経理の属人化は、手順書を作るだけでは解けない。手順書に書けるのは、いつもどおりに進んだときの作業が中心である。担当者が抜けたときに困るのは、残高が合わなかったとき、前例のない取引が来たときに、その人がどう決めていたかが分からないことだ。筆者は、例外が出たときにどう決めたかの記録を残さない限り、判断は担当者に残ると考えている。この記事では、経理が属人化する原因、属人化した業務の洗い出し、標準化の手順、引き継ぎの設計、システムと外部の使い方の順に整理する。

この記事の要点
  • 属人化の中身は、作業の手順よりも、判断の基準が記録されていないことにある。
  • 洗い出しは、業務の一覧を作ることからではなく、「この人が休んだら止まる作業」を挙げることから始める。
  • 標準化では、手順書より先に判断の基準を書く。そのあとで手順をそろえ、二人目を作る。

経理が属人化する原因

経理の属人化とは、ある業務を特定の担当者しか進められず、ほかの人が代わることも、結果を確かめることもできない状態をいう。筆者は、原因を担当者の怠慢や能力の偏りには求めず、次の3つが重なって起きると見ている。

1つ目は、判断の基準が書かれていないことである。経験の長い担当者は、残高が合わないときに何から疑うか、どの程度の差異なら先に進めてよいか、どの取引は上司に相談するかを知っている。本人にとっては当たり前のことなので、書き残そうという発想になりにくい。

2つ目は、記録を残す時間が締めの外に置かれていることである。月次の締めに間に合っているあいだは、手順や判断を書き起こす作業の優先度が上がらない。締めが滞りなく終わっていること自体が、着手を遅らせる理由になる。

3つ目は、確かめる人がいないことである。作業した本人のほかに結果を見る人がいなければ、手順が本人の頭の中にしかなくても、日々の業務は進む。問題が表に出るのは、担当者が休んだときや退職したときである。

3つが重なると、担当者が抜けたときに業務が止まる
判断の基準が未記録
例外の決め方が本人の頭の中にある
+
記録の後回し
締めに間に合っているので書き起こさない
+
確かめる人の不在
結果を見るのが作業した本人だけ
=
担当者が抜けると締められない
ふだんは問題が表に出ない
3つのうち、最初に手を付けるのは判断の基準の記録である。

属人化は、業務が続くかどうかの問題であると同時に、内部統制の問題でもある。財務報告に係る内部統制の実施基準は、統制活動の説明のなかで、職務を複数の者の間で適切に分担または分離させることが重要だとしている。そのうえで、適切に職務を分掌させることは、業務を特定の者に一身専属的に属させることにより組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服することができる、と述べている。

出典:企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」実施基準Ⅰ.2.(3)(金融庁、2023年4月7日公表、2026年10月1日確認)

1人の担当者が作業と確認の両方を担っている業務では、誤りがあっても、ほかの人が気づく機会が限られる。筆者は、属人化の解消は退職への備えであると同時に、誤りや不正を見つける仕組みを取り戻す作業でもあると考えている。

属人化した業務の洗い出し

洗い出しを業務の一覧づくりから始めると、時間がかかるわりに、どこが危ないのかが見えにくい。筆者は、「この人が1週間休んだら止まる作業は何か」という問いから始めることを勧める。答えは担当者本人だけでなく、上司と、前後の工程の担当者にも聞く。本人が当たり前だと思っている作業は、本人の答えからは抜けやすいからである。

挙がった作業は、3つの列で整理する。担当している人、代わりにできる人、判断の記録があるかどうかである。次の表は、整理の設例である。比べるために、代わりにできる人がいる業務も2つ並べた。

業務担当代わりにできる人判断の記録
支払の締めと振込データの作成AさんBさん手順書あり。例外の扱いは記録なし
売上の計上と入金の消込BさんAさん手順書あり。消込の差額の扱いは口頭
引当金の見積りC課長いない計算のファイルのみ。前提を決めた理由は記録なし
連結の消去仕訳Dさんいない記録なし
税効果の計算Dさんいない(C課長は概要のみ)前年のファイルのみ
設例。業務と担当は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

表を作ると、手順書があるかどうかと、判断の記録があるかどうかは別の話だと分かる。設例の上の2行は、手順書があり、代わりの人もいる。それでも、例外の扱いは記録されていない。下の3行は、代わりの人がおらず、判断の理由も残っていない。

次に、どれから着手するかを決める。挙がった業務のすべてに同時に取りかかると、日常の業務に押されて途中で止まりやすい。順番は2つの軸で決める。1つは属人度で、その業務を担当者のほかに何人が進められるかである。もう1つは止まったときの影響で、締めの日程の中で後工程を待たせるか、何日遅れると開示や支払に響くかで測る。

属人度と、止まったときの影響で、着手の順番を決める
止まったときの影響 →
2番目:確認の仕組みを厚くする
影響は大きいが、進められる人が複数いる。チェックリストと照合で誤りを減らす
1番目:ここから標準化する
1人しか進められず、止まると締めと開示に響く。1つを選んで最後までやり切る
4番目:後にする
影響が小さく、代わりの人もいる。着手しやすいが急がない
3番目:手順だけ先に書く
1人しか進められないが、数日は待てる。作業の手順を書き出しておく
属人度(進められる人の少なさ)→

設例の表で代わりにできる人がいないのは、引当金の見積り、連結の消去仕訳、税効果の計算の3つである。3つとも、遅れると決算の開示の日程に響く業務と置くと、右上に入る。支払と売上の2つは、止まると支払日や請求に響くが、代わりにできる人がいるので左上に入る。説明しやすい定型の業務から手順書を作り始めると、使える時間を使い切ったあとに、右上の業務が手つかずのまま残るおそれがある。着手のしやすさと、着手すべき順番は一致しない。

標準化の手順

着手する業務を1つ選んだら、標準化は3つの段階で進める。判断の基準を書く、手順をそろえる、二人目を作る、の順である。

標準化は、基準、手順、二人目の順に進める
STEP 1
判断の基準を書く
例外が出たときにどう決めたかを記録する
→
STEP 2
手順をそろえる
手順書とチェックリストで作業と確認を分ける
→
STEP 3
二人目を作る
別の人が実際に1回締める
手順書から始めると、判断が担当者に残ったままになる。

判断の基準を書く

担当者が持っている知識は、置き場所の違う3つに分けられる。作業の手順、判断の基準、関係の記憶である。

種類中身置き場所
作業の手順画面の操作、データの取り出し方、仕訳の起こし方手順書
判断の基準差異をどこまで許すか、何から疑うか、だれに相談するか判断の記録、しきい値を置いた照合
関係の記憶だれに何を頼むか、過去の監査で何を聞かれたか依頼先の一覧、過年度の論点の記録

判断の基準を手順書の文章にすべて書こうとすると、場合分けが増え続けるか、「状況に応じて判断する」という1行になる。どちらも後任の役には立たない。筆者が勧めるのは、基準を2つの形で残すことである。

1つは、例外が出たときにどう決めたかの記録である。前例のない取引が来たとき、差異の原因が分からなかったとき、見積りの前提を変えたときに、何が起きたか、何を比べたか、どう決めたか、だれが承認したかを短く書く。1件ずつは小さな記録だが、1年分たまると、後任にとっては判断の前例集になる。会計処理の論点については、会計処理の判断メモはなぜ必要か、毎年同じ論点を議論し直さないための記録で書き方を扱った。

もう1つは、判断が要る場面を仕組みで知らせることである。たとえば「差異が出たら担当者が経験で判断する」という運用を、「補助元帳と総勘定元帳の差額が決めた金額を超えたら作業を止め、上長に報告する」という照合に置き換える。しきい値は1つの数字なので、見直しやすい。判断そのものを文章で伝えるより、判断が要る場面を見つけて人に渡す形にしたほうが、基準は更新されやすいと筆者は考えている。

知識の種類によって、置き場所を変える
書いて残す手順書に置く
操作と段取り。初めての人がそれだけを見て進められるように書く。作った時点から古くなるので、二人目が使うたびに直す前提で運用する。
仕組みで知らせる記録と照合に置く
判断が要る場面。しきい値、突き合わせ、完了の確認に置き換えると、経験の長い人がいなくても、止まるべきところで作業が止まる。決めた内容は記録に残す。
書いて残せるものは手順書に置き、書ききれない判断は、記録と照合の仕組みに置く。

関係の記憶は、手順書の文中に書くと探しにくい。子会社のだれに依頼すると期日に間に合うか、監査法人が毎年どの見積りを確かめるかは、依頼先の一覧と過年度の論点の記録として、手順書とは別に持つ。

手順をそろえる

判断の基準の置き場所が決まったら、作業の手順を手順書にする。手順書の出来は、初めての人がそれだけを見て同じ結果を出せるかで決まる。抽象的に書くと、書いた本人にしか読めない。

同じ作業でも、書き方で再現できるかが変わる
BEFORE
抽象的な手順
「売上を計上する」とだけ書いてあり、初めての人は進められない
→
AFTER
再現できる手順
振替伝票の入力画面を開き、転記日付に月末日を入れ、売上集計表のJ列の合計を売上高に入力する
画面の名前、入力する値、もとになる資料の場所まで書く。

手順書には、順調に進んだときの作業に加えて、合わなかったときの最初の一手を書く。「残高が合わない場合は、前月からの繰越を確かめ、次に未払計上の戻し忘れを確かめる」という1行があると、後任が最初に見る場所が決まる。その先の判断は、前の項で述べた記録と照合で受ける。書き方の詳細は使われる決算マニュアルの書き方、判断基準・例外処理・更新責任を入れた手順書にまとめた。

手順書は作業のやり方を伝えるもので、作業をやり忘れないことまでは保証しない。やり忘れを防ぐにはチェックリストを使う。チェックリストには、作業した人の欄とは別に、確かめた人の欄を設ける。1人が「終えた」と「合っている」の両方を兼ねると、属人化の原因の3つ目が残る。

チェックリストを締めの日程表と一緒にすると、進み具合がほかの人にも見える。横に営業日、縦に作業を並べ、だれがいつ何を終えるかを1枚にする。担当者が休んでも、3営業日目にどこまで終わっているはずかを、ほかの人が確かめられる。

二人目を作る

基準と手順がそろっても、別の人が実際に手を動かして同じ結果を出すまでは、属人化は解けていない。二人目は、文書を読むだけでは育たない。1回の締めを自分の手で終えて、初めて代わりができるようになる。

二人目を決めたら、主担当と副担当の組み合わせを業務ごとに表にしておく。洗い出しの表の「代わりにできる人」の列が、これで埋まる。主担当と副担当を定期的に入れ替える運用にすると、システムの更新や制度の変更で手順書が古くなった箇所が、入れ替えのたびに見つかる。入れ替えの周期は、業務の難しさと人数に合わせて自社で決める。

手順書がそろったことを、解消と読み違えない
手順書とチェックリストが完成した時点では、属人化はまだ解消していない。判断の基準が記録されているか、二人目が実際に1回締めたか、の2つを確かめる。洗い出しの表の「判断の記録」と「代わりにできる人」の列が埋まったかどうかで、進み具合を測る。

引き継ぎの設計

退職や異動が決まってからの引き継ぎは、標準化の3つの段階を、限られた期間で進めることになる。期間が短いほど、設計の良し悪しが結果に出やすい。

筆者は、引き継ぎの成否は、前任者がまだ社内にいるあいだに、後任がつまずけたかどうかで決まると考えている。後任が前任者の横で作業し、うまく進んだだけでは、手順書の抜けも、しきい値の設定の誤りも、一覧に載っていない依頼先も表に出てこない。引き継ぎの期間は、教える期間としてだけでなく、後任が安全につまずける期間として設計する。

引き継ぎは、前任者がいるあいだに後任が1人で締めるところまで進める
STEP 1
並走する
前任者が主で進め、後任は見ながら記録を補う
→
STEP 2
主担当を交代する
後任が主で進め、前任者は見守る
→
STEP 3
1人で締める
前任者は手を出さず、後任が文書と仕組みだけで1回締める
→
STEP 4
文書を直す
出た質問を、手順書と記録の改訂に反映する
3つ目の段階を、前任者の最終出社日より前に置く。

工程を組むときは、3つ目の「1人で締める」を、前任者の在籍中に置けるかを先に確かめる。月次の業務なら、引き継ぎの期間に少なくとも3回の締めが要る。退職までの期間がそれより短いときは、対象の業務を右上の領域に絞り、残りは手順だけを書き出しておく。四半期や年次にしか発生しない業務は、在籍中に本番の締めが3回来ないことがある。その場合は、前の期のデータを使って後任が1人で作り直す回を設け、前任者の結果と突き合わせることを筆者は勧める。

質問は、主担当を交代した回から書き留める。質問は、手順書と判断の記録に抜けがあった箇所を示している。1人で締めた回の質問の数が、交代した回より減っていれば、引き継ぎが進んでいると判断できる。

世代交代のように数年かけて知識を移す場合の計画は、経理のベテラン依存から次世代へ、知識を3年で移す世代交代計画で扱った。引き継ぎが間に合わないまま欠員が出た期の進め方は、欠員・休職が出た期の決算を止めない縮退運転の設計と、落とす作業の格付けにまとめている。

システムと外部の使い方

システムと外部の委託先は、属人化を解く手段になる。ただし、どちらも判断の基準が書かれていることが前提になる。

システムに持たせるもの

システムに持たせやすいのは、照合と記録である。補助元帳と総勘定元帳の突き合わせ、しきい値を超えた差異の通知、承認の履歴は、人の記憶に頼らずに残せる。承認の画面に判断の理由を書く欄を設ければ、例外の記録が日常の作業の中でたまっていく。

注意したいのは、システムの設定そのものが新しい属人化になり得ることである。仕訳の自動作成のルール、マスタの登録の基準、表計算ソフトのマクロを1人しか直せない状態は、手作業の属人化と変わらない。設定を変えた日付、内容、理由を記録し、設定についても二人目を置く。

外部に任せるもの

外部の委託先に任せやすいのは、手順が決まっていて、判断の基準を文書で渡せる業務である。任せると、その業務は社内の特定の担当者に頼らなくなる。一方で、判断の基準を書かないまま任せると、基準を知っている人が社内から委託先に移るだけで、属人化は残る。

筆者は、任せる前に次の2つを社内に残すことを勧める。判断の基準と例外の記録を自社で持つこと。委託先から戻ってきた結果を確かめる担当者を社内に置くこと。この2つがあれば、委託先を変えるときにも、業務を社内に戻すときにも、引き継ぎができる。

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よくある質問

属人化の原因は

筆者は、判断の基準が書かれていないこと、記録を残す作業が後回しになること、作業した本人のほかに結果を確かめる人がいないことの3つが重なって起きると見ている。担当者の怠慢や能力の偏りが原因だとは考えていない。

何から手を付けるか

「この人が1週間休んだら止まる作業は何か」を、本人、上司、前後の工程の担当者に聞くことから始める。挙がった作業を、担当、代わりにできる人、判断の記録の有無で表にし、進められる人が少なく、止まったときの影響が大きい業務を1つ選ぶ。選んだ1つについて、判断の基準の記録から二人目が1回締めるところまでを通して行う。

マニュアルを作れば解消するか

マニュアルだけでは解消しない。マニュアルに書けるのは、順調に進んだときの作業が中心である。例外が出たときにどう決めたかの記録と、判断が要る場面を知らせる照合の仕組みを合わせて用意し、別の人が実際に1回締めて、初めて代わりができるようになる。

外部に任せてよいか

手順が決まっていて、判断の基準を文書で渡せる業務は任せてよい。任せる前に、判断の基準と例外の記録を自社で持ち、戻ってきた結果を確かめる担当者を社内に置く。基準を書かないまま任せると、基準を知っている人が社内から委託先に移るだけで、属人化は残る。

まとめ
  • 経理の属人化の中身は、判断の基準が記録されていないことにある。手順書を作るだけでは、例外の決め方が担当者に残る。
  • 洗い出しは「休んだら止まる作業」から始め、担当、代わりにできる人、判断の記録の有無で表にする。着手の順番は、属人度と止まったときの影響で決める。
  • 標準化は、判断の基準を書く、手順をそろえる、二人目を作る、の順に進める。引き継ぎでは、前任者がいるあいだに後任が1人で締める回を置く。

次に読むなら、例外の決め方を残す書式を扱った会計処理の判断メモはなぜ必要か、毎年同じ論点を議論し直さないための記録と、手順書の書き方を扱った使われる決算マニュアルの書き方、判断基準・例外処理・更新責任を入れた手順書を勧める。