務会計との調整行に置いている。この組み替えの結果、製品事業の売上総利益率は11パーセントから8.6パーセントに下がり、サービス事業は41パーセントから47パーセントに上がった。 サービス事業の数字は、もともと本体の保証の費用を背負って低く見えていたことになる。打ち手は三つに絞られた。 一つ目は、本体の値引き率が15パーセントを超える稟議に、その顧客業種の過去の5年更新率と、値引き額を回収する年数の記載を必須にしたこと。二つ目は、新規と更新の保守契約に、人件費と部品価格の指標に連動した年次の単価改定条項を入れたこと。 三つ目は、部品の単体販売の取り扱いを法務部と見直し、保守契約の有無で部品の納期や供給条件に差を付けない社内基準を文書にしたことである。保守契約を他社に切り替えた顧客は台帳の解約理由の列で追い、その比率を四半期ごとに経営会議へ出している。 導入から2年で、改定条項を入れた契約の保守単価は平均で約6パーセント上がった。値引き率20パーセント超の新規案件は、件数で半分近くに減っている。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
決めるのは三つ
第一に、値引きは譲った本体に負わせ、保証の費用は本体の側に一度だけ置く。 企業会計基準第29号第70項は、値引きを契約におけるすべての履行義務に比例的に配分するとし、第71項の要件を満たす場合に限って一部の履行義務への配分を認める。これは収益を配る規則として合理的だが、値決めの判断を誰が誤ったかには答えない。 採算を見る数字では、値引きを譲った側に負わせ、財務会計との差は調整行で接続する。フィールドエンジニアの作業は、保証期間中の無償対応・有償保守・契約外の有償修理・部品の交換工事に区分して記録する。適用指針第34項の引当金の対象となる保証は、販売時の繰入がすでに本体側の費用になっていることが多いので、製品事業が負うのは繰入か実際の費用のどちらか一方に揃え、引当金の取崩しとの対応を決めてから振り替える。
第二に、単位を事業部から稼働台数に変える。 機番ごとに、本体の値引きと利益、保守契約の付帯と更新と単価改定の履歴、部品と有償修理の利益を紐づけ、納入年で束ねる。事業部の損益は年度で締まるが、値引きの回収は台の寿命で決まる。 値引きは保守で取り戻す前提で通された投資と見て、値引き額を保守の年間粗利で割った年数を回収年数とする。台帳があって初めて、稟議に書かれた「保守で回収見込み」を事後に検証できる。値引き率別の更新率と、回収年に到達した台の比率が、見るべき二つの数字である。
第三に、採算の打ち手を、抱き合わせではなく更新率と単価の改定に置く。 大阪高裁平成5年7月30日判決は、保守部品を単体で売らず取替え調整工事と込みでしか受注しないことを一般指定第10項の抱き合わせ販売等に、保守契約先でないことを理由に部品の納期を3か月先に指定したことを当時の一般指定第15項の取引妨害に当たるとした。価格水準を判断した判決ではなく、エレベーター保守の事実関係を前提にした判断だが、部品の供給を保守契約と抱き合わせる、保守契約のない先に供給条件で差を付ける、という形の回収は計画に置けない。 本体の大口値引きは、その顧客層の過去の更新率と回収年数を書かせたうえで承認し、保守単価は根拠と頻度を契約に書いた改定条項で動かす。
「本体は薄利だが保守で稼いでいる」は、検証してから使う説明である。事業部の損益からは確かめられず、機番ごとの台帳で初めて見える。
次の大口値引きの稟議から、その顧客層の過去の更新率と、値引き額を保守の年間粗利で割った回収年数を書かせる。回収年数と更新率を並べてから承認し、保守単価は改定の根拠と頻度を契約に書く。部品の供給を保守契約と抱き合わせて回収する計画は置かない。



