経理で欠員が出る。人事に依頼を出す。三か月から半年で中途の一人が入る。引き継いで、業務が動き始める。これを何度か繰り返して、あるとき気づく。人数は減っていないのに、組織に厚みが出ていない。 難しい論点が出ると、結局同じ二人のところに集まる。その二人が抜けたら止まる、と全員が分かっている。採用が失敗していたわけではない。採用のたびに、埋める席だけを見ていただけである。
空席補充は、構成比を辞めた人に決めさせている
欠員補充型の採用が組織の厚みを作らない理由は、努力の量ではなく順序にある。空席が定義されてから、採る人を決めているからである。
抜けるのは、多くの場合、中堅である。作業もこなせて論点も判断できる層が、決裁の狭さや役割の頭打ちを理由に外へ出る(経理の中堅・次期リーダー層が辞める原因は、給与より決裁権限の狭さにある)。そこに同じ機能の中途を入れる。すると、組織の年齢構成と経験構成は、抜けた人の形にどんどん近づいていく。 若手が薄いまま中堅だけが入れ替わる形が、何年も続く。
もう一つの副作用が、社内の経緯が失われることである。中途だけで積み上げた経理は、自社の会計処理がなぜそうなっているかを説明できる人を持たない。 これは記録の問題ではなく、判断の背景の問題である。この処理を選んだ当時に何が論点で、監査法人と何を合意したのか。手順書には結論しか書かれていない。
しかも、説明を求められる期間は制度上長い。会社法第432条第2項は 「株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない」 とし、第435条第4項は 「株式会社は、計算書類を作成した時から十年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない」 とする。十年前の判断について問われうる状態が、法律の側で用意されている。 中途の入れ替えだけで組織を維持すると、平均在籍年数が保存年限に届かない。
三つの層に割ってから、採用手段を割り当てる
構成比を決めるには、層の定義が要る。経理の場合、三つで足りる。
第一が 作業を処理する層 である。仕訳、消込、支払、経費の点検、月次の締めの定型部分。ここは手順が確立していて、正確さと速さが評価軸になる。この層の仕事は、自動化とツールで減り続けている。 だから人数は減らせるが、ゼロにはできない。
第二が 論点を判断する層 である。見積りの水準、税務の判断、連結の非定型処理、新しい取引の会計処理。答えが手順書にない仕事で、間違えると外に出る。 経理の実力とはたいてい、この層の厚みのことを指している。
第三が 制度と設計を持つ層 である。会計方針、システムの要件、開示の設計、監査法人との論点交渉、そして第一層と第二層の育成設計。この層は人数では測れず、一人でも欠けると数年単位で戻らない。
採用手段の割り当ては、この三層に対して行う。第一層は、新卒でも中途でも埋まる。 第二層は中途で即戦力を入れられるが、外から入れ続けると第一層から上がる経路が塞がる。 第三層は、外からの採用が最も難しい。自社の履歴を知らないと成立しない仕事が中核にあるからである。
新卒を採る意味は、第一層の労働力ではない。第二層と第三層を内部から再生産する経路を作ることである。 逆に、第三層に空きがあるまま新卒だけを採っても、上がる先がない。
新卒の歩留りは、入口ではなく三年間の問題である
新卒採用に踏み切れない理由として最も多いのが、育てても辞めるという懸念である。この懸念は正しいが、辞め方の理解が間違っていることが多い。
厚生労働省が令和7年10月24日に公表した令和4年3月卒業者の離職状況によれば、就職後3年以内の離職率は大学卒33.8%、高校卒37.9%、短大等卒44.5%、中学卒54.1% である。大学卒は前年から1.1ポイント低下している。
注目したいのは内訳のほうである。同資料によれば、大学卒の離職率は 1年目12.1%、2年目11.9%、3年目9.9% と、三年にわたってほぼ均等に分布している。高校卒も1年目17.9%、2年目11.5%、3年目8.5%である。「三年で三割」は、入社直後にまとめて抜ける現象ではない。三年間ずっと抜け続けている。
この分布は、育成設計に直接効く。入口の研修と初期配置だけを手厚くしても、二年目と三年目の離脱には届かない。 二年目に何を任せるか、三年目に何の判断を渡すかが決まっていない組織では、一年目の定着施策の効果が二年目に消える。経理の場合、二年目は締めの定型部分を一通りこなせるようになる時期であり、同じ作業を続けるのか、判断の入る仕事に一歩入るのかが分かれる時期でもある(経理の若手が辞める理由は作業量より、数字の使われ方が見えないことにある)。
なお、この統計は事業所からハローワークに提出された雇用保険の加入届に基づき、各学歴ごとに新規学校卒業者と推定される就職者数から算出されたものである。職種別の数字ではない。 経理職に限った離職率としては読めないが、事業所の属性で大きく差がつく点は次に見るとおり参考になる。
一人だけ置く配置が、統計上もっとも抜けやすい
同じ資料には、事業所規模別の離職率が載っている。ここが、経理の配置設計に効く。
大学卒の就職後3年以内離職率は、事業所規模別に 5人未満57.5%、5〜29人52.0%、30〜99人41.9%、100〜499人33.9%、500〜999人31.5%、1,000人以上27.0% である。5人未満と1,000人以上で、2倍以上の開きがある。 高校卒も同様の傾向で、5人未満63.2%に対し1,000人以上26.3%である。
経理という職種は、この分布の左端に置かれやすい。本社の経理部が三十人いる会社でも、子会社や工場の経理は一人か二人である。 そして新卒を採ったときに、育成のためという名目で拠点に単独配置する運用が起きる。統計的には、最も抜けやすい形に置いていることになる。
対処は二つある。一つは、同期を二人以上、同じ場所に置く。 一人だけの配置を避けるための人数計画は、育成コストではなく歩留りへの投資として扱う。もう一つは、単独配置を避けられない場合に、所属を分けない。 拠点に常駐していても、本社経理の同一チームに属し、同じ会議に出て、同じ評価者を持つ。物理的な人数は変えられなくても、所属している集団の大きさは設計できる。
産業別に見ると、大学卒の離職率は製造業21.2%、電気・ガス・熱供給・水道業12.4%、金融業・保険業25.0%、情報通信業27.2%に対し、調査産業計は33.8%である。製造業の会社が新卒を採らない理由に、離職率を挙げるのは事実に合わない。
十年前の処理を説明できる人を、誰が持つか
構成比を決める最後の変数が、社内の経緯を保持する役割である。これは第三層の話だが、第三層の採用では解けない。
会社法第432条第2項が定める会計帳簿等の十年間の保存、第435条第4項が定める計算書類等の十年間の保存は、記録の保存義務である。記録は残るが、判断の背景は残らない。 監査法人が交代したとき、税務調査で過年度の処理を問われたとき、システムを入れ替えて過去のデータ構造を再現するとき。問われるのは記録ではなく、なぜそうしたかである。
中途採用で入った人は、入社前の判断を説明できない。当たり前のことだが、これを組織の設計として扱っている会社は少ない。 平均在籍年数が五年の経理部が、十年前の判断を説明する役を持つには、二つしか方法がない。長く在籍する層を意図的に持つか、判断の背景を記録として残す運用を作るかである。
現実的には両方が要る。 記録だけに寄せると、書かれていない前提が抜ける。人だけに寄せると、その人の退職で消える(経理の属人化を解消する手順、担当者が替わっても締まる標準化)。そして、長く在籍する層は中途採用では作れない。今日採った人が十年在籍するかどうかは、十年後にしか分からないからである。
新卒を採る理由をこの観点から言い直すと、こうなる。十年後に十年前を説明できる人を持つための、唯一の確実な手段が、十年前に採ることである。
売上高480億円の産業機器メーカーで、本社経理は十四名。過去六年で新卒の配属はゼロ、その間に中途採用で九名を採用し、七名が退職していた。人数は十三名から十四名に増えているのに、決算の非定型論点は課長と主任の二人に集中し、二人の年間の残業時間は他のメンバーの三倍近くあった。 経理担当役員が最初に作ったのは、増員の要求資料ではなく層別の一覧である。十四名を、作業を処理する層、論点を判断する層、制度と設計を持つ層に割り当てた。結果は、第一層が十名、第二層が三名、第三層が一名だった。 第三層の一名は課長で、会計方針の経緯、システム要件、監査法人との論点交渉をすべて一人で持っていた。第二層の三名のうち二名は入社二年以内の中途で、自社の前提を確認しながら判断している段階である。つまり実質的に、判断が独立してできるのは二名しかいなかった。 次に見たのが、その構成比がどう決まってきたかである。過去六年の採用九名は、いずれも欠員の補充だった。退職者七名の内訳は、第一層が二名、第二層が五名。第二層が抜けて第二層を採り、その人がまた抜けるという循環が六年続いていた。 役員が置いた目標は人数ではなく比率である。第一層六割、第二層三割、第三層一割。現状は第一層七割強、第二層二割、第三層一名弱で、第二層と第三層が薄い。そのうえで手段を割り当てた。第一層は、当面の欠員を派遣と業務委託で埋め、正社員の新規採用を止めている。第二層は、中途採用を年一名に絞る一方、第一層からの登用枠を年一名確保した。第三層については、課長の担当領域を三つに分け、うち一つを第二層の中堅に移す作業を一年かけて進めている。 新卒については、翌年度から二名の配属を要求した。一名ではなく二名としたのは、単独配置を避けるためである。子会社二社の経理には各一名しかおらず、そこへの単独配属は選択肢から外した。 代わりに、子会社の経理担当者を本社経理の同一チームに所属させ、月次の締めの会議に全員が出る形に変えている。二年後、第二層は三名から五名になった。うち二名は第一層からの登用である。課長の残業時間は三割減り、担当領域の一つは完全に移管が済んでいる。 役員の総括はこうだった。人数はほとんど変わっていない。変わったのは、誰がどの層にいるかを毎年見る会議ができたことだった、と。
※設例。会社、数値は説明のために置いた架空のもので、特定の会社の実績ではない。
決めるのは三つ
第一に、採用の議論を人数から構成比に移す。 常時雇用する労働者が300人を超える事業主は、中途採用比率をすでに外に公表している(労働施策総合推進法第27条の2)。その数字を、辞めた人の顔ぶれではなく社内の判断の結果にする。
第二に、新卒の歩留りを三年間の設計で見る。 大学卒の離職は一年目から三年目までほぼ均等に続く。二年目に何を任せ、三年目に何の判断を渡すかを、採用の決定と同時に決める。
第三に、新卒を一人だけの職場に置かない。 同期を二人以上同じ場所に置くか、本社経理の同一チームに所属させる。十年前の判断を説明できる人を持つ手段は、今日採ることしかない。







