運賃が上がって粗利が落ちました、と月次の会議で報告が出る。CFOが、どの顧客のせいなのかと聞く。答えは返ってこない。 顧客別の採算表には物流費の行があり、そこには売上高で按分した数字が入っている。売上の大きい顧客ほど大きな金額が乗り、小さい顧客ほど小さい金額が乗る。この表は、運賃が上がる前も後も、顧客の順位を一度も変えない。 配賦基準が売上比である限り、物流費が倍になっても採算の順位は動かないからである。

POINT
物流費が顧客別に落ちない理由は、配賦の技術ではなく、費用の置き場所 にある。原価計算基準は、製品原価と期間原価を財務諸表上の収益との対応関係に基づいて区別し、製品原価を一定単位の製品に集計された原価、期間原価を一定期間における発生額を当期の収益に直接対応させて把握した原価 とする。そのうえで販売費および一般管理費の機能別分類として 出荷運送費、倉庫費 などを挙げている。つまり販売物流費は、製品原価計算からは出てこない。 製品別の原価表をいくら精緻にしても、そこに顧客ごとの運賃は乗らない。乗せる場所は顧客別採算のほうしかなく、そこでの配り方が売上比になっている。しかも配る対象の中身が、この二年で変わっている。 国土交通省は令和6年3月に新たな標準的運賃を告示し、運賃水準を8%引き上げるとともに、荷役の対価等を新たに加算 した。待機時間料は 30分を超える場合の1時間当たりの標準的な料金として設定 され、30分以内の待機に係る費用は固定費に算入するとされている。待つこと、降ろすことに値段が付いた。 待たせる顧客と待たせない顧客の差は、いまや運賃の中に金額として存在している。売上比配賦は、その金額を平均に溶かす操作である。

売上比配賦が壊すのは、金額ではなく順位である

配賦の議論はしばしば、精度の話にすり替わる。精度は本題ではない。 顧客別採算で見たいのは絶対額ではなく、どの顧客の採算が悪いかという順位である。

売上比で配ると、物流費は売上に完全に比例する。すると物流費は、粗利率の順位に一切影響を与えない。 売上1億円の顧客に1,000万円、売上1,000万円の顧客に100万円が乗るだけで、率で見れば全顧客が同じ比率を負担する。物流費の行は存在しているのに、意思決定には何も足していない。

実際の物流費は、売上に比例していない。比例しているのは、出荷の回数と、運ぶ重さと距離と、現場で発生する付帯作業の時間 である。小口を毎日引き取る顧客と、月に一度まとめて引き取る顧客では、同じ売上でも出荷回数が二十倍違う。九州の一店舗に個口で送る配送と、関東の物流センターにパレット単位で入れる配送では、一トン当たりの単価が違う。この差は現実に発生していて、支払っている運賃の中に入っている。売上比配賦は、それを均す。

均した結果がどちらに転ぶかも決まっている。小口多頻度で遠い顧客の採算は実際より良く見え、大ロットで近い顧客の採算は実際より悪く見える。 そして値上げ交渉の候補に挙がるのは、表の上で採算が悪い顧客のほうである。交渉すべき相手と、交渉している相手が入れ替わる。

配賦基準を三本に割る

やることは、物流費を一本の行から三本に割ることである。それぞれ、動く要因が違う。

第一が 出荷回数に張り付く費用 である。ピッキング、梱包、送り状の発行、積み込み、そして小口の宅配運賃の基本部分。これらは一件当たりで発生し、金額の大小には連動しない。顧客別に配るなら、基準は出荷件数である。

第二が 重量距離に張り付く費用 である。幹線輸送の運賃、燃料費、車建ての傭車費。これは運ぶ重さと距離の積に近い動きをする。基準は重量距離であって、売上金額ではない。 単価の高い軽い商品と、単価の安い重い商品では、同じ売上でも必要な車両が違う。

第三が 付帯作業に張り付く費用 である。待機時間、荷役、指定納品時刻への対応、検品や棚入れの代行、指定伝票への転記。ここが2024年の運賃改定で、明示的に値段のつく項目に変わった部分である。 標準的運賃では、待機時間料が30分を超える場合の1時間当たりの料金として設定され、荷役の対価等が加算された。待機の長い納品先は、いまや運賃の請求書の上で高い。

三本に割ると、どの部署に何を要求すればよいかが分かれる。第一は受注ロットと出荷頻度の問題で、営業と生産計画が持つ。第二は輸送設計と車両手配の問題で、物流部門が持つ。第三は納品条件の問題で、顧客との契約条件そのものである。 値上げ交渉の材料になるのは主に第三で、最低ロットの設定に効くのは第一である。

物流費を一本の行で持つから、どこを誰に交渉させるかが決まらない。動く要因ごとに三本に割る。
出荷回数費
出荷件数×1件当たり処理費。ピッキング、梱包、送り状、積込み、小口運賃の基本部分。受注ロットと出荷頻度で動く
重量距離費
重量×距離×単価。幹線運賃、燃料費、傭車費。輸送設計と車両手配で動く
付帯作業費
待機時間、荷役、指定時刻対応、検品代行の実績。2024年の標準的運賃で値段のつく項目になった。納品条件の交渉で動く
=
顧客別の物流費
三本とも打ち手を持つ部署が違う
順位が入れ替わるのは、たいてい第一と第三の層である。

「その他物流費」に逃がすと、分解が止まる

三本に割る作業を始めると、必ずどれにも入らない費用が出てくる。倉庫の賃料、在庫の保管費、返品の処理費、緊急出荷の追加運賃。ここで「その他物流費」という第四の箱を作ると、分解はそこで止まる。

保管費は、顧客別に配れない費用ではない。在庫を持たされている理由が顧客側にあるなら、その顧客に配る根拠がある。 短納期を約束している顧客のために積んでいる在庫、専用仕様のために他に転用できない在庫、返品を受け入れる契約のために持っている予備。これらは顧客との契約条件が作っている在庫であって、全社の平均で薄めるべきものではない安全在庫の水準は財務が決める|欠品コストを置かない在庫削減は利益から先に減る)。

返品も同じである。返品の多い顧客は、往路の運賃と復路の運賃と検品の工数を三重に発生させている。返品率が売上の1%であっても、物流コストへの影響は1%では済まない。 顧客別採算で返品を売上のマイナスとしてしか扱っていない会社では、この三重分が全社の物流費に紛れている。

緊急出荷は、最も分けやすく、最も分けられていない費用である。誰の都合で緊急になったかの記録が、出荷指示のどこにも残っていない。 自社の生産遅れなのか、顧客の急な追加なのか。これを一項目つけるだけで、翌期の交渉材料が一本増える。

精度より先に、上位の顧客だけを実額で載せる

分解の話をすると、必ず全顧客分の実績データを揃える構想になり、システム改修の要件が膨らみ、どこにも着地しない。着地させる順序は決まっている。上位から実額、残りは按分でよい。

出荷件数の上位、重量距離の上位、付帯作業の実績が多い上位。この三つの上位を取ると、たいてい二十社前後に収まる。 全社の顧客数が数百社あっても、物流費の大半はこの範囲に集中している。

実額を載せる対象を上位に絞ると、必要なデータも絞れる。運送会社からの請求明細に、届け先と件数と重量が入っていれば足りる。この明細は、たいてい月次で会社に届いている。 届いた明細を金額だけ会計に転記し、届け先の情報を捨てている会社が多い。捨てているだけで、取りに行く必要はない。

そして精度を上げすぎない。顧客別採算の目的は、交渉の順番を決めることであって、原価を一円まで合わせることではないプロダクト別・顧客別の収益性分析:赤字を生む隠れた顧客を見つける)。順位が安定して出る粒度に届いた時点で、いったん止めて交渉に使う。使わずに精度だけ上げた表は、二回目の月次から誰も見なくなる。

物流費の持ち主が、経営側に移る

配賦の設計を急ぐ理由は、社内の管理会計だけの話ではない。物流費の責任者の置き場所が、制度の側から動かされている。

令和8年4月に全面施行された物資の流通の効率化に関する法律は、特定荷主に対して物流統括管理者の選任を義務づけ、その者が担う業務として 中長期的な計画の作成運転者への負荷の軽減および物資の過度な集中の是正のための方針の作成と管理体制の整備 を挙げている。そして同法第47条第2項は、「物流統括管理者は、特定荷主が行う事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者をもって充てなければならない」 と定める。選任および解任は荷主事業所管大臣への届出事項であり、選任しない場合には百万円以下の罰金、届出を怠った場合には二十万円以下の過料が定められている。国土交通省の説明によれば、対象となる特定荷主・特定連鎖化事業者は約3,200社である。

ここで効いてくるのが、担い手が経営幹部だという要件である。 物流の効率化を役員が説明する立場になると、必ず「どの顧客の条件がコストを押し上げているのか」を問われる。売上比で按分した表では、その問いに答えられない。 中長期計画に載せるべき打ち手も、最低ロットの引き上げなのか、納品頻度の見直しなのか、待機の長い納品先の条件変更なのかで、まったく違う話になる。

制度が求めているのは報告書ではなく、運転者への負荷を減らす実際の設計である。 そして負荷は、顧客ごとに偏って発生している。偏りを見えなくする配賦を続けたまま、偏りを是正する計画は書けない。

交渉に持ち込める粒度まで割る

最後に、この分解の出口を決めておく。目的は精緻な採算表ではなく、価格改定と条件変更の交渉である。

交渉のテーブルに出すのは、自社の原価ではない。相手の側の行動が生んでいるコストである。 貴社への出荷は月に何件で、平均ロットは何キロで、納品時の待機は平均何分で、標準的運賃ではその待機に対して30分を超える分の料金が設定されている。この形にすると、相手が検証できる。 検証できる話は、交渉になる。自社の粗利が苦しいという話は、交渉にならない。

そして、交渉が成立しない場合の選択肢も同じ表から出る。最低ロットの設定、配送頻度の上限、納品時間帯の指定、緊急出荷の別建て請求。 値上げが通らないなら条件を変える、条件も変えられないなら取引の量を絞る。三段の選択肢を持って交渉に行くのと、値上げの一択で行くのとでは、着地がまったく違う価格戦略に財務が入る|値上げ判断を勘でなく利益で決める)。

現場では
売上高340億円の日用品メーカーで、物流費が売上高比で前年から1.2ポイント上昇し、営業利益の減少幅のほぼ全額を説明していた。顧客別採算表には物流費の行があったが、配賦基準は売上高按分である。上昇分は全顧客に同じ率で乗り、採算の悪い顧客の顔ぶれは前年と一社も変わらなかった。 CFOがまず出させたのは、運送会社三社からの請求明細である。届け先、出荷件数、重量、そして一部の請求書に含まれていた待機と荷役の付帯料金が、明細としては届いていた。会計側には合計額だけが転記され、明細は各拠点の担当者の手元でファイルされていた。集計してみると、年間の出荷件数は約十一万件。上位20社で売上の46%を占める一方、出荷件数では上位20社が全体の72%を占めていた。 売上構成比と出荷件数構成比が、大きくずれている。ずれの正体は、地方の小規模チェーン向けの小口多頻度の配送だった。三本に割り直した結果、順位が動いている。売上比配賦では下から数えて七番目だった大手量販店向けが十四番目に上がり、代わりに売上比配賦では中位にいた地方チェーン三社が下位五社に入った。この三社は、出荷件数と待機時間の両方で上位に立っていた。 納品先の店舗に荷受けの専任がおらず、待機が常態化していたためである。CFOが打った手は三つある。一つ目は、運送会社の請求明細を届け先単位で会計に取り込む運用に変えたこと。新たにデータを作るのではなく、届いている明細の入力単位を変えただけである。二つ目は、緊急出荷の指示画面に発生理由の選択項目を一つ追加したこと。半年後の集計で、緊急出荷の四割強が自社の生産計画に起因していることが分かり、これは顧客への請求ではなく生産側の改善課題になった。 三つ目は、下位五社について、値上げ、最低ロットの設定、納品時間帯の変更という三段の選択肢を用意して交渉に入ったことである。三社は納品時間帯の変更と最低ロットの引き上げで折り合い、一社は運賃の一部負担を受け入れ、一社は交渉が折り合わず取引量を段階的に絞る判断になった。翌期、物流費の売上高比は0.7ポイント下がっている。経理部長の言葉が残っている。表を細かくしたから通ったのではない。相手の店舗で何分待っているかという話にしたから、担当者が社内に持ち帰れるようになった、と。

決めるのは三つ

第一に、物流費の配賦基準を、出荷回数・重量距離・付帯作業の三本に割る。 原価計算基準は製品原価と期間原価を財務諸表上の収益との対応関係で区別し、販売費および一般管理費の機能別分類として出荷運送費や倉庫費を挙げている。販売物流費は製品原価計算からは出てこないので、乗せる場所は顧客別採算しかない。 そこで売上比を使うと、物流費は粗利率の順位にまったく影響しなくなる。実際に費用を動かしているのは出荷件数と重量距離と付帯作業であり、この三本に割った瞬間に順位が入れ替わる。順位が入れ替わるということは、交渉に行く相手が変わるということである。

第二に、「その他物流費」の箱を作らない。 保管費は、短納期の約束や専用仕様や返品受入といった顧客との契約条件が作っている在庫の費用であり、全社平均で薄めるべきものではない。返品は往路と復路と検品の三重で発生するため、売上のマイナスとしてだけ扱うと物流への影響が消える。緊急出荷は、誰の都合で緊急になったかの記録を出荷指示に一項目足すだけで分解できる。分解が止まるのは、データがないからではなく、逃がす箱を作るからである。

第三に、上位から実額に載せ、残りは按分のまま交渉に出る。 出荷件数の上位、重量距離の上位、付帯作業の実績が多い上位を取るとおおむね二十社前後に収まり、必要なデータは運送会社の請求明細に含まれている。届いている明細から届け先の情報を捨てているだけで、取りに行く必要はない。そして出口は交渉である。 2024年3月に告示された標準的運賃は運賃水準を8%引き上げ、荷役の対価等を加算し、待機時間料を30分を超える場合の1時間当たりの料金として設定した。待機と荷役に値段が付いた以上、相手の店舗で何分待っているかという話は、相手が検証できる話になる。 値上げ、最低ロット、納品条件という三段の選択肢を持って行く。

まとめ
物流費が顧客別に落ちない理由は配賦の技術ではなく費用の置き場所にある。原価計算基準は製品原価と期間原価を財務諸表上の収益との対応関係に基づいて区別し、製品原価を一定単位の製品に集計された原価、期間原価を一定期間における発生額を当期の収益に直接対応させて把握した原価とし、販売費および一般管理費の機能別分類として出荷運送費や倉庫費などを挙げている。したがって販売物流費は製品原価計算からは出てこず、乗せる場所は顧客別採算しかない。そこでの配賦基準が売上比になっていると、物流費は売上に完全に比例するため粗利率の順位に一切影響を与えず、物流費の行は存在しているのに意思決定に何も足していない状態になる。実際の物流費が比例しているのは出荷の回数、運ぶ重さと距離、現場で発生する付帯作業の時間であり、小口多頻度で遠い顧客の採算は実際より良く見え、大ロットで近い顧客の採算は実際より悪く見える。値上げ交渉の候補は表の上で採算が悪い顧客から挙がるため、交渉すべき相手と交渉している相手が入れ替わる。対処は物流費を三本に割ることである。第一が出荷回数に張り付く費用で、ピッキング、梱包、送り状の発行、積み込み、小口運賃の基本部分がこれにあたり、基準は出荷件数になる。第二が重量距離に張り付く費用で、幹線輸送の運賃、燃料費、傭車費がこれにあたり、基準は重量と距離の積になる。第三が付帯作業に張り付く費用で、待機時間、荷役、指定納品時刻への対応、検品や棚入れの代行がこれにあたる。国土交通省が令和6年3月に告示した新たな標準的運賃は、運賃水準を8%引き上げるとともに荷役の対価等を新たに加算し、待機時間料を30分を超える場合の1時間当たりの標準的な料金として設定した。30分以内の待機に係る費用は固定費に算入するとされている。待つことと降ろすことに値段が付いた以上、待たせる顧客と待たせない顧客の差は運賃の中に金額として存在しており、売上比配賦はその金額を平均に溶かす操作になる。三本に割ると打ち手を持つ部署も分かれ、第一は受注ロットと出荷頻度で営業と生産計画、第二は輸送設計と車両手配で物流部門、第三は納品条件そのもので顧客との契約が対象になる。分解を止めるのは「その他物流費」という第四の箱で、保管費は短納期の約束や専用仕様や返品受入という顧客側の契約条件が作っている在庫の費用であり、返品は往路と復路と検品の三重で発生し、緊急出荷は発生理由を出荷指示に一項目足すだけで分解できる。実装は全顧客を一度に実額化しようとせず、出荷件数、重量距離、付帯作業の実績のそれぞれ上位を取るとおおむね二十社前後に収まるため、その範囲だけを実額にして残りは按分のまま進める。必要なデータは運送会社の請求明細に含まれており、届け先と件数と重量の情報を会計に転記していないだけである。制度の側からも物流費の持ち主が動かされている。令和8年4月に全面施行された物資の流通の効率化に関する法律は、特定荷主に物流統括管理者の選任を義務づけ、その業務として中長期的な計画の作成や、運転者への負荷の軽減および物資の過度な集中の是正のための方針の作成と管理体制の整備を挙げ、同法第47条第2項は物流統括管理者を事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者をもって充てなければならないとする。選任および解任は荷主事業所管大臣への届出事項であり、選任しない場合は百万円以下の罰金、届出を怠った場合は二十万円以下の過料が定められている。国土交通省の説明によれば対象は約3,200社である。担い手が経営幹部であるという要件は、どの顧客の条件がコストを押し上げているのかという問いを役員が受ける構図を作る。売上比で按分した表ではその問いに答えられず、偏りを見えなくする配賦を続けたまま偏りを是正する中長期計画は書けない。最後に分解の出口は精緻な採算表ではなく交渉であり、交渉のテーブルに出すのは自社の原価ではなく相手の行動が生んでいるコストである。出荷件数、平均ロット、納品時の平均待機時間という形にすれば相手が検証でき、検証できる話は交渉になる。そして値上げ、最低ロットの設定、納品条件の変更という三段の選択肢を持って行く。値上げの一択で行くのとは着地が違う。

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