四月に決算体制表を作るとき、経理部長の手は同じところで止まる。時短勤務の二人と、来月復職する一人。この三人をどこに置くか。結局、月次の定型処理と証憑整理に寄せて、連結と開示は残りのメンバーで回すことになる。表としては成立している。ただ、この配置を三年続けた部署から、時短でない中堅のほうが先に辞めていく。山が動いていないからである。人だけが入れ替わっている。

POINT
制度の側は、繁忙期を例外扱いする運用をすでに閉じにかかっている。育児・介護休業法の所定外労働の制限は、2025年4月1日施行の改正で、請求できる労働者の範囲が3歳未満の子を養育する労働者から、小学校就学前の子を養育する労働者へ拡大した。 同法第16条の8第1項は、請求があったときは所定労働時間を超えて労働させてはならないと定めたうえで、「ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない。」 という但書を置く。但書は残っているが、対象年齢が就学前まで伸びた以上、これを毎期の決算月に持ち出す会社は、毎年同じ主張を繰り返すことになる。同じ日から、子の看護休暇は子の看護等休暇に名称が変わり、対象となる子の範囲が小学校就学の始期に達するまでから小学校3年生修了までに延び、取得事由に感染症に伴う学級閉鎖等入園(入学)式、卒園式が加わった。労使協定で除外できた「継続雇用期間6か月未満」の仕組みも廃止されている。取得可能日数は1年に5日、子が2人以上の場合は10日で、変更はない。さらに2025年10月1日からは、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者について、始業時刻等の変更、テレワーク等(月10日以上)、保育施設の設置運営等、養育両立支援休暇の付与(年10日以上)、短時間勤務制度の5つから2つ以上を選択して講ずる義務が始まり、労働者はその中から1つを選べる。そして個別の意向聴取の項目には、勤務時間帯・勤務地・両立支援制度等の利用期間と並んで、「仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)」 が置かれている。業務量の調整は、配慮すべき事項として法の側に書かれている。

「決算期だけは外す」が、内側から崩れる

繁忙期に時間制約のある人を外す配置には、短期の合理性がある。締め日は動かない。東京証券取引所の決算短信・四半期決算短信作成要領等は、決算期末後45日以内の開示が適当であり、期末が月末である場合は決算期末後30日以内、すなわち翌月内の開示がより望ましいとしている。外部の締切は交渉できない。だから回せる人に寄せる。ここまでは誰も間違っていない。

崩れるのは二年目からである。寄せられた側は、毎期の決算月に固定的な残業を負う。負っている本人が納得していても、周囲は配置の理由を「制約がないから」と読む。制約がないことが、追加負荷の根拠として運用されている状態になる。 これは制約を持つ側にとっても居心地が悪い。自分の分が誰かの残業に変換されていることは、体制表を見れば分かるからである。

そして採用で効いてくる。経理の中途採用の面接では、就業規則の制度説明と、決算月の実際の運用が別々に聞かれる。制度が整っていることと、繁忙期に制度が生きていることは、候補者の中で完全に分かれた質問になっている。前者だけ答えられる会社は、後者を答えられる会社に競り負ける(経理の中途採用が取れない会社の見直し 求人票と選考プロセスの実務修正)。

三段に格付けるのは、人ではなくタスクである

配置を先に考えるから行き詰まる。先に格付けるのは決算タスクのほうで、軸は難易度でも重要度でもなく、締切の性質である。

第一段は締め日必達。外部の期限に直結し、遅れがそのまま開示やスケジュール全体の遅延になるもの。連結パッケージの回収期限、開示ドラフトの監査法人への提出、取締役会への資料提出期限。日付が固定されている。

第二段は数日の遅れが吸収できるもの。社内向けの分析資料、部門別の実績報告、前月比較のコメント。遅れると誰かが不便だが、外部の期限には当たらない。実務では第一段と混ざって扱われていることが多く、切り出すだけで締め日周辺の負荷が下がる。

第三段は期中に前倒しできるもの。ここが本丸である。決算月に集中している作業の少なくない部分は、その月にやる技術的な必然がない。引当金の算定根拠となる基礎データの収集、注記の定性記載のうち期中の事象で確定している部分、除却予定資産の洗い出し、税効果のスケジューリング表の前期からの更新。やる時期が決算月なのは、締めのついでに片づける習慣がそうさせているだけである。

格付けができれば、配置はほぼ自動的に決まる。時間制約のある人には第三段を厚く寄せ、第一段は締め日周辺に稼働を置ける人へ渡す。寄せているのは仕事量ではなく、時間の自由度である。 第三段の仕事は軽くない。むしろ判断が要る。だから「軽い仕事を回されている」という読まれ方をしない。

繁忙期の山を動かすには、決算月の内側だけを見ていても足りない。年度の四つの局面で別のことをする。
① 期首に格付ける
決算タスクを締め日必達・数日遅れ可・期中前倒し可の三段に格付ける。格付けの単位は担当者でなくタスク
② 期中に前倒す
前倒し可の工程を月次の工程表へ日付で割り付ける。受け皿の行を立てない前倒しは、忙しい月から順に消える
山を寄せない年間サイクル
④ 期末に検証する
前倒せた工数と決算月に残った残業を突き合わせる。減っていない工程は翌期の格付けをやり直す
③ 決算月は第一段に寄せる
締め日必達の工程へ稼働を集中させる。第二段の遅延は許容できる日数を事前に決めておく
前倒しを個人の努力に任せると、いちばん忙しい月に真っ先に消える。工程表に日付で載せる。

読めない休みは、人でなく工程で吸収する

時短勤務は事前に分かる。難しいのは読めないほうである。子の看護等休暇の取得事由に感染症に伴う学級閉鎖等が加わったことの意味は、日数が増えたことではない。発生が前日にしか分からない休みが、制度として決算日程に入ってきたということである。

もう一つ、暦が悪い。取得事由に加わった入園(入学)式、卒園式は、大半が三月下旬から四月上旬に集中する。三月決算の会社にとって、これは期末の締めと本決算の立ち上がりに正面から重なる時期である。対象となる子が小学校3年生修了までに延びたため、該当する社員の数も従来より増える。制度が想定している取得日と、決算工程が最も細っている日が、構造的に重なっている。

読めない休みは、代替要員では吸収できない。前日に呼べる人はいないからである。吸収先は工程のほうに作る。三つある。第一に、締め日必達の工程について、同じ作業を実行できる人を二人にしておく。 全工程は無理でも、第一段に限れば本数は多くない。第二に、承認と実行の分離だけは崩さないという前提で、承認者の代行者を事前に指名しておく。当日に決める運用は必ず滞る。第三に、引き継ぎの単位を人ではなく工程で書く。 「連結担当」ではなく「在外子会社の換算差額の検証」まで割れば、半日でも渡せる(決算の属人化を解く:引き継ぎ可能な経理にする標準化の手順)。

欠員が出た月の縮退運転とは別の設計である。縮退は突発事態への備えで、こちらは常態への備えになる。毎期起きることを、毎期例外として処理しない。

五つの措置から二つを選ぶとき、決算工程への効き方が違う

2025年10月1日から義務化された措置は、5つのうち2つ以上を会社が選び、労働者がその中から1つを選ぶ形になっている。選定の場に経理が出ていかない会社が多いが、選ぶ組み合わせによって決算工程への効き方はまったく違う。

短時間勤務制度は、一日の所定労働時間そのものが減る。総量が減るので、工程の再配分が要る。一方、テレワーク等(月10日以上)は総量が変わらない。減るのは通勤と、席にいることを前提にした割り込みである。締め日周辺の稼働量を落とさずに制約を吸収できるのはこちらで、決算工程との相性は明確に良い。 養育両立支援休暇の付与(年10日以上)は年10日が丸ごと抜けうる枠で、しかもテレワーク等と同じく原則として時間単位で取得可とする必要がある。時間単位で抜けるということは、締め日の一日が細切れになりうるということである。始業時刻等の変更は、フレックスタイム制または時差出勤で、一日の所定労働時間は変えない。

どれが正しいという話ではない。経理部門にとって痛みの出方が違うのに、選定に経理が参加していないことのほうが問題である。 措置を選ぶ際には過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があるため、社内の手続としては必ず一度テーブルに載る。そこが参加できる唯一の機会になる。

意向聴取を、配置の設計と同じ会議で扱う

2025年10月1日施行の個別の意向聴取は、人事の手続として処理されがちである。時期は妊娠・出産等の申出時と、子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間。聴取内容は勤務時間帯、勤務地、両立支援制度等の利用期間、そして仕事と育児の両立に資する就業の条件として業務量と労働条件の見直しが挙げられている。

問題は、この四つ目を人事が単独で受け止められないことである。業務量を決めているのは経理部門で、決算工程の設計そのものだからである。 人事が聴取し、配慮の要否を人事が判断し、経理には結果だけ伝わる運用にすると、聴取された本人からは「聞かれたが何も変わらない」と見える。制度が形式化する典型的な経路である。

収め方は単純で、聴取の結果を、翌期の決算体制表を作る会議の入力にする。 時期も合っている。三月決算なら、期初の体制設計と年度の意向聴取のタイミングを揃えられる。あわせて、育児休業取得状況の公表義務が2025年4月1日から従業員数1,000人超の企業から300人超の企業に拡大していることも、経理部門として無関係ではない。公表される数字は、採用の場面で必ず見られる。

時短勤務そのものの経済条件も変わっている。2025年4月1日に創設された育児時短就業給付金は、2歳に満たない子を養育するために所定労働時間を短縮して就業し、賃金が低下するなど一定の要件を満たす場合に、育児時短就業中の各月に支払われた賃金額の**10%**を支給する。支給額と各月に支払われた賃金額の合計が育児時短就業開始時の賃金額を超えないよう支給率を調整する仕組みで、支給限度額は484,121円、育児時短就業開始時の賃金月額は上限が496,200円、下限が96,090円、支給額が2,562円を超えない場合は支給されない。これらの額は2027年7月31日までのもので、毎月勤労統計の平均定期給与額により毎年8月1日に改定される。時短を選ぶ側の手取りの落ち込みが小さくなる方向に制度が動いている。選ぶ人は増える前提で組むほうが安全である。

現場では
売上高620億円の食品メーカーで、経理部の十四名のうち四名が時短勤務、一名が育児休業中という年度に入った。前年度の決算月の残業実績を見ると、部の総残業時間の六割が三名に集中している。うち二名は入社五年目と七年目で、翌年度の異動希望調査に他部門を書いていた。経理部長が着手したのは要員の増加要求ではなく、決算タスクの棚卸しである。決算スケジュール表に載っている工程は九十七本あった。これを締め日必達・数日遅れ可・期中前倒し可の三段に分けたところ、締め日必達が三十一本、数日遅れ可が二十二本、残る四十四本が期中に前倒せると判定された。四十四本のうち三十本以上は、決算月にやる技術的な理由が一つも出てこなかった。 引当金の基礎データ収集、除却予定資産の現物確認、税効果のスケジューリング表の更新、注記の定性記載のうち期中に確定している部分。前倒しの受け皿として、月次の工程表に「決算前倒し枠」という行を毎月立て、四十四本を月ごとに割り付けた。受け皿を作らずに前倒しを指示した年度もあったが、そのときは忙しい月から順に消えていたという。二つ目に手を入れたのが、読めない休みの吸収である。締め日必達の三十一本について、実行できる人が一人しかいない工程を洗い出したところ十一本あった。全部は無理なので、締め日の初日から三日目までに置かれている六本に絞り、二人目を育てるのに四か月かけている。承認の代行者は、決算体制表と同じ紙の上に事前に名前を書いた。三つ目は会議の統合で、人事が実施していた個別の意向聴取の結果を、翌期の決算体制を決める部内会議に持ち込む形に変えた。聴取で最も多かったのは勤務時間帯でも勤務地でもなく、業務量の見通しを早く知りたいという要望だった。 二年目の決算月の残業は、部の総時間で前年度比32%減。三名への集中そのものは解消していないが、上位三名の顔ぶれが変わり、残業の中身が締め日必達の工程に寄っている。異動希望を出していた二名は残った。経理部長は、増員を要求しなかったことが正しかったとは言っていない。要求する前に、決算月にやる必要のない四十四本を数えていなかったことのほうが問題だった、と言っている。

決めるのは三つ

第一に、決算タスクを締切の性質で三段に格付ける。 締め日必達、数日遅れ可、期中前倒し可。格付けの単位は担当者ではなくタスクで、百本規模の工程表でも半日で分かれる。前倒し可と判定したものは、月次の工程表に受け皿の行を立てて日付で割り付ける。割り付け先のない前倒しは、忙しい月から順に消える。

第二に、時間制約のある人へ寄せるのは仕事量ではなく、時間の自由度である。 前倒し可の工程を厚く配分し、締め日必達は稼働を締め日周辺に置ける人へ渡す。前倒し可の工程は判断を伴うものが多いため、軽い仕事を回されているという読まれ方にならない。逆に、月次の定型処理だけを寄せる配置は、二年で本人と周囲の両方から見抜かれる。

第三に、読めない休みは人でなく工程で吸収する。 子の看護等休暇の取得事由に学級閉鎖等が加わり、入園式・卒園式が加わったことで、前日にしか分からない休みと、三月下旬から四月上旬に集中する休みが制度として決算日程に入った。締め日必達の工程のうち実行者が一人しかいないものを数え、締め日の初日から三日目に置かれているものから二人目を作る。承認の代行者は当日ではなく事前に指名する。

そのうえで、意向聴取の結果を翌期の体制設計の入力にする。聴取項目には業務量の調整が入っており、業務量を決めているのは人事ではなく経理部門である。 聞いた結果が工程表に反映されない年が一度あれば、次の年の聴取は儀式になる。

まとめ
時間制約のある人を繁忙期の配置から外す運用は短期には合理的だが、二年目から寄せられた側の離職として跳ね返り、採用面接では制度の説明と決算月の実態が別々に問われるため競り負ける。制度の側も繁忙期の例外扱いを閉じにかかっている。2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法により、所定外労働の制限を請求できる労働者の範囲は3歳未満の子を養育する労働者から小学校就学前の子を養育する労働者へ拡大した。同法第16条の8第1項は請求があったときに所定労働時間を超えて労働させてはならないと定め、事業の正常な運営を妨げる場合はこの限りでないという但書を置くが、対象年齢が就学前まで伸びた以上、毎期の決算月にこれを持ち出す運用は毎年同じ主張の反復になる。同日から子の看護休暇は子の看護等休暇に名称が変わり、対象となる子の範囲が小学校就学の始期に達するまでから小学校3年生修了までに延び、取得事由に感染症に伴う学級閉鎖等と入園(入学)式、卒園式が加わり、労使協定で除外できた継続雇用期間6か月未満の仕組みが廃止された。取得可能日数は1年に5日、子が2人以上の場合10日で変更はない。2025年10月1日からは、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者について、始業時刻等の変更、テレワーク等(月10日以上)、保育施設の設置運営等、養育両立支援休暇の付与(年10日以上)、短時間勤務制度の5つから2つ以上を選択して講ずる義務が始まり、労働者はその中から1つを選べる。テレワーク等と養育両立支援休暇は原則として時間単位で取得可とする必要がある。個別の意向聴取は妊娠・出産等の申出時と子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間に行い、聴取内容には勤務時間帯、勤務地、両立支援制度等の利用期間に加えて、仕事と育児の両立に資する就業の条件として業務量、労働条件の見直し等が挙げられている。業務量の調整は配慮すべき事項として法の側に書かれており、業務量を決めているのは人事ではなく経理部門である。育児休業取得状況の公表義務は従業員数1,000人超の企業から300人超の企業へ拡大した。経済条件も動いており、2025年4月1日創設の育児時短就業給付金は、2歳に満たない子を養育するために所定労働時間を短縮して就業し賃金が低下するなど一定の要件を満たす場合に各月に支払われた賃金額の10%を支給し、支給額と賃金の合計が育児時短就業開始時の賃金額を超えないよう支給率を調整する。支給限度額は484,121円、育児時短就業開始時の賃金月額は上限496,200円・下限96,090円、支給額が2,562円を超えない場合は不支給で、これらの額は2027年7月31日までのものとして毎年8月1日に改定される。外部の締切は動かない。東京証券取引所の決算短信・四半期決算短信作成要領等は決算期末後45日以内の開示が適当であり、期末が月末である場合は30日以内すなわち翌月内の開示がより望ましいとしている。動かせるのは内部の工程だけであり、決算タスクを締め日必達・数日遅れ可・期中前倒し可の三段に格付け、前倒し可の工程には月次の工程表に受け皿の行を立てて日付で割り付ける。時間制約のある人へ寄せるのは仕事量ではなく時間の自由度で、前倒し可の工程は判断を伴うため軽い仕事という読まれ方にならない。読めない休みは代替要員では吸収できないので工程側に吸収先を作る。締め日必達の工程で実行者が一人しかいないものを数え、締め日の初日から三日目に置かれているものから二人目を育て、承認の代行者は事前に指名し、引き継ぎの単位は担当ではなく工程で書く。欠員月の縮退運転が突発事態への備えであるのに対し、これは常態への備えであり、毎期起きることを毎期例外として処理しないことが設計の骨格になる。意向聴取の結果は翌期の決算体制表を作る会議の入力とし、人事の手続として閉じさせない。

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