期末の業績を報告する経営会議。事業本部長の報告は、管理上の営業利益が計画を4億円下回ったという数字から始まる。 続けて三つの要因が示される。物流費の一時的な高騰、旧システムとの並行稼働の費用、そして物流拠点の集約に伴う構造改革費用である。「この三つを除けば、計画を上回っています」。 誰も反論しない。一つずつは、どれも筋が通っているからである。会議の後、CFOは過去3期の経営会議の資料を並べてみる。 構造改革費用は、計画の名前を変えながら3期続けて「除けば」の中に入っている。物流費は、昨年は「燃料費の上昇」という名前で除かれていた。一過性の要因は、毎期、一過性として戻ってきていた。
「除けば」は、数字を作った部門が判定している
経営会議で除外される項目を選んでいるのは、たいてい、その数字を報告する事業部門か、事業部門と一緒に資料を作る経営企画である。数字を作る部門が、どの費用を実力の外に置くかも決めている。
これは不正の問題ではない。報告する側にとって、計画との差を説明する最も自然な方法が、自分の管理の外にある要因を切り出すことだからである。 物流費の高騰は事業部門が決めたことではなく、旧システムの並行稼働は情報システム部門の遅れで、構造改革は経営が決めたことである。一つずつ見れば、どれも事業部門の実力の外にあると言える。
問題は、この判定が毎期、同じ側で行われることである。計画を下回った期には除外する項目が増え、上回った期には除外する項目が減る。 一時的な利益、たとえば固定資産の売却益や保険金の受取は、除外されずに実力の中に残りやすい。損は外に、益は中に置かれる。 同じ構造は、引当金の見積りで数字を作る人と水準を決める人を分けるべき理由と変わらない(引当金の見積りの責任分担、前提は事業部・水準は経理・承認は経営)。
一過性の判定は、名前ではなく類型の再発で行う
冒頭の会議で、物流費の高騰が昨年は燃料費の上昇と呼ばれていたように、除外される項目は名前を変えて戻ってくる。 名前で再発を数えると、再発は見つからない。
判定は類型で行う。規程に、除外を認める類型を閉じたリストとして書く。 実務で除外の根拠が立ちやすいのは、事業や子会社の売却損益、災害による損失、訴訟の和解金、買収に直接かかった費用のように、事業の通常の運営から発生せず、発生の原因が特定の決定や事象に結びつくものである。構造改革費用は、対象の計画と終わりの期限が取締役会で決まっている場合に限って類型に入れる。数え方も規程に書く。同じ計画の期限内に出た費用は、何期にまたがっても1回と数え、期限を過ぎて出た費用と、次の計画の費用を、それぞれ再発として1回ずつ数える。
そして、リストに載せた類型であっても、同じ類型が一定の回数を超えて出たら、除外を認めない。 たとえば過去5期の間に、この数え方で3回を数えた類型は、一過性として扱わない。減損損失はその典型で、財務制限条項の余裕度を見る場面では、減損は返済能力を毀損しない一過性の要因として切り分けることが多い(コベナンツ(財務制限条項)の管理、抵触の前に余裕度を四半期で見る)。だが店舗や拠点を入れ替えながら成長する事業で毎期出る減損は、事業の運営の費用である。 ESMAのガイドラインが挙げている例も、まさにこの二つ、リストラクチャリング費用と減損損失である。
為替や原材料価格のように、毎期どちらかの方向に必ず動く要因は、除外の対象にしない。 影響を見せたいなら、除外ではなく、為替や価格の影響を別の行に分けて示す(予算未達の差異を数量・単価・構成・タイミングに分解し、翌期の打ち手につなぐ手順)。除外すると、翌期に逆方向に動いたときに、同じ基準で利益を減らす説明が出てこない。
報告には、除外額の年間累計と再発回数を必ず併記する
判定の規律と同じくらい効くのは、報告の様式である。調整後の利益を示すときは、調整前の利益、除外額の年間累計、除外額が調整前の利益に占める割合、除外した類型ごとの過去の再発回数を、同じ表に並べる。 並べるだけで、会議の議論が変わる。
冒頭の会社の3期を並べると、次のようになる。
| 期 | 営業利益(管理上) | 除外額の年間累計 | 調整後営業利益 | 除外額÷営業利益 | 除外した類型と回数(その期までの3期で、上の数え方による) |
|---|---|---|---|---|---|
| 前々期 | 18.0億円 | 3.0億円 | 21.0億円 | 16.7% | 構造改革費用:工場統合計画、期限内(1回) |
| 前期 | 12.0億円 | 4.2億円 | 16.2億円 | 35.0% | 構造改革費用:次の物流拠点集約計画(2回)、物流・燃料費の上昇(1回) |
| 当期 | 9.0億円 | 6.2億円 | 15.2億円 | 68.9% | 構造改革費用:物流拠点集約計画の期限後の費用(3回)、物流・燃料費の上昇(2回)、旧システム並行稼働(1回) |
調整後営業利益だけを見ると、3期で21.0億円から15.2億円へ、約28パーセントの減少である。営業利益は18.0億円から9.0億円へ、半分になっている。 除外額は毎期増え、当期は営業利益の7割近くに達した。そして当期の除外額6.2億円のうち、4.8億円は3期の間に2回以上を数えた類型である。 構造改革費用は、工場統合の計画、次の物流拠点集約の計画、その期限後の費用で、3期の間にすでに3回を数え、過去5期の間に3回という基準で除外を認めない側に入る。物流・燃料費の上昇は、為替や原材料価格と同じく毎期どちらかに動く要因で、この規程の下ではそもそも除外の類型に入らない。
この表は、調整後の数字を否定するためのものではない。除外した理由が実際に一過性なら、再発回数の列は毎期1のまま動かない。 列が伸びていくことが、実力の置き場所がずれていく過程を示す。
判定を、数字を作る部門から切り離す
判定する人は、事業部門でも、事業部門と資料を作る経営企画でもない者に置く。候補になりやすいのは、決算を締める経理の会計方針の担当か、CFOの直下で管理会計を見る担当である。コントローラー職を置く会社なら、その職が担う。 判定する人に必要なのは、事業の説明を聞く耳より、過去の除外の記録を手元で把握していることである。
手続は三段で足りる。事業部門が、除外したい項目を、類型、金額、発生の原因、同じ類型の過去の発生を書いた様式で申請する。 判定する人が、類型のリストと再発の基準に照らして可否を決め、理由を記録する。判定の結果は、経営会議の資料に載る前に確定させる。 会議の場で新しい除外を口頭で足すことは認めない。
定義そのものも、この規程の中で管理する。調整後の利益の算式、除外の類型、再発の基準を変えるときは、変更前の定義で過去の期を並べ直した数字を一緒に出す。 定義が途中の期から変わると、グラフの上では実力が改善したように見える(グループでKPIの定義がずれる問題、同じ名前の指標をそろえる定義書と改訂手続き)。社内の調整後の数字が説明会資料に載るなら、社外に出す数字の定義も同じ規程から取る。説明会資料の調整後の指標は、定義が社内文書に書かれていないまま作成担当の交代で変わりやすい(決算開示の数字が資料間でずれる原因、短信・有報・計算書類の突合を仕組みにする)。IFRSで開示する会社なら、IFRS第18号の適用で、社外に出す指標には調整表が付く。社内の定義と社外の定義が別々にあれば、その差をまた誰かが説明することになる。
役員の業績評価や賞与の指標に調整後の利益を使っている会社では、判定の独立はさらに重い。評価される人が、評価に使う数字から何を除くかを決める状態になるからである(予算を人事評価に紐づけると予測が歪む、目標と予測を分けて持つ予算設計)。
売上高1,300億円の外食チェーン(IFRS任意適用、3月決算)。直営店は約600店で、毎年40から60店を閉じ、同じ程度の数を新しく出している。 経営会議の業績報告では、長く「店舗閉鎖損失・減損損失を除く営業利益」が中心の数字だった。閉鎖に伴う損失と、業績の悪い店舗の減損は、経営企画が四半期ごとに一過性の要因として除いていた。社外取締役の一人が、過去7期の資料を求めた。 並べると、閉鎖損失と減損は7期のすべてで出ており、年平均の金額は営業利益の約2割に当たっていた。同じ7期の間に、除外の対象は二度広がっている。 3期目に「改装に伴う一時休業の損失」が加わり、5期目に「出店初年度の開業費」が加わった。どちらも、始めたときの説明は一過性だった。CFOは、調整後の利益の定義を社内規程に移した。 除外を認める類型は、事業や子会社の売却損益、災害による損失、訴訟の和解金、買収関連費用、取締役会で期限を決めた構造改革費用の五つに限った。店舗の閉鎖損失と減損は、店舗を入れ替えながら出店する事業の運営費用だとして、類型から外した。 改装休業の損失と開業費も外している。判定は経営企画から経理部の会計方針グループに移し、事業部門は四半期の締めの5営業日前までに様式で申請する。同じ計画の期限内は1回、期限後の費用と次の計画は再発として数え、過去5期の間に3回を数えた類型は、リストに載っていても除外を認めない。 報告の様式は、調整前の営業利益、除外額の年間累計、営業利益に占める割合、類型ごとの過去5期の再発回数を一表に並べる形に変えた。定義を変えた期には、新しい定義で過去7期を並べ直した表を取締役会に出している。 新しい定義の営業利益は、旧定義の調整後の数字より毎期2割前後低い。変わったのは、出店の判断である。 出店の稟議に、その店舗が閉鎖された場合の損失の見込みを載せることになり、初年度の賃料の条件が厳しくなった。翌期、閉鎖した店舗数は前期より少なかった。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
決めるのは三つ
第一に、除外の可否を、数字を作る部門から切り離した者に判定させる。 計画との差を説明する部門が除外を選ぶと、損は外、益は中に置かれ、計画を下回った期ほど除外が増える。判定は経理の会計方針の担当、CFO直下の管理会計の担当、コントローラー職を置く会社ならその職に置き、事業部門は類型・金額・原因・過去の発生を書いた様式で申請し、判定の理由を記録し、会議の場での口頭の追加は認めない。 役員の評価指標に調整後の利益を使っているなら、評価される人が除外を決める状態をなくす。
第二に、除外を認める類型を閉じたリストで規程に書き、再発で判定する。 企業会計原則注解12は、特別損益に属する項目でも毎期経常的に発生するものは経常損益計算に含めることができるとし、ESMAのガイドラインは、過去と将来の期間に影響する項目はリストラクチャリング費用や減損損失のように非経常的とは見なされにくいとしている。名前ではなく類型で数え、過去5期の間に3回を数えた類型は、リストに載っていても除外しない。 構造改革費用は期限を決めた計画に限って類型に入れ、同じ計画の期限内の費用は1回、期限後の費用と次の計画の費用はそれぞれ再発として数え、為替や原材料価格のように毎期動く要因は除外せず別の行で示す。
第三に、報告には、除外額の年間累計と類型ごとの再発回数を常に併記する。 調整前の利益、除外額の年間累計、その割合、類型ごとの再発回数を一表に並べる。営業利益が18.0億円から9.0億円に半減した3期で、調整後の数字は21.0億円から15.2億円と約28パーセントの減少にとどまり、当期の除外額は営業利益の68.9パーセントに達していた。 定義を変える期には旧定義で過去の期を並べ直し、社外に出す調整後の指標も同じ規程から取る。
「特殊要因を除けば計画どおり」が毎回出る会社では、除外を決める人と数字を作る人が同じになっている。
除外の判定は経理かCFO直下の担当に移し、申請は様式で受ける。除外できる類型は閉じたリストにし、過去5期の間に3回を数えた類型は外す。次の経営会議からは、調整前の利益、除外額の年間累計、類型ごとの再発回数を同じ表に並べる。



