経理の担当が長く固定されている会社で、「あの人がいないと支払が回らない」という状態は、たいてい褒め言葉として語られる。同じ状態を統制の側から見ると、資産に届く権限と記録を直せる権限が一人に揃い、しかもその人が休まないので誰も中身を見たことがない、という記述になる。信頼しているから任せている、という状態が、そのまま最大の穴になっている。 人を増やせないなら、増やさずに使える手段は三つしかない。連続休暇、担当のローテーション、そして一人に揃った権限を割る兼務解消である。

POINT
連続休暇と担当替えは福利厚生ではなく、検知の手段である。効くのは、担当者が離れている間に不正の手当てが止まり、翌月に差異として表に出るからだ。したがって条件は二つ。休暇中にその業務を別の人が実際に処理すること、そして実施した記録が統制文書として残ること。この二つが欠けると、休みは取っているのに何も見えない状態になる。連続休暇そのものには法令上の根拠がない。だが道具は労働基準法にある。年次有給休暇は労働者の請求する時季に与えるのが原則だが(第39条第5項)、労使協定で時季に関する定めをしたときは、5日を超える部分についてその定めにより与えることができる(第39条第6項)。休ませる側の権限は、すでに法にある。 連続休暇制度は、この道具を統制目的に使う社内設計にすぎない。規程では対象を人ではなく職務で指定する。人で書くと、忙しいという理由で毎年免除される。

連続休暇で何が見えるのか

経理を舞台にした資産の流出は、一度実行して終わりになるものが少ない。架空の取引先への支払を続ける、消込を付け替えて残高の穴を翌月の入金で埋める、在庫の帳簿数量を毎月わずかに調整する。いずれも日々の手当てを前提にしている。手当てが止まった瞬間に、穴が表に出る。

連続休暇が検知の手段になるのはここだ。担当者が業務から離れている間、手当てをする人がいなくなる。埋め合わせの入金が起きず、消込の付け替えが止まり、翌月の残高照合で差異が残る。休暇そのものが不正を防いでいるのではなく、手当てが途切れる期間を人為的に作っているにすぎない。

したがって、次のような運用は形だけになる。担当者が休んでいる間、その人の仕事が誰にも触られず溜まっているだけ。休暇中に本人がリモートで処理している。休暇の日程を本人が自由に選べて、決算月や支払日を避けて設定できる。どれも手当てが途切れないので、検知の効果はほぼ出ない。

効かせるには三点を揃える。連続していること。業務を他人が実際に回すこと。そして時期を本人が選べないこと。三つ目が最も抵抗を受けるが、最も効く。

法令の根拠はない。だから規程に書き、労働基準法の道具を使う

連続休暇制度は、一般事業会社について法令が求めているものではない。だからこそ社内規程に書かなければ運用されない。ただし、休ませる側の道具は労働基準法にすでに用意されている。

年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えるものとされている(労働基準法第39条第5項本文)。ただし同項ただし書は、請求された時季に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には他の時季に与えることができるとしている。さらに第39条第6項は、労働者の過半数で組織する労働組合または過半数代表者との書面による協定により、有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、5日を超える部分について、第5項にかかわらずその定めにより与えることができるとしている。いわゆる計画的付与である。加えて第39条第7項により、有給休暇の日数が10労働日以上である労働者について、そのうち5日は基準日から1年以内の期間に、使用者が労働者ごとに時季を定めて与えなければならない。

整理すると、休暇の時季を会社側が決める仕組みは、労使協定という手続を踏めば正面から使える。連続休暇制度で新たに作るのは権限ではなく、その権限を経理の統制目的に向ける社内ルールのほうだ。 「本人が休みたがらない」を理由に運用されない会社は、道具がないのではなく、道具を規程に落としていない。

規程に書くのは四つでいい。

  • 対象を、人ではなく職務で指定する(出納、支払処理、債権消込、マスタ登録など)
  • 連続日数と、営業日での数え方(土日を含めるかで実質の長さが倍違う)
  • 休暇期間中に代行者が実際に処理する業務の一覧
  • 実施記録の様式、保存先、保存年限

一つ目が要になる。人で書くと「今回は繁忙なので免除」が毎年通る。職務で書けば、その職務に就いている限り全員に等しく適用され、個人への疑いという受け取られ方にならない。

三つの打ち手は、効き方も壊れ方も違う

人で埋める統制は三つある。数値はすべて「多いほど重い」で揃えてある。
連続休暇続けて休ませる
検知の速さ
導入の手間
現場の抵抗
効果の持続
最も安く、最も早く効く。担当が離れた期間に手当てが止まり、翌月の照合で差異として出る。ただし戻れば元の状態に戻るため、単発では抑止が続かない。実施記録を残さなければ、監査に対しては何もしていないのと同じ扱いになる。
ローテーション担当を入れ替える
検知の速さ
導入の手間
現場の抵抗
効果の持続
引き継ぎの過程で、前任のやり方が第三者の目に晒される。効果は長く続くが、少人数では回す先がなく、習熟のやり直しコストも重い。全員を毎年回すより、資産に届く職務だけを数年周期で入れ替えるほうが現実的に組める。
兼務解消一人に揃った権限を割る
検知の速さ
導入の手間
現場の抵抗
効果の持続
予防としては最も強い。取引の承認、取引の記録、資産の管理を別の者に担当させる。ただし検知は速くならず、割った直後に過去の不正が見つかるわけではない。社内で割れないなら、承認だけを経理の外へ出すことで代替できる。
速く見つけたいなら連続休暇、二度と起こさせないなら兼務解消。三つは代替関係ではなく、効き始めるまでの時間が違う。

三つのうち、基準が明示的に求めているのは三つ目だけである。財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準は、統制活動について、経営者は不正または誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために各担当者の権限及び職責を明確にし、その際、職務を複数の者の間で適切に分担または分離させることが重要だとしたうえで、取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させることにより、それぞれの担当者間で適切に相互牽制を働かせることを例示している(金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)」)。

同じ箇所には、もう一つ見落とされやすい記述がある。適切に職務を分掌させることは、業務を特定の者に一身専属的に属させることにより、組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服することができる、というくだりだ。分掌は不正対策であると同時に、継続性の対策でもある。人がいないから分掌できないと言っている会社は、不正リスクと業務継続リスクを同時に放置していることになる(属人化した決算を組織知に変える 担当者が辞めても締まる引き継ぎ設計)。

ローテーションは「全員を毎年」より「資産に届く職務を数年で」

担当替えの制度設計でよく失敗するのが、範囲の広げすぎだ。経理全員を毎年入れ替える制度は、二年目で止まる。習熟のやり直しが重すぎて、決算が遅れるからだ。

絞り込みの基準は、資産に届くかどうかに置く。出金の実行、振込先マスタの登録・変更、入金消込、在庫の実地棚卸の取りまとめ、固定資産の除却処理。このあたりに就いている職務だけを対象にし、周期は二年から三年で設計する。それ以外の職務は、ローテーションではなく手順書と相互レビューで受ける。

周期を決めたら、引き継ぎの様式も決めておく。引き継ぎが口頭で行われると、前任のやり方は前任のまま次の人へ渡り、第三者の目に晒される機会が消える。最低限、前任が使っていたファイル、取引先ごとの例外的な処理、システムに残っていない手作業の一覧を書面にする。これは統制の話であると同時に、経理組織の機能配置の話でもある(経理組織の最適人数と機能配置 月次・連結・税務をどう分担するか)。

実施しただけでは統制にならない。証跡を四点で残す

連続休暇もローテーションも、実施しただけでは監査の場で統制として扱われない。証拠が残らないからだ。残すのは四点でいい。

  • 対象職務(人名ではなく職務名。人名は別欄に併記する)
  • 実施期間(実日付。予定日ではなく、実際に離れていた日)
  • 代行者の氏名
  • 代行期間中に代行者が実際に処理した業務と、その件数

四点目が抜けている記録が非常に多い。休暇簿を出しても、その期間にその業務を誰が回したかが書かれていなければ、統制が機能したことの証拠にならない。逆にこの四点が揃っていれば、少人数で兼務が残っていても、代替統制として説明できる(少人数経理の職務分掌|3〜5人でどこまで内部統制を効かせられるか)。記録の様式と更新頻度を最初に決めておくと、翌年以降の運用が軽くなる(J-SOX財務報告内部統制:3点セットを形骸化させない更新運用の実務)。

「信頼しているから任せている」への答え方

この手の制度を提案すると、必ず「あの人を疑うのか」という反応が返ってくる。ここで議論を人の話に持ち込ませないための材料が二つある。

一つ目は、対象を職務で指定していること。特定の個人を選んでいるわけではなく、その職務に就いた人全員に等しく適用される。次に就く人にも同じルールが適用されると説明できれば、疑いの話ではなくなる。

二つ目は、上位者も対象になるということだ。2023年に改訂された内部統制の基準と実施基準では、内部統制を無視または無効ならしめる行為について、当該行為が経営者以外の業務プロセスの責任者によってなされる可能性もあることが示されている。承認者が経理部長であるという事実は、それ自体では統制にならない。上長が承認しているから大丈夫、という説明が効かない領域があることを、基準の側が明示している。

法令の側からも一つ。会社法第432条第1項は、株式会社は法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならないと定めている。記帳できる人が社内に一人しかいない状態は、不正の問題である前に、この義務の履行がその一人の出勤に依存している状態でもある。休ませられない理由を説明する側が、実はこの点を説明できていない。

現場では
経理4人の卸売会社で、支払と入金消込を10年以上同じ人が担当していた。休暇はほとんど取らず、決算期にも出社する。周囲の評価は高かった。制度を入れるにあたって最初にやったのは、対象を人名ではなく職務名で書き出すことだった。出納、支払処理、債権消込、取引先マスタ登録の四つを対象職務とし、連続5営業日の休暇を年1回、時期は総務が指定する形にした。時季指定に抵抗が出ることを見込んで、労使協定による計画的付与の枠組みで整理した。初年度の休暇期間中、代行に入った担当者が、消込のルールが取引先ごとにばらばらであることに気づいた。特定の数社について、入金額と請求額が合わない差額を、前任者が別の売掛金へ振り替えて処理していた。調べたところ不正ではなく、10年前に決めた値引きの精算方法が引き継がれないまま残っていただけだった。ただしこの処理は誰も知らず、月次の売掛残高の内訳が長年説明できない状態になっていた原因でもあった。制度の目的は不正の検知だったが、実際に最初に出てきたのは、説明できない処理の在庫だった。翌年からは代行者の処理件数を記録に残す運用を加え、監査での説明もこの記録一枚で済むようになった。

人を増やせない前提で、経路を途切れさせる

少人数の経理で不正のリスクを下げられるかは、人数ではなく、一人で完結する経路が途切れる瞬間があるかで決まる。兼務解消はその経路を恒久的に断つ手段で、連続休暇とローテーションは、断てないまま経路を一時的に途切れさせる手段だ。効き始める時間が違うだけで、どれか一つを選ぶ話ではない。

着手するなら、順序は決まっている。まず対象職務を四つか五つ書き出す。次に、その職務に人ではなく職務名で連続休暇を設定し、代行者を決める。そのうえで、代行者が実際に処理した件数まで記録に残す。ここまでを一年回してから、ローテーションと兼務解消の議論に入る。制度を全部同時に入れようとする会社ほど、何も入らないまま翌年になる。

まとめ
少人数の経理で職務分掌が組めないなら、人の運用で埋めるしかない。連続休暇と担当のローテーションは福利厚生ではなく検知の手段で、効く理由は、経理を舞台にした資産の流出が日々の手当てを前提にしているからだ。担当者が業務から離れれば手当てが止まり、翌月の照合で差異が残る。したがって条件は三つ。連続していること、業務を他人が実際に回すこと、時期を本人が選べないこと。休暇中に本人がリモートで処理していたり、仕事が溜まっているだけだったりすると効果は出ない。連続休暇そのものに法令上の根拠はないが、道具は労働基準法にある。年次有給休暇は原則として労働者の請求する時季に与えるが(第39条第5項)、労使協定で時季に関する定めをしたときは5日を超える部分についてその定めにより与えることができ(同条第6項)、さらに10労働日以上の年休がある労働者については5日について使用者が時季を定めて与えなければならない(同条第7項)。休ませる権限はすでに法にあり、連続休暇制度で作るのはそれを統制目的に向ける社内ルールである。規程には、対象を人ではなく職務で指定すること、連続日数と営業日の数え方、代行者が処理する業務の一覧、実施記録の様式と保存年限の四つを書く。人で書くと繁忙を理由に毎年免除される。三つの打ち手は効き方が違う。連続休暇は最も安く早く効くが持続しない。ローテーションは効果が長いが少人数では回す先がなく、資産に届く職務だけを二年から三年周期にするのが現実的。兼務解消は予防として最も強いが検知は速くならない。基準が明示的に求めているのは三つ目で、財務報告に係る内部統制の実施基準は取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させ相互牽制を働かせることを例示し、あわせて職務分掌が業務を特定の者に一身専属的に属させる問題を克服する手段でもあるとしている。分掌は不正対策と継続性対策を兼ねている。実施しただけでは統制にならないため、対象職務、実施期間の実日付、代行者の氏名、代行期間中に代行者が実際に処理した業務と件数の四点を記録する。四点目が抜けた記録は、統制が機能したことの証拠にならない。個人への疑いという反発には、対象を職務で指定していること、および2023年改訂の基準が内部統制を無視・無効ならしめる行為は経営者以外の業務プロセスの責任者によってもなされ得ると示していることで答える。上長が承認しているから大丈夫という説明が効かない領域がある。会社法第432条第1項は適時に正確な会計帳簿を作成することを求めており、記帳できる人が一人しかいない状態は、その義務の履行が一人の出勤に依存している状態でもある。

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