開示の三日前。会議室に短信のドラフトと計算書類の校正刷りと説明会資料が並び、四人が突き合わせている。セグメント別の売上高の合計が、サマリーの数字と1百万円合わない。 原因を追うと、端数処理の違いだった。この一件で二時間が消える。そして翌期も同じことをする。 開示の前夜が突合で埋まる会社では、中身の議論をする時間が残らない。原因は四人の注意力より、四人が見ている数字が四つの文書の中で独立に保持されていることにある。

POINT
同じ数字が何重に外へ出ているかを、まず正確に把握しておく。東京証券取引所の説明によれば、決算短信の開示にあたって登録するのは、サマリーのXBRLファイル、サマリーのPDFファイル、財務諸表及び一部の注記事項のXBRLファイル、添付資料のHTMLファイル、そして添付資料またはサマリーのPDFファイルである。 つまり一度の短信開示で、同じ数字が機械可読の形式と人が読む形式の両方で外に出る。これが年に複数回、さらに有価証券報告書、会社法の計算書類、決算説明会資料でも繰り返される。 期日も別々である。短信は、決算期末後30日以内の開示が望ましく遅くとも45日以内が適当とされ、開示時期が決算期末後50日を超えることとなった場合には、その理由及び翌事業年度以降における開示時期に係る見込み又は計画を開示することが求められる。有価証券報告書は金融商品取引法第24条第1項により事業年度経過後3月以内、半期報告書は当該期間経過後45日以内。計算書類は会社法第435条第2項により作成し、同条第4項により作成した時から十年間保存し、第440条により定時株主総会の終結後遅滞なく公告する。同じ決算の数字が、四つの文書、二つ以上の形式、三つ以上の期限に分かれて存在している。 これは転記の量が多いという話ではなく、同一の事実に対する記録が複数系統に分かれて維持されているという構造である。 構造がそうである以上、不整合は起きる。起きることを前提に、どこで止めるかを設計するしかない。

校正で見つけるという発想が、深夜を生んでいる

多くの会社の対策は、チェック体制の強化である。担当者が作り、課長が見て、部長が見て、最後に全員で読み合わせをする。 見つかる不整合は確かに増える。そして見つかる時期が、常に開示の直前になる。

直前になるのは、四つの文書が同時には揃わないからである。短信の添付資料ができた時点では計算書類は作りかけで、計算書類が固まった頃には説明会資料の作成が始まっている。読み合わせができるのは、全部が揃った最後の数日だけである。

そしてこの方式には、もう一つ構造的な弱点がある。読み合わせで検出できるのは、同じ項目が並べて置かれている場合だけである。 短信のサマリーと添付資料の連結損益計算書は並べられる。しかし、有報の「主要な経営指標等の推移」に載る五期分の数字と、当期の説明会資料に載る中期の推移グラフは、並べる担当が違う。担当が違えば、読み合わせの対象にならない。

直すべきは検出のタイミングより、数字が複数の場所で独立に保持されている構造である。 校正の精度を上げても、独立に保持されている限り、次の期にまたずれる(経理のミスはなぜ繰り返すのか、原因の4分類とフールプルーフ設計)。

単位と端数処理は、文書ごとではなく会社として決める

最も多い不整合であり、最も直しやすいのが端数処理である。それでも、手つかずのまま残っていることが多い。

典型的な状態はこうなる。短信の添付資料は百万円単位、有報の財務諸表は百万円単位だが一部の注記は千円単位、計算書類は千円単位、説明会資料は億円単位。それぞれの文書で、四捨五入か切捨てかが暗黙に決まっている。 そして内訳を合計すると、丸めた後の数字の和が、丸めた総額と一致しない。

ここで多くの会社が採る対処が、総額に合わせて内訳のどれかを調整するという操作である。 この操作自体は珍しくないが、どの内訳を調整するかが文書ごとに違うと、文書間で内訳が一致しなくなる。総額は合っているのに内訳が合わない、という最も説明しにくい状態が生まれる。

決めるべきは三つで、いずれも文書単位ではなく会社単位で決める。第一に、各文書の表示単位。第二に、丸めの方法。第三に、丸めと集計の順序である。 三つ目が抜けやすい。元の値を合計してから丸めるのか、丸めてから合計するのか。この順序が文書間で違うと、単位も丸め方も揃えたのに数字が合わないという事態になる。

決めたら、資料の作成側ではなく、数字を出す側の帳票で丸める。Excelの表示形式で丸めた数字を目で読んで転記している限り、順序は担当者ごとに変わる(決算データを散らさない集計設計、Excel手作業から段階的に移行する順序)。

比率と構成比は、手で打たない

端数処理を揃えても残るのが、派生数字である。利益率、増減率、構成比、一株当たり情報、そして説明会資料に載る各種の調整後指標。

これらがずれる理由は単純で、計算の元になる値が、丸めた後の値なのか丸める前の値なのかで結果が変わるからである。 売上高を百万円単位に丸めた値から利益率を計算した場合と、元の円単位の値から計算した場合で、小数第一位が動くことがある。どちらも間違いではない。ただし文書間で揃っていないと、読者から見れば不整合である。

対処は、計算式を資料に埋めることである。手打ちの数字を一つでも残すと、そこが翌期の修正漏れになる。 前期の資料を上書きして作る運用では、なおさらそうなる。数字は更新されたのに、比率だけ前期の値が残っている。この種の誤りは、金額の桁が違うわけではないので、読み合わせでも見落とされる。

説明会資料は、この観点で最も注意が要る文書である。法定の様式がなく、独自の指標を掲載できるからである。 調整後営業利益、実質ベースの成長率、為替影響を除いた売上高。これらは定義が社内文書のどこにも書かれていないことがあり、作成担当が替わると定義ごと変わる。 過年度の数字を並べたグラフの中で、途中の期から定義が変わっているという状態が起きる。掲載するなら、定義と算式を数字の一覧に書き込む。

全部を同じ強度で突合する必要はない。数字の性格で扱いを分ける。
人が計算して作る数字である度合い 高 →
毎期ずれる層
利益率、増減率、構成比。元の値が同じでも、丸めた後から計算するか丸める前から計算するかで最終桁が動く。手打ちが一つ残る限り消えない
最優先で固定する層
一株当たり情報、セグメント別の構成比、調整後の利益指標。派生計算と単位変換が同時に起きる。定義・算式・丸めの順序まで一覧に書く
機械照合で足りる層
売上高、営業利益、経常利益、総資産。XBRLの同一要素どうしを突き合わせれば、人の目は要らない
単位と丸めを先に決める層
千円・百万円・億円が文書ごとに変わる金額。表示単位・丸めの方法・丸めと集計の順序の三つを会社単位で固定すれば、内訳と総額のずれは消える
文書ごとに単位・様式が変わる度合い 高 →
左下は機械に渡し、右下は設計で消し、人の目は上半分にだけ使う。

突合の順番は、重要性で決める

すべての数字を同じ強度で照合しようとすると、期日に間に合わない。優先順位の基準は、社内で新たに作る必要がない。

財務報告に係る内部統制の実施基準は、開示すべき重要な不備を 「内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いもの」 と定義し、金額的重要性について 連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断するとしたうえで、「例えば、連結税引前利益については、おおむねその5%程度とすることが考えられるが、最終的には、財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要がある」 としている。比率は画一的に適用するのではなく、会社の業種、規模、特性など会社の状況に応じて適切に用いる必要があるとも述べている。

この考え方を、突合の設計にそのまま使う。 影響が重要性の水準に届きうる数字は全数照合、届かない数字は差分照合、という二段構えにする。四人で全部を読み合わせるという運用をやめられるのは、この基準を定めた時点である。

そして、この開示という工程が内部統制の対象であることも押さえておく。同じ実施基準は、業務プロセスに係る評価の範囲の決定について、主として経理部門が担当する決算・財務報告に係る業務プロセスのうち全社的な観点で評価することが適切と考えられるものは、全社的な内部統制に準じて全ての事業拠点について評価するとし、その例として 「財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続」 を挙げている。突合の手順が文書化されていないという状態は、単に非効率なだけでなく、評価の対象になっている手続が定まっていないということでもある(内部統制の3点セットの作り方と更新、形だけの文書にしない運用)。

機械に渡せる部分は、XBRLがすでに用意している

人の目に頼らない照合を、新しいシステムで実現しようとする必要はない。照合に使える形式は、すでに提出しているものの中にある。

決算短信の開示ではサマリーと財務諸表のXBRLファイルを登録し、有価証券報告書はEDINETへXBRLで提出している。同じ要素に同じタグが付いているのだから、抽出して突き合わせれば、金額の一致は機械で判定できる。 前期の提出物との比較も同じ方法でできる。必要なのは、提出したファイルを社内に残し、比較する仕組みを一度作ることだけである。

ここで手が止まる会社の理由は、たいてい二つある。一つは、XBRLの作成を外部の開示支援ベンダーに委託しており、提出物が社内に手元コピーとして残っていないこと。 もう一つは、タグ付けの粒度が文書ごとに違い、単純な突合では差が出てしまうこと。前者は運用で解決する。後者は、比較対象を主要項目に絞れば足りる。

そして残るのが、機械では照合できない領域である。計算書類は会社法の様式で、説明会資料は自由様式で、いずれもXBRLではない。ここは、数字の一覧を介した照合になる。 一覧には、項目名、出所、単位、丸め、そしてその数字が載る文書と箇所を並べる。この一覧が、四つの文書を横断する唯一の正本になる(注記情報の収集設計、開示に必要なデータを期中の入口で取る仕組み)。

開示資料の数字の突合で決めておく三つのこと

第一に、不整合を校正で見つけるのをやめ、数字の保持の仕方を変える。 東京証券取引所の説明によれば、決算短信の開示にあたって登録するのはサマリーのXBRL、サマリーのPDF、財務諸表及び一部の注記事項のXBRL、添付資料のHTML、そして添付資料またはサマリーのPDFであり、一度の開示で同じ数字が機械可読の形式と人が読む形式の両方で外に出る。これが短信、有価証券報告書、会社法の計算書類、説明会資料で繰り返される。 短信は決算期末後30日以内が望ましく45日以内が適当、50日を超える場合は理由と翌事業年度以降の見込みを開示、有報は事業年度経過後3月以内、半期報告書は45日以内、計算書類は作成した時から十年間の保存と定時株主総会後の公告。同一の事実に対する記録が複数系統で維持されている以上、校正の精度を上げても翌期にまたずれる。

第二に、単位・丸めの方法・丸めと集計の順序の三つを、文書単位ではなく会社単位で固定する。 三つ目が最も抜けやすい。元の値を合計してから丸めるのか、丸めてから合計するのかが文書間で違うと、単位も丸め方も揃えたのに合わないという事態になる。総額に合わせて内訳を調整する操作は、どの内訳を調整するかが文書ごとに違うと、総額は合うのに内訳が合わないという最も説明しにくい状態を作る。 そして丸めは資料の作成側ではなく、数字を出す側の帳票で行う。派生数字は手で打たない。利益率、増減率、構成比、一株当たり情報、調整後の指標は計算式を資料に埋め、説明会資料に独自の指標を掲載する場合は定義と算式を数字の一覧に書き込む。過年度のグラフの途中から定義が変わるという誤りは、定義が社内文書のどこにも書かれていないことから起きる。

第三に、突合の順番を重要性で決め、機械に渡せる部分を分ける。 財務報告に係る内部統制の実施基準は、開示すべき重要な不備を、内部統制の不備のうち一定の金額を上回る虚偽記載又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものと定義し、金額的重要性を連結総資産・連結売上高・連結税引前利益などに対する比率で判断するとし、連結税引前利益についてはおおむねその5%程度とすることが考えられるが最終的には財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要があるとしている。この水準に届きうる数字は全数照合、届かない数字は差分照合に分ける。 短信のXBRLとEDINETのXBRLは同じ要素に同じタグが付いているので、主要項目の金額一致は機械で判定できる。外部ベンダーに委託している場合でも、提出物の手元コピーを社内に残すという運用の変更だけで着手できる。 計算書類と説明会資料はXBRLではないため、項目名・出所・単位・丸め・掲載箇所を並べた一覧を介して照合する。そしてこの手続自体が評価の対象である。同じ実施基準は、全社的な観点で評価することが適切な決算・財務報告プロセスの例として「財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続」を挙げている。

設例

売上高920億円の電子部品メーカー。東証プライム上場で、開示は経理部の開示グループ四名が担当している。毎期、開示の三日前から四名が会議室にこもり、短信の添付資料、計算書類の校正刷り、説明会資料、そして前期の有報を並べて突き合わせていた。 直近三期の記録を数えたところ、この読み合わせで発見した不整合は年間で平均十四件。うち十一件が端数処理と表示単位に起因するもので、実質的な誤りは三件だった。 見直しのきっかけは、前期に発見が漏れた一件である。説明会資料の五期推移グラフのうち、三期前の数字が有報の主要な経営指標等の推移と1億円ずれていた。原因は、三期前にセグメントの区分を変更した際、説明会資料側だけ遡及修正が反映されていなかったことだった。 外部からの指摘ではなく、翌期の作成時に自社で気づいている。着手は、数字の一覧を作ることから始まった。四つの文書に載る主要項目を洗い出し、項目名、出所となる帳票、表示単位、丸めの方法、丸めと集計の順序、そして掲載箇所を列に置いた表である。行数は二百三十一。作ってみて、丸めと集計の順序が文書ごとに違う項目が四十二あると分かった。 短信の添付資料は元の値を合計してから百万円に丸めており、計算書類は千円に丸めた後で合計していた。この四十二項目が、毎期の不整合十一件の発生源である。 次に、機械照合の範囲を決めた。開示支援ベンダーに委託していたXBRLの提出物について、提出後に社内へコピーを戻す運用を追加し、短信のサマリーXBRLと前期のEDINET提出データから主要三十七項目を抽出して突き合わせるスクリプトを情報システム部門に作らせている。開発は二週間、費用は社内工数のみ。 突合の優先順位は、実施基準の考え方を借りた。連結税引前利益のおおむね5%を目安に置き、その水準に影響しうる項目は全数照合、それ以外は前期比の差分が閾値を超えた場合のみ確認する二段構えにした。全数照合の対象は二百三十一行のうち六十八行に絞られている。 説明会資料についても手を入れた。従来は経営企画部が独自に作成しており、調整後営業利益の定義が資料の中に書かれていなかった。定義と算式を数字の一覧に登録し、資料側は一覧の値を参照する形に変えている。 導入後の期末、読み合わせに要した時間は延べ三十二時間から九時間に減り、発見された不整合は二件だった。二件はいずれも実質的な論点で、端数処理に起因するものはゼロだった。 開示グループの課長の言葉が残っている。四人で読み合わせていた三日間で、実は中身の話を一度もしていなかった。今年は初めて、注記の書きぶりを議論する時間ができた。

※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。

まとめ

開示資料の数字のずれは、校正を厚くしても減らない。同じ数字を文書ごとに別系統で持っている構造を直す。表示単位、丸めの方法、丸めと集計の順序は会社として一つに決め、利益率や構成比は手で打たずに計算式で出す。

照合には重要性で強弱をつける。連結税引前利益のおおむね5%に届きうる項目は全数、それ以外は差分で見る。XBRLで取れる主要項目は機械に突き合わせさせ、計算書類と説明会資料は数字の一覧を正本にして照合する。

関連記事