グループ会社が十二社、基幹システムは四種類。連結の数字を同じ定義で見たいという要求に対して、情報システム部門が出す答えはいつも同じである。全社をS/4HANAに寄せるしかありません。工期は五年、費用は数十億円。役員会は決めきれずに持ち帰りになり、翌年も同じ資料が出てくる。この会議に一度も出てこない選択肢が、Central Financeである。 ただし、これを「移行の縮小版」と理解すると必ず失敗する。これは、原本を動かさずに写しを一つ作るという、別の種類の意思決定である。

POINT
仕組みそのものは単純である。SAPの説明によれば、SAP Landscape Transformation Replication Server(SLT)が源泉システムのデータベースに書き込まれたデータを収集し、対応するCentral Financeの会計インタフェースへ流し込む。 会計インタフェースは、受け取ったFI/CO文書を ユニバーサル・ジャーナルとしてSAP HANAへ転記する。 源泉システムとして接続できるのは、SAP S/4HANA、保守期間内にあるSAP ERP 6.0以降、SAP S/4HANA Finance 1511以降、SAP S/4HANA Cloud、そして第三者システムである。FIデータの初期ロードはCentral Finance側のカスタマイジングで管理し、CO内部転記とコストオブジェクトの初期ロードはSLTが担う。マスタの対応付けについても、SAPは 「MDGを使用していない場合でも、Central Financeはバックグラウンドで、MDGをインストールしなくても利用できるMDGのマッピングテーブルを使用する。これにはMDGライセンスを必要としない」 と明記している。ライセンスが要るのはMDGアプリケーションを使う場合だけである。つまり、技術的な入口はかなり低い。低いのは入口だけである。 SAPは同じ文書に「転送されない転記」の一覧を用意しており、そこに何が並んでいるかを読むと、この仕組みが何を約束していないかが分かる。

移行との違いは、原本がどこに残るかにある

全面移行は、源泉システムを止める。Central Financeは止めない。日々の業務は源泉システムで走り続け、その結果として生まれた仕訳が中央に複製される。 ここまでは説明資料にも書かれている。書かれていないのは、その先である。

複製が始まった時点で、同じ取引に対応する会計記録が二つ存在することになる。では、会社法上の会計帳簿はどちらなのか。 会社法第432条第1項は「株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない」と定め、同条第2項は「株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない」と定める。十年間保存する対象がどちらの側なのかを、導入の前に決めておく必要がある。 法人ごとの決算と申告を源泉システムで作り続けるなら原本は源泉側であり、中央は分析用の写しにすぎない。中央で法人単位の決算まで組むなら、原本の重心は中央に移る。この一点を曖昧にしたまま入れると、監査法人からの質問に誰も答えられない状態が二年後に来る。

文書番号の扱いも、この論点に直結する。SAPのカスタマイジングには「Central Financeシステムにおける元の文書タイプの置換」という設定があり、源泉システムでの転記の元の文書タイプが外部採番の番号範囲を持つ場合には、内部採番の番号範囲を持つ文書タイプに置き換える必要がある。 この置換が効く場面としてSAPは、反対仕訳と再転記、初期ロード、消込済明細の欠落分の再転記を挙げている。中央の伝票番号は、源泉の伝票番号と一対一で並ばないことがある。 突合の設計は、この前提から始まる。

なお、伝票の追跡についてSAPは、Document Relationship Browserを使えばFI文書から元の受注伝票へ遡れるとしたうえで、「取引に関連するすべてのビジネス文書は、源泉システムがSAPシステムである場合に限り、Document Relationship Browserで利用できる」 と注記している。非SAPの子会社を接続した部分では、この遡及は効かない。 数字は揃うが、明細の裏取りは現地に電話することになる。

飛んでこないものの一覧が、この仕組みの輪郭を決める

SAPは「転送から除外される転記」を明示している。ここを読まずに導入判断をする会社が多い。

初期ロードと継続複製のいずれにおいても転送されないものとして、SAPは次を挙げる。CO-FI照合元帳への転記、参照トランザクション(AWTYP)がGLYECである年度末決算転記、繰返し伝票、サンプル伝票、記帳指図(前受金要求と支払要求を除く)、保留伝票、残高繰越明細、そして各国の期末に行われる決算処理。 消込と消込取消については、初期ロードでは転送されず、継続複製での転送を有効化できるという扱いになっている。

さらに二つの注記が効く。第一に、ヘッダとアイテムの双方の長文テキストと添付は、文書の作成時にも変更時にも複製されない。 第二に、源泉システムの補助テーブルに保持されている取引データは複製されないため、その補助データに依存する処理は、SAPが例として挙げるブラジルのNota Fiscalのように、サポートされない。加えて、源泉システムでALE経由で作成された文書は正しく複製できないとされる。ALEのシナリオでは転記が簡略化されて処理されるためで、Central Financeのシナリオとは両立しない。

この一覧の意味は単純である。中央に集まるのは「仕訳とその金額」であって、「経理が普段見ている一式」ではない。 摘要の長文も添付証憑も来ない。年度末の繰越も来ない。中央で法人単位の決算を組もうとした瞬間に、この差が全部こちらに返ってくる。 逆に、目的が「グループ横断で同じ勘定科目と分析軸の数字を見る」ことに限られているなら、来ないもののほとんどは要らない。目的の狭さが、そのままこの選択肢の強さになる。

マッピングは設定作業ではなく、恒久的な組織機能である

Central Financeの費用は、導入時よりも運用時に出る。中心はマッピングの保守である。

SAPはマスタの種類ごとに対応付けの方法を分けている。総勘定元帳勘定、得意先、仕入先といったマスタは、カスタマイジングの一部として手作業で対応付けるか、SAP MDGを使って対応付ける。 製造指図や内部指図のようなコストオブジェクトに関するマスタは、コストオブジェクト・マッピング・フレームワークを使う。SAPの推奨は、マスタの対応付けにはMDGを使い、短命なコストオブジェクトを対応付ける場合にはMDGとコストオブジェクト・マッピング・フレームワークを併用することである。

対応付けは二層に分かれる。キー・マッピング(ID Mapping) は、ビジネスオブジェクトのインスタンスの識別子が源泉システムと中央で異なる場合に、その識別子どうしを結ぶ。バリュー・マッピング(Code Mapping) は、源泉システムごとに設定が異なるためにカスタマイジングのコード値が一致しない場合に、その値どうしを結ぶ。後者はフィールド単位で設定し、対象となる各グローバルデータ型についてList ID、List Agency ID、List Version IDを源泉システムごとに指定する。この作業は一度で終わらない。源泉側で新しい得意先が登録されるたび、新しい勘定科目が作られるたびに発生する。

初期の一括作成については、Master Data Governance, Consolidationを使う道がある。SAPの説明では、各源泉システムの既存マスタを分析し、設定可能なルールに基づいて、どのマスタをどのマスタに対応付けるべきかの提案を出せる。 対象は得意先、仕入先、ビジネスパートナー、品目で、プロジェクト単位で独自オブジェクトに拡張できる。しきい値を使って重複可能性の高いものを自動処理し、それ以外の提案は手動で処理する。 そして特定された対応関係がキー・マッピングのテーブルへ移され、中央で使う「ゴールデン」なマスタレコードが作られる。

ここで決めるべきは、技術ではなく担当である。新しいコードが源泉側で生まれたとき、誰が何営業日以内に中央のマッピングを更新するのか。 更新されなければ、その伝票はエラーとして止まる。止まったエラーを誰が見るかが決まっていない会社では、月末に数百件のエラーが溜まった状態で締めを迎える。

細かいが効く制約も一つ挙げておく。SAPは、Clearing Transfer、Central Tax、Central Paymentといったいくつかのシナリオでは、Central Finance側の通貨の小数桁を源泉システムより少なくすることを許容しないとし、継続複製を開始した後で小数桁を減らすとエラーになると注意している。通貨の設定は、後から足せない類の設計である。

ずれる前提で作られていることは、製品の側が示している

導入後に必ず来る問いがある。源泉システムの残高と中央の残高が合わない、どちらが正しいのか。

この問いに対する答えは、SAPが用意している比較レポートの一覧そのものである。財務会計側に 仕訳計上件数の比較(FINS_CFIN_DFV_FI_NUM)、選択した総勘定元帳勘定と伝票番号についてFI明細の合計金額が一致するかの比較(FINS_CFIN_DFV_FI_DOC)、勘定ごとの借方・貸方金額が一致するかの比較(FINS_CFIN_DFV_FI_BAL)、未決済明細管理における消込ステータスが一致するかの比較(FINS_CFIN_DFV_CLR) があり、管理会計側に CO文書の件数(FINS_CFIN_DFV_CO_NUM)、原価要素別の明細(FINS_CFIN_DFV_CO_DOC)、原価要素別の残高(FINS_CFIN_DFV_CO_BAL) がある。FIとCOで七本である。 これに加えて、受注伝票・得意先請求書・仕入先請求書・購買伝票について、Accounting View of Logistics Informationの比較レポートが四本ある。

製品がここまで比較の手段を揃えているという事実は、ずれることが前提だという意味である。 誰かの実装が下手だからずれるのではない。マッピングの更新漏れ、源泉側の後追い訂正、複製の遅延といった原因で、日常的にずれる。だから運用設計に必要なのは「ずらさない仕組み」ではなく「いつ、どのレポートで比べ、差が出た日に誰が直すか」である。

Central Financeの運用が荒れる会社と回る会社の差は、この一点に出る。
BEFORE
どちらが正しいかを毎月探す
残高が合わないと分かってから原因を追う。担当者の勘と手作業の突合になり、締めのたびに数日が溶ける。翌月も同じことをする
AFTER
どこで比べるかを先に決めておく
件数・明細・残高・消込ステータスの比較レポートを締めのタスクに組み込み、差が出た当日に誰が直すかを役割として置く
SAPが比較レポートを七本用意していること自体が、ずれる前提の設計だという意味である。

Central Paymentを入れた瞬間に、原本の重心が動く

Central Financeを「見るための写し」に留めるか、支払まで中央で行うかは、まったく別の意思決定である。

SAPの説明によれば、Central Paymentを特定の会社コードについて有効化すると、その会社コードのすべての得意先勘定・仕入先勘定の未決済明細処理が、完全にCentral Financeシステムへ移る。 そして得意先・仕入先の未決済明細に基づく後続処理はすべて、Central Financeシステムで行わなければならない。 仕訳が複製されると、源泉システム側の得意先・仕入先の未決済明細は自動的に技術的消込(technically cleared)される。 なお、SAP S/4HANA 2022以降は、会社コードのうち グループ間のAP/AR明細だけ を対象にCentral Paymentを有効化することもできる。

有効化の前に押さえる制約は多い。SAPは前提として、適切な有効化スコープの指定、月末または年度末の決算処理を終えた後にカットオーバー日を計画すること、源泉徴収税の累積期間、Central Payment有効化前の税整合性チェックの有効化、過去の未決済明細に関する後続処理、そしてSAP Application Interface Framework(AIF)に滞留しているエラーメッセージをすべて処理すること を挙げる。有効化の手順としても、Clearing Transferシナリオの有効化が前提であり、トランザクション FINS_CFIN_CC で整合性チェックを実行して不整合を修正し、Cross-System Process Control(CSPC)を有効化してからCentral Paymentを有効化するという順序が定められている。

最も実害が出やすいのが、過去の未決済明細である。SAPの定義では、Central Payment有効化より前に源泉システムで作成され、源泉側で消込済とされないまま複製された未決済明細がこれにあたり、源泉システムとCentral Financeシステムの両方で未決済のまま存在する。 対象となるのは債権、債務、現金割引清算勘定、未払税金勘定、銀行清算勘定、クレジットカード清算勘定である。SAPはこれについて「これらの過去の未決済明細の二重支払を避けるため」に、源泉システムで技術的消込としたうえで、消込と支払をCentral Financeシステムのみで行う必要があると書いている。 二重支払という言葉が、製品文書に明示されている。

そして機能制限が残っている。SAPは、Central Payment for SAP Central Financeが機能制限付きでリリースされており、制限はSAP Note 2827364に記載されているとし、本番利用の前に制限を完全に理解し、十分にテストすることを求めている。加えて、Central Tax Reportingがサポートされている国の会社コードについてのみCentral Paymentを有効化することを推奨し、特定の国では税務報告と税務処理に追加の制限があるとしてSAP Note 3290988を参照させている。日本を含め、自社の対象国がここに当たるかどうかは、構想段階ではなく採否の段階で確認する項目である。

決めるのは三つ

第一に、この仕組みで何を得たいのかを一行に絞る。 グループ横断で同じ勘定科目と分析軸の数字を見たいのか、法人単位の決算を中央で組みたいのか。前者なら、転送されないもの(繰返し伝票、記帳指図、保留伝票、残高繰越明細、各国の期末決算処理、長文テキストと添付、補助テーブルの取引データ)はほとんど支障にならない。後者を狙うなら、来ないものを中央でどう作るかという設計が別途必要になる。 そして目的が広がるほど、この選択肢は全面移行に近づき、費用も工期も全面移行に近づく。狭いままにできるかどうかが、採否の実質である。

第二に、会計帳簿の原本をどちらに置くかを、導入前に文書で決める。 会社法第432条第2項は会計帳簿の閉鎖の時から十年間の保存を求めており、保存対象が源泉側なのか中央側なのかは会社が決めるべき事項である。あわせて、外部採番の文書タイプが中央で内部採番に置換されうること、Document Relationship Browserによる元伝票への遡及が源泉システムがSAPである場合に限られることを、監査対応の前提として整理しておく。非SAPの子会社を接続した部分は、明細の裏取りが現地依存になる。

第三に、マッピングの保守と突合を、恒久的な業務として人に割り付ける。 キー・マッピングとバリュー・マッピングは源泉側でコードが増えるたびに発生し、更新されなければ伝票はAIFで止まる。突合は、財務会計四本と管理会計三本の比較レポートを締めのタスクに組み込み、差が出た日に誰が直すかまで決める。Central Paymentまで進むなら、決算処理を終えた後のカットオーバー、税整合性チェックとCSPCの有効化順序、そして過去の未決済明細の技術的消込を、二重支払を避けるための手順として先に固める。

現場では
売上高1,920億円の機械メーカーで、国内外に事業会社が十二社ある。基幹システムはSAP ERP 6.0が四社、S/4HANAが二社、国産の会計パッケージが三社、残る三社は現地の非SAP ERPという構成で、連結の数字は各社から送られてくるパッケージを経理部が加工して作っていた。月次の連結が固まるのが第十営業日で、事業部別の採算に至っては四半期に一度しか出ていない。 全社をS/4HANAへ寄せる構想は三年連続で役員会に上がり、三年連続で保留になっている。着手はCentral Financeの検証からだった。ただし最初に決めたのは技術ではなく、目的の一行である。「グループ横断で、同じ勘定科目と同じ利益センタの定義で、月次の数字を第五営業日に見る」。 法人単位の決算と申告は源泉システムに残す、と明記した。これにより、繰返し伝票も残高繰越明細も各国の期末決算処理も中央には要らない、という整理が同時に決まっている。この一行を決めたことで、その後の議論から「中央でも決算を組めるようにしておこう」という要望が消えた。 次に、会計帳簿の原本を源泉システム側とし、中央は分析用の写しであると文書化して監査法人に事前説明している。ここで一点だけ指摘を受けた。非SAPの三社については、中央の伝票から元の受注伝票へ遡れないため、明細レベルの検証手続は従来どおり現地で行う必要がある、という点である。 マッピングは検討時の最大の誤算になった。当初は初期構築のタスクとして工数を見ていたが、洗い出してみると、四社のSAP ERPだけで勘定科目が延べ3,100件、うち中央の統一科目へ一対一で対応するのは1,840件、残りは統合か分割を要した。得意先マスタは重複を含めて延べ2万件を超えている。Master Data Governance, Consolidationのしきい値による自動処理で候補の約七割が確定し、残りは手動で処理した。この作業だけで四か月かかっている。 稼働後は、経理部の中に「中央側の担当」を一名専任で置いた。仕事は二つで、源泉側で新設されたコードのマッピング更新と、AIFに滞留したエラーの処理である。稼働一年目の月平均エラー件数は220件、二年目は61件まで下がった。減った分の大半は、源泉側のマスタ登録手順に「中央のコード対応を同時に申請する」という一手順を足したことによる。 突合は締めのタスクリストに組み込んだ。第一営業日に仕訳件数と勘定残高、第二営業日に消込ステータスと原価要素残高を比較レポートで見る。差が出た場合の一次対応者は中央側の担当、判断者は経理課長と決めている。Central Paymentは、検討はしたが見送った。 理由は二つで、支払を中央に寄せる業務上の必要がまだないこと、そして機能制限と国別の税務上の制限を確認する工数が、当面の便益に見合わなかったことである。経理担当役員の総括はこうである。全面移行を待っていたら、いまも第十営業日のままだった。ただし、これで移行が要らなくなったわけではない。要らなくなったのは、移行が終わるまで数字を諦めるという前提のほうである。
まとめ
Central Financeは全面移行の縮小版ではなく、原本を動かさずに写しを一つ作るという別種の意思決定である。SAPの説明によれば、SAP Landscape Transformation Replication Server(SLT)が源泉システムのデータベースに書き込まれたデータを収集して対応するCentral Financeの会計インタフェースへ流し込み、会計インタフェースはFI/CO文書をユニバーサル・ジャーナルとしてSAP HANAへ転記する。源泉システムとして接続できるのはSAP S/4HANA、保守期間内にあるSAP ERP 6.0以降、SAP S/4HANA Finance 1511以降、SAP S/4HANA Cloud、および第三者システムであり、FIデータの初期ロードはCentral Finance側のカスタマイジングで管理し、CO内部転記とコストオブジェクトの初期ロードはSLTが担う。マスタの対応付けについてSAPは、MDGを使用していない場合でもバックグラウンドでMDGのマッピングテーブルを使用し、これにはMDGライセンスを必要としないと明記しており、ライセンスが要るのはMDGアプリケーションを使う場合だけである。技術的な入口は低いが、低いのは入口だけである。転送から除外される転記としてSAPは、CO-FI照合元帳への転記、参照トランザクションがGLYECである年度末決算転記、繰返し伝票、サンプル伝票、前受金要求と支払要求を除く記帳指図、保留伝票、残高繰越明細、各国の期末に行われる決算処理を挙げ、消込と消込取消は初期ロードでは転送されず継続複製での転送を有効化できるとする。加えて、ヘッダとアイテムの双方の長文テキストと添付は作成時にも変更時にも複製されず、源泉システムの補助テーブルに保持されている取引データも複製されないため、ブラジルのNota Fiscalのようにその補助データに依存する処理はサポートされない。源泉システムでALE経由で作成された文書も正しく複製できない。中央に集まるのは仕訳とその金額であって、経理が普段見ている一式ではない。したがって目的を「グループ横断で同じ勘定科目と分析軸の数字を見る」ことに絞れるかどうかが、この選択肢の実質である。原本の所在は導入前に決める必要がある。会社法第432条第1項は法務省令で定めるところにより適時に正確な会計帳簿を作成することを求め、同条第2項は会計帳簿の閉鎖の時から十年間その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存することを求めており、十年間保存する対象がどちらの側かを決めておかなければ監査対応で答えに詰まる。文書番号についても、元の文書タイプが外部採番の番号範囲を持つ場合には内部採番の文書タイプへ置換する設定があり、反対仕訳と再転記、初期ロード、消込済明細の欠落分の再転記で効く。伝票の遡及についてSAPは、取引に関連するすべてのビジネス文書がDocument Relationship Browserで利用できるのは源泉システムがSAPシステムである場合に限ると注記しており、非SAPの子会社を接続した部分では明細の裏取りが現地依存になる。運用費用の中心はマッピングの保守である。総勘定元帳勘定・得意先・仕入先といったマスタはカスタマイジングの一部として手作業で、またはSAP MDGを使って対応付け、製造指図や内部指図のようなコストオブジェクトはコストオブジェクト・マッピング・フレームワークを使う。対応付けは、識別子どうしを結ぶキー・マッピングと、カスタマイジングのコード値どうしを結ぶバリュー・マッピングの二層で、後者はフィールド単位で設定しグローバルデータ型ごとにList ID・List Agency ID・List Version IDを源泉システムごとに指定する。初期の一括作成にはMaster Data Governance, Consolidationが使え、得意先・仕入先・ビジネスパートナー・品目について設定可能なルールに基づく対応付けの提案を出し、しきい値により重複可能性の高いものを自動処理して残りを手動で処理し、確定した対応関係をキー・マッピングのテーブルへ移してゴールデンなマスタレコードを作る。通貨については、Clearing Transfer、Central Tax、Central Paymentといったシナリオで中央側の小数桁を源泉より少なくすることが許容されず、継続複製の開始後に小数桁を減らすとエラーになる。源泉と中央がずれることは製品の側が前提としている。財務会計には仕訳計上件数、総勘定元帳勘定と伝票番号別のFI明細合計、勘定別の借方・貸方残高、消込ステータスの四本の比較レポート(FINS_CFIN_DFV_FI_NUM、FI_DOC、FI_BAL、CLR)があり、管理会計にはCO文書件数、原価要素別明細、原価要素別残高の三本(CO_NUM、CO_DOC、CO_BAL)がある。必要なのはずらさない仕組みではなく、いつどのレポートで比べ差が出た日に誰が直すかである。Central Paymentは別の意思決定になる。特定の会社コードについて有効化すると、その会社コードのすべての得意先勘定・仕入先勘定の未決済明細処理が完全にCentral Financeシステムへ移り、未決済明細に基づく後続処理はすべて中央で行うことになる。仕訳の複製に伴い源泉側の未決済明細は自動的に技術的消込され、SAP S/4HANA 2022以降はグループ間のAP/AR明細だけを対象に有効化することもできる。前提としてSAPは、適切な有効化スコープの指定、決算処理を終えた後のカットオーバー日の計画、源泉徴収税の累積期間、税整合性チェックの事前有効化、過去の未決済明細に関する後続処理、AIFに滞留したエラーメッセージの処理を挙げ、手順としてClearing Transferシナリオの有効化を前提としたうえで、FINS_CFIN_CCによる整合性チェックとCross-System Process Controlの有効化を経てCentral Paymentを有効化するとしている。過去の未決済明細は源泉と中央の双方で未決済のまま残るため、SAPは二重支払を避けるために源泉側で技術的消込としたうえで消込と支払を中央のみで行うことを求めている。さらにCentral Paymentは機能制限付きでリリースされており、制限はSAP Note 2827364に、国別の税務上の追加制限はSAP Note 3290988に記載されている。

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