月次の経営会議で、部門別の予実表が配られる。営業第二部が、予算比で最も良い。売上はほぼ計画線で、費用が予算を4,200万円下回っている。 部長のコメント欄には、経費の効率化に努めたと書かれている。この4,200万円のうち3,800万円は、四月から埋まっていない六つの席の人件費である。 誰もそれを口にしない。そして翌月の要員計画の会議で、同じ部の増員要求が後回しになる。あの部は今の人数で回っているから、という理由で。

POINT
欠員という事象を、外の統計で測るのは難しくなっている。厚生労働省の労働経済動向調査によれば、令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.は、調査産業計で+47ポイントの不足超過である。 産業別では、建設業が+59ポイント、運輸業・郵便業が+55ポイント、情報通信業と学術研究・専門技術サービス業がいずれも+54ポイントである。ここまでは、多くの会社が引用している数字である。 見落とされているのはその先で、同じ調査の利用上の注意にはこう書かれている。「令和7(2025)年5月調査以前の共通項目のうち『常用労働者の中途採用の実績及び予定』、『常用労働者数』及び『未充足求人数』に関する事項については、令和7(2025)年5月調査をもって調査を終了した」。 これに伴い、概況に掲載していた 「未充足求人の状況(未充足求人の有無、欠員率)」 と 「中途採用(中途採用の実績(予定)の有無)」 は、令和7年6月24日公表の概況をもって掲載を終了している。つまり、欠員率という共通の物差しは、公的統計の側から無くなった。 不足感のD.I.は残るが、これは事業所が不足と答えたか過剰と答えたかの差であって、席がいくつ空いているかではない。自社に何席の空きがあり、それが金額でいくらかを測る道具は、もう自社の予実表しかない。

工場では分けているのに、本社では分けていない

この論点は、実は経理にとって初めてのものではない。製造原価では、同じ問題を六十年以上前に解いている。

原価計算基準は、製造間接費について予定配賦を行い、生じた差異を予算差異と操業度差異に分ける枠組みを置いている。操業度差異は、実際の操業度が基準操業度と異なることによって生じる、固定費の配賦の過不足である。 設備を用意しておきながら使わなかった分は、費用を上手に節約した結果ではなく、能力を遊ばせた結果として、別の名前で表示される。節約と遊休を、同じ「差異」の一語にまとめない。これが原価計算の基本設計である。

人件費予算に、この分離がない。採用計画どおりに人が入り、残業を減らして人件費が予算を下回った部門と、採用が一人も進まずに人件費が予算を下回った部門が、同じ「費用の予算差」という一行に並ぶ。 前者は生産性の改善であり、後者は能力の未取得である。経営会議で見えているのは合計だけなので、二つは区別されない。

そして人の場合、遊休はさらに悪い形で出る。設備なら、使わなかった能力はそこに残っている。人の場合、埋まらなかった席の仕事は消えず、在籍者に乗る。 残業が増えるか、品質が落ちるか、優先度の低い仕事が捨てられるか。費用は予算を下回りながら、能力は毀損している(人件費の管理会計、要員計画と人件費予算をつないで増員の可否を判断する)。

空席は引当金にならない。だから管理会計の側で決める

「では空席分を負債に立てておけばよいのでは」という発想が出てくる。これは会計上、通らない。

企業会計原則注解18は、引当金について、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合に、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れるとしている。採用できていない人の将来の給与は、当期以前の事象に起因していない。 起因しているのは将来の雇用契約であり、それはまだ存在しない。四要件のうち二つ目で落ちる。

つまり、空席分をどう扱うかは会計処理の問題ではない。財務会計上は、単に費用が発生していないというだけである。決めるべき場所は管理会計の側にあり、そこには基準がない。 基準がないから、多くの会社では「そのまま部門に残る」という初期設定が、誰も選んでいないのに採用されている。

初期設定を放置した結果が、冒頭の構図である。 採用が進まない部門ほど予実が良く見え、良く見えるから増員の緊急度が下がり、緊急度が下がるからさらに採用が進まない。この循環を生んでいるのは、担当者の怠慢ではなく、数字の作り方である(予実管理が形骸化する3つの理由と、差異を打ち手につなぐ進め方)。

部門の費用差異は、性質の違う三つが足し合わされている。
生産性の差
残業の削減、外注の内製化、業務の見直しで実際に減った分。評価してよい差異
+
単価の差
昇給率、賞与の実績、社会保険料率の改定。部門の努力とは無関係に動く
+
欠員の差
採用できていない席の人件費。費用は減るが、能力は減っている。評価してはいけない差異
=
部門別PLの『人件費が予算より少ない』
三つを合算した一行。どの成分が効いたかは表から読めない
三つを分けずに表彰すると、三番目が最も大きい部門が最も褒められる。

選べる案は三つ。それぞれ副作用がある

空席分の扱いには、実務上三つの型がある。どれが正しいかではなく、どの副作用を引き受けるかで選ぶ。

第一の型は、部門予算に残したまま、差異分析で欠員成分を分離して表示する。 予算の組み替えが要らず、明日から始められる。人事の採用管理台帳から、月次で「未充足の席数×該当等級の標準人件費×経過月数」を出し、部門の費用差異からこの額を控除した後の数字を、評価に使う差異とする。副作用は、部門長の手元に使える予算が残り続けることである。 人が採れないまま期末が近づくと、その原資が別の費目に流れる。外注費、派遣費、あるいは期末の駆け込み発注。期首に人件費として承認した金額が、承認していない使途に化ける。

第二の型は、空席分を部門予算から抜き、全社で預かる。 採用が決まった月に、入社日から期末までの月数分だけ部門予算に配賦する。原資の横流れは止まり、全社の予備費としても機能する。副作用は、部門長が席を守らなくなることである。 予算が手元にない席は、部門長にとって自分のものではなくなる。採用面談の優先度が下がり、要件の妥協もしなくなる。採用の当事者意識が、予算の所在と一緒に本社へ移る(予算の予備費の持ち方、期中の追加要求を個別の稟議にしない三層の設計)。

第三の型は、欠員コストを機会損失として部門に返す。 空席が生んだ費用の余りを消すだけでなく、その席が生むはずだった付加価値を負の数として部門損益に載せる。営業なら一人あたりの限界利益、開発なら遅延した案件の売上、間接部門なら他部門に発生した超過労働の金額。副作用は、見積りの根拠を巡って議論が終わらなくなることである。 一人あたりの限界利益をいくらに置くかは、人事と経営企画と部門で意見が割れやすい。そして負の数を載せられた部門は、数字ではなく数字の作り方に反論する。

三択を選ぶ前に、金額を出す

どの案を採るにしても、先にやることが一つある。空席の金額を、月次で出すことである。

多くの会社では、この数字が存在しない。人事は席数を持っており、経理は人件費の実績を持っており、両者を掛け合わせた金額を誰も出していない。 出すのに必要なのは、承認された要員計画の席一覧、席ごとの等級、等級ごとの標準人件費(給与、賞与、法定福利費、退職給付費用を含む年額)、そして各席の充足状況の履歴である。このうち標準人件費だけは、賃金テーブルから作れば済む。残りは既に社内にある。

金額が出ると、議論の性格が変わる。六つの席が半年空いているという話は、部門長にとっては現場の実感だが、経営会議では優先順位の一項目にしかならない。 同じ事実を、半年で3,800万円の人件費が未執行であり、その席が担うはずだった案件の粗利が1億2,000万円ある、と書くと、扱いが変わる。採用は人事の課題から、経営資源の未投入という財務の課題になる。

そして金額を出す過程で、たいてい別のものが見つかる。要員計画に載っているのに、誰も採用活動をしていない席である。 承認された当時の事業計画が変わり、必要でなくなったのに、席だけが計画に残っている。この席の予算は、欠員ではなく余剰である。返上すべきものであって、預かるべきものではない。 三択の議論を始める前に、この仕分けを済ませておく(経理組織の適正人数は売上規模では出ない、機能別に工数を積み上げる方法)。

空席の人件費について押さえる三つのこと

第一に、部門の費用差異を、生産性の差・単価の差・欠員の差の三つに分けて表示する。 原価計算基準が製造間接費の差異を予算差異と操業度差異に分け、能力を使わなかった分を節約と区別して見せているのと同じ考え方を、本社と間接部門の人件費予算にも入れる。採用計画どおりに人が入って残業を減らした部門と、採用が一人も進まなかった部門を、同じ「費用が予算を下回った」という一行に並べない。 人の場合、遊休はさらに悪い形で出る。埋まらなかった席の仕事は消えず、在籍者の残業か、品質の低下か、優先度の低い仕事の切り捨てとして吸収される。費用は減り、能力は毀損している。

第二に、空席分の扱いを、初期設定のまま放置せずに選ぶ。 空席の人件費は引当金にならない。企業会計原則注解18の四要件のうち、当期以前の事象に起因することという二つ目を満たさないからである。したがってこれは財務会計の論点にはならず、管理会計で扱う論点であり、決めなければ「部門にそのまま残る」という初期設定が採用される。選べるのは三つで、それぞれ副作用が違う。 部門に残して差異分析で分離すれば、明日から始められる代わりに、人件費の原資が外注費や派遣費に化ける。全社で預かって採用決定月に配賦すれば、原資の横流れは止まる代わりに、部門長が席を守らなくなる。機会損失として部門に返せば、採用の緊急度は最も強く伝わる代わりに、一人あたりの限界利益をいくらに置くかで議論が終わらない。副作用を先に書き出し、どれを引き受けるかとして決める。

第三に、三択を議論する前に、空席の金額を月次で出す。 必要なのは、承認された要員計画の席一覧、席ごとの等級、等級ごとの標準人件費、そして充足状況の履歴であり、標準人件費以外はすでに社内にある。この過程で、要員計画に載っているのに誰も採用活動をしていない席が見つかることが多い。 それは欠員ではなく余剰であり、預かるのではなく返上させる。なお、欠員を外の統計と比べる道は細くなっている。厚生労働省の労働経済動向調査は、令和8年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.を調査産業計で+47ポイントの不足超過としているが、未充足求人数に関する事項は令和7年5月調査をもって調査を終了し、未充足求人の有無と欠員率の掲載も同じ回で終わっている。 自社の席が何席空いているかを金額で示せるのは、自社の予実表だけである。

設例

売上高410億円のBtoBソフトウェア会社。従業員780名で、期初の要員計画では期中に47名の増員を織り込んでいた。上期を終えた時点の充足は12名。予実表では、全社の人件費が予算を2億1,400万円下回っていた。 経営会議では、この2億1,400万円が費用のコントロールが効いた結果として説明され、下期の投資余力として扱われかけた。CFOが止めた理由は、同じ月の残業時間が前年同月比で18%増えていたことだった。 費用が減って労働時間が増えている以上、これは節約ではないという指摘である。着手は、空席の金額化から始まった。人事の要員計画から未充足の35席を等級別に並べ、等級ごとの標準人件費に未充足の月数を掛ける。上期の未執行人件費は1億9,200万円と算出され、費用差異2億1,400万円のうち九割が欠員成分だったことが分かった。 残る2,200万円のうち1,500万円は社会保険料率の改定と賞与の実績差で、部門の努力に帰属する差異は700万円だった。この時点で、費用が予算を下回った部門を評価するという運用が止まっている。 次に、35席の中身を見た。このうち9席は、期初に承認されて以降、求人票が一度も公開されていなかった。 理由を確認すると、6席は担当役員の交代で事業計画が変わり不要になったもの、3席は要件が固まらないまま止まっていたものだった。6席は要員計画から落とし、予算1,800万円分を返上させている。 残る29席について、扱いを三択で議論した。結論は第二の型で、空席分の予算を部門から引き上げ、全社で預かり、入社決定の月に入社日から期末までの月数分を部門に戻す方式である。採用の当事者意識が薄れるという副作用への対処として、部門長の目標に充足率を入れ、四半期ごとに未充足の席について部門長が要件と妥協点を説明する場を設けた。 下期の充足は19名。前年同期の実績が7名だったので、増加分がこの運用によるものか採用市場の変化によるものかは切り分けられていない。それでも人事部長が挙げた変化は数字ではなかった。今までは、人が採れませんという報告をしていた。今は、この席が空いているといくら失うという話をしている。相手の反応が違う。 CFOの側にも変化があった。下期の投資余力として使われかけた2億1,400万円が、実は使われていない人件費だったという事実は、資金計画の前提も変えている。 採用が進めば、この金額は下期以降に発生する。予算が余ったのではなく、支出が後ろにずれただけである。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ
欠員で余った人件費を、節約と同じ行に置いたままにしていないか。部門の費用差異は生産性・単価・欠員の三つに分けて見せ、空席の金額は承認済みの席一覧と等級別の標準人件費から月次で出す。その過程で、誰も採用活動をしていない席が見つかったら、欠員でなく余剰として返上させる。残った空席分は、部門に残して差異を分離するか、全社で預かるか、機会損失を載せるかを選ぶ。選ばなければ、部門予算にそのまま残るという初期設定が採用される。

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