「四半期報告書がなくなったのだから、経理の工数は減っているはずだ」。役員会でそう言われた経理部長が、返答に詰まる。実感として、四半期の忙しさはほとんど変わっていない。 だが「変わっていません」と言えば、制度改正の恩恵を取りに行っていないと聞こえる。この会話が噛み合わないのは、双方が「何が減ったのか」を工程の単位で見ていないからである。
消えたのは提出書類であって、数字を作る工程ではない
四半期報告書の作成工程を分解すると、四つの層になる。第一に、子会社からの連結パッケージの回収と連結処理。第二に、開示に使う数値の集計と検証。第三に、記載事項の作成、すなわち経理の状況、注記、経営者による分析。第四に、提出手続、EDINETへの登録、監査人との最終のやり取り。
廃止によって消えたのは、第四層と、第三層の一部だけである。 第一層と第二層は、四半期決算短信を出す限り丸ごと残る。連結子会社からの数値回収は同じ期日で必要になり、連結処理も同じ回数走る。「四半期報告書がなくなった」という言い方が誤解を生むのは、この一層目と二層目が工数の大半を占めているからである。
第三層も、まるごと消えたわけではない。四半期決算短信にも要約された財務諸表と一定の注記が載る。したがって減るのは、四半期報告書に固有の記載事項と、提出そのものの手続に限られる。
だから「工数が減っていない」という経理部長の実感は正しい。正しくないのは、減っていないことを説明できていないことのほうである。 工程を四層に割って、どの層が消えてどの層が残ったかを一枚にすれば、この会話は一度で終わる。そして同じ紙が、次の議論の材料になる。
軽くなったのではなく、自分で担保することになった
第1・第3四半期について、実質的に変わったのは二つある。一つは、外部の目が四半期ごとに入る仕組みがなくなったこと。もう一つは、間違えたときの直し方が変わったことである。
四半期報告書には、公認会計士又は監査法人によるレビューが付いていた。レビューは監査より保証の水準が低い手続だが、四半期ごとに社外の専門家が数字と注記を見る機会が制度として組み込まれていたという事実のほうが、実務上は大きかった。 四半期決算短信では、これが原則として任意になる。第1・第3四半期の数字は、社内のチェックだけで市場に出る。
訂正の経路も違う。四半期報告書に誤りがあれば訂正報告書を提出する。四半期決算短信は取引所規則に基づく適時開示なので、訂正した短信を開示し直す形になる。 法定開示書類ではないため、金融商品取引法上の課徴金や罰則が直接に及ぶ枠組みではないが、その代わりに取引所による実効性確保の措置が置かれている。責任がなくなったのではなく、責任の名宛人と手続が変わっている。
つまりこの改正は、第1・第3四半期について「品質保証を自社で完結させてよいか」を各社に問い直したことになる。答えが「よい」であるためには、社内の検証がレビューの代わりを務められている必要がある。 何も足さずに提出書類だけ減らした会社は、実質的に品質保証の総量を落としている。
半期は緩めない。45日も期中レビューも動いていない
現場で最も誤りが起きやすいのが、半期の扱いである。「四半期がなくなった」という言葉が社内に広まると、第2四半期の工程まで軽く見積もられる。
事実は逆である。半期報告書の提出期限は、事業年度開始後6か月を経過した日から45日以内で、従来の第2四半期報告書と変わらない。 記載内容も従来の第2四半期報告書と同程度の水準が求められ、公認会計士又は監査法人による期中レビューも受ける。 つまり、9月に中間期末を迎える3月期の会社にとって、10月から11月中旬にかけての工程は、改正前とほぼ同じ密度で走る。
しかもここに、一つ厄介な変化が乗る。第1四半期のレビューがなくなったことで、監査人と会計論点を詰める場が、期中から一つ減っている。 従来は、第1四半期のレビューで新規取引や見積りの論点が表に出て、そこで方向感が揃っていた。その場がないまま半期に到達すると、論点が半期のレビューに集中する。 45日という期限は変わっていないのに、その45日に入ってくる議題の量が増えるという構図になる。
対策は工程の中ではなく、期中にある。新規の取引類型、大きな見積りの変更、組織再編。これらを四半期報告書のレビューという他律的な締切に頼らず、自社の期中の定例で監査人に持ち込む枠を作る(監査法人の指摘が期末に集中する原因と、四半期ごとに論点を前倒しする方法)。制度が用意していた締切が消えたなら、締切は自分で設ける。
空いた工数の行き先を、先に決める
第四層と第三層の一部が消えた分は、確かに空く。行き先を決めなければ、その分は必ず他の作業に吸われて消える。 そして翌年、役員会で同じ質問を受ける。
行き先の候補は三つある。優先順位は、外部の保証が外れた場所から埋めるという一点で判断する。
第一に、残高の裏付けを期中に揃えること。 第1・第3四半期の数字を社内だけで担保するなら、勘定残高が何によって裏づけられているかが、締めた時点で残っている必要がある。後から根拠を探す運用は、レビューがあったから成立していた(勘定残高の証憑突合と明細レビュー、四半期レビューに耐える残高保証の手順)。
第二に、注記に必要なデータを期中から取りに行くこと。 半期報告書は従来の第2四半期報告書と同程度の記載を求められ、年度末には有価証券報告書がある。注記のデータ収集を決算月に始める設計のままだと、45日の中に収集と作成が同居する(注記情報の収集設計、開示に必要なデータを期中の入口で取る仕組み)。
第三に、会計基準の改正監視を担当者の自己研鑽から仕組みに移すこと。 レビューの場が減るということは、監査人から「この基準は御社に影響しますか」と聞かれる機会が減るということでもある(会計基準の改正に追いつく仕組み、情報収集を担当者の自己研鑽に任せない)。
三つに共通しているのは、いずれも外部の目に依存していた部分を社内に作り直す作業だという点である。工数を単純に減らすのではなく、減った場所と厚くする場所を別々に決める。
売上高980億円の産業機械メーカーで、経理部長が四半期の工程表を作り直した。きっかけは、CFOから受けた「四半期報告書の廃止で何時間減ったのか」という質問に答えられなかったことだった。まず、第1四半期の工程を四層に割って実績時間を集計した。 連結パッケージの回収と連結処理が延べ312時間、数値の集計と検証が198時間、記載事項の作成が144時間、提出手続と監査人対応が96時間。このうち改正で消えたのは、提出手続の96時間と、記載事項144時間のうち四半期報告書に固有の部分52時間で、合計148時間だった。 全体750時間に対して二割弱である。「工数は八割残る」という一枚が、その場の議論を終わらせた。 次に取りかかったのが、残った工程の中身の見直しである。第1四半期のレビューがなくなったことで、監査人が四半期に見ていた項目が何だったかを洗い出した。出てきたのは、新規取引の会計処理方針、貸倒引当金の見積りの前提、棚卸資産の評価減の判断の三つで、いずれも社内では「監査法人が見るから」という理由で二次チェックを置いていない項目だった。 ここに社内のレビュー欄を新設し、経理部長と課長の二名体制にした。追加で発生した時間は四半期あたり28時間である。 浮いた148時間の行き先も先に決めた。80時間を残高照合の期中化に充て、四半期末に照合していた12勘定のうち7勘定を月次照合に移した。40時間を注記データの収集設計に充て、セグメント情報と関連当事者取引の元データを月次の締めで取得する仕組みに変えた。残る28時間が、先ほどの社内レビューである。差引きの純減はゼロで、CFOにはそう報告している。 「工数は減っていません。減った分は、監査法人が見ていた場所に振り替えました」。CFOはこれを了承したうえで、一点だけ指示を出した。振り替えた事実を、監査役会と監査法人に説明しておくこと。 半期のレビューの初回打合せで、この工程表をそのまま提示している。監査人からの反応は、レビュー計画の前提が明確になって助かる、というものだった。翌年、第1四半期の連結処理の日程は改正前と一日も変わっていない。変わったのは、四半期末に誰が何を見ているかが紙に書いてあることである。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
四半期開示の工程で見直す三つのこと
第一に、四半期の工程を四層に割り、消えた層と残る層を実績時間で示す。 連結パッケージの回収と連結処理、数値の集計と検証、記載事項の作成、提出手続と監査人対応。第1・第3四半期について廃止で消えたのは、提出手続と、四半期報告書に固有の記載事項だけである。四半期決算短信を出す限り、連結処理も数値検証も同じ回数走る。 この一枚がないと、「工数が減っていない」という現場の実感が、経営には怠慢に見える。
第二に、外部レビューが外れた項目を特定し、そこに社内の二次チェックを設ける。 第1・第3四半期の四半期決算短信は取引所規則に基づく適時開示であり、期中レビューは原則として任意である。訂正が必要になったときも、訂正報告書ではなく短信の開示し直しになり、法定開示書類とは責任の枠組みが違う。 従来「監査法人が見るから」という理由で社内の二次チェックを省いていた項目を洗い出し、そこだけ欄を新設する。外部の保証が外れた分を社内で埋めなければ、品質保証の総量は落ちている。
第三に、半期の工程は緩めず、浮いた工数の行き先を先に決める。 半期報告書の提出期限は事業年度開始後6か月経過後45日以内で従来の第2四半期報告書と同じ、記載内容も同程度、期中レビューも受ける。加えて、第1四半期のレビューがなくなった分、会計論点が半期に集中する。 期中に監査人と論点を詰める枠を自社で設ける。そのうえで、浮いた工数は残高の期中裏付け、注記データの期中収集、会計基準改正の監視という順で埋める。行き先を決めない工数は、いずれ他の作業に吸われて消える。
四半期報告書の廃止で消えたのは提出書類であり、連結処理や数値検証の回数は減っていない。
第1・第3四半期は外部の保証が外れたぶん、これまで監査人任せにしていた確認項目に社内の二次チェックの欄を設ける。半期は45日と期中レビューが残るので緩めない。浮いた工数は、勘定残高の裏付け、注記データの期中収集、基準改正の監視へ先に割り当てておく。



