期末が近づくと、営業が値引きをしてでも受注を取ってくる。売上目標は達成し、報酬も満額出る。同じ月の損益計算書では、粗利率が前年から二ポイント落ちている。 営業本部長に確認すると、市況が厳しいという説明が返ってくる。市況は厳しいのだろう。ただし、この会社の報酬の計算式では、営業が値引きを一円する費用がゼロである。 費用がゼロのものは使われる。これは姿勢の問題ではなく、計算式が値引きを無料にしているという設計の問題である。

POINT
売上連動の報酬を式に開くと、支給額=売上高×料率 になる。この式には、値引きが一度も現れない。 百万円の商品を九十万円で売れば売上は九十万円になり、支給額は十万円ぶんの料率だけ減る。料率が売上高の1%なら、営業が負担しているのは値引き十万円のうち 千円 である。残りの九万九千円は会社が負担している。値引きの決裁権限を営業に渡しながら、値引きの原資は会社が持っているという構造になっている。 これを貢献利益連動に変えると、式は 支給額=貢献利益×料率 になる。粗利率30%の商材で支給総額を同水準に保つには料率は3%前後になり、値引き十万円は貢献利益を十万円減らすので、営業の負担は三千円になる。負担は三倍になるが、それでも三千円である。 報酬の設計で値引きを止められると考えるのは過大な期待で、狙いは止めることではなく 順位を変えることにある。 売上連動では、値引きして数字を作る営業と、価格を守って数字を作る営業が同じ順位に並ぶ。貢献利益連動では並ばない。そして、この式に載せる数字は、会計上のネット売上と同じ定義でなければならない。 収益認識会計基準は 「顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額する」(第63項)と定めており、会計側ではリベートも販売奨励金も既に売上から落ちている。落ちていないのは、報酬の計算式だけである。

会計側では、値引きもリベートも既に売上から落ちている

報酬の設計に入る前に、会計側の定義を確認する。社内の管理数値を作り直す必要はなく、会計基準の定義をそのまま使えばよい場面が多い。

収益認識会計基準の適用指針は、変動対価が含まれる取引の例として、「値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等」(第23項)を挙げる。営業が実務上「販促費」と呼んでいるものの大半が、ここに入る。 そして基準第63項は、顧客に支払われる対価を、別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き取引価格から減額するとし、第64項は減額の時期について、関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時と、企業が対価を支払うか又は支払を約束する時いずれか遅い方が発生した時点で収益を減額するとしている。支払の約束には、将来の事象を条件とする場合や、取引慣行に基づくものも含まれる。

つまり、期末に「慣行として」支払っているリベートは、会計上は取引慣行に基づく約束として売上から落ちている。 一方で報酬の計算式は、多くの会社で総売上、よくても値引き後の売上までで止まっている。同じ取引について、会社の損益計算書と営業の成績表が別の数字を使っている状態である値引き・リベート・販促費の管理:ネット売上で見ないと顧客別の採算は読めない)。

貢献利益をどこまで引くか

次に、貢献利益の範囲を決める。原則は一つで、営業が動かせる変数だけを引くことである。

報酬の計算式に載せる貢献利益は、会計の限界利益と一致しなくてよい。基準は営業が動かせるかどうかである。
ネット売上
総売上から値引き、リベート、販売奨励金を引いた額。収益認識会計基準の取引価格と定義を揃える
変動製造原価
材料費と外注加工費。標準原価で構わない。実際原価との差異は営業に負わせない
受注条件に紐づく販売費
販売手数料、個別の運賃、短納期対応の追加費用、専用仕様の追加費用
=
報酬の対象とする貢献利益
営業が交渉と設計で動かせる範囲に限る
固定費の配賦、共通販管費、為替、全社の値上げ交渉の結果は、この式に入れない。

入れてはならないものが二つある。 一つは、営業が動かせない費用である。本社の固定費配賦、為替、原材料市況、工場の操業度差異。これらを入れると、報酬が努力と無関係に動き、制度への信頼が失われる。もう一つは、確定が遅い費用である。詳細な物流実績や年度末に確定するリベートを入れると、報酬の確定が三か月遅れる。遅れた報酬は行動を変えない。

このため、実務では 標準原価と概算の販売費で貢献利益を作り、確定値との差は会社が持つ という割り切りをすることが多い。会計上の限界利益と一致しなくてよい(貢献利益と限界利益で考える採算管理:固定費の壁をどう越えるか)。制度の目的は原価の正確な把握ではなく、順位を変えることだからである。

本人が月次で見られなければ、行動は変わらない

制度が失敗する最も多い原因は、設計の粗さではなく 見えないこと である。

営業担当者が自分の貢献利益を見られるのは、いつか。多くの会社では、月次決算が締まり、部門別の配賦が終わり、翌月の半ばに部長の手元に一覧が届く。担当者本人には届かない。 届いても、案件単位ではなく担当者合計の一行である。この状態で「今期から貢献利益で評価する」と言われた営業は、見積書を書くときに何を見ればよいか分からない。

必要なのは、月次の一覧ではなく 見積時点の表示 である。見積書の作成画面か、営業が使っている表計算のひな型に、その条件で受注した場合の貢献利益と貢献利益率 が出るようにする。標準原価と概算の販売費を使えば、受注前に出せる。値引き欄に数字を入れた瞬間に貢献利益率が落ちるのが見えるかどうかで、値引きの意思決定は変わる。

そのうえで、月次の実績は速報値で確定させる。確定値との差を翌月に精算する運用は避ける。 精算を始めると、担当者は自分の数字を信じなくなり、制度への関心を失う。差額は会社が持ち、年度末に制度全体の水準を見直す材料にする。指標の定義そのものも、営業と経理で同じ辞書を持たないと運用中にずれていく(グループでKPIの定義がずれる|同じ名前の指標が別物を指したまま会議が進む状態を止める)。

返品と事後値引きの戻し方を、先に決める

貢献利益連動にすると、売上連動では顕在化しなかった論点が出てくる。支給した後で、対象の取引が変わる場合である。

会計側は自動的に戻る。収益認識会計基準は、顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、企業が権利を得ると見込まない額について返金負債を認識するとし、返金負債の額は各決算日に見直すと定める(第53項)。返品権付きの販売については、適用指針が、返品されると見込まれる商品又は製品については収益を認識せず、受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識し、返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識するとし(第85項)、販売後、各決算日に、企業が権利を得ると見込む対価及び返金負債の額を見直し、認識した収益の額を変更する(第87項)としている。見積った取引価格そのものについても、各決算日に見直す(基準第55項)。

会計は各決算日に戻る。報酬は戻らない。 ここに設計上の穴が空く。返品率の高い商材、年度末に確定するリベート、検収が翌期にずれる案件では、支給済みの報酬と最終的な貢献利益がずれる。

戻し方は三つしかない。第一が 支給済みの報酬を返還させる。第二が 将来の支給から相殺する。第三が そもそも確定するまで支給を留保する実務で最も安全なのは第三で、第一と第二には労働法上の制約が正面から当たる。

労務の制約を、制度設計の前に確認する

ここが、経営管理の側から見落とされやすい部分である。報酬の設計は、管理会計の論点であると同時に労務の論点である。

第一に、支給の周期が人件費の総額を動かす。 労働基準法第37条第5項は、割増賃金の基礎となる賃金に、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しないと定める。その厚生労働省令が労働基準法施行規則第21条で、家族手当および通勤手当のほか、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を挙げている。この列挙は限定である。 したがって毎月支給するインセンティブは、原則としてこの除外に当たらず、割増賃金の基礎に入る。逆に、実態として一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金であれば、除外の対象になり得る。毎月払いにするか四半期払いにするかは、動機づけの速さの話であると同時に、割増賃金の単価の話である。 制度設計の初期にここを確認しないと、稼働後に人件費が想定を超える。

第二に、歩合の性格を持たせると割増賃金の計算方法が変わる。 労働基準法施行規則第19条第1項は、通常の労働時間の賃金の計算額の求め方を賃金の定め方ごとに規定しており、月によって定められた賃金については 月における所定労働時間数で除すと定める(第4号)のに対し、出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額とする(第6号)。分母が所定労働時間数ではなく総労働時間数である。 さらに労働基準法第27条は、出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならないと定める。固定給を薄くして歩合を厚くする設計には、この保障給の要請がかかる。

第三に、返還と相殺は賃金の全額払いに当たる。 労働基準法第24条は、賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないとし、控除ができるのは法令に別段の定めがある場合か、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合に限られる。支給済みのインセンティブを翌月の給与から差し引く運用は、この協定の有無を確認せずには組めない。

第四に、返品時の戻しを「制裁」として組まない。 労働基準法第91条は、就業規則で減給の制裁を定める場合、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならないと定める。返品が発生したから報酬を減らす、という組み方をすると、この枠の中でしか動かせない可能性が出る。設計として筋がよいのは、減額の規定を置くことではなく、支給の要件そのものを「確定した貢献利益に対して支給する」と定めておくことである。 前者は成立した報酬を後から削る話になり、後者はそもそも支給要件を満たしていないという話になる。どちらに当たるかは支給要件の書き方で決まるため、就業規則および賃金規程の条文は、社会保険労務士または弁護士の確認を経てから確定させる。

第五に、既存制度からの変更は不利益変更になり得る。 労働契約法第9条は、使用者は労働者と合意することなく就業規則を変更することにより労働者の不利益に労働条件を変更することはできないとし、同法第10条が例外として、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が 労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情 に照らして合理的である場合に、労働条件が変更後の就業規則によるとしている。売上連動から貢献利益連動への切替は、貢献利益率の低い商材を担当する営業にとって明確な不利益である。 移行の設計そのものが、この合理性の判断材料になる。

移行には、上限と下限を付けて二期かける

以上を踏まえると、切替の仕方はほぼ決まる。一期で全額を切り替えない。

初年度は、旧制度と新制度の両方で支給額を計算し、新制度の額が旧制度の額を下回る場合の下限と、上回る場合の上限を設ける。下限は不利益の程度を抑えるために、上限は制度の初年度に想定外の支給が出ないために置く。二年目に幅を広げ、三年目で完全移行する。この二期の間に、貢献利益の数字が実際に見積時点で見られているか、月次の速報値が担当者に届いているかを確認する。 届いていない状態で本格移行すると、営業は自分が評価される数字を知らないまま評価されることになる。

あわせて、貢献利益率の低い商材を担当する営業の扱いを決めておく。商材のミックスは営業が選んだものではない。 担当替えや新規開拓の割当が原因で貢献利益率が構造的に低い担当者には、料率を商材群ごとに変えるか、成長率など別の指標を組み合わせる。同じ料率を全社一律で当てると、儲かる商材の担当だけが報われる制度になり、二年目に人が動く。

現場では
売上高290億円の電子部品商社で、営業のインセンティブは長く売上高連動だった。料率は等級により売上高の0.5%から1.0%で、四半期末の月に受注が集中する。CFOが過去三期の受注データを分析したところ、四半期末の各月に成立した案件の平均値引率が、それ以外の月より4.1ポイント高かった。 金額に直すと、四半期末の月に発生した値引き超過分は年間で約3億9千万円になる。同じ期間に支払ったインセンティブの総額は約2億円だったので、制度が生み出した値引きは、制度の支給総額の二倍近くあった。 移行の設計で最初に確認したのは労務である。既存のインセンティブは毎月払いで、労働基準法施行規則第21条の除外に当たらないため割増賃金の基礎に入っていた。制度を厚くすると割増賃金の単価も上がる。検討の結果、月次の支給は残高の一部にとどめ、確定分を四半期ごとに支給する二階建てに変えている。返品と事後値引きの扱いも、返還や相殺ではなく 支給の要件そのものを「確定した貢献利益に対して支給する」と定める方向で整理した。労働基準法第24条の全額払いに触れる相殺を避けるためで、条文は社会保険労務士の確認を経ている。次に着手したのが見える化である。それまで営業担当者が自分の粗利を見られるのは、月次締めから十二営業日後に部長へ配布される一覧だけだった。見積書のひな型に標準原価と概算の販売費を組み込み、値引き欄に入力した時点で貢献利益率が表示されるようにしている。この一つの変更で、制度の切替前から四半期末の月の平均値引率が1.7ポイント下がった。 報酬が変わる前に、見えるようになっただけで動いている。移行は二期に分け、初年度は旧制度比で下限を95%、上限を115%に設定した。二年目に下限を85%、上限を130%へ広げ、三年目に撤廃している。制度の対象とする貢献利益は、ネット売上から標準の仕入原価と、販売手数料および個別に発生する運賃を引いたところまでとした。本社費の配賦と為替の影響は入れていない。 三年目の実績では、四半期末の月の平均値引率は制度変更前より5.3ポイント低く、売上高は前年比でほぼ横ばい、売上総利益は6.8%増えている。営業本部長の総括が残っている。値引きをするなと言い続けた三年より、見積書に一行足した半年のほうが効いた、と。

決めるのは三つ

第一に、報酬の計算式の起点を、会計のネット売上に揃える。 収益認識会計基準第63項は、顧客に支払われる対価を、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き取引価格から減額するとし、第64項は減額の時期を、関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時と、企業が対価を支払うか又は支払を約束する時のいずれか遅い方としている。支払の約束には将来の事象を条件とする場合や取引慣行に基づくものも含まれる。適用指針第23項は、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等や返品権付きの販売を変動対価の例として挙げる。会計側では既に売上から落ちているものが、報酬の計算式にだけ落ちていない。 貢献利益から引く範囲は、営業が交渉と設計で動かせるものに限り、本社費の配賦、為替、操業度差異は入れない。

第二に、見積時点で見えるようにする。 制度が失敗する最大の原因は設計の粗さではなく見えないことであり、月次の一覧が翌月半ばに部長へ届くだけでは行動は変わらない。見積書のひな型に標準原価と概算の販売費を組み込み、値引き欄に入力した瞬間に貢献利益率が動く状態を作る。月次の実績は速報値で確定させ、確定値との差は会社が持つ。翌月に精算を始めると、担当者は自分の数字を信じなくなる。

第三に、労務の制約を制度設計の前に確認する。 労働基準法施行規則第21条が割増賃金の基礎から除外するのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の限定列挙であり、毎月支給のインセンティブは原則としてこの除外に当たらない。 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の割増賃金は、同規則第19条第1項第6号により賃金算定期間の総労働時間数で除して計算され、月給の所定労働時間数とは分母が違う。労働基準法第27条は出来高払制の保障給を求め、第24条の全額払いにより支給済み報酬の相殺には労使協定を要し、第91条は減給の制裁に上限を置く。返品時の戻しは、減額の規定ではなく支給要件の書き方で設計する。 そして労働契約法第9条および第10条により、既存制度からの切替は不利益変更の合理性を問われる。移行は上限と下限を付けて二期かける。

まとめ
売上連動のインセンティブでは、支給額が売上高に料率を乗じた額になるため、値引き一円あたりの営業側の負担が料率分にしかならず、値引きの決裁権限を渡しながら値引きの原資は会社が持つという構造になる。貢献利益連動に変えても値引きが止まるわけではないが、値引きして数字を作る営業と価格を守って数字を作る営業が同じ順位に並ばなくなる。この式に載せる数字は会計のネット売上と定義を揃える。収益認識会計基準第63項は、顧客に支払われる対価を、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き取引価格から減額するとし、第64項は減額の時期を、関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時と、企業が対価を支払うか又は支払を約束する時のいずれか遅い方が発生した時点としており、支払の約束には将来の事象を条件とする場合や取引慣行に基づくものも含まれる。適用指針第23項は変動対価が含まれる取引の例として、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や返品権付きの販売等を挙げている。したがって期末に慣行として支払っているリベートも会計上は既に売上から落ちており、落ちていないのは報酬の計算式だけである。報酬の対象とする貢献利益は、ネット売上から変動製造原価と受注条件に紐づく販売費を引いた範囲に限り、本社の固定費配賦、為替、原材料市況、操業度差異のように営業が動かせないものと、詳細な物流実績や年度末に確定するリベートのように確定が遅いものは入れない。会計上の限界利益と一致させる必要はなく、標準原価と概算の販売費で作り、確定値との差は会社が持つ。制度が失敗する最も多い原因は設計の粗さではなく見えないことである。月次の一覧が締めから十日以上経って部長に届くだけでは行動は変わらないため、見積書の作成画面か営業が使うひな型に、その条件で受注した場合の貢献利益と貢献利益率を表示させる。値引き欄に入力した瞬間に貢献利益率が落ちるのが見えるかどうかで意思決定が変わる。月次実績は速報値で確定させ、確定値との差を翌月に精算する運用は避ける。次に、支給後に対象取引が変わる場合の戻し方を先に決める。会計側は自動的に戻り、基準第53項は返金すると見込む場合に企業が権利を得ると見込まない額について返金負債を認識し返金負債の額を各決算日に見直すとし、第55項は見積った取引価格を各決算日に見直すとする。適用指針第85項は返品されると見込まれる商品又は製品について収益を認識せず対価の額で返金負債を認識し、返金負債の決済時に商品又は製品を回収する権利について資産を認識するとし、第87項は販売後、各決算日に権利を得ると見込む対価および返金負債の額を見直して認識した収益の額を変更するとしている。会計は各決算日に戻るが報酬は戻らない。戻し方は返還、将来支給からの相殺、確定までの支給留保の三つで、実務上安全なのは三つ目である。労務の制約は制度設計の前に確認する。労働基準法第37条第5項は割増賃金の基礎となる賃金に家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金を算入しないとし、労働基準法施行規則第21条は家族手当および通勤手当のほか、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を挙げる限定列挙であるため、毎月支給のインセンティブは原則として除外に当たらず割増賃金の基礎に入る。同規則第19条第1項は、月によって定められた賃金を月における所定労働時間数で除すのに対し(第4号)、出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除すと定める(第6号)。労働基準法第27条は出来高払制その他の請負制で使用する労働者について労働時間に応じ一定額の賃金の保障を求める。同法第24条は賃金の通貨払い、直接払い、全額払いを定め、控除は法令に別段の定めがある場合か、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合に限られるため、支給済みインセンティブを翌月の給与から差し引く運用は協定の有無を確認せずには組めない。同法第91条は、就業規則で減給の制裁を定める場合、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならないとしており、返品時の戻しを制裁として組むとこの枠に入る可能性がある。設計としては、減額の規定を置くのではなく、支給の要件そのものを確定した貢献利益に対して支給すると定めるほうが筋がよい。どちらに当たるかは支給要件の書き方で決まるため、就業規則および賃金規程の条文は社会保険労務士または弁護士の確認を経て確定させる。既存制度からの切替については、労働契約法第9条が労働者と合意することなく就業規則の変更により不利益に労働条件を変更できないとし、第10条が、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的である場合に限り変更後の就業規則によるとしている。したがって移行は一期で全額を切り替えず、初年度は旧制度と新制度の両方で計算して下限と上限を設け、二年目に幅を広げ、三年目に完全移行する。貢献利益率が構造的に低い商材の担当者については、料率を商材群ごとに変えるか成長率など別の指標を組み合わせる。

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