「前期の処理を直したい」。この相談は、たいてい定義の話に流れて止まる。会計方針の変更なのか、会計上の見積りの変更なのか、誤謬なのか。三つの定義を並べても判断は付かない。三つとも「変える」ことを指しているからだ。判断が付くのは、定義からではなく、実務帰結から逆に引いたときである。過去の財務諸表を作り直すのか。注記に「正当な理由」を書く必要があるのか。そして、算定できないという理由で止まれるのか。
分岐は「その情報を当時入手できていたか」の一問に集約される
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の第4項が、用語を定義している(ASBJ 企業会計基準第24号)。
会計方針の変更は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から、他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更すること(第4項(5))。会計上の見積りの変更は、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更すること(第4項(7))。そして誤謬は、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤りをいう(第4項(8))。
三つを並べると、見積りの変更と誤謬の分岐点が一つの問いに絞られる。その情報は、過去の財務諸表を作成した時点で入手可能だったか。 入手可能だったのに使わなかった、または誤って使った場合は誤謬。財務諸表を作った後で新たに入手可能になった情報に基づく変更なら、見積りの変更になる。
見落とされやすいのは、誤謬の定義に列挙された三類型の二番目だ。第4項(8)は誤謬として、①財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り、②事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り、③会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り、を挙げている。見積りに関することなら何でも見積りの変更で処理できるわけではない。当時見えていた事実を見落として立てた見積りは、見積りの変更ではなく誤謬である。もう一点、「原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず」という一句も効く。故意でなければ誤謬に当たらない、という読み方はできない。
実務帰結で四つに割る
「実務上不可能」は、方針変更にだけ用意された出口
会計方針の変更では、遡及適用が実務上不可能な場合の状況が第8項に三つ挙がっている。
- 過去の情報が収集・保存されておらず、合理的な努力を行っても遡及適用による影響額を算定できない場合(第8項(1))
- 遡及適用にあたり、過去における経営者の意図について仮定することが必要な場合(第8項(2))
- 遡及適用にあたり会計上の見積りを必要とするときに、会計事象等が発生した時点の状況に関する情報について、当時入手可能であったものとその後判明したものとを客観的に区別することが、時の経過により不可能な場合(第8項(3))
この状況に当たるときの処理も決まっている。累積的影響額は算定できるが表示期間のいずれかの影響額が算定できないなら、遡及適用が実行可能な最も古い期間の期首時点で累積的影響額を算定し、その期首残高から新たな会計方針を適用する(第9項(1))。累積的影響額そのものが算定できないなら、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり適用する(第9項(2))。表示方法の変更についても、財務諸表の組替えが実務上不可能な場合とは第8項に示された状況が該当するとされている(第15項)。
誤謬には、これに対応する定めがない。ASBJは検討の過程でIAS第8号と同様の取扱いを示して意見を求め、定めることを求める意見が多く寄せられたと記している。それでも、誤謬を含んだ財務諸表について一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があると考えられることから、米国会計基準と同様に、そのような状況を想定した取扱いは基準の中では明示しないことにした(第67項)。
ただし同項は、稀に修正再表示が不可能な場合が生じる可能性を否定するものではないとも述べている。重要な未訂正の誤謬が残る場合には、実務としてその内容と、訂正済の誤謬に関する訂正期間および訂正方法を開示するなどの対応がなされると考えられる、という書き方だ。基準の本文に出口はなく、結論の背景に実務での対応としてだけ言及がある。 この非対称を知っているかどうかで、期末に監査法人と交わす会話の中身が変わる。方針変更なら第8項のどれに当たるかを説明する話になり、誤謬なら、どこまで戻せるかを説明する話になる。
減価償却方法の変更だけが、二つの性格を持つ
判定でつまずきやすいのが減価償却方法の変更だ。定額法から定率法へ、あるいはその逆へ変える場合、これは会計方針の変更なのか見積りの変更なのか。
基準の答えは両方である。第20項は、有形固定資産等の減価償却方法及び無形固定資産の償却方法は会計方針に該当するとしたうえで、その変更については第19項により取り扱うと定める。そして第19項は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合について、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行わないとしている。理由は結論の背景に書かれており、減価償却方法の変更は計画的・規則的な償却方法の中での変更であることから会計方針の変更ではあるものの、その変更の場面では固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うと考えられる、という整理になっている(第62項)。
実務で効くのは注記の側だ。第19項ただし書は、注記について第11項(1)、(2)及び第18項(2)に関する記載を行うとしている。つまり会計方針の変更の内容と変更を行った正当な理由(第11項(1)(2))に加え、当期への影響額または将来への影響額(第18項(2))を書くことになる。遡及しないから見積りの変更と同じでいい、と読むと、正当な理由の記載が丸ごと抜ける。会計方針だから理由は要り、見積りだから遡及はしない。この交ぜ方が、減価償却方法の変更に固有の形である。
重要性で修正再表示しないときの、置き場所
誤謬と判定しても、必ず修正再表示するわけではない。第35項は、本会計基準のすべての項目について財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮されるとし、判断は金額的な面と質的な面の双方を考慮する必要があるとしている。金額的重要性の考え方として、損益への影響額または累積的影響額が重要かで判断する考え方、損益の趨勢に重要な影響を与えているかで判断する考え方、財務諸表項目への影響が重要かで判断する考え方などが挙げられており、具体的な判断基準は企業の個々の状況によって異なり得るとされる。質的重要性は、企業の経営環境、財務諸表項目の性質、又は誤謬が生じた原因などにより判断することが考えられる、とある。
最後の一句が実務では重い。金額が小さくても、統制の不備から生じた誤りは質的に重要と判断され得る。同じ金額の誤りでも、単発の入力誤りと、承認プロセスを迂回して生じた誤りとでは扱いが変わる(経理のミスはなぜ繰り返すか:再発防止のための原因分類とフールプルーフ設計)。
そして、修正再表示しないと判断したときの置き場所も基準が示している。第65項は、本会計基準の適用により、過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは修正再表示する方法に変更されるとしたうえで、重要性の判断に基づき過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により、営業損益又は営業外損益として認識する処理が行われることになると考えられる、と述べている。金額が小さいから特別損失、という置き方は、この基準の適用後は通らない。
- その情報は、過去の財務諸表を作成した時点で入手可能だったか(可能だったなら誤謬。第4項(8))
- 見積りの誤りである場合、事実の見落としや誤解から生じたものか(該当すれば見積りの変更ではなく誤謬。第4項(8)②)
- 方針変更なら、会計基準等の改正に伴うものか、自発的なものか(第5項(1)(2)。注記項目が変わる)
- 自発的な変更なら、変更を行った正当な理由を文章で書けるか(第11項(2))
- 遡及適用の累積的影響額を、表示する最も古い期間の期首まで算定できるか(第7項(1))
- 算定できないなら、第8項(1)から(3)のどれに当たるかを文章で説明できるか
- 修正再表示しない判断をするなら、金額的重要性と質的重要性の両方を書けるか(第35項。質的には誤謬が生じた原因も見る)
判定を、期末ではなく期中に済ませる
三つの区別で最も割を食うのは、期末になってから判定を始める会社だ。誤謬側に落ちたときの作業量が桁違いに大きく、しかも出口がない。過去の情報が復元できるかどうかを確かめる時間が、期末には残っていない。
やることは単純で、処理を直したいという話が出た時点で、四つに割るところまでを一枚にする。当時その情報を入手できたか。作り直すのか。正当な理由を書くのか。算定できないと言える立場にあるのか。この一枚を持って相談に行くのと、どれに当たりますかと聞きに行くのとでは、返ってくるものが違う。論点を四半期のうちに前に倒しておくほど、期末の議論は短くなる(監査法人の指摘が期末に集中する会社の共通点|論点を前倒しする四半期の使い方)。



