来期はECを伸ばすか、代理店を厚くするか。経営会議でこの議論をするために、チャネル別の損益を出させる。出てきた表を見ると、代理店チャネルの売上構成比が最も大きく、営業利益率はECが最も高い。 結論はECを伸ばす、で決まりかけたところで、経理部長が一言添える。この表は、チャネルごとに違う数字を並べています。 全員が黙る。分母の話をしているのだが、分母が違うという指摘は、会議の場では理解されにくい。
代理店チャネルは、売上が膨らんだまま並んでいる
代理店経由の売上は、卸値で立つ。ここまでは全社共通の理解である。問題はその後に引かれるべきものが、売上から引かれていないことにある。
引かれるべきものは三つある。口銭やリベートのように、達成条件に応じて後から支払うもの。販促協賛金や広告分担金のように、代理店側の販促活動に対して負担するもの。そして棚代やセンターフィーのように、取引の維持に伴って毎期発生するもの。 これらの多くは、収益認識基準の下では顧客に支払われる対価に当たり、別個の財又はサービスの対価と認められない限り取引価格から減額される。
会計上そう処理していても、管理会計の表に反映されないことがある。経理は基準どおり売上から控除しているのに、営業部門が見ているチャネル別の表は、控除前の卸値ベースで作られている。 二つの数字が社内に併存し、会議には後者が出てくる。売上構成比は過大に見え、共通費を売上比で配ればその過大な分母に応じて費用が乗る。
ここで注意しておきたいのは、これらの負担要請が独占禁止法の側からも見られているという点である。公正取引委員会の優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方は、協賛金等の負担の要請について、「協賛金等の負担額及びその算出根拠、使途等について、当該取引の相手方との間で明確になっておらず、当該取引の相手方にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合」 や、直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となる場合 を問題としている。従業員等の派遣の要請についても同様の考え方が示されている。協賛金の算出根拠が社内で説明できないという状態は、採算の精度の問題であると同時に、取引先との関係でも説明できない状態を意味する(値引き・リベート・販促費はネット売上で管理する、総額売上では顧客別の採算が読めない)。
ECの費用は、明細で取れるのに一本の科目に沈んでいる
ECチャネルの利益率が高く出る会社には、共通の構造がある。チャネル固有の費用が、チャネルに戻っていない。
ECで発生する費用は四つある。決済手数料、配送費、返品処理費、そしてモールに支払う販売手数料や出店料である。このうち決済手数料の水準は、業界の外から見えにくい。公正取引委員会が令和4年4月に公表したクレジットカードの取引に関する実態調査報告書は、国際ブランド5社、クレジットカード会社等336社(回答274社)、販売店5,462店舗(回答1,294店舗)、クレジットカード保有消費者4,200名などを対象とした調査であり、加盟店手数料の約7割をインターチェンジフィーが占めるとしている。手数料の中身の大半が、加盟店と決済会社の交渉の外側で決まっているという意味である。
そして返品は、ECで最も過小に扱われる費用である。収益認識に関する会計基準の適用指針は、返品権付きの商品又は製品を販売した場合について、返品されると見込まれる商品又は製品については収益を認識せず、受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識し、返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識するとしたうえで、各決算日に企業が権利を得ると見込む対価及び返金負債の額を見直し、認識した収益の額を変更することを求めている。
基準が求めているのは会計処理であって、チャネル別の負担計算ではない。 だから返金負債の残高は全社で一本になり、返品率がチャネルでどれだけ違うかは表に出ない。往路の送料、復路の送料、検品と再梱包の工数、そして再販売できなかった分の評価損。ECの返品はこの四つを同時に発生させる。
これらは全部、明細で取れる。 決済代行会社の請求明細、配送会社の請求明細、返品受付システムの記録。取れているのに、会計側で「支払手数料」「荷造運賃」「販売促進費」という科目に落としているだけである。 科目で集計している限り、チャネルには戻らない。
直販の人件費は、本社費のまま残る
三つのチャネルで最も費用が重いのは、多くの場合、直販である。そして直販の主要費用は、本社費の中にいる。
営業担当者の人件費、車両費、出張費、営業所の賃料、そして受注処理と与信管理の間接工数。これらは組織の費用として計上され、チャネルの費用としては計上されない。 直販とEC、直販と代理店を兼務している営業がいる会社では、なおさら分けにくい。
分けにくいことと、分けないことは違う。工数集計の仕組みまでは要らない。営業担当者ごとに主担当のチャネルを一つ決めれば足りる。 兼務している場合は、その担当者の売上構成比で二つに割る。精度はここで十分で、一円まで合わせる必要はない。 目的は、直販の利益率がECより高いのか低いのかという順位を出すことだからである(営業インセンティブを売上ではなく貢献利益で払う設計と、変える前の三つの前提)。
そして直課が終わってから、残った共通費を配る。この順序を逆にすると、伸びているチャネルほど重い費用を負う表ができる。 売上比で配れば、成長しているチャネルの分母が毎期大きくなり、配賦額も毎期増えるからである。伸ばしたいチャネルの利益率が、伸ばすほど下がる表を作って、そこから戦略を議論している(本社費は配賦ルールより先に総額を説明する、コーポレート部門のコストの比べ方)。
順位が入れ替わったら、変えるのは価格ではなく条件である
分母を揃え、直課を終えると、たいてい順位が動く。動いた後にやることを決めておかないと、この作業は一度きりで終わる。
代理店チャネルの実質利益率が下がった場合、最初に見るのは口銭率ではない。販促協賛の中身である。 何に対して支払っているのか、その支出で自社が得ている直接の利益は何か。説明できないものが混ざっているなら、金額を下げる交渉ではなく、支出の紐付けを変える交渉になる。 前述のとおり、算出根拠と使途を明確にしておくことは、独占禁止法上の考え方とも整合する。
ECの利益率が下がった場合、打つ手は価格ではなく、送料無料の閾値と返品条件である。送料無料の下限金額を上げると、一件あたりの費用に対する単価が上がる。 返品条件を変えられない商材でも、返品率の高い品目を特定して商品情報の記載を直すという打ち手がある。サイズや色や仕様の記載不足は、返品率に直結する。
直販の利益率が下がった場合は、担当者一人あたりの担当社数と訪問頻度である。費用の実体が人の時間である以上、価格の議論より配置の議論のほうが効く。
見逃せないのが、同じ商品を複数チャネルで売っている場合の建値の整合である。 チャネル別の採算が出て初めて、代理店の卸値と自社ECの販売価格が、実質利益率の上で逆転していないかを検証できる。逆転していれば、いずれ代理店から指摘が来る。指摘が来る前に自社で把握しているかどうかが、その後の交渉の位置を決める(顧客別・製品別の収益性分析で、なぜ全社黒字の裏に赤字顧客が隠れるのか)。
チャネル別採算で先に決める三つのこと
第一に、チャネル別の表を作る前に、売上の定義を揃える。 収益認識に関する会計基準の適用指針は、企業が本人に該当するときは対価の総額を、代理人に該当するときは他の当事者により提供されるように手配することと交換に得ると見込む報酬又は手数料の金額(あるいは受け取る額から支払う額を控除した純額)を収益として認識するとし、判定は顧客に約束した特定の財又はサービスのそれぞれについて行われ、一つの契約の中で一部は本人、他は代理人に該当する可能性があるとする。同じ商品でも、流通の形が違えば総額と純額に分かれうる。 加えて同基準第63項は、顧客に支払われる対価を、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き取引価格から減額するとし、第64項はその時点を収益認識時と支払・約束時のいずれか遅い方とする。口銭・販促協賛・センターフィーを控除した後の数字が会議に出ているかを、まず確認する。
第二に、チャネル固有の費用を、共通費を配る前に直課する。 ECの決済手数料、配送費、返品処理費、モールの販売手数料は、決済代行会社と配送会社の請求明細と返品記録に載っている。取れていないのではなく、会計側で支払手数料や荷造運賃という科目に落とした時点でチャネルに戻せなくなっているだけである。 返品については、収益認識に関する会計基準の適用指針が、返品されると見込まれる分について収益を認識せず返金負債を計上し、回収する権利を資産として認識したうえで、各決算日に見直すことを求めているが、これは会計処理の定めであってチャネル別の負担計算ではない。往路の送料、復路の送料、検品と再梱包の工数、再販売できなかった分の評価損の四つが、返品一件で同時に発生する。 直販については、営業担当者ごとに主担当チャネルを一つ決め、兼務者は売上構成比で割る。精度はそこで十分で、目的は順位を出すことである。
第三に、順位が入れ替わった後の打ち手を、価格ではなく条件に置く。 代理店なら、口銭率を下げる交渉の前に、販促協賛の算出根拠と使途を紐付け直す。公正取引委員会の優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方は、協賛金等の負担額及びその算出根拠、使途等が明確になっておらず相手方にあらかじめ計算できない不利益を与える場合や、直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を超えた負担となる場合を問題としている。説明できない支出は、採算にも交渉にも同時に効いている。 ECなら送料無料の閾値と返品率の高い品目の商品情報。直販なら担当者あたりの担当社数と訪問頻度。そして最後に、代理店の卸値と自社ECの価格が実質利益率で逆転していないかを検証する。逆転は、こちらが気づかなくても相手が気づく。
売上高185億円の生活用品メーカーで、販売チャネルは代理店・卸が中心、法人直販、そして三年前に始めた自社ECと大手モール二社という構成だった。経営会議に出ていたチャネル別損益では、営業利益率が自社EC 11.8%、モール 7.4%、直販 5.1%、代理店 3.2%。 来期の投資配分をECに寄せるという方針が固まりかけていた。CFOが差し戻したきっかけは、モール経由の売上が、経理側の帳簿と会議資料で一致していないことに気づいたためである。モール二社のうち一社は同社が出荷と在庫リスクを負う形で総額計上、もう一社は在庫を持たない形で純額計上だった。会議資料は両方を総額で並べていた。 見直しは三段階で行っている。第一に、売上の定義を揃えた。代理店チャネルについて、従来は卸値ベースで会議資料を作っていたが、リベート、販促協賛金、センターフィーを控除した後の数字に統一した。控除額は年間で4億2,000万円あり、代理店チャネルの売上は帳簿上86億円だが、会議資料では90億円強で並んでいたことになる。 モールについては、純額計上している一社を注記付きで別行に分け、総額での比較をやめた。第二に、チャネル固有費の直課である。決済代行会社の請求明細を取引ごとにチャネルへ紐付け、配送会社の明細を届け先の属性で分け、返品受付システムの記録から返品件数と再販売不可の件数を出した。分かったのは、自社ECの返品率が3.9%、モールが8.7%、代理店経由が0.4%だったことである。 モールの返品はサイズ違いと色味の違いが大半で、往復の送料と検品工数に加え、開封済みで再販売できなかった分が返品件数の三割弱を占めていた。第三に、直販の人件費である。営業十九名について主担当チャネルを一つずつ決め、兼務している六名は売上構成比で按分した。この作業自体は半日で終わっている。 組み直した結果、営業利益率の順位が変わった。自社EC 8.9%、直販 6.3%、代理店 5.7%、モール 1.2%。 最も高いのは自社ECのままだったが、モールが最下位に落ち、代理店は控除後の分母で見ると当初より率が上がった。モールが落ちた要因の内訳は、返品関連が3.1ポイント、決済手数料と販売手数料が2.0ポイント、残りが送料である。 打った手は三つ。モールの二社について、返品率の上位二十品目の商品ページに実寸表と着用参考の写真を追加し、半年後に該当品目の返品率が8.7%から6.1%に下がった。自社ECは送料無料の下限を3,000円から4,500円に引き上げ、一件あたりの平均単価が上がっている。代理店については、販促協賛金のうち算出根拠を社内で説明できなかった年間6,200万円分について、支出の紐付けと支払条件を上位十社と個別に整理し直した。ここは金額を下げる交渉ではなく、何に対する支払かを書面で明確にする作業として進めている。 経営企画部長の言葉が残っている。ECが儲かっていないという結論ではなかった。儲かっているECと儲かっていないECを、一つの行にまとめていただけだった。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。



