11月20日に株式譲渡の決済が終わり、買収した会社は子会社になった。3月決算の親会社の連結決算に、この会社をいつから入れるかを決める打合せで、三つの意見が出る。 経営企画は、12月末から入れたいと言う。通期の業績予想に買収の効果を早く反映したい。連結担当の課長は、3月末にしたいと言う。 子会社は12月決算で、月次決算は翌月の20日過ぎにしか締まらず、会計方針も親会社とそろっていない。今期は貸借対照表だけを取り込み、損益は翌期から入れたほうが安全だという。監査法人の担当者は、どちらも基準上はありうると言ったうえで、もう一つ聞く。 9月末にした場合の影響は検討しましたか。取得のほうが決算日より後なので、前の決算日に寄せる選択肢もあります。
期末に寄せると、当期は軽く、翌期の前期比が跳ねる
冒頭の会社の数字で並べてみる。親会社は3月決算、子会社は12月決算で、連結には、親会社の四半期末と年度末に合わせた子会社の仮決算の数字を取り込む方針にしている。 支配獲得日は11月20日なので、前の決算日は9月末、後ろの決算日は12月末になる。さらに、連結担当の課長の案のように、期末の3月末を支配獲得日とみなす余地もあるかを確かめると、11月20日の前後いずれかの決算日という基準の文言からは、12月末を飛ばして3月末に置くことは読めない。 子会社の決算日を四半期ごとに持っている以上、選べるのは9月末か12月末である。3月末に寄せたいなら、その理由は12月末の仮決算を締められないという実務の制約であり、その場合は重要性の判断として監査人と合意する論点になる。
子会社の営業利益は年12億円で、四半期ごとにほぼ均等に3億円ずつ出ている。 みなし取得日の選び方で、当期と翌期の連結の数字は次のように変わる。
| みなし取得日 | 当期の連結に入る子会社の損益 | 翌期の前期比への影響 | 実務の負担 |
|---|---|---|---|
| 9月末(前の決算日) | 10月〜3月の6か月、営業利益約6億円 | 翌期は12か月、前期比の押し上げは約6億円 | 支配獲得前の10月1日から11月19日までの損益も入る。9月末の資本を固めるのに、買収前の決算の数字を使う |
| 12月末(後ろの決算日) | 1月〜3月の3か月、営業利益約3億円 | 翌期は12か月、前期比の押し上げは約9億円 | 12月末の仮決算を、親会社の年度末の日程で締める必要がある |
| 3月末(重要性で合意できた場合) | なし(貸借対照表だけを連結) | 翌期は12か月、前期比の押し上げは約12億円 | 当期の損益の取り込み作業はない。翌期の増益の大半が買収によるものになる |
取り込み方の方針が違えば、同じ12月末でも結果は変わる。 同じ基準の注4は、子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことを認めている。この方式で12月決算の数字をそのまま3月の連結に使う会社では、12月末をみなし取得日にすると、当期の連結に入る損益の月数はゼロになる。 基準の選択肢の中で期末に寄せたのと同じ結果になるが、その後は毎期、3か月ずれた子会社の損益を連結し続けることになる(子会社の決算日が親会社と違うとき、決算期の統一と仮決算の比較)。みなし取得日の検討は、子会社の数字をどの方式で取り込むかと一緒に決める。
3月末に寄せると、当期の連結損益は軽くなる。 取り込む月数はゼロで、損益計算書の組替えも会計方針の統一も翌期に回せる。その代わり、翌期の連結営業利益には、子会社の12億円がまるごと前期比の増加として加わる。 親会社の既存事業が横ばいでも、連結では大幅な増益に見える。逆に既存事業が5億円減っていても、連結では増益として出る。 株主や金融機関に対して、翌期の増益のうちどれだけが既存事業の実力で、どれだけが買収の効果かを別に示さない限り、前期比の数字は業績を説明しない。
前に寄せると、支配を得る前の利益まで入る
9月末に置けば、当期の連結に入る子会社の損益は6か月分になる。 そのうち10月1日から11月19日までの約1.6億円は、親会社がまだ支配していなかった期間の利益である。基準はこの処理を認めているが、当期の連結利益のうち、その期間の分は、親会社が支払った対価で買った純資産の一部が、損益として計上されたものに近い。
9月末をみなし取得日にすると、資本連結の基準になる子会社の資本も9月末の数字になる。のれんは、11月20日に払った対価と、9月末の子会社の資本との差で計算される。 10月1日から11月19日の利益は、のれんの計算の側ではなく、連結の損益の側に入る。同じ1.6億円が、12月末に寄せればのれんの計算の中に吸収され、9月末に寄せれば当期の利益に出る。 金額が小さければ実務上の差は小さいが、支配獲得前の期間に大口の案件の売上計上が集中していた場合や、買収直前に特別な損益が出ていた場合は、前に寄せることで当期の利益の見え方が大きく変わる。選ぶ理由を、作業の都合ではなく、損益の中身で説明できるかを確かめておく。
みなし取得日で動かないもの
みなし取得日を後ろに寄せても、実際の日付で動くものがある。 ここを取り違えると、当期の連結損益の見通しを誤る。
一つ目は、取得関連費用である。 フィナンシャル・アドバイザーや法務・財務の調査の報酬は、連結では発生した事業年度の費用になる。みなし取得日を翌期の日付に置けるかどうかにかかわらず、当期に発生した費用は当期の連結損益に入る。 なお、親会社の個別財務諸表では、子会社株式の取得に直接要した付随費用は取得原価に含めるので、個別と連結で扱いが分かれる。連結の調整の仕訳を、みなし取得日の検討と同じ打合せで確かめておく。
二つ目は、買収資金の利息である。 11月20日に借り入れた資金の利息は、11月20日から発生する。みなし取得日を3月末に寄せれば、当期の連結損益には、子会社の利益はゼロのまま、買収資金の利息だけが入る。 期中に大型の買収を借入で賄った会社ほど、当期の連結の利益が一時的に下がって見える(買収資金の組み方、手元資金・借入・株式対価の配分を意向表明の前に詰める手順)。
三つ目は、取得原価の配分の期限である。 基準は、配分が完了していない場合の暫定的な会計処理と、企業結合日以後1年以内の配分の完了を定めている。みなし取得日を後ろに寄せたことを理由に、配分の期限まで後ろにずれると考えない方が安全である。 顧客関連資産や技術の評価を外部の専門家に依頼しているなら、その作業の期日は実際の取得日から逆算しておく(のれんの減損は兆候で管理する、M&A後にCFOが四半期ごとに見る指標)。
選ぶ基準は、子会社が締められる最初の決算日
選択肢が出そろったら、子会社が親会社の日程で仮決算を締められる最初の決算日を選ぶ。 冒頭の会社なら12月末である。問題は、12月末の数字を親会社の年度末の連結日程に間に合わせられるかどうかである。
確かめることは三つある。 一つ目は、子会社の月次決算が何営業日で締まるか。冒頭の子会社は翌月20日過ぎに締まっているが、12月は子会社自身の年度末で、決算の確定はさらに遅い。親会社の連結日程で12月末の数字を使うのは4月の下旬なので、日程上は間に合う。 二つ目は、会計方針の統一である。収益認識の時点や、固定資産の償却方法、引当金の計上基準が親会社と違えば、連結用に組み替えた数字を作る必要がある(連結パッケージの設計と回収、子会社の提出を遅らせない様式と期日)。三つ目は、取得原価の配分の暫定値を、12月末の資本に対して出せるかである。 暫定値で連結し、確定したら修正する前提なら、期末の決算では暫定である旨を注記すればよい。
三つとも見通しが立つなら、12月末を選ぶ。 間に合わないのが三つ目だけなら、暫定的な会計処理で進められる。一つ目や二つ目が間に合わず、12月末の仮決算そのものが作れないなら、それは期末に寄せる理由になるが、その場合でも、翌期に12か月分を入れた時点で、同じ問題が四半期ごとに起きる。 みなし取得日の選択で先送りできるのは、最初の取り込みの作業だけである。子会社の締めの実力を上げる作業は、どの日を選んでも避けられない(買収した子会社の経理統合は、人の入れ替えより締めの型を先に移す)。
翌期の前期比は、買収の効果を分けて示す
どの日を選んでも、翌期の前期比には、当期に入らなかった月数分の子会社の損益が上乗せされる。 これを業績の説明から外すには、増減の分析で、新しく連結した子会社の影響を一行で分ける。
企業結合に関する会計基準の注記には、連結損益計算書に含まれている被取得企業の業績の期間と、企業結合が当期の期首に完了したと仮定した場合の損益への影響の概算額がある。 概算額の注記は、当期の業績に買収先が何か月分入っているかを外部に示すための情報である。社内でも同じ考え方で、既存事業と新規連結の子会社を分けた前期比を、翌期の四半期ごとに作る。 翌期の予算も、既存事業と新規連結の子会社を分けて組んでおけば、翌期の増益の説明がそのまま予算との比較になる(決算の差異分析の型、予算・前年・着地見込との比較を意思決定につなげる)。
売上高1,100億円の電子部品商社(3月決算、日本基準、連結子会社7社)。11月20日に、12月決算の同業の販売会社の全株式を取得した。 子会社の年間の営業利益は約12億円、取得の対価は85億円で、うち60億円を借入で賄った。経営企画は12月末、連結担当は3月末を主張し、監査法人からは9月末の選択肢も示された。CFOは、三つの案で当期と翌期の連結の数字を並べさせた。 9月末に寄せると、取得直前の10月に大口の据付案件の売上が集中していたため、当期に入る営業利益は約7億円になり、そのうち約2億円が支配を得る前の期間の分だった。3月末に寄せると、当期の連結には借入の利息と取得関連費用の約2.1億円だけが入り、翌期の連結営業利益は既存事業が横ばいでも約12億円の増益に見える。12月末について、子会社の経理責任者と日程を突き合わせると、12月末の単体の決算は2月中旬に固まり、親会社の会計方針に合わせた組替えは、収益認識の時点の違い1項目だけだった。 会社は12月末をみなし取得日に選び、取得原価の配分は暫定的な会計処理として期末に注記した。当期の連結に入った子会社の営業利益は約3億円である。翌期の業績予想と四半期の決算説明では、既存事業と新規連結の子会社を分けた前期比を一枚目に置いた。 翌期の第1四半期、連結の営業利益は前年同期比で24パーセント増えたが、既存事業は2パーセントの増加で、残りは新規連結の子会社によるものだと同じ資料の中で説明した。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
決めるのは三つ
第一に、基準上の選択肢を、前後の決算日の二つに絞って並べる。 連結財務諸表に関する会計基準の注5は、支配獲得日の前後いずれかの決算日を支配獲得日とみなすことを認めている。前に寄せれば支配を得る前の損益も入り、後ろに寄せれば入らない。期末まで飛ばしたいなら、それは基準の選択肢ではなく重要性の判断であり、監査人と合意する論点になる。
第二に、みなし取得日で動かないものを先に数える。 取得関連費用は発生した事業年度に連結の費用になり、買収資金の利息は実際の借入日から発生し、取得原価の配分の期限は企業結合日から数える前提で進める。後ろに寄せるほど、当期の連結には費用だけが先に入る。
第三に、子会社が親会社の日程で仮決算を締められる最初の決算日を選び、翌期の前期比は買収の効果を分けて示す。 月次の締めの日数、会計方針の差、取得原価の配分の暫定値の三つに対応できるかを確かめる。翌期の予算と四半期の説明は、既存事業と新規連結の子会社を分けて組む。
みなし取得日は、連結の注5が認める前後いずれかの決算日から選ぶ。後ろに寄せるほど当期に入る買収先の損益は減って翌期の前期比が跳ね、前に寄せれば支配を得る前の期間の損益まで当期に入る。取得関連費用、買収資金の利息、取得原価の配分の期限は、どちらを選んでも実際の日付で動く。
選ぶのは、子会社が親会社の日程で仮決算を締められる最初の決算日である。翌期の予算と四半期の説明は、既存事業と新規連結の子会社を分けて組む。



