決算期の残業が常態化している。増員したいが、通年の仕事量では正社員を増やせない。そこで前回、繁忙期だけ派遣を二人入れた。結果、経理課長の残業がむしろ増えた。教える時間と、出てきたものを確認する時間が、自分でやる時間を上回ったからだ。 この経験があると、次の議論は「派遣は効かない」で終わる。だがこの結論は半分しか正しくない。効かなかったのは選んだ人ではなく、渡した仕事のほうだ。そして渡してよい仕事の範囲は、実は制度の側がかなりはっきり線を引いている。
「教えた分が消える」のは、制度がそう作られているから
前回の派遣で忙しくなった会社の話を聞くと、共通する不満が出てくる。せっかく仕込んだ人が、翌年は来ない。だから毎年ゼロから教え直しになる。
これは派遣元の都合ではなく、法律の建て付けである。労働者派遣法第26条第6項は、紹介予定派遣を除き、派遣先が労働者派遣契約の締結に際して派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないよう努めなければならないとしている。事前の面接や履歴書の事前送付、そして「前回のあの方でお願いします」という指名は、この規定が抑えようとしている行為に当たる。
つまり、同じ人が二年続けて来ることを制度は前提にしていない。 前提にしていないものを前提にして設計すれば、毎年裏切られる。
ここから設計の方向が決まる。教育コストを減らす方向ではなく、教育コストが小さい仕事だけを渡す方向である。手順書を読めばその日から結果が一致する仕事なら、毎年入れ替わっても痛くない。逆に、社内の経緯を知らないと判断できない仕事は、何年やっても外に出せない。手順書の作り方そのものが、この線引きに直結する(経理の手順書(決算マニュアル)の書き方:使われる手順書と死蔵される手順書の差)。
制度が引いた線は、実務の線とほぼ同じ
短期の受け入れについて、制度はさらに具体的な線を引いている。
労働者派遣法第35条の4第1項は、派遣元事業主に対し、日雇労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者)についての労働者派遣を原則として禁じている。例外は二つで、一つが政令で定める業務、もう一つが政令で定める場合である。
政令で定める業務は、労働者派遣法施行令第4条第1項に列挙されている。経理に関係するのは、第3号の電子計算機、タイプライター又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務、第6号の文書・磁気テープ等のファイリングに係る分類の作成またはファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る)、第8号の貸借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務、第9号の外国貿易その他の対外取引に関する文書または国内取引に係る契約書等の作成の業務である。
注目すべきは、列挙が「作成」と「処理」と「操作」で書かれていることだ。 財務に関する書類の作成。財務の処理。事務用機器の操作。折衝、判断、見積り、承認といった語は一つも出てこない。制度が短期の受け入れに適すると認めた範囲は、手続きが確定した作業に限られている。
政令で定める場合のほうは、施行令第4条第2項が定めており、派遣元が安全衛生その他の雇用管理上必要な措置を講じていることを前提に、当該日雇労働者が60歳以上である場合、学校教育法の学校の学生または生徒である場合、そして本人および世帯の他の世帯員の収入が厚生労働省令で定める額以上である場合を挙げる。こちらは人の属性で切っており、業務の性質とは関係しない。
切り出せるかどうかは、二つの軸で決まる
制度の線を実務に落とすと、経理の工程は二つの軸で仕分けできる。手続きの確定度と、社内の経緯への依存度である。
右上が最も厄介だ。作業としては単純に見えるので、つい渡してしまう。だが経費精算の差戻し一つでも、どの部門長には電話で言うべきか、どの案件は事業部の事情で例外になっているか、といった知識がないと止まる。止まった案件が経理課長のところへ戻ってくる。教える時間が回収できないのは、この象限に仕事を渡したときである。
左下も判断を誤りやすい。難易度が高いので外部の専門家に頼みたくなるが、ここは社内の人が育つ場所でもある。全部を外へ出すと、三年後に社内で見積りを組める人がいなくなる。
直前には呼べない
もう一つ、実務の設計を縛る規定がある。派遣を受け入れる側の準備義務だ。
労働者派遣法第26条第7項は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者に対し、労働者派遣契約の締結に際してあらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、派遣元事業主に対して、派遣労働者が従事する業務ごとに比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならないと定める。比較対象労働者とは、同条第8項により、派遣先に雇用される通常の労働者で、職務の内容および配置の変更の範囲が派遣労働者と同一と見込まれる者等をいう。
そして同条第9項が効く。派遣元事業主は、この情報の提供がないときは、その業務に係る労働者派遣契約を締結してはならない。待遇情報を整理して渡すまで、契約そのものが成立しない。 さらに同条第10項は、情報に変更があったときの遅滞なき提供も求めている。
この工程は、人事部門の作業である。経理が「来月から二人お願いします」と言って翌週に人が来る、という段取りは制度上成り立たない。決算期の三か月前には、対象業務を確定させ、比較対象労働者を特定し、その待遇情報を整理する必要がある。
裏を返せば、繁忙期対応の派遣は前倒しの計画がないと使えない。 前倒しで計画するなら、そのときに渡す仕事の切り出しと手順書の整備も同時にできる。使えないのではなく、直前に思いついても使えないというだけだ。作業の山そのものを崩す設計と併せて検討したい(決算業務の繁閑差をならす:月初集中を期中に分散させる業務平準化)。
毎年繰り返すと、期間制限の側に入る
繁忙期対応を数年続けると、別の論点が出てくる。期間制限だ。
労働者派遣法第40条の2第1項は、派遣先が、その事業所その他派遣就業の場所ごとの業務について、派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならないとし、同条第2項は派遣可能期間を3年としている。同条第3項以下は延長の手続きを定め、第4項は、延長しようとするときに意見聴取期間に過半数労働組合等の意見を聴かなければならないとする。個人の側にも制限がある。同法第35条の3は、派遣元事業主に対し、派遣先の事業所その他派遣就業の場所における組織単位ごとの業務について、3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣を行ってはならないと定める。
繁忙期だけの受け入れが常に3年に当たるわけではない。第40条の2第1項各号は除外を置いており、第1号は無期雇用派遣労働者に係る労働者派遣、第2号は雇用の機会の確保が特に困難である派遣労働者であってその雇用の継続等を図る必要があると認められるものとして厚生労働省令で定める者に係る労働者派遣、第3号イは事業の開始・転換・拡大・縮小または廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているもの、第3号ロは、その業務が一箇月間に行われる日数が、派遣先に雇用される通常の労働者の一箇月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ厚生労働大臣の定める日数以下である業務、第4号は産前産後休業および育児休業の代替、第5号は介護休業の代替である。
第3号ロが、決算期対応の設計に直接効く。 月の勤務日数が通常の労働者より相当程度少なく、大臣が定める日数以下に収まる業務であれば、期間制限の対象外になる。逆に言えば、繁忙期対応と称して実質的にフルタイムで通年に近い受け入れをしていれば、除外には当たらない。
この判定を意識しないまま「毎年恒例」で受け入れを続けている会社は、いつの間にか恒常業務を派遣で回している状態になっている。そのとき問うべきは制度適合だけではない。恒常的に必要な工数なら、それは採用の問題である。 機能別の必要工数から積み上げて人数を決める話に戻る(経理組織の最適人数と機能配置 月次・連結・税務をどう分担するか)。
請負に逃がすと、もっと重い
派遣の手続きが面倒だという理由で、会計事務所や外部業者と業務委託契約を結び、来てもらった人を自社の席に座らせて指示を出す。この形は、最も重い結果を招きうる。
労働者派遣法第40条の6第1項は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が同項各号のいずれかに該当する行為を行った場合に、その時点において、その者から当該派遣労働者に対し、その時点における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなすと定めている。第5号は「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」である。同条第2項により、みなされた申込みは行為が終了した日から一年を経過する日まで撤回できない。
ただし書きはある。同条第1項ただし書は、その行った行為が各号のいずれかに該当することを知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなかったときは適用しないとしている。だが「面倒だから請負にした」という経緯が社内に残っていれば、この免責は使えない。
契約の形式ではなく、実態で判定される。誰が作業の順序と方法を決め、誰が日々の指示を出し、誰が労働時間を管理しているか。経理の繁忙期対応でこの線を越えやすいのは、席が同じで、締めの進捗を毎日確認するからである。 業務委託にするなら、成果物の単位で切り、進捗管理も成果物の受渡しで行う。それができない工程は、最初から派遣で受け入れるほうが安全で、結果として安い。
工程ごとに、渡せるかどうかを先に書く
線引きを、経理の実際の工程に当てるとこうなる。
| 工程 | 外から入れて効くか | 理由 |
|---|---|---|
| 証憑と伝票の突合、経費の領収書チェック | 効く | 判定基準が規程に書けており、結果が一致する |
| 仕訳の入力、支払データの作成 | 効く | 手順が確定しており、承認は社内に残せる |
| 固定資産台帳と現物・登記の照合 | 効く | 突合の対象が外部にあり、社内の経緯を必要としない |
| 残高確認状の発送と回収の進捗管理 | 効く | 定型の事務で、回答の評価だけ社内に残せばよい |
| 経費精算の差戻し、未払計上の督促 | 効かない | 誰にどう言えば動くかが社内の経緯に依存する |
| 部門への実績照会、予算差異の聞き取り | 効かない | 相手の事情を知らないと質問が成立しない |
| 税効果のスケジューリング、注記データの組成 | 出さない | 判断を含み、かつ社内で人を育てるべき工程 |
| 引当金の水準、収益認識の判断、開示の記載 | 出さない | 会社の意思決定であり、切り出せる形をしていない |
この表を作るときの注意点が一つある。上から四行の作業が、実は自社の繁忙期の残業のうち何割を占めているかを、先に実測すること。 測らずに派遣を入れると、渡せる仕事が思ったより少なく、余った時間に右上の仕事を渡してしまう。前回失敗した会社は、たいていこの順序で失敗している。
入れる前に決める三つ
繁忙期の増員を検討するとき、決めるべきことは人数ではない。三つある。
第一に、渡す工程を時間で測る。手順書だけで結果が一致する工程が、繁忙期の作業時間の何割を占めるか。ここを測らずに人数から入ると、余った時間に判断や調整の仕事が流れ込み、教える手間が回収できなくなる。
第二に、準備の期日を逆算する。労働者派遣法第26条第7項と第9項により、比較対象労働者の待遇情報を整理して提供するまで契約は成立しない。人事の作業を含めて、決算期の三か月前には動き出す。直前に思いついた増員は、制度上そもそも間に合わない。
第三に、教育コストを毎年発生する固定費として計上する。同法第26条第6項が派遣労働者を特定することを目的とする行為を抑えている以上、同じ人が来る前提は置けない。毎年ゼロから立ち上がる前提で手順書を整え、立ち上げに要する日数を計画に織り込む。
そして、この三つを検討する過程で必ず気づくことがある。渡せる工程が全体の三割しかないという事実は、外から人を入れる話ではなく、残り七割が特定の人にしか回せない状態になっているという話である。繁忙期の増員は、その構造を一時的に覆い隠す。覆い隠したまま数年が過ぎると、覆いを外せなくなる(属人化した決算を組織知に変える 担当者が辞めても締まる引き継ぎ設計)。



