期末監査の現場で、監査人が仕訳の一覧を指して言う。この12月の未払計上、根拠の請求書を見せてください。経理担当者はERPを開き、伝票に添付がないことを確認し、共有フォルダを開き、取引先名で探し、見つからないので購買部門に電話する。一件で20分かかる。監査人が抽出したのは40件である。 この20分は、証憑がないから発生しているのではない。証憑は社内に確実に存在している。発生しているのは、どの仕訳とどの証憑が対応するかを、誰も先に決めていなかったからである。

POINT
保存先の議論を始める前に、法令が何を要求しているかを正確に見ておく。電子帳簿保存法施行規則第4条第1項は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、タイムスタンプを付した後に取引情報の授受を行う、授受後に速やかに(または事務処理規程を定めている場合は通常の期間を経過した後に速やかに)タイムスタンプを付す、訂正削除の事実と内容を確認できるかまたは訂正削除ができないシステムを使う、正当な理由がない訂正削除の防止に関する事務処理の規程を定めて運用するという四つの措置のいずれかを求め、あわせて見読可能装置の備付けとシステム関係書類、そして検索機能の確保を求める。その検索機能の中身が同規則第2条第6項第5号で、イが「取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先」を検索の条件として設定できること、ロが日付または金額について範囲を指定して条件を設定できること、ハが二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できることである。記録項目は三つで、伝票番号も契約番号も購買発注番号も入っていない。 そして電磁的記録の提示または提出の要求に応じられるようにしている場合はロとハが不要になり、さらに基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者である場合、または出力書面を整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものとして提示・提出できる場合は、イを含む第5号全体が不要になる。法令が想定している探し方は、日付と取引先と金額である。経理と監査人が実際に使う探し方は、仕訳と証憑の対応である。この二つは別物であり、保存先をどれだけ立派にしても橋渡しはされない。

保存先を先に選ぶと、どちらの軸でも探せなくなる

多くの会社で、この議論は選択肢の比較から始まる。ERPの添付機能に置くか、文書管理システムを入れるか、共有ストレージのフォルダ運用にするか。比較表を作り、検索性、コスト、権限管理、外部連携の四項目に丸とバツを付けて決める。この進め方が、後で効く問題をすべて先送りする。

ERPの中、たとえばSAPのArchiveLinkやGeneric Object Servicesに添付すると、伝票の画面から一クリックで証憑に届く。仕訳を起点にした照会は最短になる。 一方で、取引先を横断して当期の全請求書を並べる、ある契約に紐づく請求書をすべて出す、といった照会には向かない。伝票にぶら下がっているからである。文書管理システムに置くと属性による検索は強くなるが、伝票と文書を結ぶリンクを誰がいつ張るのかという運用が新たに発生する。 共有ストレージのフォルダ運用は初期費用がゼロで始められるが、命名規則は一年で崩れる。崩れる理由は担当者の怠慢より、命名規則が想定していなかった取引がいずれ現れるからである。

そして、どの選択肢を採っても同じ場所で行き詰まる。一つの証憑が複数の仕訳に対応する場合である。 月次で一括請求される派遣料を五つの部門の費用に分ける。年額の保守料を前払費用に立てて12か月に按分する。一枚の輸入インボイスから、仕入と関税と通関手数料が別々の伝票で立つ。これらは例外と呼べるものでもなく、どの会社にも一定量ある通常の取引である。 伝票に添付する方式では、同じPDFを五回添付するか、一つの伝票にだけ添付して残りは「あちらを見よ」とするかの二択になる。前者は保管量と更新漏れを生み、後者は探せない仕訳を生む。

決めるべきは、伝票と証憑を紐づける単位である

先に決めるのは保存先ではなく、紐づけの単位である。候補は多くない。会計伝票のヘッダ、会計伝票の明細行、購買の発注または検収の単位、契約の単位、取引先と期間の組み合わせ。この五つのどれを主キーにするかが定まれば、保存先の候補はおのずと絞られる。

判断の基準は、社内で最も頻度の高い照会がどれかである。製造業で購買が中心なら、発注番号を主キーにすると購買・検収・請求・支払が一本で並ぶ。サービス業で契約が中心なら、契約番号を主キーにしたほうが、更新交渉のときに過去の請求実績まで一度に出る。そして主キーを決めたら、それ以外の軸は「主キー経由でたどる」と割り切る。 全部の軸で直接検索できる状態を目指すと、属性の入力項目が増え、入力が形骸化し、結局どの軸でも当てにならなくなる。

法令の側も、実はこの発想を要求している。スキャナ保存の要件を定める同規則第2条第6項第3号は、国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項と、当該国税関係書類に関連する国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくことを求めている。帳簿と書類を相互にたどれるようにせよ、というのが要件である。 何を主キーにするかまでは書かれていないが、主キーを決めていない会社はこの要件を満たしていないことになる。

証憑の保管を設計する順番を、一つ入れ替えるだけで結果が変わる。
BEFORE
保存先の比較から始める
ERPの添付、文書管理システム、共有ストレージを検索性とコストで比較し、多数決で決める。運用開始後に、一枚の請求書が複数の仕訳に対応する取引で破綻する
→
AFTER
紐づけの単位から決める
会計伝票ヘッダ、伝票明細、発注・検収、契約、取引先と期間のどれを主キーにするかを先に決め、その主キーを持てる仕組みを保存先として選ぶ
スキャナ保存の要件にある帳簿と書類の相互関連性は、まさにこの主キーの話をしている。

スキャナ保存の要件は重い。だから紙をやめる順番が効く

紙で受け取った証憑をスキャンして原本を捨てる場合、要件は電子取引よりはるかに重い。同規則第2条第6項は、入力を作成または受領後に速やかに行うか、事務処理規程を定めている場合は通常の期間を経過した後に速やかに行うこと(第1号)、解像度が25.4ミリメートル当たり200ドット以上で、赤色・緑色・青色の階調がそれぞれ256階調以上で読み取れるスキャナを使うこと(第2号イ)、総務大臣が認定する時刻認証業務に係るタイムスタンプを付すこと(同号ロ。第1号の期間内に入力したことを確認できるシステムなら不要)、訂正削除の事実と内容を確認できるか、訂正削除ができないシステムであること(同号ハ)、帳簿との相互関連性を確認できるようにしておくこと(第3号)、映像面の最大径が35センチメートル以上のカラーディスプレイとカラープリンタを備え、4ポイントの文字を認識できる状態で出力できること(第4号)、そして検索機能(第5号)を求める。

この一覧を読んで最初に気づくのは、カラーであることの要求が二か所にあることである。 スキャン時の256階調と、出力時のカラーディスプレイ・カラープリンタ。これが緩むのは同条第7項の一般書類、すなわち国税庁長官が定める書類に限られ、その場合は赤色・緑色・青色の階調がそれぞれ256階調以上という要件が白色から黒色までの階調に読み替えられ、カラーディスプレイとカラープリンタもディスプレイとプリンタに読み替えられる。 加えて一般書類については、第1号の入力期間と第3号の相互関連性が、事務の手続を明らかにした書類(責任者が定められているもの)の備付けによって不問となる。つまり重要書類と一般書類で運用が二本立てになる。 一本で回そうとして重いほうに合わせると現場が持たず、軽いほうに合わせると要件を外す。

過去に受け取った紙をまとめて電子化する場合は、さらに手続が要る。同条第9項は、保存に代える日より前に作成または受領した書類(一般書類を除く)を過去分重要書類と定義し、あらかじめ書類の種類等を記載した適用届出書を納税地等の所轄税務署長に提出したときに、第1号の入力期間の要件によらず保存できるとする。遡って電子化する計画は、届出を出す前に始めてはいけない。

だから紙をやめる順番は、要件の軽い順ではなく、量の多い順でもない。電子取引で受け取れるものを電子取引に寄せ、スキャナ保存を要する紙をできるだけ残さないという順番になる。 取引先に請求書の送付方法を変えてもらう交渉のほうが、スキャナ保存の要件を全社に守らせる運用より、はるかに安く済む場面が多い。

保存年限は7年ではない会社がある

保管場所の設計で最も見落とされるのが、いつまで持つかである。社内には少なくとも三つの年限が並んでいる。

法人税法施行規則第59条第1項は、青色申告法人が帳簿、決算関係書類、そして取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類および自己の作成したこれらの書類の写しを、起算日から七年間保存しなければならないと定める。同条第2項の起算日は、書類についてはその作成または受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日である。決算日ではなく、申告期限の側から数える。

ところが同規則第26条の3第1項は、法人税法第57条第1項の欠損金の繰越しの適用を受けようとする場合には、欠損金額が生じた事業年度の第59条第1項各号に掲げる帳簿書類を、同条第2項の起算日から十年間保存しなければならないと定める。赤字の期の証憑だけが、10年になる。 そして会社法第432条第2項は、会計帳簿とその事業に関する重要な資料について会計帳簿の閉鎖の時から十年間の保存を求める。

7年と10年と10年。起算点も違う。 アーカイブや削除の自動化を7年で組んでいる会社は、欠損金を繰り越した期の証憑を早く消している可能性がある。ここは設定の問題であって、判断の問題ではない。最長に合わせて一律に持つほうが、期ごとに年限を切り替えるより安く、確実である。

もう一つ、年限と直結する論点がある。証憑をERPの中に置くと、そのERPの寿命が証憑の寿命になる。 S/4HANAへの移行、第三者保守への切り替え、あるいはシステムの統廃合を検討するとき、旧環境をいつまで維持するかという議論が出てくる。そのとき、旧環境に入っている証憑を誰がどこへ移すのかが議題に載っていないと、移行の直前に発覚して工期が延びる。 保管場所の選択は、システム更改の計画と同じ表の上で決める話である。

猶予措置は、置き場所を決めなくてよいという意味ではない

電子取引データの保存要件については、同規則第4条第3項に猶予の定めがある。災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを証明したとき、または納税地等の所轄税務署長が保存できなかったことについて相当の理由があると認め、かつ保存義務者が電磁的記録および当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る)の提示もしくは提出の要求に応じることができるようにしているときは、第1項の要件によらずに電磁的記録の保存ができる。

この規定を「当面は何もしなくてよい」と読んでいる会社がある。条文はそう書いていない。 第一に、相当の理由の有無は事前の承認手続ではなく、税務署長が認めるかどうかである。あらかじめ届け出て安心を得られる仕組みにはなっていない。第二に、猶予の適用を受ける場合でも、電磁的記録そのものの提示・提出と、そこから出力した書面の提示・提出の両方に応じられることが条件になっている。求められたときにデータを出せる状態は、どのみち必要である。 そして同項ただし書は、その事情や理由がなかったとした場合に保存できなかったと認められるときはこの限りでないとしている。

結局、猶予措置が免除しているのは検索機能とタイムスタンプ等の技術要件であって、どこに何があるかを言える状態ではない。 その状態を作るために必要なのが、この記事の前半で述べた紐づけの単位である。

証憑の保管で決める三つのこと

第一に、保存先の比較を止めて、紐づけの単位を決める。 会計伝票ヘッダ、伝票明細、発注または検収、契約、取引先と期間の五つのうち、社内で最も頻度の高い照会に合う一つを主キーとし、それ以外の軸は主キー経由でたどると割り切る。一枚の証憑が複数の仕訳に対応する取引(月次一括請求の部門按分、年額前払の期間按分、輸入取引の分解)で成立するかどうかを、決める前に当ててみる。電子帳簿保存法施行規則第2条第6項第3号が求める帳簿との相互関連性は、この主キーがなければ満たせない。

第二に、紙をやめる順番を、スキャナ保存の要件の重さから逆算する。 同規則第2条第6項は、入力期間、200ドット以上かつ赤緑青それぞれ256階調以上の読み取り、総務大臣が認定する時刻認証業務に係るタイムスタンプ、訂正削除の記録または禁止、帳簿との相互関連性、35センチメートル以上のカラーディスプレイとカラープリンタ、4ポイント文字の認識、検索機能を求める。第7項の一般書類はグレースケールでよく入力期間と相互関連性も緩むが、そのぶん重要書類と二本立ての運用になる。過去分重要書類を遡って電子化するには第9項の適用届出書が要る。要件を守らせる労力と、取引先に送付方法を変えてもらう労力を並べて比べる。

第三に、年限を最長に揃え、ERPの寿命と切り離す。 法人税法施行規則第59条は7年、同規則第26条の3は欠損金の繰越しの適用を受ける場合に10年、会社法第432条第2項は会計帳簿について閉鎖の時から10年。起算日は書類については作成または受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日である。削除の自動化を7年で組まない。 そして証憑をERPの中に置く場合は、旧環境の維持期間と証憑の保存年限のどちらが長いかを、移行の構想段階で確認する。第4条第3項の猶予措置は技術要件を免除するだけで、データと出力書面を出せる状態は依然として求められている。

設例

売上高740億円の電子部品商社で、証憑は三か所に分かれていた。取引先からPDFで届く請求書はメールの添付のまま担当者の受信箱に残り、紙で届く請求書は総務がスキャンして共有ストレージの年月フォルダへ、経費精算の領収書は経費システムの中にあった。契約書だけは法務が別の共有ストレージで管理しており、経理は場所すら知らなかった。 きっかけは監査法人の交代である。新任の監査人が期末に抽出した仕訳が62件で、そのうち11件について当日中に証憑を提示できなかった。最初に手をつけたのは、ツールの選定より前の、照会の実態調査だった。過去一年間に経理へ来た証憑の照会を、依頼元と検索キーで分類している。結果は、購買発注番号による照会が半分弱、取引先名と期間による照会が三割、契約に紐づく照会が一割強、仕訳番号からの照会は監査と税務調査のときだけだった。 これを踏まえて主キーを購買発注番号に決めている。件数に加えて決め手になったのは、発注番号が購買・検収・請求・支払のすべての工程を貫通する唯一の番号だったことである。契約に紐づく照会については、契約番号を属性として持たせ、発注番号経由でたどる形にした。「全部の軸で直接検索できるようにしよう」という案は、この時点で捨てている。 保存先は、この主キーを持てるかどうかで選び直した。結果としてERPの添付ではなく文書管理システムを採り、ERP側の伝票には文書IDを持たせて相互に飛べるようにしている。理由は、一枚の請求書が複数の伝票に対応する取引が年間で約1,800件あり、伝票への添付方式では同じファイルの重複が避けられなかったためである。紙の削減も同時に進めた。取引先400社のうち、請求書を紙でしか送ってこなかったのは112社だったが、送付方法の変更を依頼して9か月で71社が電子に切り替わった。 残る41社分だけをスキャナ保存の対象とし、要件を守る範囲を絞っている。一般書類と重要書類の二本立ては、対象が41社分に縮んだ結果、無理なく回るようになった。保存年限は10年に一本化した。従来の削除ルールは7年で組まれていたが、前々期に欠損金が生じており、法人税法施行規則第26条の3の10年が当たる期の証憑が含まれていた。期ごとに年限を切り替える設計は保守が続かないという判断で、一律10年としている。 半年後の中間監査では、抽出された48件の証憑をすべて当日中に提示している。経理部長の総括はこうである。探せなかったのは、置き場所が悪かったからではない。仕訳と証憑をどの番号で結ぶかを、誰も決めていなかったからだった。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ

証憑が探せない原因は、置き場所より、仕訳と証憑をどの番号で結ぶかを決めていないことにある。法令が求める検索軸(日付・金額・取引先)と、経理や監査人が使う軸(仕訳と証憑の対応)は別物で、保存先をどれだけ整えても自動では橋渡しされない。

手をつける順番は次のとおりである。過去一年の証憑照会を検索キー別に分類し、最も多い照会に合う主キーを決める。一枚の証憑が複数の仕訳に対応する取引で成立するかを確かめてから、保存先を選ぶ。紙で届く取引先に電子での送付を依頼し、スキャナ保存の対象を絞る。削除の自動化が7年で組まれていないかを点検し、ERP移行の構想には旧環境の証憑の移し先を載せる。

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