十月の取締役会に、子会社別の着地見込みが出てくる。売上高と営業利益が並び、下期の対策が議論される。この資料に税金の欄はない。 税金は期末に経理がまとめて計算するもの、という理解が社内で共有されているからである。通算制度に入るまでは、その理解でおおむね足りていた。入った瞬間から、足りなくなる。 グループ通算制度の下では、ある子会社の所得が、別の子会社の納税額を直接動かす。しかもその関係は期末に精算されるのではなく、期限内申告書に書かれた数字でそのまま固定される。 税務の制度に見えて、実際に問われているのは期中の管理会計である。
損益通算は、合算ではなく配分である
連結納税の感覚が残っていると、「グループで足して、余った欠損は翌期に繰り越す」という理解になりがちである。通算制度は、そういう作りをしていない。
配分であることの実務上の含意は二つある。第一に、各社の課税所得は、自社の業績だけでは決まらない。 上の計算例でP社の課税所得が250になるのは、S2社とS3社が合計▲300の欠損を出したからである。S3社が期末に受注を積み増して欠損が▲150に縮めば、P社に配分される損金算入額は▲200×500/600=166.7となり、P社の課税所得は333.3に増える。P社は何もしていないのに、納税額が増える。
第二に、配分比の計算に使うのは損益通算前の所得金額と欠損金額であって、会計上の利益ではない。 申告調整を通した後の数字である。したがって、期中に「子会社別の税額見込み」を作ろうとすると、子会社ごとの申告調整の主要項目まで見通す必要が出てくる。交際費の損金不算入、減価償却の超過額、賞与引当金の否認、貸倒引当金の繰入超過。このうち期中に動きの読めない項目がどれかを、あらかじめ潰しておかないと、配分比そのものが荒くなる(税務申告と決算をつなぐ|申告調整を期末に慌てて作らない期中の分担)。
期限内申告の数字は、後から他社に返らない
配分の話だけなら、期末に一度きちんと計算すれば足りる。足りなくしているのが、遮断措置である。
国税庁は、事後の税務調査により損益通算前の所得の金額が当初申告と異なることとなった場合の扱いについて、「原則として、損益通算に係る損金算入額又は益金算入額は期限内申告の金額に固定して、その通算法人の所得の金額を計算することとなります」 と回答している。根拠は法人税法第64条の5第5項で、通算事業年度の通算前所得金額または通算前欠損金額が 期限内申告書に添付された書類に記載された金額(当初申告通算前所得金額・当初申告通算前欠損金額)と異なるときは、その記載された金額を通算前所得金額・通算前欠損金額とみなすと定める。
国税庁の計算例が、この効き方をはっきり示している。期限内申告で通算前欠損金額▲250と記載したS3社が、所得300を加算して修正申告をする場合、P社、S1社およびS2社については損益通算の遮断措置の適用があるため、所得金額の変動はない。 S3社だけが、損益通算前の所得50に、期限内申告における損益通算による益金算入額250を加えた所得300で課税される。当初にP社へ配られた損金算入額250は、そのまま残る。
遮断されない例外は限定的である。法人税法第64条の5第6項および法人税法施行令第131条の7により、通算事業年度のいずれかについて修正申告または更正がされる場合において、次の三つの要件のすべてに該当するときに限り、遮断措置は適用されない。要件1は、通算事業年度の全てについて、期限内申告書に所得の金額として記載された金額が零であるか、または欠損金額の記載があること。要件2は、いずれかについて通算前所得金額が過少であるか、通算前欠損金額が過大であること。要件3は、遮断措置等を適用しないものとして計算した場合の所得の金額が零を超えることである。 要件1が効いているため、グループのどこか一社でも期限内申告で所得が立っていれば、全体再計算は起きない。
このほかに、税務署長の職権による全体再計算がある。国税庁は、「欠損金の繰越期間に対する制限を潜脱するためや、離脱法人に欠損金を帰属させるためにあえて誤った期限内申告を行うなど、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときは、税務署長は、損益通算を適用(全体再計算)することができます」 と説明する(法第64条の5第8項)。これは納税者が使える道ではない。 使えるのは税務署長の側であり、しかも「あえて誤った期限内申告」を前提としている。期中の見通しが甘かった、という理由での再計算は用意されていない。
一社の所得が、他社の税額控除と軽減税率を動かす
損益通算だけの話ではない。グループを一体として計算し、各社に配分する仕組みが、ほかにも複数ある。
一般試験研究費の額に係る税額控除がその一つである。国税庁は 「通算法人における一般試験研究費の額に係る税額控除の計算は、通算グループを一体として計算した税額控除限度額と控除上限額とのうちいずれか少ない金額を、通算法人の調整前法人税額の比であん分することにより行います」 と説明する。示されている計算例が示唆的である。A社の試験研究費400、B社0、C社200、合計600に対し、グループ全体の税額控除額は50。これを調整前法人税額(A社60、B社140、C社0)の比であん分するため、A社15、B社35、C社は零となる。 試験研究費を200使ったC社の控除がゼロで、研究開発をしていないB社が35を受け取る。投じた会社と控除を受ける会社が、制度上ずれる。
軽減税率の枠も同じ構造をとる。普通法人である通算法人の税率は23.2%だが、中小通算法人等の所得のうち軽減対象所得金額以下の部分は15%となる。そして軽減対象所得金額は、800万円を各中小通算法人等の所得の金額の比で配分した金額である。 国税庁は全体再計算の判定要件の一つとして「上記の算式の分母の金額(各中小通算法人等の所得の金額の合計額)が800万円以下である場合」と書いており、分母が各社の所得の合計額であることがそこから読める。枠は800万円で固定され、それをどう分けるかが各社の所得比で決まる。 一社の所得が伸びれば、他社に回る枠が縮む。
そもそも中小通算法人に該当するかどうかの判定が、グループ全体で行われる。国税庁は 「通算グループ内の法人がいずれも普通法人に該当し、かつ、その通算グループ内のいずれかの法人の資本金の額又は出資金の額が1億円を超える場合、その通算グループ内の各通算法人はいずれも中小法人等には該当しないこととなります」 と明記している。資本金8,000万円の親法人も、5,000万円の子法人も、グループに資本金2億円の会社が一社いれば大通算法人となり、中小法人等の欠損金額の特例を使えない。子会社の増資という、税務と無関係に見える意思決定が、グループ全体の欠損金の使い方を変える。
通算税効果額は「合理的に計算する」としか書かれていない
配分の結果、税負担を軽くしてもらった会社と、自社の欠損を他社に使われた会社が生まれる。その間の精算が通算税効果額である。
法人税法第26条第4項および第38条第3項により、通算法人が他の通算法人との間で授受する通算税効果額は、益金の額および損金の額に算入しない。 国税庁は通算税効果額を、損益通算の規定または欠損金の通算の規定その他通算法人のみに適用される規定を適用することにより減少する法人税および地方法人税の額に相当する金額として、通算法人と他の通算法人との間で授受される金額と説明する。そして計算方法については、「合理的に計算することになります」 としか書かれていない。
国税庁が示すのは、あくまで一例である。損益通算については 「損益通算により減少する所得金額について法人税率を乗じて算出された金額(地方法人税相当額を含みます。)を通算税効果額とする方法」。試験研究費の税額控除については 「通算グループ全体の税額控除額の合計額を各通算法人の試験研究費の額の比であん分して算出された金額と各通算法人の税額控除額との差額(地方法人税相当額を含みます。)に基づいて通算税効果額を算出する方法」 である。先ほどの例でいえば、全体の控除額50を試験研究費の比であん分するとA社33、B社零、C社17となり、実際の控除額A社15、B社35、C社零との差額を授受する。この処理を入れて初めて、研究開発を担った子会社に控除の便益が戻る。
なお国税庁は、授受が通算親法人など一の通算法人を通じて行われる場合であっても、各社での益金不算入・損金不算入の扱いは同様であるとしている。親会社を経由させても構わないが、各社ごとの金額は把握しておく必要がある。
ここで実務が割れる。「合理的に」の中身を決めるのは会社である。 損益通算だけを対象にするのか、税額控除や軽減税率の枠まで含めるのか。含めるなら配分基準は何か。この方針を決めていない会社では、子会社の役員が「うちの数字は本社に持っていかれている」と感じる状態が続く。 税務の論点ではなく、子会社の業績評価の論点である(グループ内取引価格の決め方|移転価格と管理会計のねじれをどう解くか)。
申告期限は延びたが、律速は動いていない
通算法人には、申告期限の延長特例が用意されている。法人税法第75条の2第11項第1号により、通算法人については同条第1項の「一月」が 「二月」 に読み替えられ、会計監査人を置いている場合の「三月」は 「四月」 に読み替えられる。延長を認める理由にも、「通算法人が多数に上ることその他これに類する理由により損益通算の規定その他通算法人に適用される規定による所得の金額若しくは欠損金額及び法人税の額の計算を了することができない」 ことが加えられている。制度の側が、計算に時間がかかることを認めている。
手続も親法人に寄せられている。同項第2号により、通算親法人に対して提出期限の延長の処分があった場合には、他の通算法人の全てにつき延長がされたものとみなされる。 同項第3号は、通算子法人は申請書および届出書を提出することができないと定める。子会社に選択の余地はない。
問題は、期限が延びても律速が変わらないことである。損益通算の計算は、全社の通算前所得金額と通算前欠損金額が揃わないと一歩も進まない。 一社の数字が固まらなければ、他の全社の申告書も作れない。四か月に延びたぶん、遅い子会社の遅さが吸収されるようになっただけで、遅い子会社が早くなったわけではない。 そして遮断措置は、その状態で提出した期限内申告の数字を固定する。連結決算の早期化で解いてきたのと同じ問題が、税務の側でもう一度出てくる(連結決算を早める|子会社からデータを早く・正しく集める仕組み)。
決めるのは三つ
第一に、子会社別の通算前所得金額と通算前欠損金額を、期中に持てる状態にする。 損益通算は合算ではなく配分であり、法人税法第64条の5第1項から第4項までの構造上、各社の課税所得は自社の業績だけでは決まらない。配分比の基礎になるのは会計上の利益ではなく損益通算前の所得金額・欠損金額であるため、主要な申告調整のうちどれを期中に見通し、どれを前期実績で置くかを先に決める。すべてを精緻に見通す必要はないが、どこを荒く置いたかを自覚していない状態は避ける。
第二に、期限内申告の数字を、後から直せる前提で作らない。 法人税法第64条の5第5項により、通算前所得金額または通算前欠損金額が期限内申告書に添付された書類に記載された金額と異なるときは、その記載された金額をもって計算する。国税庁は「原則として、損益通算に係る損金算入額又は益金算入額は期限内申告の金額に固定して、その通算法人の所得の金額を計算することとなります」と回答している。全体再計算は、通算事業年度の全てについて期限内申告の所得金額が零または欠損金額の記載があること、という要件を含む三要件をすべて満たす場合に限られ、一社でも所得が立っていれば発動しない。 税務署長の職権による全体再計算は、あえて誤った期限内申告を行うなど法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときのもので、納税者が援用できるものではない。
第三に、グループ一体で計算する項目の便益配分を、通算税効果額の方式として文書で決める。 一般試験研究費の額に係る税額控除は通算グループを一体として計算した金額を調整前法人税額の比であん分するため、研究開発を担う子会社の調整前法人税額が小さければ、その子会社の控除は零になりうる。軽減対象所得金額は800万円を各中小通算法人等の所得の金額の比で配分し、そもそもグループ内のいずれかの法人の資本金が1億円を超えれば全社が中小法人等に該当しない。通算税効果額は法人税法第26条第4項および第38条第3項により益金・損金に算入しないが、計算方法は「合理的に」としか定められていない。 どこまでを精算対象に含めるかは会社が決める事項であり、決めなければ子会社の業績評価が歪んだままになる(グループでKPIの定義がずれる|同じ名前の指標が別物を指したまま会議が進む状態を止める)。



