「連結5年、開示3年、SAP経験あり」。書類は申し分ない。面接での受け答えも滑らかで、業務の流れをよどみなく説明できる。そして入社から三か月、締めが回らない。手順が変わると止まり、判断を求めると「前職ではこうしていました」で終わる。この落差は、面接官の見る目が甘かったから生まれるのではない。職務経歴書には、その人が触れた領域しか書けないからだ。 触れたことと決めたことの差が、そのまま入社後の落差になる。面接は経験の確認をする場ではなく、判断の履歴を掘る場に組み替える必要がある。
「担当していた」は、三つの別の職能を指している
経理の職務経歴書には、担当科目と関与年数が並ぶ。連結、開示、税務、原価、資金。だがこの並びからは、その人がどの深さで関わったのかが読めない。同じ「連結を担当」でも、実態は三段階に分かれる。
作業した人。 与えられた手順で数字を作っていた。パッケージの数字を所定の欄に入れ、消去仕訳を前月と同じ形で起票する。手順があれば速く正確だが、手順にない事態では止まる。
回した人。 期限とタスクを管理し、子会社や事業部門を動かしていた。誰がいつまでに何を出すかを追い、遅れそうな相手に先回りして手を打つ。数字そのものより、締まる状態を作ることに責任を持っていた。
決めた人。 見積りの水準、処理方法の選択、監査法人との論点で結論を出していた。持分法の適用範囲、のれんの償却期間、未実現利益の消去範囲。判断が間違っていれば自分の名前で説明する立場にいた。
この三つは、面接で聞き分けなければ絶対に区別できない。そして必要な人がどれかは、募集する席によって変わる。仕組みが回っている会社で手数が足りないなら「作業した人」で十分に戦力になる。逆に、型を作るところから頼みたい席に「作業した人」を採ると、双方が不幸になる。
質問を「経験」から「判断の履歴」に組み替える
面接でよく出る「連結決算の流れを説明してください」は、ほぼ何も測れない。教科書で答えられるからだ。実務力を測る質問は、必ずその人固有の出来事を引き出す形になっている。
- 直近の決算で、あなたが結論を出した論点を一つ挙げてください。誰と意見が割れましたか
- 月次で概算に置いていた項目はありますか。その閾値は誰が、何を根拠に決めましたか
- 監査法人の指摘で、押し返したことはありますか。何を根拠にしましたか
- 締めが遅れた月の原因を、あなたの言葉で説明してください。翌月に何を変えましたか
- 前任から引き継いだ処理で、変えたものと、変えなかったものを教えてください。変えなかった理由は
- 子会社や事業部門に依頼して、期限を守ってもらうために具体的に何をしましたか
- あなたが辞めた後、後任が最初に困ったのは何だと思いますか
最後の一問が効く。自分の仕事を外から見られる人しか答えられないし、答えの中身に属人化への自覚が出る。「特に困らないはずです、手順書を残したので」と答えた人と、「月末の在庫評価で工場と交渉する部分だと思います」と答えた人では、見えている景色がまるで違う。
二つ目の質問も見立てが効く。月次でどこを概算に置き、どこを実額に寄せるかは、経理として最も判断が問われる場面のひとつだ(月次決算はどこまで正確にすべきか|概算でよい項目と、期末にひっくり返る項目)。「決められていました」と答える人は作業者、「私が決めて上長の承認を取っていました」と答える人は当事者である。どちらが悪いという話ではなく、席に合うかどうかの話だ。
深掘りの作法もひとつだけ。答えが抽象に流れたら、「そのとき最初に見た資料は何ですか」と聞く。実際にやった人は具体の資料名がすぐ出る。やっていない人はここで止まる。
自社がどちらの環境かを、面接の前に決める
見立ての軸をもう一本立てる。候補者が過ごしてきた環境が、整っていたのか壊れていたのかだ。
見抜きにくいのは左下だ。混乱した環境で長く働いてきた人は、職務経歴書上の担当範囲が広くなる。少人数の会社では一人が連結も税務も資金も見るからだ。だが範囲の広さは深さの証明にならない。ここを分けるのが、先ほどの「あなたが結論を出した論点」の質問になる。
そして右上と右下は、どちらも優秀だが向く席が違う。整った環境で判断してきた人は、統制と手続きの中で正しく動く。型がない場所で型を作った人は、前例のない状況で決められる。前者を型のない組織に置くと「まず規程を整えましょう」から始まって半年が過ぎ、後者を統制の厳しい組織に置くと「勝手に変えた」と衝突する。自社がどちらを必要としているかは、面接の前に決めておく(経理組織の最適人数と機能配置 月次・連結・税務をどう分担するか)。
面接で測れないものは、面接で測ろうとしない
判断の履歴を掘っても、実際の手さばきまでは見えない。ここは課題で見るのが早い。
有効なのは、匿名化した試算表か勘定明細を渡して「気になるところを5つ挙げてください」と問うものだ。所要30分。作業者は科目名と金額を読み上げる。当事者は、前月比の異常値、残高の性質と勘定科目のずれ、あるはずの科目がないこと、期ズレの疑いを指摘する。同じ紙を見て何が見えるかで、深さははっきり割れる。
もうひとつは状況設定型で、「決算が3日遅れている。何から手を付けますか」と問う。回答の構造を見る。原因を特定してから動く人か、とりあえず手を動かす人か。他部門を巻き込む発想が出るか。外部の期限から逆算するか。正解を求めているのではなく、思考の順序を見ている。
注意点がひとつ。自社の実務をそのまま課題として無償でやらせるのは避ける。 汎用の匿名データで、時間を区切って行う。候補者の時間を使う以上、こちらもフィードバックを返す。この一往復が、辞退を減らす。
面接で聞いてはいけないこと
実務力を測ろうとして、境界を越える質問が出ることがある。ここは明確な線がある。
厚生労働省が示す公正な採用選考の考え方では、応募者本人に責任のない事項(本籍・出生地、家族の職業や続柄、家族の収入や資産、住宅状況、生活環境)や、本来自由であるべき事項(宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、購読新聞や愛読書)を採用の基準にしてはならないとされている。個人情報の取扱いの面でも、職業安定法および平成11年労働省告示第141号により、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報の収集は原則として禁じられている。エントリーシートに書かせることも、面接で口頭で聞くことも同じ扱いになる。
もうひとつ、法令以前の話として「圧迫して耐性を見る」という設計は捨てたほうがよい。測れるのは圧迫への反応であって、決算期の負荷に耐えられるかではない。そして、その日の面接官の態度は候補者から見た会社そのものになる。経理の中途採用市場は狭い。評判は残る(経理の中途採用が取れない会社の見直し 求人票と選考プロセスの実務修正)。
面接で語った役割と、明示する条件を揃える
見立てが正しくても、入口で期待がずれれば同じ結果になる。オファーの前に、面接で語った役割と、書面で明示する労働条件の範囲を突き合わせる。
2024年4月から労働条件明示のルールが変わり、すべての労働契約の締結時に、就業場所と従事すべき業務について「雇入れ直後」の内容に加えて「変更の範囲」の明示が必要になった。ここで「経理全般」とだけ書くと、面接では連結の専任として語ったのに、書面上は経理のどこへでも動かせる形になる。逆に狭く書きすぎれば、将来の配置転換で揉める。面接で語った役割を、この欄と整合させる。
入社後の立ち上がりも同じ発想で設計する。何を、いつまでに、どの水準で任せるのかを最初の90日で握っておくと、期待外れという評価そのものが起きにくくなる(経理未経験者の育て方|他部署からの異動者を90日で戦力にする配置設計)。
期待外れは、面接の精度でなく評価軸の不在で起きる
採用がうまくいかないとき、面接の技術を上げようとするのは順序が違う。四人続けて外したのは、面接官が下手だったからではなく、何を採ろうとしているかが決まっていなかったからだ。
自社が必要としているのは、整った仕組みの中で速く正確に回す人か、型がないところで決められる人か。この一行が決まっていれば、質問は自然に定まる。決まっていなければ、どれだけ質問を工夫しても、面接官ごとに違う人を高く評価する。書類の見栄えは、その空白を埋める最も手軽な代用品になる。だから書類が良い人が通り、入社後に落差が出る。



