予算編成の会議で、事業部長が来期の売上目標を説明する。今期見込みに対して105%、営業利益は前年同水準の確保。経営企画が「根拠は」と聞き、事業部長が市場の成長率と自社のシェア維持で説明する。この説明は数字としては通っている。通っていないのは、105%という水準が妥当かどうかの検証である。 前年比で置いた目標は、市場が伸びた年には努力なしで達成され、市場が縮んだ年には努力しても未達になる。そして達成しても未達でも、競合に勝っているのか負けているのかは、この一連の資料のどこにも書かれていない。

POINT
外部の実績を物差しに入れる、という方向性は正しい。問題は入れ方である。他社の数字を持ってくるとき、多くの会社が最初に開くのは有価証券報告書のセグメント情報だが、ここは最も比較に向かない場所である。 企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」第23項は、報告セグメントの利益・資産・負債等の開示について、「事業セグメントに資源を配分する意思決定を行い、その業績を評価する目的で、最高経営意思決定機関に報告される金額に基づいて行わなければならない」 と定める。財務諸表の作成にあたって行った修正や相殺消去、特定の収益・費用・資産・負債の配分は、「最高経営意思決定機関が使用する事業セグメントの利益(又は損失)、資産又は負債の算定に含まれている場合にのみ」 報告セグメントの各項目に含めることができる。開示されているセグメント利益は、その会社の社内管理の利益であって、会計上の利益ではない。 本社費を配賦している会社としていない会社、内部取引の振替価格が原価の会社と市価の会社が、同じ「セグメント利益」という名前の欄に並んでいる。同基準第24項が測定方法の開示を求め、第25項が財務諸表計上額との差異調整を求めているのは、このずれが前提だからである。 比較の可否を判断する入口は、ここにある。

セグメントの区切り方そのものが、各社の判断で決まっている

ずれるのは金額だけではない。そもそも何をひとつのセグメントとして括るかが、各社の内部管理に従って決まっている。

同基準第6項は事業セグメントを、収益を稼得し費用が発生する事業活動に関わり、最高経営意思決定機関が資源配分の意思決定を行い業績を評価するためにその経営成績を定期的に検討し、分離された財務情報を入手できる構成単位と定義する。第9項は、事業セグメントの要件を満たすセグメントの区分方法が複数ある場合、各構成単位の事業活動の特徴、それらについて責任を有する管理者の存在、取締役会等に提出される情報などの要素に基づいて企業が決定するとする。第11項の集約基準は、経済的特徴が概ね類似し、製品及びサービスの内容、製造方法または提供方法、販売する市場または顧客の種類、販売方法、業種に特有の規制環境のすべてが概ね類似している場合に、複数の事業セグメントを一つに集約できるとする。

そのうえで第12項の量的基準がかかる。売上高がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上、利益または損失の絶対値が利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額または損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上、資産がすべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上のいずれかを満たすものが報告セグメントになる。さらに第14項は、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が損益計算書の売上高の75%未満である場合には、75%以上が含まれるまで報告セグメントを追加して識別しなければならないとする。

この設計から出てくる帰結は明快である。 同じ「食品事業」という名前の報告セグメントでも、A社では集約された三つの事業の合算であり、B社では単独の事業であり、C社ではそもそも量的基準を満たさず「その他」(第15項)に入っている。名前が同じことは、中身が同じことを意味しない。 第18項(1)は報告セグメントの決定方法の開示を求めているので、そこを読めば集約の有無は分かる。読まずに数字だけ抜くから、比較にならない数字が比較の顔をして予算資料に載る。

同じ注記の中に、比較に使える欄と使えない欄が並んでいる

ここまでを読むと、セグメント情報の注記そのものを捨てたくなる。捨てなくてよい。同じ注記の中で、測定の基準が違う欄が並んでいる。

同基準第29項は、セグメント情報の関連情報として、製品及びサービスに関する情報、地域に関する情報、主要な顧客に関する情報を開示しなければならないとしたうえで、「当該関連情報に開示される金額は、当該企業が財務諸表を作成するために採用した会計処理に基づく数値によるものとする」 と定めている。第23項の「最高経営意思決定機関に報告される金額」ではない。財務諸表と同じ会計処理による数値である。

したがって、関連情報の側は比較に耐える。第30項の製品・サービス区分ごとの外部顧客への売上高、第31項の国内と海外の外部顧客への売上高(主要な国があれば区分)および国内と海外に所在する有形固定資産の額(主要な国があれば区分)、第32項の主要な顧客の名称、当該顧客への売上高、取引に関連する主な報告セグメントの名称。海外売上比率も、海外に置いている固定資産の額も、特定顧客への依存度も、ここから取れる。 事業構成が近い会社を選ぶときの一次スクリーニングは、この三つで足りることが多い。

同じ性格の欄がもう二つある。第33項の固定資産の減損損失の報告セグメント別内訳と、第34項ののれんの償却額および未償却残高の報告セグメント別内訳である。いずれも「当該企業が財務諸表を作成するために採用した会計処理に基づく数値」と明記されている。のれんの未償却残高がセグメント別に取れるということは、どの事業をいくらで買ってきた会社なのかが、外から見えるということである。

なお、第21項が定めるセグメント別の減価償却費、のれん償却額、受取利息及び支払利息、税金費用などの開示は、報告セグメントの利益の算定に含まれている場合か、事業セグメント別の情報が最高経営意思決定機関に対して定期的に提供され使用されているときに限って求められる。 開示している会社としていない会社が混在するため、比較表を作ると欠測が出る。 欠測を空欄のまま残すのか、対象から外すのかは、表を作る前に決めておく。

比較できる指標を、本表から作り直す

では何を比べるか。セグメントを諦めて、連結の本表と有価証券報告書の定量情報から作り直す。 ここは各社が同じ会計基準に従って作っている領域なので、少なくとも定義のずれは小さい。

実務で使えるのは、売上総利益率、販管費率、営業利益率、そして運転資本の三つの回転日数(売上債権、棚卸資産、仕入債務)である。回転日数は、貸借対照表と損益計算書の数字だけで作れて、しかも業務の質がそのまま出る。 同じ業界で売上債権回転日数が20日違えば、それは与信方針か回収体制か契約条件のどれかが違うということで、社内の改善テーマに直結する。有形固定資産回転率も、設備を持つ業種では効く。従業員一人当たり売上高と一人当たり営業利益は、有価証券報告書の従業員の状況から人数が取れるので算出できる。

逆に、ここでも扱いに注意が要るものがある。 研究開発費は総額が注記されるが、ソフトウェア等の資産計上の範囲が各社で違うため、率だけを並べると誤読する。減価償却費は、耐用年数と償却方法の選択で差が出る。この二つは、水準の比較ではなく方向の比較に使う。

会計基準の差が、そのまま指標の差になっている

同じ日本の上場企業でも、採用している基準が違えば数字は揃わない。いま特に効くのが、のれんとリースの二つである。

のれんについて、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第32項は、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却すると定める。IFRSでは非償却で減損テストのみとなるため、買収を重ねている会社どうしを営業利益率で比べると、日本基準の会社だけが毎期の償却費を背負って見える。 償却額はセグメント情報でも第21項(4)により開示対象になるので、加算して比べ直すことはできる。できるが、やっている会社は少ない。

リースはこれから動く。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は2024年9月13日に公表され、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用される。ただし2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することができる。 借手はIFRS第16号やTopic 842と同様の使用権モデルにより、オペレーティング・リースを含むすべてのリースについて資産と負債を計上する。つまり、店舗や物流拠点を賃借している会社の総資産は、これから増える。 ROAも、有形固定資産回転率も、有利子負債の見え方も変わる。そして早期適用を選ぶ会社と選ばない会社が数年間混在する。 他社比較を仕組みとして持つなら、比較表に「適用している基準と適用開始年度」の列を最初から作っておく必要がある。後から足すと、過去の比較がすべて疑わしくなる。

外部の実績を管理会計の物差しに入れる工程は、四つに分かれる。どれか一つを飛ばすと、根拠のない数字が根拠のある顔で予算に載る。
① 比較対象を選ぶ
同業という括りではなく、事業構成・顧客・地域が近いかで選ぶ。3社から5社に絞り、選んだ理由を文書に残す
→
② 指標を本表から作り直す
セグメント利益は使わず、連結の本表と有報の定量情報から売上総利益率、営業利益率、回転日数、一人当たり売上高を自分で算出する
↑
外部ベンチマークを目標に翻訳する
↓
④ 絶対値の目標に翻訳する
他社より高いという相対目標にはせず、比較で得た水準の妥当性を根拠に、自社の絶対値として置く
←
③ 基準差を調整する
のれん償却の有無、リース会計基準の適用時期、耐用年数と償却方法。調整できるものは調整し、できないものは差として明示する
③を飛ばすと数字が壊れ、④を飛ばすと目標が他社の業績次第で動く。

いつ取れるかを、予算の日程に組み込む

外部データは、欲しいときに揃わない。金融商品取引法第24条第1項は、有価証券報告書を内国会社について当該事業年度経過後三月以内に提出しなければならないと定める。 3月決算の同業を見るなら、確定した情報が出そろうのは6月末である。自社の予算編成が10月から12月なら間に合うが、四半期のモニタリングにこの粒度を求めると、常に半年遅れの数字で会話することになる。

だから二段構えにする。速報は決算短信ベースで、売上高・営業利益・純利益と、開示されていれば四半期のセグメント売上まで。確定は有価証券報告書ベースで、回転日数や一人当たり指標まで含めて年一回作り直す。 前者は方向を見るため、後者は目標水準を置くため。この二つを同じ表に混ぜると、更新の頻度が揃わず、誰も信じなくなる。

相対目標にすると、指標が壊れる

最後に、目標の置き方そのものについて。外部ベンチマークを入れると、「業界平均以上」「上位25%」という形の目標にしたくなる。これはほぼ確実に失敗する。

理由は二つある。第一に、分母が動く。 競合が不振に陥れば、自社が何もしなくても順位は上がる。逆に競合が好調なら、自社が改善しても未達になる。業績評価に紐づけた瞬間に、担当者は「比較対象の選び方」を交渉し始める。第二に、行動に翻訳できない。 売上債権回転日数を業界平均以下にする、という目標からは、明日の行動が出てこない。出てくるのは、平均が何日だったかという情報収集である。

外部の数字は、目標の水準を検証するために使う。目標そのものは絶対値で置く。 競合の売上債権回転日数が42日で自社が61日なら、その19日の差を分解して、契約条件によるものが何日、請求タイミングによるものが何日、督促によるものが何日かを出す。そのうえで、来期は55日という絶対値を目標にする。 55日の根拠が外部比較である、という関係にする。根拠として使うのと、目標そのものにするのは、まったく別の設計である。

決めるのは三つ

第一に、セグメント情報を目標水準の根拠に使わない。 企業会計基準第17号第23項は、報告セグメントの開示を最高経営意思決定機関に報告される金額に基づいて行うと定めており、開示されているセグメント利益はその会社の社内管理の数字である。第9項により区分方法そのものが各社の判断で決まり、第11項の集約基準により複数の事業が一つに束ねられ、第12項の量的基準と第14項の75%基準により報告される単位が変わる。同じ名前のセグメントが同じ中身を指している保証はない。 使うなら第18項(1)の決定方法と第24項の測定方法まで読んでから使う。一方、同じ注記でも第29項の関連情報と第33項・第34項の内訳は、当該企業が財務諸表を作成するために採用した会計処理に基づく数値と明記されているため、比較に耐える。 製品・サービス別の外部売上高、国内外の売上高と有形固定資産、主要な顧客、減損損失、のれんの償却額と未償却残高。注記を捨てるのではなく、欄で分ける。

第二に、比較する指標を、連結の本表と有価証券報告書の定量情報から自分で作り直す。 売上総利益率、販管費率、営業利益率、売上債権・棚卸資産・仕入債務の回転日数、有形固定資産回転率、従業員一人当たり売上高。そのうえで会計基準の差を調整する。企業会計基準第21号第32項により日本基準ののれんは20年以内で規則的に償却されるため、IFRS適用会社と営業利益率をそのまま比べない。 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は2024年9月13日に公表され、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用、2025年4月1日以後開始する期からの早期適用が可能であるため、比較表には適用基準と適用開始年度の列を最初から設ける。

第三に、外部の数字は水準の検証に使い、目標は絶対値で置く。 業界平均以上という形の目標は、分母が競合の業績で動くうえ、明日の行動に翻訳できない。差を要因に分解し、自社が動かせる部分を特定し、その結果として出る絶対値を目標にする。データの取得時期も日程に組み込む。金融商品取引法第24条第1項により有価証券報告書は事業年度経過後三月以内の提出であるため、確定情報は年一回、速報は決算短信ベースと、更新頻度で分けて持つ。

設例

売上高520億円の産業用資材メーカーで、予算の目標水準は長く前年比で決まっていた。売上は前年比103%から107%の範囲、営業利益率は前年実績の維持。過去七期の予算と実績を並べたところ、予算達成率と業界全体の出荷指数の動きがほぼ一致していた。 達成した四期は市況が上向いた期で、未達だった三期は市況が下向いた期である。経営企画部長の言葉を借りれば、予算が測っていたのは自社の努力ではなく市況だった。見直しは比較対象の選定から始めている。同業として社内で名前が挙がるのは11社あったが、事業構成と顧客層で絞り込み、建設向け比率が5割前後で、海外売上比率が2割から4割の4社に限定した。 選んだ理由と外した理由を一枚の文書に残し、翌期以降も同じ4社で続けると決めている。指標はセグメント情報を使わず、連結の本表と有価証券報告書から作り直した。理由は、4社のうち2社が報告セグメントを地域別に、2社が製品別に区切っており、そもそも並べられなかったためである。 ただし比較対象を4社に絞り込む段階では、注記の中の関連情報を使っている。第31項により国内と海外の外部顧客への売上高と、国内外に所在する有形固定資産の額が同じ会計処理に基づく数値で開示されているため、海外売上比率と海外に置いた設備の重さは、区切り方が違う会社どうしでも並べられた。 算出したのは売上総利益率、販管費率、営業利益率、売上債権・棚卸資産・仕入債務の回転日数、有形固定資産回転率、従業員一人当たり売上高の九指標。ここで一つ調整が必要になった。4社のうち1社がIFRSを適用しており、のれんを償却していない。 自社は日本基準でのれんの償却費が年間4億円あるため、営業利益率の比較では償却前の数字を併記する形にしている。リースについては、企業会計基準第34号の適用開始が2027年4月1日以後開始年度で、2025年4月1日以後開始年度から早期適用が可能であることから、比較表に適用基準と適用開始年度の列を先に追加した。 4社のうち1社が早期適用を予定していることが分かり、総資産を使う指標については当面その1社を除外して比較すると決めている。最も差が出たのは棚卸資産回転日数だった。自社が94日、4社の中央値が61日。33日の差を分解すると、製品在庫の差が11日、仕掛品の差が6日、原材料の差が16日だった。 原材料の差の大半は、特定の鋼材について発注ロットが大きく、価格変動を見越した先行手配が常態化していたことによる。目標は「業界平均並み」とはしなかった。原材料の発注ロットを見直して回収できる日数を積み上げ、来期の棚卸資産回転日数を81日という絶対値で置いている。 81日の根拠として、外部比較の資料を予算書に添付した。データの取得は年次と四半期で分けている。有価証券報告書ベースの九指標は7月に一度だけ作り直し、四半期は決算短信の売上高と営業利益だけを追う。同じ表に混ぜると更新頻度が揃わないという判断で、シートを分けた。 CFOの総括はこうである。前年比という物差しは、社内では誰も反対しないが、社外の誰とも比べていない。反対されない目標が良い目標だという前提を、まず捨てる必要があった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ

前年比の目標が測っているのは市況で、競合に勝っているかどうかは分からない。外部の実績を入れるなら、セグメント利益は使わず、連結の本表と有価証券報告書から利益率や回転日数を自分で作り直し、のれんの償却と新リース基準の適用時期の差を調整する。目標は業界内の順位にはしない。差を要因に分け、自社が動かせる分を積み上げた絶対値で置く。

最初の作業は、事業構成と顧客が近い3社から5社を選び、選んだ理由を一枚の文書に残すことだ。

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