四半期ごとに同じ作業が発生する。営業活動によるキャッシュ・フローに差額が残り、原因を追う。二日かけて半分は説明が付き、残りは「その他」に押し込んで提出する。翌期は、その押し込んだ分と当期の差額が混ざって、追跡がさらに難しくなる。担当者は毎回、自分の詰めが甘いと思っている。そうではない。作り方が基準の構造と合っていないだけである。
差額の発生源は、六つに分けられる
原因を場当たり的に追うのをやめて、発生源を型で持つ。実務で出会うものは、次の六つでほぼ尽きる。
第一に、連結範囲の変動である。 子会社を取得すると、貸借対照表には取得した子会社の資産と負債がまるごと乗る。しかしキャッシュ・フロー計算書に出るのは支出の一行だけである。基準は、連結範囲の変動を伴う子会社株式の取得または売却に係るキャッシュ・フローを 「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に独立の項目として記載する とし、新たに連結子会社となった会社の現金及び現金同等物の額は株式の取得による支出額から控除し、連結子会社でなくなった会社の現金及び現金同等物の額は株式の売却による収入額から控除する と定めている。売掛金や棚卸資産の増減として二期比較に現れた部分は、営業活動の増減ではない。 ここを外し忘れるのが、差額の最大の発生源である。
第二に、為替換算である。 在外子会社の貸借対照表は決算時の為替相場で換算され、損益計算書は原則として期中平均相場で換算される。したがって、貸借対照表の増減額の中には、取引による増減と換算レートの違いによる増減が混ざっている。 現金及び現金同等物についてはこれを独立の項目として表示できるが、売掛金や棚卸資産の換算差は営業活動の増減から除く必要がある(外貨建取引と在外子会社の換算|為替差損益と為替換算調整勘定を説明できる状態にする)。
第三に、非資金取引である。 現物出資、株式の発行による資産の取得、合併、資産の交換、転換社債の転換。いずれも貸借対照表を動かすが、現金は一円も動いていない。
第四に、勘定間の振替である。 建設仮勘定から有形固定資産への振替、長期借入金から一年内返済予定長期借入金への振替、投資有価証券から関係会社株式への振替。片方が減り片方が増えるだけなのに、それぞれの勘定を単独で見れば増減が立つ。
第五に、未払・未収を経由した取引である。 設備投資を未払金で計上した場合、貸借対照表上は固定資産と未払金が同時に増える。この未払金の増加を営業債務の増減に含めると、営業活動によるキャッシュ・フローが実態より大きく出る。 設備投資の未払は投資活動の側で調整する。
第六に、評価と除却による帳簿価額の変動である。 減損損失、有価証券の評価差額、貸倒引当金の増減、固定資産の除却。損益を通るものと通らないものがあり、通らないものは非資金損益項目としても拾えない。
「資金移動を伴うか」を先に判定してから、区分を決める
六つの型を持ったうえで、工程を二段階に分ける。多くの会社が失敗しているのは、増減額を見た瞬間にどの区分に入れるかを考え始めることである。 順序が逆で、先に判定すべきは資金移動の有無である。
この工程を入れると、差額の追跡が「探す」から「照合する」に変わる。調整台帳の合計と、実際に必要だった調整額を突き合わせるだけになるからである。
非資金取引の注記と、キャッシュ・フローの調整は同じ事象を見ている
ここが本稿で最も強調したい点である。非資金取引の注記のために集めている情報と、キャッシュ・フロー計算書の調整に必要な情報は、大部分が同じものである。 それにもかかわらず、多くの会社で二つは別々の担当者が別々の資料から作っている。結果として、注記に書いた取引がキャッシュ・フローで調整されていない、あるいはその逆という不整合が起きる。
基準は注記事項として重要な非資金取引の開示を求めており、注9はその例として 転換社債の転換、ファイナンス・リースによる資産の取得、株式の発行による資産の取得又は合併、現物出資による株式の取得又は資産の交換 を挙げていた。
この例示が改められている。 企業会計基準委員会は 企業会計基準第36号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正(その2)」 により、企業会計審議会が1998年3月13日に公表した基準および基準注解のうち 「(注9)重要な非資金取引について」 を改正し、「ファイナンス・リースによる資産の取得」を「使用権資産の取得」と改めた。 理由は、2024年に公表された 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」 において、借手のファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の区分が廃止され、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上することとされたため である。適用時期は企業会計基準第34号と同様とされている。
実務上の含意は明確である。これまでオペレーティング・リースとして支払時の費用処理で済んでいた契約が、資産と負債の計上を伴う取引になる。 資産の計上そのものは現金の動きを伴わないので非資金取引の注記の対象になり、同時にキャッシュ・フロー計算書上は、支払の中身が負債の返済と利息に分かれることになる。適用初年度は、営業活動によるキャッシュ・フローの水準そのものが動く。 財務制限条項をキャッシュ・フロー指標で結んでいる場合、この影響は先に確認しておく必要がある(新リース会計基準で借手のオンバランスが効くのは財務諸表ではない|コベナンツとROICへの波及)。
対処は仕組みの側にある。注記の根拠となる台帳と、キャッシュ・フローの調整台帳を、同じ一つの台帳にする。 列は、発生源、取引の内容、金額、資金移動の有無、キャッシュ・フロー上の調整先の区分、注記の要否、そして根拠資料の所在。この台帳を期中から積み上げていれば、期末に集める作業そのものが消える(注記情報の収集設計:開示に必要なデータを期中から取りに行く仕組み)。
純額と総額の線引きは、基準が明示している
差額の追跡とは別に、表示の側でも判断を迫られる場面がある。ここは基準に線が引かれているので、社内で議論する必要はない。
注6は、利息の受取額及び支払額は、総額で表示するものとする と定める。相殺しない。
注8は、期間が短く、かつ、回転が速い項目に係るキャッシュ・フローについては、純額で表示することができる とする。短期借入金の借入と返済を繰り返している場合などがこれにあたる。
利息および配当金については、基準が二つの方法を示している。ひとつは、受取利息、受取配当金及び支払利息を「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、支払配当金を「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法。もうひとつは、受取利息及び受取配当金を「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載し、支払利息及び支払配当金を「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する方法 である。どちらを選ぶかは会計方針の選択であり、選んだら継続する。 期によって置き場所が変わっているなら、それは判断ではなく事故である。
「その他」で埋めた瞬間に、翌期の作業が倍になる
最後に、運用の話をひとつ。差額を「その他」で埋めるのをやめる。
理由は監査対応ではない。翌期の作業量である。 当期の差額を「その他」に押し込むと、その金額は説明されないまま貸借対照表の期首残高に組み込まれる。翌期に同じ作業をすると、前期の未解明分と当期の差額が合算された数字を見ることになる。二期分が混ざった差額は、一期分の差額より追跡が難しい。 三期続ければ、もはや誰も原因を特定できない。
実務的な落としどころは、差額に上限を決めておくことである。 一定額を超えたら提出前に必ず原因を特定する。上限内であっても、その内訳の推測を調整台帳に記録しておく。推測でよい。記録があれば、翌期に同じ差額が出たときに前期の推測を検証できる。 記録がなければ、毎期ゼロから探すことになる。
そして、これは決算早期化の論点にも直結する。キャッシュ・フロー計算書の作成が最終日に寄っているのは、前工程の情報が期末にまとめて降りてくるからである。 調整台帳を期中から積む運用に変えれば、この工程はクリティカルパスから外せる(決算スケジュール表の作り方:5日締めを支えるWBSとクリティカルパス)。
決めるのは三つ
第一に、貸借対照表の二期比較から入る作り方をやめる。 基準は間接法の表示を、税金等調整前当期純利益に非資金損益項目、営業活動に係る資産及び負債の増減、投資活動および財務活動の区分に含まれる損益項目を加減して行うと定めている。加減すべきものは三種類あり、二期比較で拾えるのは二番目の一部にすぎない。 増減を六つの発生源、すなわち連結範囲の変動、為替換算、非資金取引、勘定間の振替、未払・未収経由の取引、評価と除却に仕分けてから資金移動の有無を判定し、そのうえで区分を決める。区分の議論から始めると、資金の動かない増減が区分の中に紛れ込む。
第二に、注記の根拠台帳とキャッシュ・フローの調整台帳を、同じ一つの台帳にする。 非資金取引の注記に必要な情報と、キャッシュ・フローの調整に必要な情報は大部分が同じである。別々の担当者が別々の資料から作れば、注記に書いた取引が調整されていない、あるいはその逆という不整合が起きる。列は発生源・取引の内容・金額・資金移動の有無・調整先の区分・注記の要否・根拠資料の所在。期中から積めば、期末に集める作業そのものが消える。 連結パッケージには、子会社側で現金の動きを伴わない増減を記入する欄を一列足す。
第三に、差額を「その他」で埋めない。上限を決めて、超えたら提出前に特定する。 押し込んだ差額は説明されないまま期首残高に組み込まれ、翌期は二期分が混ざった差額を追うことになる。三期続ければ誰も原因を特定できない。上限内であっても内訳の推測を記録する。推測でよい。記録があれば翌期に検証できる。
そのうえで、リース会計基準の影響を先に見ておく。企業会計基準第36号は、非資金取引の注記の例示にあった「ファイナンス・リースによる資産の取得」を 「使用権資産の取得」 に改めており、その理由は企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」において借手のファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の区分が廃止され、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上することとされたこと にある。適用時期は第34号と同様とされている。適用初年度は、支払の中身が負債の返済と利息に分かれ、営業活動によるキャッシュ・フローの水準そのものが動く。 財務制限条項をキャッシュ・フロー指標で結んでいるなら、条項の側の確認が先である。



