月初の経営会議で、経理部長が前月の実績を報告する。売上高は予算比98パーセント、営業利益は予算比1.2億円の未達で、主な要因は原材料の価格の上昇と、第二工場の稼働率の低下です。 資料は12ページあり、事業部別、製品群別、費目別の差異が丁寧に並んでいる。報告が終わると、社長が言う。それで、どうするの。 事業部から対策を聞いているところです、と経理部長は答え、議題は次の事業部長の報告に移る。会議の後、社長はCFOに、経理部長は数字には強いが会議では存在感がない、と漏らした。CFOは、経理部長の性格の問題だとは思わなかった。 12ページの資料のどこにも、この会議で何を決めてほしいかが書かれていなかったからである。

POINT
経営会議で経理の報告が読み上げで終わる原因は、個人の話し方より先に、報告の型にあることが多い。月次の報告の多くは、予算と実績と前年の差を並べ、その差を要因に分けて説明する形で作られている。 この形は、過去に何が起きたかを正確に伝えるのには向いているが、会議の出席者が次に何を決めるかを書く欄がない。 経理部長が会議で存在感を出すには、二つの技能が要る。一つは、報告を決めることで終わる型で組み立てる技能。もう一つは、会議の前に事業部長と論点をすり合わせておく事前調整の技能である。この二つは性質が違い、一方ができても他方ができるとは限らない。 同時に求めると、どちらも身につかないまま、本人の性格の問題として片づけられやすい。

信頼されるのは、差異の説明が上手い人ではない

経営会議で経理の報告が重んじられるかどうかは、差異の分析の精度では決まらない。聞き流される会社の経理の報告は、精度が高いほど長くなり、長いほど決めることが見えなくなる。

社長や事業部長が経営会議で知りたいのは、三つである。数字は計画どおりか。計画からずれているなら、放っておいてよいずれか。放っておけないなら、誰が何を決める必要があるか。 差異の要因の分解は、二つ目の問いに答えるための材料で、それ自体が答えではない。

信頼される経理部長は、報告の最初の1分で、この三つに答える。 営業利益は1.2億円の未達で、そのうち原材料の価格による0.8億円は年度内に続く見込みなので、価格の改定をいつから交渉するかを今日決めてほしい、と言う。差異の説明の上手さより、次に決めることを先に置けるかどうかで、経理部長の発言の重さは決まる(予算未達の差異を数量・単価・構成・タイミングに分解し、翌期の打ち手につなぐ手順)。

報告を、結論、原因、打ち手、決めてほしいことの四つに固定する

一つ目の技能は、報告の型である。報告の1ページ目を、結論、原因、打ち手、決めてほしいことの四つの欄に固定する。 詳細な差異の表は、2ページ目以降に回す。

欄書くこと冒頭の会社の例
結論計画に対してどこにいるか、放っておいてよいか営業利益は予算比1.2億円の未達。年度の着地も同じ幅で下回る見込み
原因差のうち効いている一つか二つ原材料の価格の上昇が0.8億円で、年度内は続く。第二工場の稼働率の低下は0.4億円で、来月には戻る
打ち手取りうる選択肢と、それぞれの数字販売価格の改定なら年0.6億円の回復、代替材への切り替えなら年0.3億円で試作に3か月
決めてほしいことこの会議で誰に何を決めてほしいか販売価格の改定の交渉を来月から始めるかを、営業本部長に今日決めてほしい

この型にすると、読み上げでは埋まらない欄が二つ残る。 打ち手と、決めてほしいことである。原因までは経理の手元の数字で書けるが、打ち手と決めることは、事業部の事情を知らなければ書けない。その欄を埋める準備が、経理部長を事業の議論に引き込む。 型を固定する狙いは、見栄えのよい資料を作ることより、埋めるために必要な仕事を毎月発生させることにある。

原因の欄は、差異の分解の全部を書かない。 金額の大きい順に、効いている一つか二つに絞り、それが一時的か、続くかを書く。続く原因だけが、打ち手を要する。分解の全部は2ページ目以降に置けばよい(売上増減を価格・数量・ミックスに分解する手順と、交差項の扱いで変わる差異)。

打ち手の欄は、経理が決めるのではなく、選択肢と数字で置く。 価格の改定を決めるのは営業で、代替材を決めるのは製造である。経理部長がそれを決めようとすると、事業部長の領分に踏み込むことになり、反発を招く。経理の役割は、選択肢ごとの金額の効果と、効き始める時期を並べて、決める人が比べられるようにすることである。

会議の前に論点をすり合わせる事前調整は、別の技能である

二つ目の技能は、事前調整である。型で打ち手と決めてほしいことの欄を作っても、それを会議の場で初めて出すと、事業部長は身構える。 自分の部門の問題を、経理から経営会議で指摘されたと受け取るからである。

事前調整は、会議の3営業日前に、関係する事業部長と30分ずつ話す形で行う。 合意しておくことは三つある。一つ目は数字の事実である。 未達の金額と、原因の内訳の数字に、事業部長の側の認識とずれがないか。ずれていれば、会議の前に直す。二つ目は解釈の違いである。 原材料の価格の上昇が続くと経理は見ていても、事業部長は来期には下がると見ているかもしれない。違いが残るなら、両方の見方を資料に書く。三つ目は、会議で決めることの一文である。 誰に何を決めてほしいかを、事業部長と合意した言葉で書く。

事前調整は、報告の型とは性質が違う。 型は一人で机の上で練習できるが、事前調整は相手がいて初めて練習になる。数字に強い経理部長ほど、正しい数字を出せば相手は納得するはずだと考え、事前調整を根回しとして避けることがある。 だが、事前調整で確認するのは、事実と解釈の違いと決めることの三つだけである。結論は会議で議論する余地として残る。

事前調整の時間を作るには、月次の締めと経営会議の間に日数が要る。締めが遅く、会議の前日に数字が固まる会社では、事前調整の時間そのものがない。 管理会計の数字を何日に凍結するかを決め、会議までの日数を先に確保する(管理会計の数字はいつ凍結すべきか、経営会議の後で実績が書き換わる問題の版管理)。

二つの技能を、分けて順番に積ませる

育成の手順は、二つの技能を同時に求めず、順番に積む形にする。

報告者から論点を出す側へは、この四段で積み上げる。
STEP 1
報告の型を固定する
報告の1ページ目を結論・原因・打ち手・決めてほしいことの四欄にする。最初の3か月は、四欄が埋まっているかだけを見る
→
STEP 2
書き直さず問いで返す
上司は資料を直さず、この原因は続くのか、この打ち手は誰が決めるのか、と問いを返す。本人が自分で書き直す
→
STEP 3
事前調整に同席させ、単独に移す
最初はCFOの事前調整に同席させ、次は本人が話しCFOが同席し、最後は単独で行う。合意した三つを毎回メモに残す
→
STEP 4
会議で決めてほしいことを自分で言う
報告の最後の一文を、本人の口から、名指しで言わせる。言えなかった回は、会議の後に理由を振り返る
土台土台=締めから会議までに事前調整の日数を確保すること。締めが会議の前日に終わる会社では、型を整えても打ち手の欄を埋める準備の時間がない。
会議での存在感は、話し方の訓練より、埋めるべき欄とすり合わせる相手を毎月の仕事に組み込むことで育つ。

一段目の報告の型は、3か月ほどで身につく。 最初は、打ち手の欄に「事業部で検討中」と書いてくることが多い。それを上司が書き直すと、本人は次も同じことを書く。 二段目では、上司は資料を直さず、問いで返す。この原因は来月も続くのか。この打ち手を決めるのは誰か。その人は何を材料に決めるのか。問いに答えるために、本人は事業部に聞きに行くことになる。 それが三段目の事前調整の入口になる。

三段目の事前調整は、同席から始める。 CFOが事業部長と話す場に経理部長を同席させ、次は経理部長が話してCFOは黙って同席し、最後は単独で行う。合意した三つのことを毎回メモに残させると、どこで合意し損ねたかを後から振り返れる。

四段目は、会議で決めてほしいことを、本人の口から、名指しで言わせることである。 営業本部長、価格の改定の交渉を来月から始めるかを、今日決めていただけますか、と言う。本人にとって、最も心理的な抵抗の大きい一言である。 事前調整で合意した一文なら、言いやすい。言えなかった回は、会議の後に、何が言いにくくさせたかを振り返る(経理財務の1on1とキャリア面談の進め方、締めに追われる組織で育成時間を作る)。

設例

売上高750億円の食品メーカー(プライム市場、3月決算)。この部長は、入社以来経理一筋で、決算の早期化と連結の仕組みづくりで実績を上げてきた人だった。 経営会議での月次の報告は、12ページの差異の資料を順に説明する形で、社長からは会議での存在感がないと言われていた。CFOは、報告の1ページ目を四つの欄に固定することにし、最初の3か月は欄が埋まっているかだけを確かめた。最初の月、打ち手の欄には「各事業部にて対策を検討中」と書かれていた。 CFOは書き直さず、原材料の価格の上昇は年度内に続くのか、販売価格の改定を決めるのは誰か、と問いを返した。部長は営業本部と製造本部に話を聞きに行き、翌月の資料では、価格の改定と代替材への切り替えの二つの選択肢に、それぞれの年額の効果と効き始める時期が並んだ。事前調整は、4か月目からCFOの同席で始め、7か月目から経理部長が単独で行うようにした。 事前調整の時間を作るため、管理会計の数字の凍結を締めの6営業日目から4営業日目に前倒しし、会議までに3営業日を確保した。9か月目の経営会議で、経理部長は、営業本部長に販売価格の改定の交渉を翌月から始めるかを決めてほしいと、自分の口で求めた。 営業本部長とは事前調整で合意した一文だったので、議論は15分で終わり、改定の交渉が決まった。社長はその後、月次の報告の順番を、事業部長の報告の後から最初に移した。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

決めるのは三つ

第一に、報告の1ページ目を、結論、原因、打ち手、決めてほしいことの四つの欄に固定する。 原因は効いている一つか二つに絞り、続くかどうかを書く。打ち手の欄には、経理が決めた答えの代わりに、選択肢ごとの金額と時期を並べる。詳細な差異は2ページ目以降に回す。

第二に、事前調整を報告の型とは別の技能として訓練する。 会議の3営業日前に事業部長と、数字の事実、解釈の違い、会議で決めることの一文の三つをすり合わせる。同席から始め、単独に移す。締めから会議までに、その日数を確保する。

第三に、二つの技能を順番に積ませ、上司は資料を書き直さず問いで返す。 型、問いによる指導、事前調整、会議での名指しの一言の順に進め、最後の一言を本人の口から言えるまでを育成の到達点に置く。

まとめ

経理部長の報告が読み上げで終わる原因の多くは、話し方より報告の型にある。月次の報告には、出席者が次に何を決めるかを書く欄がない。まず報告の1ページ目を結論・原因・打ち手・決めてほしいことの四欄に固定し、上司は書き直さずに問いで返す。

事前調整は型とは別の技能として、会議の3営業日前に同席から始める。締めが会議の直前に終わる会社は、先に管理会計の数字の凍結を前倒しして、その日数を作る。

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