経理の人数は何人が正解か。この問いに「売上◯◯億なら◯人」という早見表で答えてはいけない。同じ売上でも、海外子会社が5社あるのか1社もないのか、毎月数千枚の請求書が紙で来るのか電子で来るのかで、必要な人手はまるで違う。組織図は売上ではなく、月次決算・連結・税務・債権債務・FP&A(経営企画寄りの計数分析)という機能ごとに必要な工数を積み上げて初めて決まる。本稿では、機能別に「兼任で回るうちはどこまでか」「ここを超えたら専任を置くべきか」という境目を、現場の判断軸として示す。
「売上規模で人数」をやめ、機能別に工数を積む
経理の増員稟議でいちばん危ういのが、「同業他社は売上50億で経理5人らしい」という横並びの根拠だ。これは当たっているときもあるが、外れるときは大きく外れる。理由は単純で、経理の仕事量を決めるのは売上の絶対額ではなく、取引の「件数」と「複雑さ」だからだ。
実務で人数を見積もるなら、機能を5つに割り、それぞれの工数を月単位で積み上げる。この5機能の工数を足し合わせたものが、初めて意味のある「人数」になる。
この5機能は、性質がまったく違う。月次決算は毎月発生する固定的な負荷で会社の心臓部、連結決算は子会社があるかどうかでゼロにも巨大にもなる、税務(法人税・消費税・申告・税効果)は年次中心だが近年は消費税まわりの月次負荷が増えた、債権債務(売掛・買掛・経費精算・支払)は取引件数に正比例しいちばん人手を食う、そしてFP&A(予実管理・予算編成・経営報告)は「攻めの経理」でここが薄い会社が驚くほど多い。
この5機能それぞれに、月あたり何人日かかるかをざっくり置く。たとえば月次決算に1人が5営業日、債権債務に常時1.5人、税務に平均0.3人月、といった具合だ。合計が「3.3人月」なら、人数の議論はここから始まる。横並びの早見表ではなく、自社の伝票がどれだけ流れているかを数えるところから始めるのが、唯一まともな積み上げ方だ。
月次決算と債権債務 ―― 件数で決まる「土台の工数」
土台になるのが月次決算と債権債務で、この二つは「件数」が支配する。
月次決算は、規模が小さくても完全にはゼロにできない固定費的な負荷だ。仕訳の量が少なくても、締め・計上・残高チェック・月次推移の確認という一連の作業は毎月必ず回ってくる。むしろ怖いのは属人化で、「月次が締まるのはAさんがいるときだけ」という状態は、人数が足りているかどうか以前の問題として手を打つべきリスクになる。
債権債務は、経理のなかで取引件数にいちばん素直に比例する。売掛・買掛・経費精算・支払処理は、1件あたりの作業時間に件数を掛ければ必要工数がほぼ読める、見積もりやすい領域でもある。ここで効くのが、近年の二つの制度改正だ。
出典は国税庁の制度に沿った弥生の解説など各社の整理による。これらは1件あたりの確認・保存の手間を確実に増やした。だからこそ、債権債務は増員より自動化の効きが最も大きい機能だと言える。
逆にここを人海戦術で支えている会社は、件数の増加とともに静かに崩れていく。土台の工数を圧縮できるかどうかが、上に乗る連結・税務・FP&Aに人を回せるかを左右する。
連結と税務 ―― 兼任が破綻する「境目」と外出し判断
土台の上に乗る連結と税務は、性質がまったく違う。ここに兼任の限界線がある。判断の軸そのものが、連結と税務では別物だ。
連結決算は、「単独で人を置く」境目が比較的はっきりしている機能だ。子会社が1社もなければ工数はゼロ、しかし子会社ができた瞬間に、子会社との残高や取引の消去、債権債務の照合、未実現利益の消去といった連結特有の作業が一気に立ち上がる。そして上場企業や、会社法上の大会社(資本金5億円以上、または負債合計200億円以上)で有価証券報告書を提出する企業には連結財務諸表の作成が求められる(会社法444条の枠組み、freee等の解説)。月次の片手間で連結まで見るのは、子会社が2〜3社を超えたあたりで現実的に破綻する。IPO準備に入った会社、海外子会社を持った会社は、連結を「誰かの兼務」から「専任の担当(少なくとも主担当)」へ切り出すタイミングだと考えてよい。連結は決算期末に負荷が極端に集中するため、平時の薄さに惑わされて専任化を遅らせると、四半期ごとに現場が焼き切れる。
税務は逆に、「内製か外出しか」の線引きで考える機能だ。法人税・消費税の申告、税効果会計といった専門性の高い領域は、年に数回しか発生しないのに高度な知識を要する。ここで判断すべきは人数ではなく、「税理士・会計事務所に任せるか、社内に税務担当を置くか」だ。多くの中堅企業にとって、法人税申告は顧問税理士に外出しし、社内は申告に必要な資料作成と日常の消費税処理に集中するのが合理的なことが多い。
FP&Aと配置設計 ―― 「攻めの経理」を後回しにしない
最後に、最も忘れられがちなのがFP&A(予実管理・予算編成・経営報告)だ。月次・連結・税務・債権債務は「やらないと止まる」守りの仕事なので、人が足りないとまずここから人を奪われる。結果、予実分析や事業部への計数フィードバックといった「攻めの経理」が後回しになり、経理が永遠に伝票処理部門にとどまる。機能別に工数を積むやり方が効くのは、このFP&Aの工数を最初から「ゼロではない一枠」として組織図に書き込めるからだ。守りの合計で人数を決めてしまうと、攻めは構造的に生まれない。
配置設計の順序は、一本の流れにまとめられる。土台の圧縮から始め、浮いた工数を最後にFP&Aへ意図的に振り向ける。
経理の最適人数とは、結局「機能ごとの必要工数の合計」であって、売上の関数ではない。自社の伝票が毎月何枚流れ、子会社が何社あり、税務のどこまでを社内で持つのか。その三つを数えることから、増員すべきか機能を分けるべきかの答えは出てくる。早見表を閉じて、自社の業務量を数えるところから始めてほしい。
- 経理の最適人数は売上の関数ではなく、5機能(月次・連結・税務・債権債務・FP&A)の必要工数の合計。横並びの早見表でなく自社の伝票量を数えて積み上げる。
- 土台は月次と債権債務。債権債務は件数比例だからこそ、増員より自動化(電子受領・AI-OCR・ワークフロー化)が効く。月次は属人化対策(標準化・文書化)が増員より先。
- 連結は「専任を置く境目」=子会社2〜3社を超えると兼任は破綻。IPO・海外子会社が専任化の合図。
- 税務は「内製か外出しか」の境目=申告は顧問税理士へ外出しが基本、連結納税・移転価格が経営課題化してから内製を検討。
- 配置の順序は、①土台を自動化・標準化で圧縮 →②連結を専任化 →③税務は外出し基本 →④浮いた工数をFP&Aへ意図的に回す。守りの合計で人数を決めると攻めは生まれない。



