取締役会の資料に、連結の現金及び預金として一つの数字が載っている。480億円。この数字を見て「手元は厚い」と判断した役員が、翌月に国内の設備投資と借入返済の議論で「資金が足りない」という説明を聞く。 矛盾しているように見えるが、矛盾ではない。480億円のうち相当額が海外子会社の口座にあり、国内へ動かすには税金と手続と時間がかかる。問題は、その相当額がいくらで、動かすといくら目減りするのかを、誰も試算していないことである。
配当が最も税効率がよい、という前提を一度外す
95%益金不算入という言葉の強さから、還流といえば配当、という前提が社内に定着している会社は多い。その前提は、日本側の法人税だけを見れば正しい。現地の源泉税まで含めると、必ずしも正しくない。
構造を並べる。配当を100受け取ったとして、日本側では100から5(法人税法施行令第22条の4第2項の100分の5)を控除した95が益金不算入となり、5だけが課税所得に残る。現地で源泉税が課されていれば、その額は法人税法第39条の2により損金にならない。 そして外国税額控除にも乗らない。法人税法第69条第1項は、控除の対象となる外国法人税の額から、内国法人の法人税に関する法令の規定により法人税が課されないこととなる金額を課税標準として外国法人税に関する法令により課されるものとして政令で定める外国法人税の額を除いている。益金不算入とした部分に課された外国法人税は、控除対象外国法人税の額に入らない。日本の税額は減らない。 つまり源泉税の全額が、そのまま手取りの減少になる。
利息の場合は違う。受取利息は全額が益金に算入され、日本で課税される。その代わり、現地で課された外国法人税は法人税法第69条第1項により、控除限度額を限度として法人税額から控除できる。 控除限度額は、同項および法人税法施行令第142条第1項により、当該事業年度の所得に対する法人税の額に、当該事業年度の所得金額のうちに当該事業年度の調整国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額である。そして同条第3項ただし書は、調整国外所得金額が当該事業年度の所得金額の100分の90に相当する金額を超える場合には、当該100分の90に相当する金額とすると定める。使用料も同じ構造になる。
ただし、利息や使用料なら何でも控除できるわけではない。 同項は控除対象外国法人税の額から、その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める外国法人税の額と、内国法人の通常行われる取引と認められないものとして政令で定める取引に基因して生じた所得に対して課される外国法人税の額も除いている。現地の税率が突出して高い場合や、還流のために組んだだけの取引と見られる場合は、控除の外に落ちる。 経路を選ぶときに確認するのは、条約の限度税率だけではない。
したがって比較の軸は二つになる。現地の源泉税率がいくらか。そして、その源泉税を日本側で吸収できるか。 二つ目の答えは会社の状況で変わる。国外所得の比率が低く、控除限度額に余枠がある会社なら、利息や使用料の源泉税はほぼ全額が日本の税額から引ける。すでに控除限度額を使い切っている会社では、この利点は出ない。 自社がどちらかを知らないまま経路を選ぶのは、比較をしていないのと同じである。
なお、25%という要件には条文上の例外がある。法人税法施行令第22条の4第7項は、租税条約(我が国以外の締約国または締約者の居住者である法人が納付する租税を我が国の租税から控除する定め、すなわち二重課税排除条項があるものに限る)の二重課税排除条項において、同条第1項各号に掲げる割合として100分の25未満の割合が定められている場合には、第1項の「100分の25以上」を「当該租税条約の二重課税排除条項に定める割合以上」と読み替えると定める。25%に届いていないから対象外だと社内で結論している出資先が、条約の側では外国子会社に当たる場合がある。 法人税基本通達3-3-3も、通算法人の判定に関して同趣旨の取扱いを示している。該当しうる国に持分法適用会社がある会社は、条約の本文を一度当ててみる価値がある。
誰の損金になるかで、グループ全体の税負担が変わる
もう一つの軸が、支払う側の扱いである。配当は税引後利益の分配なので、子会社の損金にならない。利息、使用料、役務対価は、要件を満たせば子会社の損金になる。
グループ全体で見ると、この差は小さくない。現地の法人税率が高い国に子会社がある場合、その国で損金になる経路で資金を動かせば、現地の法人税が減る。 配当だけで戻す設計は、現地で法人税を払い切ったうえで、さらに源泉税を落として戻すことになる。
ただし、日本の税法はこの裁定を無制限には認めていない。法人税法第23条の2第2項第1号は、外国子会社から受ける剰余金の配当等の額で、その全部または一部が当該外国子会社の本店または主たる事務所の所在する国または地域の法令において当該外国子会社の所得の金額の計算上損金の額に算入することとされている場合には、益金不算入の規定を適用しないとする。現地で損金になる配当は、日本で益金不算入にならない。 同条第3項は、一部が損金算入されたものである場合に、その損金の額に算入された部分の金額(損金算入対応受取配当等の額)をもって第2項第1号に掲げる配当等の額とすることができるとし、按分を認めている。
損金にできるということは、価格を説明できるということである
利息、使用料、経営指導料を還流の手段として使う場合、最初に検討すべきなのが移転価格の論点である。ここを飛ばして料率を決めると、還流の設計が課税の設計に変わる。
租税特別措置法第66条の4第1項は、法人が国外関連者(いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式または出資の総数または総額の100分の50以上を直接または間接に保有する関係その他政令で定める特殊の関係のある外国法人)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、または支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとみなすと定める。同条第2項は独立企業間価格を、取引の内容および当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に支払われるべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額とする。
そして最も重いのが第3項である。法人が支出した寄附金の額のうち国外関連者に対するものは、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。 対価性を説明できない支払は寄附金と扱われうるが、通常の寄附金のような損金算入限度額の枠すらない。全額が損金不算入になる。
この規定が還流の設計で効くのは、実は逆向きの場面である。 経営指導料を子会社から受け取る、という形は日本側の益金なので寄附金の話ではない。危ないのは、還流のつじつまを合わせるために、親会社側が子会社に対して何らかの経済的利益を無償または低額で提供している場合である。技術支援の対価を取っていない、保証料を取っていない、親会社が負担した費用を請求していない。これらは第3項の対象になりうる。 還流の金額を大きく見せる設計と、親会社が無償で提供しているものの棚卸しは、同時に行う必要がある。
文書化の負担も先に見ておく。同条第6項は、国外関連取引を行った場合に、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類として財務省令で定める書類を、当該事業年度の確定申告書の提出期限までに作成し、または取得し、財務省令で定めるところにより保存しなければならないとしている。同条第7項は、一の国外関連者との間で前事業年度に行った国外関連取引について、支払を受ける対価の額と支払う対価の額の合計額が50億円未満であること、かつ無形資産の譲渡もしくは貸付け(無形資産に係る権利の設定その他他の者に無形資産を使用させる一切の行為を含む)またはこれらに類似する取引についての対価の額の合計額が3億円未満であることのいずれにも該当する場合に、第6項を適用しないとする。
ここが実務で効く。 還流の経路として使用料や役務対価を新設すると、その子会社との取引額が増える。50億円と3億円のどちらかの線を跨いだ翌事業年度から、同時文書化の対象になる。 還流の設計を決める会議で、この二つの金額を並べておく。
戻さないことにも、コストがある
現地に置いたままにする判断も、費用がゼロではない。大きく三つある。
一つ目は為替である。国内で使う予定のない資金を現地通貨で持ち続けることは、そのまま為替エクスポージャーを持ち続けることを意味する。この評価差額は、在外子会社の換算を通じて連結の純資産に出る。 資金の置き場所の決定は、為替方針の一部である。
二つ目は税務上の位置づけである。租税特別措置法第66条の6第5項は、外国関係会社に係る合算課税について、特定外国関係会社は各事業年度の租税負担割合が100分の27以上である場合、対象外国関係会社は租税負担割合が100分の20以上である場合に、第1項の合算課税を適用しないとする。事業実体の乏しい会社に資金を集めるという設計は、この判定の入口に触れる。 資金管理を目的に統括会社を置くこと自体は珍しくないが、置く場所と機能の実質は、税務の側から見られている。
三つ目は、単純に使えないことである。国内で借入をしながら海外に現金を積んでいる状態は、支払利息と受取利息の差だけ毎期の損失になる。 金利のある局面では、この差が無視できない額になる。
決めるのは三つ
第一に、連結の現金を「いま使える金額」で切り分ける。 子会社ごとに、現地で必要な運転資金、法令上の準備金や配当制限、進行中の投資計画に充てる金額を控除して、戻せる金額を出す。この一枚がない状態で、取締役会の資料に連結の現金及び預金の合計だけを載せるのをやめる。 資本コストを議論する会議で、使えない現金が手元流動性として計上され続ける。
第二に、経路ごとの手取りを、日本側の扱いまで含めて試算する。 配当については、法人税法第23条の2第1項と施行令第22条の4により、保有割合または議決権割合が25%以上でその状態が支払義務確定日以前6月以上継続していることを確認したうえで、配当等の額の100分の5を控除した額が益金不算入となる。ただし法人税法第39条の2により、その配当に係る外国源泉税等の額は損金に算入されず、益金不算入である以上外国税額控除にも乗らない。法人税法第69条第1項が控除対象外国法人税の額から除いているものの中に、内国法人の法人税に関する法令の規定により法人税が課されないこととなる金額を課税標準として課される外国法人税の額があるためである。利息と使用料は益金に算入されるため外国法人税が同項の外国税額控除の対象になりうるが、控除限度額は施行令第142条第1項により法人税額に所得金額のうち調整国外所得金額の占める割合を乗じた額で、同条第3項ただし書により調整国外所得金額は所得金額の100分の90が上限となる。加えて同項は、所得に対する負担が高率な部分として政令で定める外国法人税の額と、通常行われる取引と認められないものとして政令で定める取引に基因して生じた所得に対して課される外国法人税の額も控除の対象から除いている。自社の控除限度額に余枠があるかどうかを、経路の選択より先に確認する。 現地の源泉税率については、適用される租税条約の限度税率を条文で確認する。持株割合が25%に満たない先については、法人税法施行令第22条の4第7項が、租税条約の二重課税排除条項において100分の25未満の割合が定められている場合に当該割合以上と読み替える旨を定めている。
第三に、損金になる経路を使うなら、価格の説明を先に用意する。 租税特別措置法第66条の4第1項は国外関連者(発行済株式等の100分の50以上の保有関係等)との取引を独立企業間価格で行われたものとみなし、第2項は最も適切な方法による算定を求め、第3項は国外関連者に対する寄附金を全額損金不算入とする。第6項により、独立企業間価格の算定に必要な書類は確定申告書の提出期限までに作成または取得して保存する。第7項は、一の国外関連者との前事業年度の国外関連取引について対価の額の合計が50億円未満であり、かつ無形資産の譲渡・貸付け等に係る対価の額の合計が3億円未満である場合に第6項を適用しないとしているため、経路を増やして取引額がこの線を越えると、翌事業年度から同時文書化の対象になる。還流の金額から逆算して料率を決めるのではなく、機能とリスクの配置を先に固め、その結果として料率が出る順番にする。 あわせて、親会社が子会社に無償または低額で提供しているものを棚卸しする。
売上高1,340億円の精密機器メーカーで、海外子会社は7社。連結の現金及び預金は480億円あり、うち海外に261億円が滞留していた。きっかけは国内の設備投資で、200億円の投資計画に対して借入を検討していたところ、社外取締役から「海外の現金は使えないのか」と質問が出たことである。 財務部門はその場で答えられず、翌月の取締役会までに一枚の表を作ることになった。作成した表は子会社ごとに四つの列を持つ。現地の現金残高、現地で必要な運転資金、法令上の制限や進行中の投資に拘束される金額、そして差し引きの戻せる金額。261億円のうち、戻せる金額は138億円だった。 拘束されている123億円の内訳は、運転資金が71億円、現地の増設計画に充てる予定が39億円、残りが法令上の制限と現地借入のコベナンツによるものである。この一枚を作った時点で、社内の議論が「現金は潤沢だ」から「138億円をどう戻すか」に変わった。 次に経路別の試算を行った。従来の還流は配当のみで、無配の子会社も三社あった。試算で分かったのは、日本側の控除限度額に相応の余枠があったことである。国外所得の比率が低く、法人税法施行令第142条第3項の100分の90の上限にも当たっていなかった。この余枠があるなら、利息や使用料に課される源泉税は日本の税額から引ける。一方、配当に課される源泉税は法人税法第39条の2により損金にならず、外国税額控除にも乗らないため、そのまま手取りの減少になる。 同じ源泉税率でも経路によって手取りが変わるという事実を、財務部門はこの試算で初めて数字にしている。ただし使用料と経営指導料については、既存の契約が実態と合っていないことが同時に判明した。技術支援については三社と契約書があったが、二社は契約がないまま日本の技術部門が年間で延べ約1,900人日の支援を行っており、対価を請求していなかった。 租税特別措置法第66条の4第3項が国外関連者に対する寄附金を全額損金不算入としていることから、この二社については還流の設計より先に、支援の内容と工数の記録を整備し、機能に見合う対価の算定を行うこととした。同条第6項の書類も、対象取引が増えるぶん作成範囲を広げている。最終的に決めたのは順番である。第一に、親会社からの貸付が残っている二社については元本の回収を先行させる。第二に、実態のある役務提供について対価を適正化し、その回収を通常の商流に乗せる。第三に、残る余剰について配当を行う。配当を最後に置いたのは、有利だからではなく、他の経路で戻し切れない部分の受け皿だからである。 各社の適用条約の限度税率は、経路ごとに条文で確認して表に併記した。実行は二期に分け、初年度に87億円、翌年度に41億円を戻している。CFOの総括はこうである。連結の現金という一つの数字を出し続けていた間、我々は使えない金を手元流動性として数え、その裏で国内の借入を増やしていた。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
外国子会社(原則として25%以上を6月以上保有)からの配当は95%が益金不算入になるが、その配当に課された現地の源泉税は日本で損金にも外国税額控除にもならず、そのまま手取りを減らす。利息やロイヤルティは源泉税を控除限度額の範囲で取り戻せるものの、控除限度額を使い切っている会社ではこの差が出ない。
どの経路が有利かは、現地の源泉税率と日本側で吸収できるかで決まる。子会社ごとに運転資金や法令上の制限を引いた「戻せる金額」を出し、経路別の手取りを試算する。損金になる経路は、料率を還流額から逆算せず、機能とリスクの配置から導く。



